ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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虚乳の剣士

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ルノさんがガラス棒のお尻を地図の間取りの部分あててみても、それが消える事はなく、書き込みも出来ない。
無駄だって言ったのに隊長も試してみたがもちろん消えない。

「小僧なら消せるんじゃないのか?」

「俺のステータス見てるんだから、隊長だって俺に魔力無いの知ってますよね?」

隊長からガラスの棒を受け取り、ダメ元でやって見たけど当然消えない。

「ああ、そうだったなぁ~魔力の少ない奴はいるが0ってのは初めて会ったもんだから、つい忘れて普通に渡しちまうわ」

むう……俺から言わせると魔力なんてもんがあるこの世界の住民の方がおかしいんだからな。
そもそも魔力って何だよ、何を使うにも魔力、魔力って……電気……電力か?
地球での生活で道具を使う時に必要な物と言えば電気だな。電気が無ければ明かりもつかないし、テレビも見られない。
この人達は体内で電気を自家発電している感じかあ。

「ははははは……」
電気ウナギの着ぐるみを着た隊長を想像すると隊長にバカにされた怒りも落ち着いた。

「……イジリすぎたか?」

「隊長、これ以上シーナを虐めるなら厨房出入り禁止にしますよ」

ルノさんは庇うように後ろから抱きしめてくれたけど、大丈夫です。壊れてませんよ。

「このペンもシーナのお手製にしてみたらどうかな?」
ルノさんの提案にペンを鑑定してみたけれど、残念ながら《お手製可》の文字は無かった。

「駄目です。レベルが足りないのかお手製出来ないみたいです」

『ガラスペン……文字や絵を書くための道具、込める魔力の属性で色を変える事が出来る』
使いこなせたらきっと便利な多色ボールペンだね。

「そうか……まあ仕方ねぇな。とりあえずこの地図は俺とルノで管理させてもらっても良いか?」

「是非お願いします。俺もまだ死にたくないですから」

「うん、絶対外部には漏れないようにするから安心してね」

畳むとコンパクトになるけれど大きな地図だ。
いちいち開いて確認するのも面倒だろう。
皆の目が届く場所……例えば食堂の壁なんかに貼っておけば情報の共有が楽なのにな。

ガラス棒め……絶対お手製に変えてやるから覚悟してろよ。

お手製出来る物と出来ない物……大きさとか素材の差ぐらいかなと思っていたけれどこんなに小さなガラス棒一本出来ないなんて……雑巾は出来る、照明は出来ない、包丁は出来る、収納鞄も出来る、水瓶は出来た。水道は出来ない……ん、んん?何か今分かりかけた様な……。

「そんなにシーナが気に病む必要はないんだよ。この地図があるだけで今までより格段に効率は上がるんだから」

「レベルが上がれば、魔力が1でも増えれば単色なら使えるだろうしな」

魔力、魔力、魔力。
そうだ、魔力を込めて使う物にお手製出来る物が今のところ無いな。確認の為にもう一度照明と水道、竃を鑑定してみたがやはり出来ない。
他には……ルノさんと隊長の武器もか。カミソリ、ハサミ、包丁は出来たのに武器は無理。お手製出来る物はスキルのレベルの他に、俺に扱えるかどうかも関係あるのかもしれない。

「俺自身のレベルが上がれば魔力が上がる可能性があるかも……レベルってどうやったら早く上がりますか?」

「そりゃあ魔物を倒して倒して倒しまくってりゃ、レベル5とかすぐだろ?」

「くそぅ……何となく察していたけど、やはり魔物か……」
あんなのに勝てるわけないじゃん。この世界の人みんなあんなのと戦ってんの?子供でもあれに勝てるって?おかしい、この世界の住人はおかしい。

「ははっ!!無理して大型の魔物狙いじゃなくて、大人しく小型の魔物で地道に稼ぐんだな。まあこの詰所にいる限り魔物とは会えんかもしれないがな」

「あ~……基礎のレベルも鑑定みたいに鑑定するだけみたいに楽にレベルが上がってくれればいいのに……ねぇ、ルノ……さん?」

ルノさんだけでなく隊長まで固まって俺を見ている。
……次はなんだよ。

「お前いま鑑定のレベルって言ったか?」
「シーナ……『鑑定』にレベルの概念はないんだよ」
俺の肩に手を乗せて微笑むルノさんの、心の溜息がはっきりと聞こえたよ。
ちょっとルノさんと見えてる物が違うなとは思ったけど、レベル自体がないのか!!異世界の常識は難しすぎる!!

