ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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罠は嵌まる為にある

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俺もルノさんの血を浴びていたので、簡単に血を洗い流し厨房へ移動した。

部屋で休む様に言われたけど、気持ちも大分落ち着いて来たし怪我をしているわけではないので、俺のテリトリーである厨房の方が気が安まる。
あと……部屋で一人より誰かの気配を感じていたかった。

調理台に突っ伏した視線の先、ルノさんが竃に向かって何かをしている。

俺のテリトリーだが、俺の所有物ではないので権利を主張する事なく、恐らく料理をしているのであろう後ろ姿をぼんやり眺めていた。

ポムポムの実を握り潰したり、鍋から水を溢れさせたり、竃から火を吹き出させたり、おおよそ料理をしている様には見えないけれど。

「シーナの様に上手くはないが……」
控えめに目の前に出されたカップには乱暴に握り潰され温められたポムポムの実。

「これって……」
ポムポムのホットドリンクだろうか?

「この前飲ませてもらった時、とても心を穏やかな気持ちにさせてもらったから」

ドリンクというには具が大きいけれど、ルノさんの気持ちだけで心が穏やかになる。

「ありがとうございます」
「……どういたしまして」
擽ったい空気に、何がおかしいわけでもないがお互い小さく笑いが漏れた。

「シーナ、気持ちが落ち着いたらあの地図の事で話が……「何だ、ディック達にシーナが真っ青な顔してたっていうから心配して見に来たが案外余裕そうじゃねぇか」

大きな呆れ声で食堂側から厨房に隊長が頭をかきながら入って来た。

「隊長!!すみません、ルノさんに怪我させてしまって」

慌てて立ち上がり、頭を下げた俺に手で座れと指示して自分も簡易の椅子にドカッと腰を下ろした。

「気にするな。街の人間を守り、魔物と戦うのが俺たちの仕事だからな。怪我するのは日常だ」

確かにルノさんが血濡れで帰って来た事あったけど、今回怪我をさせてしまったのは完全に俺の好奇心のせいだ。

「あのよ~そんな事より、腹へったんだが何か食うもんないか?」
「隊長……シーナは今……」

「作り置きでいいならありますよ。それでいいですか?」
作りすぎて余った物や、収納鞄に容量も時間経過もないので、手が開いたらストックを作る様にしていたのが役に立った。

収納鞄から出来上がっている料理を取り出し隊長の前に並べた。
「おお!!旨そうだな!!」

「でも魔物が出たのに隊長と副隊長がここに揃っていて良いんですか?」

「レッドヘッドベア位ならあいつ等だけでどうとでもなるさ」

強い魔物だと思ってたら意外と低レベル?隊員達がみんな強いのか、俺が弱いだけか……。

隊長がフォークで肉を突き刺すと豪快に食べていく姿を見て、その姿につい心が和んだ。これだけ美味しそうに食べてくれると作った甲斐がある。

「旨いな!!ルノ、お前も食え。豪快に凍らせたらしいじゃねえか、魔力減ってんだろ?」
「そうですね。それでは一口……」
隊長が差し出したフォークに刺さった肉にルノさんは躊躇いなく口を開けた。

「ほら、小僧も食え!!腹が満たされりゃ大概の事は笑っていられる」
無理やり口の中に肉を押し込まれた。ルノさんが恥ずかしげもなく俺に『あ~ん』をさせたのは、隊長のこれのせいか。

正直お腹は空いていなかったが、それでも隊長の持論が隊長らしいなぁと可笑しくて、隊長なりに気遣ってくれているのが嬉しくて口を開けた。
「旨いよな~」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

隊長は俺の顔をニヤニヤと見ていて、ルノさんはそんな隊長を何故か冷めた目で見ている。

「うん、やっぱり旨い。まるで作り立ての様な温かさだ……小僧、お前はこれをいつ作ったんだ?」
「いつっていつだろ昨日かな?……あっ!!」

そこで隊長の真意に初めて気がついた。
ルノさんは……気付いてたなら止めてくれたら良いのに。

「子供用の収納鞄に時間操作の機能は付いていないはずだ。それなのにどうしてこんなに温かい料理が出て来るんだろうなぁ」

なんて言い訳をしたら良いのか必死に頭を使うけれど、隊長の目は真っ直ぐ俺をみつめきて、俺の思いつく誤魔化しなんてすぐに見抜かれそう。

「意地悪な質問の仕方はやめてください」

俺と隊長の間にルノさんが庇うように体を割り込ませてくれた。

「その事も含めて話をしようと思っていたのに先走って嵌めやがって……シーナ、本当は落ち着いてからと思ったんだけど、あの地図は隊長にもちゃんと知らせておかなければならないぐらい重要な物だ。でもそれを話すにはシーナの能力の事もちゃんと話さなければいけない……隊長には話しても良いかな?」

「あの地図が?」
宝の地図どころか魔物がいたけど……そんな物がそんなに重要なのだろうか?

