ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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ネタバレは自己責任で

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「街に行った時、おかしな感じはしなかったか?」

「女性が一人もいませんでした」

隊長に街の様子を聞かれて、1番不思議に思った事を素直に告げた。
綺麗なお姉さんはともかくおばちゃん、おばあちゃんすらいなかった。

街を行き交っていたのは、目の虚ないかにも危なそうな男の人とか冒険者っぽく簡素な鎧をつけた男とか、屈強な筋肉の男、男、男。

「ああそうだ。この街は多すぎて溢れた魔力が瘴気となり、至るところから立ち昇っている。魔力の低い者や体力の低下している者は受け入れきれずに体調を崩す。逆に魔力が高い者は魔力を受け入れすぎて過剰摂取となって魔物に……だから女子供は家から滅多に出てこねぇ。まぁこれに関しちゃ理由はそれだけじゃねぇんだが……」

……子供もいなかったのか、そこには気がつかなかった。

「来てみな……見えるか?」
隊長に窓辺に呼ばれ、鉄格子越しに外の景色を眺めた。
「今も瘴気が見えてるんですか?」

「ああ……ゆらゆらと地面から黒紫の……薄い煙のような物が見えないか?」

ゴミや雑草……石材のひび割れなんかが気になるが、至って普通の石畳。
地面からゆらゆら?夏場の陽炎みたいな物かと目を凝らしたけど何も見えなかった。

「俺、気づかずにその瘴気ってのに飛び込んでたって……もしかしてルノさんがああなったのって俺のせいだったりします?」

「かもな」

いつの間にか加害者にされてたよって思ってたけど完璧な加害者だった。ごめんなさい、ルノさん。

「ルノさんが街は危険だって言ってたのそれの事だったんですね……でも皆はルノさんといれば平気だって……」

「お前のステータスは名前しか公開してないだろう?」

ルノさんと隊長に、俺の歳でレベル1はおかしいから名前以外は非公開にした方がいいと言われて、名前しか公開していない。

「ルノの隣で平然としているお前が魔力0とは思わなかったんだろ?俺らは見えてるのが当たり前で、見えてない奴がいるなんて考え付かないからな。瘴気以外……お前を拉致しようとする人間や魔物にルノが負けるわけねえし」

「ルノさんの隣にいるだけでって……もしかしてルノさんからもその瘴気が出てるんですか?」
ルノさんを振り返ると寂しそうに微笑まれた。

俺の目には見えないけど、みんなから見たルノさんの姿は暗黒のオーラを身に纏う『焔凍の死神』……近寄りがたい。世が世なら虐めの対象だよ……ルノさん、辛かったんだろうなぁ。

「ルノさん!!俺には瘴気は見えないし、瘴気を感じる事も出来ないから!!俺にいっぱい甘えてくれていいですからね!!」
寂しげなルノさんをギュ~ッと抱き締めてあげた。
魔力0なんて最悪だと思ったけど……役に立つ事もあるんだ。
ルノさんの笑顔に俺も心がポカポカした。

「おっはよ~ございま~す……あ?」
「なんだ?シーナはまた朝っぱらから副隊長に甘えてんのかぁ?」
「はははっ!!副隊長も甘やかしすぎはよくないですよ」

ドヤドヤと食堂に入ってきた隊員達。
俺がルノさんを甘やかしてやってるのに、おかしい。
ルノさんの膝の上から飛び降りるとズンズンと食堂へ向かった。

「そんなに怒るなって、でも怒った顔も可愛いよシーナちゃ~ん」
「ベルンさんは肉抜き決定!!」
両手で投げキスしてきたベルンさんにお玉を投げつけた。
今朝はポルポルボルのフルコースだから、ベルンさんはパンと目玉焼きのみだ。

「申し訳ありません副隊長!!昨夜、副隊長がいなくて寂しいと泣くシーナが可愛すぎたので調子に乗りました!!」
「ベルンさんっ!!謝るなら俺に謝れ!!そしてしれっと嘘つくな!!」

俺は泣いてないっ!!泣いたのはむしろルノさんの方だ!!

「ベルンありがとう。シーナがここにこんなに馴染んでくれて嬉しいよ」

「う……」
カウンターから乗り出していた体をすすっと引っ込めた。
あんなに嬉しそうに笑われたら何も言えないじゃないか……良いよ、寂しいって泣いたのは俺って事で。
ベルンさんのおかげで皆と冗談言い合ったりしやすいのは事実。

皆同じ物を用意した朝ごはん。
細やかにベルンさんだけ肉無しスープという事で堪えた。

ーーーーーー

賑やかな食堂に背を向けて厨房の調理台の上に並べた作り置きしていた料理と木製の深型のお皿。
お弁当箱は無かったけど、収納箱で持ち歩くだろうから蓋なしでも良いだろう。

お腹を満たすだけではなく、魔物との戦いの中で心がほっと温まるような弁当にしよう。
俺の『創造』の数値は999だ。この手で何でも作り出してしまうゴッドハンドがついにその力を発揮する。

「殺伐とした中で、クスッと笑える心の余裕は必要だよなぁ」

おにぎりは作れないから、茹でて潰しておいたカタナリアで土台を作って……目はアンベンガの実の外柄、口はチェッドを形に切り取って……髪はジェヴォン肉でいいか。周りにポルポルボルのカツをつめて、キャルム、茹でた卵で飾って……うん!!我ながら上出来!!

