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魔法拝受

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どんな飯でも腹に収まれば空腹は免れる。

全て食べ終えてひと息つくと、男を観察した。男もこちらを見ている。お互い探り合うような視線が交差して……先に口を開いたのは男の方だった。

「さて、元気な様なら教えてくれるかな?君はなんであんな危険な場所に一人でいたんだ?お父さんとお母さんは?家は何処か言えるかな?」

ん? なんか違和感を感じるな。

「行方不明者はいないと聞いていたのに、まさか残っいる子がいたとはな……怖かったな、よく頑張った。偉いぞ」

男は傷に触れないように、優しく俺の体を包み込んだ。汗と土の匂い……じゃなくて!! おかしいだろ!? 男の口調とこの行動はどう考えても幼い迷子の子どもへ接する態度だ。胸を張って大人と言いづらいが19歳は子どもではない。

「あの、俺は子どもでは無いのですが……」
力は入らないので軽く男の体を押すと手のひらから男の恵まれた筋肉が伝わってくる。くそ……どうせ転生するならこういう体が良かった。

「ああ、悪い。君ぐらいの年頃はそうだな。子ども扱いして悪かった……しかしレッドヘッドベアに襲われたんだ……怖かっただろう」

男は俺の頭を撫でてから体を離した。どうあっても子ども扱いをやめる気はないらしい……あの熊が怖かったのと外へ出る勇気が持てないのは事実だが。

「ここは何処で貴方は誰でしょうか?」

「そうか、自己紹介がまだだったな。俺はここユノスの警備隊の副隊長ルノルトスだ。君の名前は?」

警備隊……警察みたいなもんかな? ならきっとここは安全だろう。とりあえずここにいれば命の心配はしなくても良さそうだな。

「俺は椎名雅貴です」

「シーナ……マサタカなんて街は聞いた事が無いのだが……何処か遠くからやって来た行商の家族かな?」

異世界からやって来たと言う事は伏せておいた方がいいのが常識。ここはこの副隊長さんの案に乗っかろうと頷いておいた。

「シーナのお父さんとお母さんはどうしたんだ?」

頭を横に振ると、何かを勝手に悟ってくれたらしくそれ以上は聞かないでくれた。あまり突っ込んだ事を聞かれても上手く躱す自信は無いし、適当な嘘を言ってもすぐにバレるだろうから身の上の事に関してはだんまりを決め込む。俺の話よりもこの世界の情報を手に入れる為の会話をしないと……どうきりだしたら怪しまれずに済むか。

「助けてくれてありがとうございました……自分の力で回復出来れば良かったんですけど……」

「回復魔法は使える者が少ないから仕方無いよ。警備隊なのに回復士もヒール薬の備蓄も無くて申し訳無い」

よし、想像通り魔法がある世界だ。そんで回復系の魔法を使える人間は少ない……と。

「えっと……副隊長さんは魔法は使えないのですか?」

「俺は火属性と水属性の魔法しかまともに使えなくてね。大丈夫、ゆっくり休んでいれば傷はすぐに癒えるよ」

「あの……俺、魔法全然使えなくて……俺でも魔法を使えるようになれないでしょうか?お金無くて……魔法が使えたらちゃんと働いてお返しします」

副隊長は困った様に笑って俺の頭を撫でた。

「そんな事を気にしているのか?そんなに余裕のある隊ではないが、怪我をしている子どもからお金を取るほど困ってはいないよ。今は傷を治す事だけに専念しなさい」

優しい……優しくしてもらえるのは嬉しいけどそうじゃ無いんだ。魔法の使い方を教えて欲しかったんだよな。女神様の祝福というのがどういった効果があるかもわからないし、怪我が治らないうちはここに置いて貰えるとしても……その後は?

警備隊がどんなものか分からないけど、いつまでも身寄りのない人間を置いておいてはくれたりはしないだろう。もし俺が魔法で攻撃……もしくは足止めでも出来るなら、あんな怖い獣が出てもなんとか暮らしていけるとは思うんだよな。

「君の鑑定はさせて貰ったけれど、残念ながら魔力がね……練習すれば普通に火をおこしたり生活用水の確保程度には使える可能性はあると思うけど仕事に繋がるかは、難しいね」

「鑑定……したんですか?」

鑑定、鑑定きた!!

