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賑やかな食卓
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食堂に集まってきた隊員達から大きな笑いが沸き起こった。
「こ綺麗な隊長数年ぶりに見たっす!!『剛腕の野獣』が男女問わず侍らせていた時代を思い出すっす!!」
「あ~これじゃ団長に全ての女の子が釘付けっすよね……しばらく『月猫亭』じゃなく『杏華館』に行こうかなぁ……新しくできた『清薔薇の湯』でもいいか」
「『清薔薇の湯』はやめとけってあいつらご貴族様の後ろ盾があるのを良い事にかなり際どい事してるらしいぞ」
「お前らそういう話は後で外でやれ」
副隊長の制止を受けた隊員たちは一斉に俺を振り返った。
ああ、俺は子どもだからな。一応子どもの前でそういう話は控えるという常識はあるわけか。
談笑する隊員たちが座る長机に大皿に山盛りになったサンドイッチをのせた途端にいろんな角度から手が伸びてきた。ちゃんと噛んでいるのか心配になる勢いで減っていく。
「何だこのパン、すげぇ柔けぇ!!焼きたてかよ!?」
「パン焼き窯なんて無かっただろう?どうやって焼いたんだ?」
柔らかいパンを食べ慣れている俺には少し重く身が詰まって感じたけれど十分な柔らかさらしい。
昔は豊かだったらしいが今は国が荒れていて、焼き立てのパンが食卓に並ぶ事はほぼ無くなり、保存の効くように水分を飛ばした硬いパンばかりが売られているそうだ。
日本の高級食パンの店をこの世界作れたら……あれ?
みんな美味しそうにサンドイッチを両手で持って頬張る中、ルノさんは机の端で静かにスープだけを飲んでいた。
今日は大量に作ったのでおかわりは流石に大丈夫だろう。
追加のサンドイッチをのせたお皿と自分の分のスープを持つとルノさんの隣に腰を下ろした。
「今日は皆さんと一緒に食べても良いですか?」
「おお、食べろ食べろ!!これが美味いぞ!!」
「俺のおすすめはこっちだな!!」
まるで自分の手柄の様に誇りながらそれぞれのお勧めを俺の取り皿に乗せていってくれる。
「ルノさんは?どれが好みでした?」
急に話を振られたルノさんは一瞬目が泳いだけどすぐに笑顔を取り繕った。
「どれも美味しそうで迷ってしまうね」
「俺の自信作はカロラブニャの薄衣揚げとキャルムを挟んだやつです」
勝手にルノさんの空のお皿に乗せた。
また俺を待って食べずにいるつもりだったんだろうな。みんなで食べた方が美味しいだろうに。
「ありがとう……ああ、美味しいね」
ルノさんの笑顔に満足して俺もサンドイッチにかぶり付いた。
1番小柄なオットーさんの好きなのは蒸したポルポルボル肉と野菜のサンド、1番年上のベルムントさんはジェヴォン肉のこってりした味付けのもの……こっそり机の下でメモを残していたのが見つかって、隣に座っていたベルンさんに掻っ攫われた。
「ふ~ん……何々?俺らの好みの味研究してくれてんの?そんなに頑張んなくてもシーナの飯は十分美味いよ。ねぇ副隊長」
「ああ、好き嫌いなんて言わせないからシーナの思う様に作ってくれて良いんだよ」
嗜好だけを気にしてたんじゃなくて、アレルギーとかそういうのを注意してたんだけど、この人たちに何か食物アレルギーとか無いのかな……何となくなさそうだ。
「副隊長、シーナ借りて良いっすか?」
話しかけたついでとばかりにベルンさんは俺を指差した。
ベルンさんは隊員さん達の中で1番気軽に話しかけてくれる。チャラそうで軽そうだからきっと誰にでもこうなんだろう。
「……シーナが良いなら良いんじゃ無いか?」
