ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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子どもだから

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どうしよう……ばっちりしっかりルノさんの気持ちを見てしまった以上は無視もできない。

数秒、数十秒の沈黙が辛い。何か言ってよルノさん……。

「やぁ~もてちゃって困るなぁ~やっぱり俺の人柄?日頃の行いがいいからからなぁ~」

得意の笑って誤魔化せにルノさんも笑ってくれた。

「うん。シーナはとても優しくて良い子だね」

「………」

屈託ない笑顔がとても痛いよ。


「…………ルノさん。俺は男で……あの……ルノさんはとても綺麗で格好良くて……でも……」

纏まらない言葉を思い浮かぶままに紡いでいるとルノさんの手が慰めるように頭を撫でてくれた。

「これは俺が勝手に抱いている感情なだけ、シーナが変わる必要は無いよ。むしろ変わらないままでいて欲しい」

「でも知っちゃったし……」

知った以上は今まで通りとはいかないよ。
どうしたら良い?こういう状況はどう回避したらいいのか今までの経験で……駄目だ。
俺、告白した事もされた事も無かった。

「知ってもらえたのは嬉しい。なら、俺がシーナに何かを求めているわけでは無いのもわかるよね。この先シーナが誰かを好きになって結婚をして……それでも俺はシーナの事を大切に思い続けるだけだから」

ルノさんの笑顔に嘘が無いことは見ていて知ってる。ただ俺に生きていて欲しいだけだという思いも……。

「俺は……ルノさんの思いに応えられるのか、応えられないのかもわかりません。ただ……応えられなくてルノさんと離れる事になるのは……嫌です」

ルノさんの事は尊敬している。
一人の人間としてはとても好きだと思う。
でも男同士でこんな思いを向けられた事なんて、今までないから自分がそれをどう受け止められるのかすら分からない。

「難しく考えなくて良いんだよ。ただ側でシーナの笑顔が見られたら俺はそれだけで満足だから、ね?」

「ルノさん……」

「もしシーナがそれでも迷惑だと思うなら、消えてくれと願うなら、この命は断つからいつでも言ってくれて良いんだよ?」

純粋なルノさんの思いに感動しかけていたのに、最後の闇は覗かせてくれなくていい。

「……俺は性格悪いからルノさんの好意を利用するかもしれませんよ?」

「俺に利用価値があると思ってもらえるなら光栄だね」

「俺は俺のヒロイン……えっと……お姫様……お嫁さんになってくれる人を探しているんです」

「知ってるよ。シーナが幸せになる手伝いが出来たなら嬉しい」

ルノさんは今……どんな顔で俺を見ているんだろう。床に座り込んだまま、下げた頭を上げられない。

「……ルノさんの気持ち、正直困る……困るのに……困ってるのに……嫌じゃないのはどうしたらいいでしょうか……」

声が震えるのを誤魔化す事も出来ない俺の頬を、ルノさんの手が包み込んだ。

ーーーーーー

「よっしゃ、やるぞぉぉぉっ!!」

隊長の部屋で雑巾を握り締め、大声を出して無理やり気合いを入れた。

いやぁ……まさか俺の初ロマンスがルノさんとはね。
胃袋ガッツリ掴み過ぎちゃったかなぁ~ははっ……はぁ……。

結局あの後……ルノさんの「隊長が帰ってくる前に部屋を掃除しに行こう」の一言で有耶無耶のまま終わった。

不完全燃焼な気持ちを無理やり掃除という逃げに燃えさせた。

しかし……隊員達の部屋も酷いが隊長の部屋も大概だな。
隊員達は修理しても新しく用意してもすぐに壊すという理由でベッドは取り上げられ、藁の上にシーツを敷いて寝ていたが……隊長はその藁すら無かった。

「あの人、床の上にシーツ敷いただけで寝てるのか……ワイルド過ぎる」

高く積み上がったガラクタに囲まれたシーツが一枚。
隊長なら剣が落ちてきても剣の方が折れそうだけどさ……隙間恐怖症かと思う程、物で埋め尽くされている。

放置して行ったって事は俺に見られても、俺に捨てられても構わないって事だよな。捨てられて困らない物なら取っとくなよ。

運び出すのも億劫で、今度時間のある時に仕分けすればいいやと、とりあえず入れられた箱ごと収納鞄へ回収していった。

床が現れ、窓も見つかり、それだけで部屋の中が明るくなる。隊の長らしい立派な机も発見。

見てるだけでクシャミが出そうな埃の層が歩くだけで舞い上がる。高い所から掃除するんだと聞いた事あるけど……まずは床の埃を全部掃除しないと病気になりそう。

雑巾を軽く当てるとそれだけで磨き上げられたフローリングが顔を出してくれるので、部屋の端から端まで一人雑巾掛け競走を始めると、何かにぶつかった。
壁にしては柔らかいと思ったらルノさんの足だ。

