ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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意外にかっこいい

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朝っぱらから喧嘩でもしているのか雄叫びの様な大声に意識を呼び覚まされる、嫌な目覚めだ。

明るい光に薄く目を開くとルノさんが俺を見下ろしていた。

「……おはようございます」

「おはよう、朝食の準備できてるよ」

机の上には既にご飯が並べられていた。
「起きていたのなら、一緒に起こしてくれたら良いのに……すぐ起きます」
離れがたい寝心地の布団から体を起こすとルノさんは楽しそうに笑った。

「抱いて眠るぐらい気に入ってくれたんだと思うと嬉しくて、ついつい……ね」

何の事?そうか、収納袋を抱いたまま寝ていた。
しかし、ついつい俺が寝ている姿を眺めていたということか……半目とか開いてなかっただろうか? 涎とか……自分の意識外のことだから不安になるので寝顔を観察するのはやめていただきたい。

ーーーーーー

朝食を済ませるとルノさんは部屋を出て行った。
俺は相変わらず外出の許可はもらえず、ソファーの上でゴロゴロしている。

ルノさんは今日は一日中詰所にいるから何かあったら呼んでと言われたけど何も起こりようがないだろう。

部屋で時間をつぶす物も無く、トイレと気分転換のために廊下に出てみると、中庭の方から勇ましい声が聞こえてきた。

窓から中庭を見下ろすと隊員達が訓練中の様で、金属がぶつかり合う音が響いている。

ボサボサの髪や髭はそのままだけど真剣な眼差しは先日見た酔っぱらいの寝ぼけたものとは全く違って、別人に見える。だらしない生活からみくびっていたけど……何だよ、みんなちょっとかっこいいじゃないか。

練習とはいえ映画の戦闘シーンの様な光景に見入っていた。

食堂と紹介された部屋から隊長とルノさんが並んで出てくるのが見えて2人が手振りで何かを指示すると、隊員達は隅にサッと整列をした。

中庭の中央で隊長とルノさんが向き合う……何が始まるんだろうと僅かに緊張しながら見守っていると隊長が背中に背負っていた大剣を抜いて構えた、対するルノさんは両腰に携えていた二本の小型の剣をするりと抜いた。ルノさんは二刀流なのか。

緊張感が伝わってくる中、固唾を飲んで見守っていると先に動いたのは隊長だった。軽々と振り上げた大剣で薙ぎ払うが、ルノさんは軽やかな動きで後方へ飛びあがり避けた。

それを追って隊長は流れる様に大剣を振り回してルノさんに攻撃を仕掛けていく、ルノさんはそれを危なげなく躱していくが攻撃は仕掛けられずにいるみたいだ。

隊長の大剣とルノさんの短剣がぶつかり合えば結果は目に見えている。
攻め続ける隊長の体力が落ちたのか大分攻撃と攻撃の間が開く様になると、ルノさんも隙をついて攻撃に入ろうとするが隊長はそれを許さずに剣でガードする。
俺だけじゃなく、隊員達も食い入る様に2人の戦いを見つめている。

すごい……ただの煩いおっさんじゃなかったんだ。
ルノさんが隊長の凄さを語るのを半信半疑で聞いていたけれど本当だったんだ。

決着はルノさんの勝ちだったのか、俺にはわからなかったけど隊長が剣を手放した事で終わった。

俺が見ていた事に気がついていたのかルノさんはこちらを見て軽く手を上げ、隊長はぶんぶんと大きく手を振ってくる。

「どうよ小僧!!惚れちまいそうなほどカッコ良かっただろ!?」

窓を開けて手を振り返した。
「隊長って名前だけかと思ってました!!ただのおじさんじゃなかったんですね!!ルノさんかっこよかったです!!」
「何だと小僧!!」
騒ぐ隊長の周りに集まった隊員達が笑いなが隊長の肩を叩いている。
その内容までは俺の耳まで届かなかったけど、楽しそうに笑い合うその姿は仲が良さそうで楽しそうで、その姿を見る限りこの街が国内有数の治安の悪い街だというのは信じられない話だ。

かっこいいなぁ……。
その後、隊長と副隊長相手に隊員達が順番に打ち込んでいくのをスポーツ観戦をする様な気分でずっと眺めていた。

ーーーーーー

「練習後に綺麗な風呂場ですぐ汗を流せるなんざ、嬉しい事だな」

「ああ、いつもは副隊長に頭から水ぶっ掛けられて終わりだったもんな」

練習を終えた隊員達はガヤガヤと風呂場へ向かって行く。聞こえてくる喜びの声に誇らしげな気持ちいっぱいで俺も部屋へと戻った。

時計などは無いので時間は分からない。
ルノさんが戻ってこない事でまだお昼ご飯では無いと判断するしかなくてルノさんの戻りを待っている。

ふと目についた部屋の隅に避けていた壊れた武器の箱から小さめの物を探し出した。
緊急時に鍛冶屋に素材として売れば多少の金になるかもと、残しているだけみたいだからいじっても怒られはしないと思う。

見つけた小ぶりの剣、剣というかナイフ。革製のホルダーから取り出すと半分から先は折れていて錆び付いてしまっていたけど雑巾で磨くと、自分の顔が映り込むぐらいに綺麗になった。
刃は半分ぐらいしか残ってなくて武器としては使えないけど輝く刃と小さいけどズシリとした重みに背筋がゾクゾクと震えた。

「……かっこいいな」

先ほど見たルノさんの姿を想像しながらナイフを振り回してみたけれど、すぐに疲れてソファーに寝転がった。

さすが攻撃力6なだけある。武器を振っただけで疲れちゃったよ。

でもやっぱり剣とか刀とか、憧れるよな。徴兵とか無理やり戦いに連れて行かれるのは嫌だけど、自由気ままな冒険者とか最高だよ。

初めはEランクとかから始まって最速でAランクからの、世界に数人のSランクに認定されたりして……女の子に囲まれた夢のハーレムパーティだ。

役に立たない折れた剣だけど持っているだけで強くなった様な錯覚……これだけあるんだし一本ぐらい無くなってもバレないんじゃなかろうか。

キョロキョロ周囲を見回してから急いで鞄の中にしまった。
ごめんなさい、ルノさん。いつかお金が稼げる様になったらお返しします。

鞄の中に
折れた短剣(C)×1
が増えた。

念の為に自分のステータスを鑑定して見たけど流石に今の素振りでレベルが上がることはなかった……が。

「何だこれ?」

スキルの欄に一つ項目が増えている。
『愛情 Lv.1』

「愛情?また意味不明な……」

詳細を表示させると『愛情のこもった料理を作ることが出来る』と書かれていた。
素直に『調理』と書けば良いものを……でもご飯を作れるのは良い事だ。

昨日寝る前に女神様にお祈りしたのが通じたのかな? 
でもこの世界に来たら干渉できないと言ってたはずだから後発の付与はないだろうし、もしかしたらスキルを解放させるための条件とかが隠されているのかも……攻略本でもあればともかくノーヒントでそれは面倒だ。

トントンと階段を登ってくる音が聞こえてソファーから起き上がった。
思った通りルノさんが戻ってきた。

「お待たせ、そんなにお腹空いてた?」

「まぁそこそこですかね?何でですか?」
そんなに飢えた顔をしていただろうか?

俺の質問には答えずにルノさんは機嫌良さそうに買って来た物を机の上に並べている。

相変わらずルノさんの買ってくる物の量は多く、お金の余裕無いって言ってたのにこんなに買ってきて大丈夫なんだろうか?
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