良いと言いながら明らかに不機嫌になったルノさんはサンドイッチを口に入れると喋らなくなってしまった。
「シーナどう?」
「どうって言われても内容によりますよ」
まだ何も聞いてないのに良いも何も無いだろう。
「意外!!何も聞かずに何でもホイホイ引き受ける系かと思った!!」
心外だな。俺はどんな馬鹿な子のイメージを持たれてるんだ。
「怒るなって、褒め言葉だってば」
「どこが褒め言葉ですか……それより何の用件なんですか?」
頭をわしゃわしゃとかき混ぜられたので頭を振って拒否した。
「隊長の髪を切ったのシーナなんだって?俺の髪も切って貰いたいなって思ってさぁ……ちゃんと散髪代だすよ?」
なるほど、そういう事か。信頼できる美容院が無いから伸ばしていただけだって隊長も言ってたもんな。髪を整えられるなら整えたいってことか。
警備隊の中で隊長の影響力は大きいらしいから隊長の髪を切った俺には安心して首を差し出せるんだな。
「良いですよ、でも先にルノさんと約束しているので明日以降なら」
「お?副隊長の髪も切るのか……注意しろよ?もし失敗なんてしたら……」
ニヤ~とベルンさんは悪い顔をして笑った。
「わかってますよ……街の女の子達を敵に回す事になるって事でしょう?」
「そういう事、特にエレーナは……痛っ!!」
俺を通り越してルノさんがベルンさんの耳を引っ張り上げた。
「その事はシーナに聞かせる様な話では無いだろう」
「あ……はっ……すいません、調子に乗りました……」
ルノさんの顔を見て真っ青に血の気の引いていくベルンさんの様子に、ルノさんの方を振り返るけどそこにはニコニコと微笑む顔があるだけだ。何をそんなに怖がっているのか。
「いや~シーナといると副隊長の雰囲気が違うからついつい調子に乗っちまったぜ」
頭を掻きながらサンドイッチに齧り付いた。
「ははっ!!いい事じゃないか!!……ほれ小僧」
大笑いしながら少し離れた席から隊長が何かを指で弾いて飛ばして来た。
「これは?」
隊長に投げられた物を何とかキャッチするとそれは銀色のコイン。
「すっかり忘れていたが散髪代だ」
「え?でもそれは俺が勝手に……」
実験台にしただけなんだけど?
「お前に任せたのは飯と掃除だろ?依頼外の仕事に対する対価だ。小遣い稼ぎだとでも思って受け取っとけ。仕事として小僧に依頼するって事なら許可取らんでも良いだろう?」
その言葉は俺、ではなくルノさんに向けられていた。俺の事はルノさんが責任を持つと言ってくれたから保護者だもんな。俺に手伝いを頼むのに許可を一々取るのは、隊員のみんなからしてもルノさんからしても面倒だろうからな。
「隊員達の事はまあ……それなりに信頼はしていますので、シーナも皆と打ち解けた様ですし、シーナに無理強いをしなければシーナの意思に任せますよ」
ん? なんでだろう? ルノさんの言葉に隊員達が固まってしまった。
「しかし……もし対価を払うからシーナを買おうなんて馬鹿な事を少しでも考えたら……」
左側から冷気を感じ、窓が開いていたのかと窓を確認したが窓もドアも閉まってる。
この世界に四季はあるのかな? あるなら寒くなったり暑くなったり……気候に合わせた服が欲しいなぁ。
「あ、お礼まだだった……隊長!!散髪代、ありがとうございます」
銀色のこのコインの価値はわからないけど、お金が貯まったらルノさんに服を買って来てもらおう。
散髪代は収納鞄に大切にしまわせてもらった。一年経って成人し、一緒に買い物に連れて行って貰える日まで無駄遣いせずに貯めて行こう。細やかな楽しみが増えた。
「早く成人して街の中を見てみたいなぁ……どんなお店があるんだろう」
「ん?別に成人まで待たんでも副隊長に連れて行って貰えば良いじゃねぇか」