「ルノに言われて隊員達を向かわせたが、お前の言う通り瘴気溜まりがあったよ」

また出た、瘴気溜まり。
一体何なんだろう?あまり良くない物なのは会話の様子でわかるけど。

「隊長なら大丈夫ですよ。ただ……地図の事とか俺にも詳しく教えて貰っても良いですか?」

秘密にしておいて差し障りがあるなら隊長だけじゃ無くて他の皆にも知ってもらっても構わない。数日だけどいい人達なのはわかってる。

「お?そうか、そんなに信用してくれてるならルノに接する様に甘えてもいいんだぞ?今日は一緒に寝るか?」

「ルノさん、あの地図の何処がそんなに重要なんですか?」

見上げると、ルノさんは先程の地図をポケットから取り出して机に広げた。
しかし赤丸は無くなって、ただの地図になってしまっている。

「シーナも見たこの地図の赤い印の場所へ隊員達に確認に向かって貰ったんだ。結果はさっき隊長から聞いた通り全ての場所に瘴気溜まりが出来ていた。瘴気溜まりは分かるかな?」

いつの間にそんな指示を出していたんだろう、仕事が早い。感心しながら首を横に振ると瘴気溜まりとは何なのかを教えてくれた。

『瘴気溜まり』はその名の通り『瘴気』が溜まった物で、人々の悪意とかそういう悪い気が集まって発生するらしい。

「人が殺された場所や、魔物や動物や人の死体を放置していたりすると発生しやすいけど、ここと決まった場所は無い。だから俺達が日々見回りをして発見次第処理しているんだよ」

「瘴気溜まりは人に悪影響を与えるだけじゃなく、大きくなると魔物を生み出すからな、魔物退治と魔物の発生を未然に防ぐのが警備隊の仕事だ」

隊長は最後まで残していた肉を頬張るとお皿を横に避けて地図を覗き込んできた。

「これは推測だけど、赤い丸の大きさは瘴気溜まりの成長進度の差だと思うんだ」

「俺達が行った場所の丸は1番大きい丸でした。だから……魔物が生まれていたと言うことですか」

確かめるにしても小さい丸のとこにしておけば良かった……大きい物は選んではいけないというセオリーはこんな所にも活かされるのか。

「この地図が何で重要かわかったか?これがあれば俺達の仕事の効率が格段に上がる」

「なるほど!!確かに街をくまなく歩き回るより、確実な場所が分かっている方が良いですよね」
大きい丸を優先していけば魔物が現れる事も無くなるな。

地図を広げて魔物の話をしていたからかどうか、瘴気溜まりを避けて通れば街を楽しめるという事かよ。確かにそうだけれども、俺の望んだデートコースマップでは無く、地図を書いたルノさんに有用な物になったか。

「そうだね」
良く出来ました。みたいにルノさんが頭を撫でてくれたけど……逆に馬鹿にされた気分になったのは屈託ない笑顔のルノさんには言えなかった。

「まあ、そういう訳で俺達にとってはありがたい事この上ない地図なわけだが……これを何処で手に入れた?」

顔を見合わせて、ルノさんが頷く。
……出来ればルノさんから説明して欲しかったけど、ルノさんにもそこまで詳細に伝えた訳じゃないからなあ。

「えっとですね……前に隊長も疑っていた通り、ちょっと人と違うっぽい能力を持っていまして……普通に有る物……例えば……」

例えばどうしようかな……今のレベルでお手製できる物は既に変えてしまっているし……鑑定を使って周囲を見回すと今までお手製に出来なかった水瓶にお手製の文字が付いていた。

ステータスを確認すると買い物に行って新しい物を鑑定しまくったからか『鑑定』が、地図をお手製したからか『お手製』のレベルがそれぞれ上がっていた。
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