「シーナの掃除は何度見ても圧巻だね。シーナの拭いた場所は瘴気も残らない」

「瘴気?この部屋にも?」

部屋を見回すけど俺には何も……この埃の塊が瘴気というなら見えている。

「そこら中の床からね。見るのも疲れるからつい物を積んで見えないようにしてしまうんだけど、シーナの雑巾は瘴気すら消してくれる」

あのガラクタ達の理由は本当に隙間恐怖症だったのか。臭い物には蓋精神?

拭いた箇所と拭いてない箇所に手を翳してるがやっぱり俺には何も感じない。

生活に魔力を必要とするこの世界の人間にとって、厄介だけどなくてはならない物。
だけど俺は魔力を吸収する事も使う事も出来ないから、俺の雑巾ははっきり『ゴミ』認定したのか。
見えない汚れすら落とす雑巾……恐るべし。

「うわっ!!」
体がグンッと浮かび上がり、俺はルノさんに肩車をされていた。

「俺がいるうちに天井、掃除しちゃおう?」
「は……はい」

今は何も考えるな……目の前の汚れの事だけ考えろ!!雑巾の声に耳を貸すんだ!!

必死に現実逃避しながら天井と壁を拭き上げて、下ろしてもらうと、ルノさんは嬉しそうに笑った。

「やっぱり……俺の事で悩んでいるより、そうやって掃除や料理をしているシーナの方が輝いていて良いね」

うん。ルノさんはずっとこうだった。歯の浮くような王子様の様な台詞を臆面なく言っていた。
変わらない。変わったのは俺の方だ。
ルノさんの言葉に潜む気持ちを知ってしまったから……いや、本当はこの人本気で言ってるって気付いてて、それこそ臭い物には蓋精神で、自分の居場所を失わない為に気付かないフリをしていただけかも……。

「ルノさん……俺は……」

俺と付き合いたいとか、そ……そういう事をしたいとか、ルノさんは何も望んでいない事はわかってる……ただ一つ願っている事は……。

「俺は……まだ子どもなのでわかりませんっ!!」

都合の良い時、子どもになるという微妙な年齢の特権を遺憾なく行使した。狡い逃亡方法なのにルノさんは嬉しそうに笑っている。

ルノさんの願いがただ一つ、俺に変わらず笑顔でいて欲しいという事ならば……その願いに存分に甘えてやろうじゃないか。

ーーーーーー

「どうした?面白い事になってるな」

「……何も面白くありませんよ」

カウンターに肘をついてイヤらしく笑うベルンさんに、カロラブニャとキャルムの蒸し焼きののった大皿を突き出した。

「いやぁ?副隊長を意識してギクシャクしてるシーナを見て俺は面白い」

性格悪いな。
ベルンさんは王都で騎士をやっていたが女性関係でいろいろあってこの警備隊へ左遷されたらしく……厄介な恋愛体質は他人の色恋事にも目が無いらしい。

皿を運ぶとまた戻ってきた。戻ってこなくて良いのに。

「あの副隊長を手玉に取って転がしてる面白いガキだと思ったら、まさかの気付いて無かった系?マジで?何で気付いた?副隊長に告白された?」

「何も面白い事は無いって言ってんでしょうが!!」

パンの乗った皿をカウンターへ乱暴に置くがそんな事で引くベルンさんじゃない。

「今度俺達の部屋に遊びに来いよ。毎晩みんなでシーナが隊長と副隊長のどっちに落ちるか酒のツマミにしてんだ。お前来たら盛り上がる」

「勝手に人をツマミにするな!!どっちにも落ちないよ!!」

パンの皿を持つとベルンさんは軽く手を振りながらテーブルへ歩いて行った。

くそぉ……みんな知ってて面白がって見てたのか……あの部屋片付けるのやっぱりやめようか。

食堂の端、皆から距離を置いて座るルノさんが目に留まるとルノさんもこちらに気付いて笑いかけられる。

「はははっ!!すっげぇ顔真っ赤!!」

ベルンさんの笑い声にハッとなり慌てて奥へ身を隠した。食堂からは賑やかな笑い声が聞こえる。

煩い、煩い、煩いっ!!
今まで通り変わらず友達で居てねとか言われても、相手に恋愛感情抱かれているとわかって、そう簡単に割り切れられるかっての!!

みんなの視線から隠れる様にしながら、コソコソと昼飯を食べた。
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