目の前のオットーさんが噛みつこうとしていたサンドイッチから顔を離して不思議そうに俺を見た。
「この街は危険だから今の俺じゃ無理だって……」
ルノさんに止められてるんだよ。
そうですよねと、ルノさんに顔を向けると気まずそうに顔を逸らされた。
「俺で守りきれなかったらと思うと怖くて……」
「副隊長が怖いっ!?」
「副隊長が怖がる様な街は、人間が住める場所じゃねぇっす!!」
隊員達に責められ、そっぽを向いているルノさんの肩は僅かに震えていて耳は真っ赤に染まっている。こういうからかいというか、話の中心に置かれるのは苦手なタイプ……シャイか。
「はははっ!!ルノは心配性だな、この街でお前に敵う奴がどこにいるんだよ……てか、その青髪を見ただけで誰も近づいて来やしねぇよ」
「ルノさん、そんなに強いんですか……」
練習風景を見て、ルノさんが強いのは分かっていたけど、この世界基準でどれ程なのかは知らなかった。
「ああ、ルノは強ぇぞ。そいつの双剣はそれぞれ炎と氷を纏わせて戦うんだが……ルノの剣は触れただけでその炎に溶かされ、掠めただけで凍りつく。あいつが王都で騎士団にいた時の二つ名知ってるか?『焔凍の死神』ってんだ。戦場でルノの姿を見た者は必ず死ぬってな」
「その名は思い出したくありませんね」
ルノさんは話を無視する様に食事を再開させた。
怒らせたら危険ってのは鑑定でも出てたから知ってるぞ……『死神』なんて物騒な二つ名までは知らなかったけど。
うんうん、これからはなるべく我がままは言わない様に気をつけよう。
保護者同伴なら外に出られたかもしれないのに残念。
「ルノさんと一緒にお出掛けしたかったなぁ」
外に出られるならやっぱり出たいじゃん?でもルノさんが嫌なら我がままは良くないか……。
本当に残念だなぁと溜め息を吐いていると、にわかに食堂にどよめきが広がった。
何か起こったのかと顔を上げると隊員達の顔に動揺の色が……でも隊長やベルンさんは楽しそうに笑っていたから、特に問題が起こったわけでは無さそうなので、自分の取り皿に載せられたみんなの好意と戦う事に専念した。
あ~でも服とか欲しいし、新しい道具が手に入るかもしれないし、料理のレパートリーだって増えたかもしれない……やっぱり外に行きたいなぁ。
ルノさんが無理なら隊長となら?
ちらりと覗き見た隊長と目が合ったけど、気付かなかった様に逸らされた。
「こ綺麗な隊長数年ぶりに見たっす!!『剛腕の野獣』が男女問わず侍らせていた時代を思い出すっす!!」
「あ~これじゃ団長に全ての女の子が釘付けっすよね……しばらく『月猫亭』じゃなく『杏華館』に行こうかなぁ……新しくできた『清薔薇の湯』でもいいか」
「『清薔薇の湯』はやめとけってあいつらご貴族様の後ろ盾があるのを良い事にかなり際どい事してるらしいぞ」
「お前らそういう話は後で外でやれ」
副隊長の制止を受けた隊員たちは一斉に俺を振り返った。
ああ、俺は子どもだからな。一応子どもの前でそういう話は控えるという常識はあるわけか。
談笑する隊員たちが座る長机に大皿に山盛りになったサンドイッチをのせた途端にいろんな角度から手が伸びてきた。ちゃんと噛んでいるのか心配になる勢いで減っていく。
「何だこのパン、すげぇ柔けぇ!!焼きたてかよ!?」
「パン焼き窯なんて無かっただろう?どうやって焼いたんだ?」
柔らかいパンを食べ慣れている俺には少し重く身が詰まって感じたけれど十分な柔らかさらしい。
昔は豊かだったらしいが今は国が荒れていて、焼き立てのパンが食卓に並ぶ事はほぼ無くなり、保存の効くように水分を飛ばした硬いパンばかりが売られているそうだ。
日本の高級食パンの店をこの世界作れたら……あれ?
