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初鑑定

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手の甲の傷は光が収まると同時に消えてしまった。
鑑定が使えると言われてもどう使って良いのか分からない。

「魔術式はもう君の中に書き込まれているから『鑑定』と念じるだけで大丈夫だよ」

なるほど、では早速『鑑定』……そう念じると副隊長の顔の横に文字が浮かび上がった。

ルノルトス・オリフベル 20歳 男
クリコフト出身。
魔物により惨殺されたオリフベル家唯一の生存者。
現在はユノス警備隊の副隊長。
月猫亭のエレーナに言い寄られて困っている。
他人に対する興味は薄い。
怒らせると危険。

Lv.52
生命力:492
魔力:310
攻撃力:195
防御力:106
知力:217
素早さ:133
調理:8
清浄:30
創造:12


すごい……本当に見れた。他の人のステータスと比較ができないから副隊長さんが強いのかどうかはまだ分からないけど人柄についても少し書かれている。副隊長は怒らせなければ大丈夫な様だ。

「その顔はちゃんと見れたみたいだね」

「はい。他の人のステータス値が分からないのでまだピンと来ませんが見る事はできました」

なんだよ、凄い子ども扱いしてくるからもっと年上なのかと思ったら1歳しか変わらないじゃないか。しかもエレーナ……恐らく女の子に言い寄られて困っているとか贅沢な悩みだ。

ちなみにこの魔術式の描き込みに失敗すると、描かれた魔術式が火傷の痕の様になって一生残るらしい。
だから未成年者への魔術式は責任を持てる、親か信頼の置ける師しか行ってはいけない事になっているそうだ。

「ここでちゃんと覚えておいて欲しい事が二つある。一つはこの鑑定で知った情報を軽々しく口には出さない事、もう一つは自分のステータス表示の切り替えはレベルが上がる度にちゃんと確認する事」

「自分のステータス表示の切り替えですか?」

「そうだよ。見られたくない事だって色々あるだろう」

それはそうだ。
俺がこんなに簡単に見られるって事は他の人から俺の事も丸見えって事だもんな。ステータス表示の切り替えとはどうやるんだろう? 秘密にしたい事は秘密にしておきたいもんな……あれ? 副隊長は俺を鑑定したって言ってたけど、年齢や出身まで出てるのにどうして俺に聞いてきたんだ?

「自分の鑑定をする時は頭の中で『ステータス表示』と念じて、その後例えば……年齢を隠したければ『年齢を隠匿』と念じるだけだよ。俺の鑑定をもう一度してごらん、見えなくなっただろう? 自分のステータスで白っぽい文字が全ての人に公開している情報、黒っぽい文字が非公開になっている情報だ」

「副隊長さん……俺のステータスって今何が見えていますか?」

「今?名前、年齢、レベル、生命力、魔力、攻撃力、防御力、知力、素早さの全ての情報が開示になっているよ」

俺は副隊長さんのステータスから目が離せないまま、生唾を飲み込んだ。『見えなくなっただろう』と言われた年齢の欄は俺にバッチリ見えているままで、副隊長さんが言った『全ての情報』以外の情報が俺には見えている。

これは……これは女神様の祝福効果来たんじゃないか?

副隊長さんに丁寧にお礼を伝えると、もう一度鑑定スキルを副隊長から与えられた事は内緒だと念を押され、もう寝ていなさいと布団を掛けられた。
しかしこんな状況で寝ていられる訳が無い。念願の鑑定スキルだ、これから自分に何が出来るのか隅々まで調べないと……。

副隊長が部屋を出て行ったのを確認すると、すぐに自分のステータス画面を呼び出した。

さっき見て、驚いて吹き出しそうだった点がいくつかあるのでゆっくり確認して行こう。


シーナ・マサタカ(椎名 雅貴) 14(19) 歳 男

保護された迷子の異世界人。
異世界の女神の祝福を授かった者。
運は悪くないが間が悪い。

Lv.1
生命力:15
魔力:0
攻撃力:6
防御力:4
知力:7
素早さ:5
調理:999
清浄:999
創造:999

▶︎属性
▶︎スキル
▶︎持ち物

よくあの熊に襲われて生き延びたよなと思える弱々なステータスなのだが、気になるのは年齢だ。
色が青くてカッコ書きになっている。本名にカッコが付いている事と一緒だと考えると本当の年齢が19でこの世界では14歳という事だろうか?
自分の腕や体を確認すると確かに幼くなっている様な気がしなくもない。何故微妙な若返りを……普通に考えたら子どもにできる事より、19歳の方が問題なく過ごせそうだと思うけど。

タッチパネルに慣れてしまっている癖でツンッと年齢の部分に触れると吹き出しが表示され説明文が書き出された。

『15歳で準成年、18歳で成年を迎える。14歳までは子どもとして税や徴兵などが免除される』

徴兵されるの? だから14歳にしてくれたんだ。女神様ありがとう!!この世界に俺を飛ばしたのもその女神本人だけど……。

しかし、青文字にタッチすると詳細が分かるなんて副隊長は教えてくれなかったな。俺と見えている情報量も違うみたいだし俺特有なのかも、これはなかなか高待遇な鑑定スキルだ。気になる部分にどんどん触れていく。

戦闘能力の低さに引き換え、数値のおかしい『調理』『清浄』『創造』の3つのステータス。
副隊長が1桁だったことから俺のこの数値が異常なのは理解している。
『調理』はそのまま、料理の腕前に関係する。
『清浄』は簡単に言えば掃除と洗濯という事みたいだ。
『創造』は裁縫だったりDIYだったり、物を作る事に関係する物らしく、俺が長けているのは戦闘ではなく家事。

見事な偏り。
女神様、殆どの力は勇者を送る時に使ってしまったと言ってたから勇者様に付けなかったステータスの残りを俺にくれたみたいな感じかなぁ。
チートでハーレムは無理そうだが……女剣士とか戦う女性の主夫として護って貰うという座を狙うなら、なかなか使えるんじゃなかろうか。疲れて帰ってきた嫁をおいしい料理で労い、癒し、そして……。

妄想の世界に耽っていると尋常じゃない勢いで扉が開かれ、驚き布団の隙間から覗いてみると髭や髪は伸ばし放題な盗賊の様に厳つい顔をした大きな男が部屋に入ってきた。赤く染まった顔と座った目線、何よりこの匂い……酔っ払いだ。
ここは警察の家だろ? 安全じゃなかったのか? 副隊長さん助けてくれと願いながら布団にくるまって助けを待った。

「んあ~?誰だ?俺の部屋に勝手に入り込むたぁ良い度胸だなぁ」
「ひっ!!」
フラフラした足取りで近づいてきた男に布団を剥ぎ取られて目が合う。

隙間から除いただけでも盗賊だったが、こうして見下ろされると100人ぐらい殺しているんじゃないかと思える程の凶悪なオーラ。
「たす……けて……く隊長……さん」
助けを呼ぼうとしたが、恐怖に喉が乾いて声が掠れる。

「なんだナタリアちゃんじゃねぇか~俺に逢いに来たのか~?可愛い子だなぁ~」

がははと豪快な笑い声と共に男がベッドに飛び込んできて……。

「ぐはぁっ!!あ……あ……」

「シーナ!?どうし……何をしているんだ!!あんたはっ!!」

副隊長さん……遅いよ……男の重みに潰されて傷口から内臓が飛び出すんじゃなかろうかという程の痛みに耐えかね、俺の世界は真っ暗に閉ざされた。
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