「小僧、この際だ。お前の鑑定の力も全て吐け」

「吐けって言われても、鑑定できるだけですよ。ルノさんのと違うなって思ってるのは、相手の『隠匿』が効かないのとその人の紹介文みたいなのが見えるぐらいです……痛っ!!」
本日二度目の隊長のデコ突きを食らった。

「ぐらいじゃねぇんだよ!!お前に秘密はきかないって事だろうが!!後ろめたい事のある奴らにとってお前がどれだけ邪魔な存在になるか……その紹介文ってのはどれぐらい詳細に書かれてるんだ?」

「詳細ではないですが、ちょっと個人的な事で……言いづらいかもです」

本当に個人的な事で、実は俺は全隊員の月猫亭の推しを知っている……が、また余計な事喋って騒ぎになるのは避けたい、社内の恋愛相関図とか生々しいのに巻き込まれたく無いし、普段は良い人でも恋とは人を狂わせるからな。

「そう言われると逆に気になるだろ!?何が書かれてあるか教えろ!!」

隊長よほど知られると恥ずかしいのか、詰め寄る様に掴まれた腕の骨が軋む様な痛みに顔が引き攣ってしまう。
隊長が女の子に振られまくってるとか知ったぐらいで、口封じと殺されるのは勘弁だよ。

「痛いですって……ルノさんと鑑定で知った情報を他人には教えないって約束してるから……」

ガンッと大きな音と共に、隊長の頭が調理台に叩きつけられた。
隊長の頭を押さえつけているのはルノさんなんだけど……その顔が……何時ものルノさん何処へ行った!?別人かと思う程冷たく鋭い。

「シーナが痛がってるだろう……早くその手を離せ」
「う……ぐっ!!ルノ、お前……わかったから、とりあえず落ち着け!!」

隊長の手から解放された腕には赤く跡がついていたけど……そんなに怒るほどの事では……。

背中に回された隊長の腕一本を抑えるだけで、体格差を無視してルノさんは容易く隊長の動きを封じている。そしてルノさんは片手を隊長の頭に乗せ……パキパキと小さな音を凍りついていく隊長の髪。
ルノさん、まさか隊長を凍らせようとしてる!?助けてくれようとしているのは嬉しいけど、それは流石にやりすぎじゃないか!?

「隊長!!ルノさん!!」

怖かったけど、すごい迷ったけど、何故か俺のせいっぽいし勇気を出して二人の間に飛び込んだ。
冷たっ!!
隊長の頭に触れた途端、俺も指先から凍りついて……あ、なんかヤバイかも……どっかから忙しなくドクンドクンと焦らせる様な音が聞こえて来る。あれだよ、ゲームとかでHPゲージが赤くなった時みたいな、瀕死状態?
マジか……また俺は仲裁に入って死ぬのか……。

「「シーナッ!!」」

二人の必死な形相を見上げながら……だんだんまぶたが重くなって……。

『私のために争うのはやめて』

なるほど……こういう心境か。
なに勝手に盛り上がって喧嘩してんだよって案外冷めた心境だ。
男3人集まってどうかと思う、可愛い聖女なシスターちゃんに言わせたい。

あ~……結局俺はこの世界で、女の子と一人も出会わないまま終わるのか。
さよならハーレム、さよなら巨乳エルフの剣士さん……ここまでヒロインレスが続くと次に生まれ変わったら、反動で1番初めに見た女の子に無条件で惚れてしまいそうだよ。

ーーーーーー

温かい……固まっていた物が溶けていくみたいだ。
ゆっくりと目を開けていくと明るい照明の光を背に心配そうに見下ろされていた。

「……巨乳といえば……巨乳」

「気がついたか!!自分の名前は?ここがどこだかわかるか?」

「目覚めが最悪だという事はわかります……お風呂?」

状況を確認すると、俺は服のままお風呂に入れられている。隊長のたくまし過ぎる胸筋に抱かれ……。

「まさか氷魔法を受けている俺に触っただけで瀕死になるとは思わなかった、レベル1を舐めてた、すまなかったな」

「謝る気ないでしょう……ルノさんは?」

浴室内を探したけどその姿は無い、ルノさんなら大丈夫って言ってもすごく謝られ、側を1ミリも離れなくなりそうな想像だったけど、違ったか。

「さっきまで凍ったお前より真っ青な顔してそこに居たんだけどな、小僧の生命力が安定したのを確認すると飛び出してった。あの様子じゃあ、落ち着くのは明け方か……よほどのことが無ければ人に危害を加える事はないし、落ち着いたら戻ってくるだろ……十分温まったな、出るか」

立ち上がるけれど、お湯を吸った服が重くて腰を曲げていると隊長に担ぎ上げられる。みんなひょいひょい簡単に俺を担ぎあげすぎだ。

「大丈夫だったか、シーナ。あの副隊長の魔法の前に飛び出すとはお主、けっこう根性あるのう!!」

脱衣所に移動して濡れた服を脱いでると、ベルムントさんが着替えを持ってきてくれていた。

バンバンと背中を叩かれながら「見直した」と評価を頂いたが、俺は瀕死になってたんだよな?
みんな軽すぎないだろうか……この人達にとって瀕死からのヒール薬は日常となってしまっているのだろうか。
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