鑑定結果も『愛情弁当……愛情の籠もった気合の一品』だ。
流石はゴッドハンド。隊長に似せたキャラ弁は自信の一作となった。
気合の『がんばれ!!』の文字は包丁でチマチマとポムポムの皮をくり抜いた。スマホ持ってたら絶対写真撮ってたね。

お皿をルノさんに貰った紙で包んで食堂へ向かった。

お弁当作りに夢中になって気づかなかったけど、もう隊長とルノさんしか残っていなかった。

「隊長、お待たせしました。自信作なんで、お昼を楽しみにしておいてくださいね!!」

「お前がやる気に満ちている時は何かやらかしてそうで恐えな……ま、ありがとな」
隊長は大切そうに収納箱の中へしまうと立ち上がった。

もう行くのか。
行きと帰りでどれ位変わるのか出発前に隊長のレベル見ておこうかな。

この世界の人は『鑑定』になれているから人を見れば『鑑定』する癖があるみたいだけど、俺は慣れ親しんでないので頻繁には見ない。
隊長のレベルだって50いくつだったかなぁぐらいにしか覚えてない。

隊長は……Lv.58か。
力技で行く癖に隊長の魔力が188って結構高いんだよね。他の隊員の人達……レベルが30付近って差もあるのかもしれないけど、3桁いってるのは隊長とルノさんだけだ。

ああ、ナタリアさんへの求婚回数が増えてる……ん?

隊長の紹介文の下に折り畳みを知らせるように▼のマークがついている……何だろうと▼に触れてみた。

「あ……紹介文が増えてる」
その内容を確認すると思わずニヤリと笑ってしまった。

「おい……ちょっと待て。何だそのムカつく顔は……」

「ムカつくですか。超鈍感とかやらかすとかいろいろ言ってくれてますけど……隊長ってば俺の事、かな~り気に入ってるんじゃないですかぁ」

「はあ?お前頭でも打ったのか?」

隊長の紹介文の続きに書かれていた文は俺への評価だった。いつからあったのかは知らないけど『鑑定』のレベルが上がったからかもな。折り畳まれていたのはネタバレ防止か?

『ルノルトスへどういう影響が出るか用心していた。作る料理、会話の掛け合い、全てが今では超お気に入り』

「鑑定で隊長が俺をどう思ってるのかがバッチリです。いやぁ~こんなに手放しに褒められると照れますなぁ」

もしマイナスな事を書かれていたら隠しておいたところだけど……気に入られてると知ったら俺は調子に乗るタイプだ。

「なっ!!ふざけんなお前!!なんて書いてある!!吐け、今すぐ吐け!!」

胸ぐらを掴まれグラグラ揺さぶられグロッキーで本当に吐きそうだ。

「隊長ったら……真っ赤になっちゃって可愛いとこあるんですね……うぷっ」

「口の減らないガキが……くそっ!!」

睨んで来ても真っ赤に染まった顔じゃ怖くない。

「ルノッ!!俺だけ見られるのは不公平だ!!お前も見られろ!!」

「俺ですか?構いませんが……」

「ほらシーナ!!今すぐルノを鑑定しろ鑑定しないと……」
動物の様にグルルと唸る隊長に、首根っこを掴まれて猫の子の様にルノさんの前に突き出された。

ルノさんはニコニコ笑っていて、鑑定される事をもう怖がってはいなそうだ。

「わかりましたよ……」

ルノさんはLv.55。魔力は隊長を大きく引き離して382だ。変わらない紹介文の下には隊長と同じ▼マーク。

ルノさんに嫌われているとは思わないけど、これで散々な事を書かれていたらかなりショックだと、少しドキドキしながらマークへ触れた。

「んなっ!?」
ルノさんの俺への評価に目を通した瞬間、俺は顔が噴火したんじゃ無いかと思うような衝撃を受けた。

「あ……あう……あうう……」
あまりの衝撃に言葉が上手く発せられない……というか何を言っていいのか分からない。

「おやぁ?シーナさん、お顔が随分赤いようですが、何が書かれていたのかなぁ~?俺にも教えて欲しいなぁ~」
隊長が仕返しとばかりにニヤニヤと俺の顔を覗き込んでくる。

「いや……ルノさんの……勝手に言うのは……」

これを口に出して読めと!?無理、無理無理無理っ!!

「俺は構わないよ。シーナに対する気持ちは偽りなんて何も無いし、恥ずべき事なんて何も無いからね」

いや、恥じてよ!!むしろ偽りであって欲しいよ!!熱烈な文章に俺の頭はパンクしそうだ。

「え?ルノさん……え?何で俺……ええ?」

「お前……まさか本気でルノの気持ちに気付いてなかったのか?微塵も?」

隊長はからかいを通り越し、憐れみの目で俺を見てくる。
「は?え?は?」
ルノさんが俺を?いや、可愛がって貰ってるなと思っていたけど……ルノさんが好きなのはエレーナさん……いや、隊長?え……ええ?

未だパニックを起こす俺の様子に隊長は満足そうにニヤ~と笑うと俺を床に下ろして背を向けた。

「いやぁ~良い雰囲気だなぁ。俺はお邪魔みてぇだからもう行くわ。あとはお二人でお楽しみください」

「待て隊長!!待て待て、カムバ~ック!!」

引き止め虚しく、無情にも扉はパタリと閉じられた。
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