みんな美味しそうにサンドイッチを両手で持って頬張る中、ルノさんは机の端で静かにスープだけを飲んでいた。
今日は大量に作ったのでおかわりは流石に大丈夫だろう。
追加のサンドイッチをのせたお皿と自分の分のスープを持つとルノさんの隣に腰を下ろした。
「今日は皆さんと一緒に食べても良いですか?」
「おお、食べろ食べろ!!これが美味いぞ!!」
「俺のおすすめはこっちだな!!」
まるで自分の手柄の様に誇りながらそれぞれのお勧めを俺の取り皿に乗せていってくれる。
「ルノさんは?どれが好みでした?」
急に話を振られたルノさんは一瞬目が泳いだけどすぐに笑顔を取り繕った。
「どれも美味しそうで迷ってしまうね」
「俺の自信作はカロラブニャの薄衣揚げとキャルムを挟んだやつです」
勝手にルノさんの空のお皿に乗せた。
また俺を待って食べずにいるつもりだったんだろうな。みんなで食べた方が美味しいだろうに。
「ありがとう……ああ、美味しいね」
ルノさんの笑顔に満足して俺もサンドイッチにかぶり付いた。
1番小柄なオットーさんの好きなのは蒸したポルポルボル肉と野菜のサンド、1番年上のベルムントさんはジェヴォン肉のこってりした味付けのもの……こっそり机の下でメモを残していたのが見つかって、隣に座っていたベルンさんに掻っ攫われた。
「ふ~ん……何々?俺らの好みの味研究してくれてんの?そんなに頑張んなくてもシーナの飯は十分美味いよ。ねぇ副隊長」
「ああ、好き嫌いなんて言わせないからシーナの思う様に作ってくれて良いんだよ」
嗜好だけを気にしてたんじゃなくて、アレルギーとかそういうのを注意してたんだけど、この人たちに何か食物アレルギーとか無いのかな……何となくなさそうだ。
「副隊長、シーナ借りて良いっすか?」
話しかけたついでとばかりにベルンさんは俺を指差した。
ベルンさんは隊員さん達の中で1番気軽に話しかけてくれる。チャラそうで軽そうだからきっと誰にでもこうなんだろう。
「……シーナが良いなら良いんじゃ無いか?」
良いと言いながら明らかに不機嫌になったルノさんはサンドイッチを口に入れると喋らなくなってしまった。
「シーナどう?」
「どうって言われても内容によりますよ」
まだ何も聞いてないのに良いも何も無いだろう。
「意外!!何も聞かずに何でもホイホイ引き受ける系かと思った!!」
心外だな。俺はどんな馬鹿な子のイメージを持たれてるんだ。
「怒るなって、褒め言葉だってば」
「どこが褒め言葉ですか……それより何の用件なんですか?」
頭をわしゃわしゃとかき混ぜられたので頭を振って拒否した。
「隊長の髪を切ったのシーナなんだって?俺の髪も切って貰いたいなって思ってさぁ……ちゃんと散髪代だすよ?」
なるほど、そういう事か。信頼できる美容院が無いから伸ばしていただけだって隊長も言ってたもんな。髪を整えられるなら整えたいってことか。
警備隊の中で隊長の影響力は大きいらしいから隊長の髪を切った俺には安心して首を差し出せるんだな。
「良いですよ、でも先にルノさんと約束しているので明日以降なら」
「お?副隊長の髪も切るのか……注意しろよ?もし失敗なんてしたら……」
ニヤ~とベルンさんは悪い顔をして笑った。
「わかってますよ……街の女の子達を敵に回す事になるって事でしょう?」
「そういう事、特にエレーナは……痛っ!!」
俺を通り越してルノさんがベルンさんの耳を引っ張り上げた。
「その事はシーナに聞かせる様な話では無いだろう」
「あ……はっ……すいません、調子に乗りました……」
ルノさんの顔を見て真っ青に血の気の引いていくベルンさんの様子に、ルノさんの方を振り返るけどそこにはニコニコと微笑む顔があるだけだ。何をそんなに怖がっているのか。
「いや~シーナといると副隊長の雰囲気が違うからついつい調子に乗っちまったぜ」
頭を掻きながらサンドイッチに齧り付いた。
「ははっ!!いい事じゃないか!!……ほれ小僧」
大笑いしながら少し離れた席から隊長が何かを指で弾いて飛ばして来た。
「これは?」
隊長に投げられた物を何とかキャッチするとそれは銀色のコイン。
「すっかり忘れていたが散髪代だ」
「え?でもそれは俺が勝手に……」
実験台にしただけなんだけど?
