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職人殺し

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隊長がじっと睨んでくる中、少し緊張しながら水瓶の前に移動した。

「例えばですね、このどこにでもある普通の水瓶が俺のお手製に変えると……」

パッと光った水瓶だが、光っただけで特に変わった所は無い。しかし鑑定をしてみると『お手製の水瓶……水が汚れない、傷まない、無くならない。便利』ちゃんと成功している。

「水が無くならない不思議な水瓶の出来上がりです」

ん?隊長の目が一瞬憐れんだ様な目になった気がしたのは気のせいかな?

「本当か?」
隊長は水瓶まで近付いて来ると水瓶蓋を開けた。中には綺麗な水がたっぷり溜められている。

「使っても水が無くならないし、水質も綺麗なまま維持される……みたいです」

疑いの目で隊長はコップで水を掬ってはシンクへ捨てていく。勿体無いけど検証の為だから……何となく心の中で神様にごめんなさいと謝った。

「……マジだな」
何度も水を掬っては捨てを繰り返したが、水瓶の中の水量は変わらない。

「この『お手製』であの地図を作ったんですけど……ただどういう効果になるのかは俺にも分からなかったから……ルノさん、本当にごめんなさい!!」

魔物マップだって分かってたら近付かなかった。

「もう大丈夫だから……隊長、シーナの力が分かったところで話を戻しましょう」

「ああ、そうだな。この地図はなぁ~俺達にとっちゃあ嬉しいだけの物なんだがなぁ……」

隊長は椅子に戻ると難しい顔をして腕を組むと頭を捻る。嬉しい……けど何があるんだろう?

「この地図はとても正確に書かれている。こんなに正確な地図は恐らく特殊技能の魔法を持った地図職人でも書けないだろうね」

そうなんだ。
でも正確なら正確な方が良いじゃないか。それで困った事とは?俺が本職の仕事を奪ってしまって恨まれるとかかな?
本職に羨まがられる地図……俺トップ地図職人狙えちゃう?俺のスキルどんな職業でも夢見れちゃうな。
「新進気鋭の地図職人も良いかも……」

「何をニヤついてんだ……下手したら首を落とされるかもってのに……」
ガスッと額に団長の指が刺さった。
いってぇ~……鉄の棒で突かれたかと思った、この人どんな指してんだよ。

「年齢の割には頭が回るかと思ったが、やっぱただのガキだな」
恨みがましく隊長を睨みつけると肩を竦められ笑われた。

「いいかい、シーナ。この地図は正確過ぎるんだよ」

ルノさんはある一マスを指差した。
何故正確過ぎて駄目なのか……。
「あ……間取り……」

地図という大きな視野だけを喜んでいたが、一マス一マスを良く見ると主線とは別に細い線で細かく書かれていたのはその建物の間取り図だった。

「そう……そしてここはこの街の領主の屋敷だ」

デートにお勧めの文ばかり探していたから気に留めてなかったけど……これって不味いよね。なんか秘密の抜け道っぽい物も書かれてるんだけど……。

サッと血の気が引いた。
もしこれの存在が領主の耳に入ったら、暗殺を企てたとか反逆罪とかで……首を……。
ギロチンを想像して思わず首を押さえた。

「気付いたか?良く出来ました~」
隊長に頭を撫でられて、その手を思い切り叩き返した。

「おいおい、ルノの時とえらい対応が違うじゃねえか。せっかく褒めてやったのによぉ」

「隊長からは悪意しか感じません……ルノさん!!どうしよう!?俺全くそんなつもり無くて!!」

「分かっている。隊長もちゃんとシーナの事を信じてくれているし、大丈夫。シーナの事は俺達が守るよ」

どこが!?カマかけられるし全然隊長から信頼されてる気はしないんだけど!?
ちゃらんぽらんに見えて隊長は意外にくせ者っぽいので要注意だけど、それでもルノさんが守ると約束してくれたので大丈夫な気はした。

「領主の屋敷の件はともかく、この地図は出来れば皆の目の届くとこにおいて情報を共有したいところだが……流石になぁ……小僧、そこは何とか出来ないのか?」

何とかって言われても、俺も俺のスキルを完璧に把握している訳ではない訳で……この間取りさえ何とかなれば良いんだろ?

間取り消えろ、間取り消えろと念じてみたが、まあ無理だった。
どんな汚れも落とせるマイ雑巾で端っこを擦ってみても汚れとは認識されず何も起こらない。

「間取りを消す方法、地図の修整……そっか!!ルノさん、ちょっと……隊長はちょっとそこで待っていてください」

ルノさんを中庭まで連れ出し腕を引っ張り屈んで貰うとその耳へそっと質問をする。

「あの地図を何を使って書いたか……か」

こっちに来て鉛筆らしき物は見ていない。

隊長の前で聞くのを避けたのは、お金の価値を知らない事でルノさんに少し疑われてしまった事と隊長なら絶対ムカつく顔でバカにしてくると思ったからだ。

バカにされるだけならまだしも隊長は少し厄介そうだし。

「ついておいで」
ルノさんに促されながら2階へ上がり部屋へ戻ると、ルノさんは本棚の引き出しから一本の棒を取り出した。

それはルノさんに『鑑定』のスキルを貰った時に使っていたガラス棒。

自分の手に試し書きをしてみたけれど、ルノさんの時のように跡が付いたりしない。
これにインクをつけて書くのかな?

「魔力を込めて使うんだよ。ほら、こんな風に……」
ルノさんは取り出した紙にサラサラと文字を書いた、普通に読める。

『今日は楽しかったよ』

おう……恥ずかしいな。

俺も返事を書こうとガラス棒を受け取って真似てみたが、魔力0には真似できなかった。

「ペンを知らなくても文字の読み書きは問題無さそうだね」

「また俺、引っかかっちゃいましたね……」

インクは出なくても手の動きで文字が書ける事を知られ、表情から読む事も問題ないと判断された。

「それでシーナが知りたいのはこのペンで書かれた物の消し方だろう?書き間違えたりした時にはこれをこうして使うんだよ」

ガラス棒を逆さまにして尖ってない方を紙に当てると、当てた部分の文字が吸い取られる様に棒の中へ消えた。

尖った方で魔力を出して平らな方で魔力を吸い取る……みたいな感じかな。

どちらにせよ魔力を使いこなせない俺には無縁の物。この世界の人、みんな魔力に頼り過ぎだろう!!
俺みたいに魔力無い人はどうしているんだろう?

「魔力の無い俺はどうしたらいいんでしょう……」

「あ~……産まれたばかりの子でも魔力1はあるからね。どうしたらいいか俺にもちょっと答えようが無いかな……でもほら、シーナには特殊な力があるから」

フォローになってないよ。
俺は産まれた赤ん坊以下か。

悲しみに打ちひしがれながら食堂に戻ると隊長は水瓶に張り付いていた。

「この水瓶、本当に凄えな。試しに俺の血を混ぜてみたが一瞬で浄化された。だがコップに移した後は赤く染まるから、水じゃなく、この水瓶だけの効果だな」

「勝手にそんな実験しないでくださいよ……皆への食事もその水を使ってるんですからね」

「怒るな、怒るな。俺の血は毒じゃねぇ」

そういう問題じゃねぇよ……気分の問題だ。
隊長の血入りの料理なんて誰も食べたくないだろうが。
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