「ああ、どんな人間か一応確認しないと田舎の警備隊とはいえ国から派遣されてきているからね。中には君の様に幼い子供でも戦闘訓練を受けて暗殺者として働かされている者もいる。君の歳で異様に高い戦闘能力を持った怪しい人間なら自由にはさせてあげられないところだったよ」

あんまりにも普通な事の様に言うから反応が遅れてしまったけどなかなか物騒な治安らしい。

「俺は鑑定が使える様になれないでしょうか?鑑定が使えたらこれから先、身の危険を避けるのに使えると思うんです」

お皿を持って立ち去りかけた副隊長の腕に縋り付いた。
小さい子どもが暗殺とかする危ない世界、ここを出て親切な人に出会えるかなんて分からないんだから、こうなったらこの副隊長から聞き出せる事は全て聞き出しておきたい。

「そうかも知れないが、今は休んで……」
「お願いします!!鑑定だけでも今すぐ覚えたいんです!!」

ありがち展開なら鑑定は異世界転生の必須スキルともいえる物、鑑定から自分のスキルや能力を伸ばしていくのが筋書きってもんだから、ここは譲れない。早く自分にできる事を知りたい。もしかしたら隠されたスキルで治癒とか回復とか簡単にやっちゃって、こんな傷だって綺麗に消えてしまうかも知れないんだし。

「いや……しかし……」
「生きていく為なんです!!お願いします!!」

熱意を伝えようとジッと副隊長の目を見上げて見つめていると、根負けしてくれたのか副隊長は大きく息を吐き出した。

「まいったな……鑑定に魔力は必要ないし、1番最初に覚える簡単な式だから大丈夫かな?う~ん……よし、準備してくるから待っていてくれ。だけど鑑定だけだよ?他の魔法はもう少し大きくなってからだからね」

やった!! これで俺の生存確率が上がった!!

食器を持って出て行った副隊長が戻ってくるとその手に紙に包まれた何かを持ってきた。テーブルに広げられたそれはガラスの棒の様な物だった。

「本来15歳未満の子どもに魔法を教える事が出来るのは血縁者か子弟関係を結んだ者だけなのはわかっているよね?この事は2人だけの秘密だと約束できるかい?誰かに聞かれても父親に昔教わった事にしてくれるかな?」

そんな決まりがあるのか。
「なら俺は19歳だから大丈夫ですね」

「ははっ。いくら魔法を覚えたいからって嘘はよくないよ。俺は君を鑑定したと言っただろう?大体君の見た目で5歳も誤魔化しがきく訳ないだろう」

そう笑われたけど、歳を誤魔化したつもりはないんだけど……この世界の人間が老けすぎなんじゃ。鑑定されたんだよね? 鑑定の精度があんまりよくないのかな? あまり突っ込んでやっぱり教えないと言われても困るから、それ以上は突っ込まずに副隊長に頭を下げた。

「……誰にも言わないのでお願いします」
お願いしたのはこっちなんだから言われた約束はちゃんと守るつもりだ。

「じゃあ、少し痛いけど我慢するんだよ」

副隊長はにこやかに俺の手を取ってガラスの棒を構えた。ガラスの棒の先はペンの様に尖っていて、痛いのは嫌だ、やめとこうかなと一瞬尻込みしたが、ここで引いたら俺の異世界ライフの難易度が修羅モードになってしまう。ゲームを始める時はまずイージーモードからが俺のスタイルだ。

ガラスの先端を俺の手の甲に押し付けると副隊長は何かの模様を描いていく……ガラスでなぞられた痕が赤く盛り上がり、まるで焼かれた様にジリジリ、ピリピリと痛む。
「っ!!」
「動かないで……」

痛みにビクッと跳ねる手を副隊長は強く握りしめ、今までとは違う真剣な眼差しに俺は動かない様に唇を噛み締めて痛みを堪える。大丈夫かな? 大丈夫だよね? 少し不安になりながらその様子を眺めていると、描き終えたのかペン先が離され、ミミズ腫れの様にくっきり残った痕が白く発光し出した。

「新たなる力を授けよう……『鑑定』」

そんな言葉とともに副隊長は描かれた模様の真ん中……俺の手の甲にキスをした。思わず引っ込めようとした手は副隊長に強く握られていて動かない。唇の感触がくすぐったくてむずむずしているうちに、光はおさまった。

「うん、成功だ。これでもう鑑定を使えるよ」

……失敗もあるのか。それは先に知りたかった情報だ。
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