「お前に任せたのは飯と掃除だろ?依頼外の仕事に対する対価だ。小遣い稼ぎだとでも思って受け取っとけ。仕事として小僧に依頼するって事なら許可取らんでも良いだろう?」
その言葉は俺、ではなくルノさんに向けられていた。俺の事はルノさんが責任を持つと言ってくれたから保護者だもんな。俺に手伝いを頼むのに許可を一々取るのは、隊員のみんなからしてもルノさんからしても面倒だろうからな。
「隊員達の事はまあ……それなりに信頼はしていますので、シーナも皆と打ち解けた様ですし、シーナに無理強いをしなければシーナの意思に任せますよ」
ん? なんでだろう? ルノさんの言葉に隊員達が固まってしまった。
「しかし……もし対価を払うからシーナを買おうなんて馬鹿な事を少しでも考えたら……」
左側から冷気を感じ、窓が開いていたのかと窓を確認したが窓もドアも閉まってる。
この世界に四季はあるのかな? あるなら寒くなったり暑くなったり……気候に合わせた服が欲しいなぁ。
「あ、お礼まだだった……隊長!!散髪代、ありがとうございます」
銀色のこのコインの価値はわからないけど、お金が貯まったらルノさんに服を買って来てもらおう。
散髪代は収納鞄に大切にしまわせてもらった。一年経って成人し、一緒に買い物に連れて行って貰える日まで無駄遣いせずに貯めて行こう。細やかな楽しみが増えた。
「早く成人して街の中を見てみたいなぁ……どんなお店があるんだろう」
「ん?別に成人まで待たんでも副隊長に連れて行って貰えば良いじゃねぇか」
目の前のオットーさんが噛みつこうとしていたサンドイッチから顔を離して不思議そうに俺を見た。
「この街は危険だから今の俺じゃ無理だって……」
ルノさんに止められてるんだよ。
そうですよねと、ルノさんに顔を向けると気まずそうに顔を逸らされた。
「俺で守りきれなかったらと思うと怖くて……」
「副隊長が怖いっ!?」
「副隊長が怖がる様な街は、人間が住める場所じゃねぇっす!!」
隊員達に責められ、そっぽを向いているルノさんの肩は僅かに震えていて耳は真っ赤に染まっている。こういうからかいというか、話の中心に置かれるのは苦手なタイプ……シャイか。
「はははっ!!ルノは心配性だな、この街でお前に敵う奴がどこにいるんだよ……てか、その青髪を見ただけで誰も近づいて来やしねぇよ」
「ルノさん、そんなに強いんですか……」
練習風景を見て、ルノさんが強いのは分かっていたけど、この世界基準でどれ程なのかは知らなかった。
「ああ、ルノは強ぇぞ。そいつの双剣はそれぞれ炎と氷を纏わせて戦うんだが……ルノの剣は触れただけでその炎に溶かされ、掠めただけで凍りつく。あいつが王都で騎士団にいた時の二つ名知ってるか?『焔凍の死神』ってんだ。戦場でルノの姿を見た者は必ず死ぬってな」
「その名は思い出したくありませんね」
ルノさんは話を無視する様に食事を再開させた。
怒らせたら危険ってのは鑑定でも出てたから知ってるぞ……『死神』なんて物騒な二つ名までは知らなかったけど。
うんうん、これからはなるべく我がままは言わない様に気をつけよう。
保護者同伴なら外に出られたかもしれないのに残念。
「ルノさんと一緒にお出掛けしたかったなぁ」
外に出られるならやっぱり出たいじゃん?でもルノさんが嫌なら我がままは良くないか……。
本当に残念だなぁと溜め息を吐いていると、にわかに食堂にどよめきが広がった。
何か起こったのかと顔を上げると隊員達の顔に動揺の色が……でも隊長やベルンさんは楽しそうに笑っていたから、特に問題が起こったわけでは無さそうなので、自分の取り皿に載せられたみんなの好意と戦う事に専念した。
あ~でも服とか欲しいし、新しい道具が手に入るかもしれないし、料理のレパートリーだって増えたかもしれない……やっぱり外に行きたいなぁ。
ルノさんが無理なら隊長となら?
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