ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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最高の調味料は愛情とかいう

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食器の片付けも終わって、戦争のようだった夕飯の時間を思い出した。

ルノさんの食べる量から、これぐらいかなと推測して作った料理はすぐに平らげられて、材料が切れるまでずっと厨房に立っていた。

でも、たくさん誉めてもらえたし、きっと満足してもらえたと思う。同時進行とかレベル高いし段取りが悪くて時間も大分掛かってしまったけど、時間経過無しの収納鞄のおかげで出来立ての物を食べて貰えた。

隊長からは『文句無しの満点』をもらい、明日からこの厨房は俺の自由にできる空間になった。
保護された迷子という頼りない肩書きともおさらばできそうだよ。

収納鞄から、確保しておいた自分の分の夕飯を取り出すと、食器棚の上のドラゴン像にもお裾分けとして小皿に少し取り分けお供えした。

「神様、できれば特殊な固有スキルじゃなくて生活するための基本的な魔法を使える魔力をお与えください」

お祈りをしてから、ようやっと調理台に用意した椅子に腰を下ろした。

ナイフとフォークを使って優雅に食事をする様な人達ではなさそうだったので、ちょっと大きめな一口大に切られた薄緑のソースのかかったサイコロステーキ。フォークで刺して口へ運んだ。

「うん……美味しい」
途中味見したからわかっていたけどやっぱり美味しい。

街の屋台で売っているものと違い、味付けがしっかりしているからだろう。
でもそれは屋台の人達が料理が下手とかではなく、香辛料などの調味料はかなり高級らしく……なるべく控えめにして使っているからだそうだ。

野菜や果物も、栽培しても魔獣に荒らされてしまう事が増え、それを生業にしようという人が減ってしまったから高額。

逆に魔獣の肉は各地で魔獣が増えているので豊富に手に入るんだと財布の中身を使い果たされ、少し不機嫌だった副隊長様が言っていた。

この詰所には中庭もあるし、隅っこで家庭菜園とかやったら食費が浮くし……もしかしたら儲かるんじゃ?

噂をすればなんとやらで二口目を食べようとしたところにルノさんが厨房に入ってきた。

「シーナは今から夕飯?」

「ルノさんはみんなとお酒を飲みに行かなかったんですか?」

立ち上がろうとして、座るように肩を押さえられた。

酒が飲みたいと外に出掛けた者、これから見張りの当番の者、風呂へ向かった者……皆それぞれに自分の時間を過ごしている。

「ご一緒させて貰っても良いかな?」

俺が頷くと、部屋の隅からもう一脚の椅子を引っ張ってきて着席すると、ルノさんは収納箱から今日出したメニューと同じ食事を並べた。

「シーナはみんなの追加注文を聞いていて全然食べてなかっただろう?後で1人で食べるつもりなら俺もその時一緒に食べようかなと思ってさ」

「収納箱に入れていたんですか……」

1番気になって見ていたルノさんの反応は薄く……美味しくなかったのかとがっかりしていたけど、俺と一緒に食べようと残していてくれたんだ。

「一口食べちゃいましたけど……良かったらこっちを食べてください」
椅子から立ち上がると席を交代するようにルノさんの腕を引っ張った。
「え?何で?どうした?」

時間経過のあるルノさんの収納箱に入れられていた食事はもう冷めてしまっている。
「ルノさんには1番美味しい状態で食べて貰いたいんです」

この『愛情』とかいうくそ恥ずかしい調理スキルは、ルノさんに恩返ししたい一心で神様に祈ったからだと思ってる。だからルノさんに1番美味しいタイミングで食べて貰いたいんだ。

「……本当に困った子だよね」
そう微笑んでからステーキを口に運んだルノさんが見せてくれた笑顔は俺の頑張りを労ってくれる様な、これまでで1番綺麗な笑顔だなって思った。

「美味しいよ……すごく……そしてとても心が温かくなる」
「良かったです」

俺もステーキに手を伸ばした。
さっき食べた出来立ての物より、冷めてしまっているのに目の前の物の方が美味しく感じる。

「隊長達が美味い、美味いと言って食べているのを横で見ているのは辛かったよ」

「それでちょっと不機嫌そうだったんですか?ルノさんのお金を全部使ったって言ってたから怒ってるのかと思いました」

俺が見ていた事に気付いていなかったのか、ルノさんはバツが悪そうに笑って頭を掻いた。

「さすがに全所持金は渡してないし、後であいつらから1人ずつ食費として徴収するから大丈夫。今までは食費も各々の管理にしていたけれどこれからは食費と給金は別にするかな……もしくは一食毎に金をとるか」

予算の割り振りはルノさんが管理しているのか。あの隊長に任せたら全て酒代に消えてしまいそうだもんな。
ルノさんだって俺が来る前は隊長達と同じ様に外に出て食事を取りながらお酒も楽しんでたんじゃないのかな?

「そうだ!!お酒ではないけど、良かったら一緒に飲みませんか?」

後でゆっくり飲もうと火にかけておいた鍋からコップへ注ぐとルノさんに差し出した。
すり下ろした甘酸っぱいポムポムの実を火にかけ、甘いジェルバルブで味付けしただけのホットドリンク。

「この香り、ポムポムの実か……こんな使い方もあるんだな……暖かくて優しい甘さ……疲れが吹き飛んでいくよ」

微笑みを浮かべコップを見つめるレノさん。お互い何も喋らなかったけど、気不味さの無い穏やかな時間。


俺が食べた物、レノさんの食べた物、隊長が食べた物、みんなが食べた物……同じ物を食べたけど、みんな感想が微妙に違った。
その時は好みの差だろうと気にしなかったけど……なんとなく作った物を鑑定して出て来た鑑定内容は……。

『愛情カドガドソースのジェヴォンのステーキ……カドガドをふんだんに使ったジェヴォンのステーキ。食べる相手への愛情、作った相手への愛情によって味と効果が変化する』

……おい待て。

俺が自分の為に用意して今はルノさんが食べている物も鑑定すると『カドガドソースのジェヴォンのステーキ……カドガドをふんだんに使ったジェヴォンのステーキ。仕上がりは星1』

食べている物は別物だった。
美味しく感じたのは、一緒に食べると美味しいな、等という精神論ではなくリアルに味が違うのかよ。

「ルノさん……こっちも食べてみてくれますか?」

「どうしたんだい?」

不思議そうに首をかしげながらルノさんは俺が食べていた、ルノさんが食べる筈だったステーキを口に運んだ。

「これは……部位が違うとか?かな。ごめんね、美食家じゃないから細かい事は分からないけれど、全然違う味だね。シーナ……自分の分だからって良くない部分を使わなくて良いんだよ?」

いや、何も気にせず一緒に作ったよ?
いちいちこれが誰の分だなんて考えながら肉を焼くなんて面倒だろう。

ルノさんの分だと配膳した時か?
ん~……わからないな!!
誰も気付いてなさそうだし、美味しい事はいい事だよね。
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