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愛されたいと願う
幸せを夢みて
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「海里……やっと俺と向き合ってくれたね」
「……?僕……ずっと陸人……一緒にいた……」
僕には友達と呼べたのは陸人だけでずっと陸人の優しさに甘えていた。
妬みながら……ずっと陸人の優しさを利用する汚い自分。最低だ。
「海里はいつも僕から一歩引いてたでしょ?本当の気持ち……言ってくれるのずっと待ってた」
「……怒んないの?」
こんな身勝手な嫉妬で八つ当たりして喚き散らして……こんな僕を許してくれるの?……やっぱり心の広さが全然違う……またそんなひねくれた自己嫌悪を感じてしまった。
ーーーーーー
ベッドに寝転んで、座った陸人の腰にしがみつく僕の頭を呼吸が落ち着くまで、陸人は優しく落ち着ける様に撫でてくれる。
「秀哉さん……病気なんだって、だから直接話せなくても我慢しなきゃって……わがまま言って嫌われるのが怖くて……」
「病気?……ごめん。貴司からそんな話、聞いてなくて……海里はいっぱい須和さんに愛されてるんだと思ってた。無神経に貴司との話を聞かせてごめんね」
「ううん。僕も秀哉さんに愛しては貰ってる……と思う。ご両親もいっぱい優しくしてくれるし、雪先生……お医者様と一緒に産まれて初めて雪だるま作ったり、家政婦さんもお買い物に連れて行ってくれたりしてくれる。何も貰ってないなんて嘘。初めての事……いっぱい貰ってるのにどんどん贅沢になってくんだ……」
雪先生と雪だるまを作る僕を窓から見守ってくれていたのだって知ってた。
「番の側にいたいと思うのは全然わがままじゃないよ」
陸人の慰めに止まっていた涙がまた溢れた。
「陸人……でも……会いたいってわがまま言って嫌われないかな……」
みんな秀哉さんの事を『待っていて欲しい』という。
僕はいつまで待てば良いんだろう?手を伸ばせば届くところに好きな人がいるのに僕は手を伸ばす事が出来なかった。
『秀哉さんも辛い』だから待っててあげて……。
優しい家族。優しい雪先生。優しい華絵さん。みんなみんな優しいけれど、それは僕が秀哉さんの番だからで……秀哉さんに嫌われて番になれなかった時、全てが泡の様に消えてしまいそうで良い子でいるしかなかった。
みずから手放すにはあまりにも幸せすぎるものだったから……。
「番から会いたいって言われて嫌がる様なアルファはいないよ……それでも、もし秀哉さんの家に居づらくなったら俺の家においでよ」
「陸人の家に?貴司さん怒んないかな?」
「大丈夫だよ。貴司も海里のこと気に入ってるから。俺の親……俺の母さんも……ベータの中で育ったんだ。母さん方の親戚には一度も会った事ないし電話をした事も無い……普段は見えないけど母さんの尻尾、半分しか無くて、耳も片方聞こえないんだ」
陸人のお母さん。
いつも朗らかに笑っていて、とても優しいお母さん。
「父さんと出会うまでずっと暴力を受けていたみたいで……それでも母さんが自分の親を悪く言ったの一度も聞いた事が無くて、海里を見てると母さんを見てる様で何にか手助けしないとって、おせっかい焼いて……海里にはいい迷惑だったよね」
「そんな事ない!!初めて陸人が話しかけてくれたとき……本当に嬉しかったんだ」
顔を持ち上げると陸人の顔が近づいてきて……額と額がぶつかった。
「海里……今日は海里の部屋にお泊まりして良い?もっと話そう?良い事も悪い事も……お互い思ってる事全部……」
「全部……受け止めてくれるの?僕の心の中……汚いよ?」
「海里は綺麗だよ。俺の事も受け止めてよね。海里が思ってる様な良い子じゃないよ、俺」
いたずらっ子っぽく陸人は笑った。
2人で同じ布団に入って夜遅くまでいっぱい話をした。
オメガは黙ってアルファを受け止めるものという思想があって、今まで口に出した事の無いアルファへの不満を言い合ったりして笑い合った……2人だけの秘密の時間。
悪い事をしているというドキドキ感を共有して……陸人との距離がぐっと縮まった気がした。
ーーーーーー
残りの3ヶ月、楽しい時間はあっという間に過ぎて涙の卒業式を迎えた。
「海里、ほらもう泣き止めって……会えなくなるわけじゃないんだからさ」
「うん、わかってるけど……」
毎日ずっと側にいてくれた陸人と離れて暮す事に不安しか無い。
しかもこれから……秀哉さんと番になれる日まで実家で暮さなければならないのだ。
「あ…………海里、笑って!!」
いきなり陸人にスマホのカメラを向けられた。
「なっ!!やめてよ!!こんな顔、撮らないで」
「ほら撮るよ~笑顔、笑顔」
楽しそうにスマホを向ける陸人に慌てながら涙を拭いて髪に手をあてた時……。
「海里君……卒業おめでとう」
「え……」
ふわりと後ろから抱きしめられた。
この声……秀哉さん?
何で?何でここにいるの?何で抱きしめられてるの?
匂いは……ぐずぐずに泣いてたせいで仕方ないとしても足音も何も聞こえなかったのに。
初めて秀哉さんから与えられた温もりに頭がパニックを起こす。
「秀哉さん!!治った……の……」
これからはずっとこうして抱きしめてもらえるのかと喜んで見上げた顔には業務用の様ながっちりしたマスクの秀哉さん。
治ったわけではないんだ……それでも……そうまでして会いに来てくれたのかと思うと嬉しくてまた泣き出しそうだった。
「迎えにきたよ……君の家とはもう話がついている。帰ろう?父さんも母さんも楽しみにしてる」
「え?えっと……ええ??」
実家に電話を入れた時も何も言われなかった……のは、いつもの事か。
「良かったね海里……宝物にしてね」
陸人が笑顔でスマホを操作しながらそう言うと僕のスマホが鳴った。
メッセージを開くと……秀哉さんに抱き締められている僕の画像。
秀哉さんの目は……とても嬉しそうに笑っている。
『お幸せに』と陸人からのメッセージ。
大好きな人に包まれて、大好きな親友からのメッセージに、幸せになれる……そう思った。
……この瞬間は……。
「……?僕……ずっと陸人……一緒にいた……」
僕には友達と呼べたのは陸人だけでずっと陸人の優しさに甘えていた。
妬みながら……ずっと陸人の優しさを利用する汚い自分。最低だ。
「海里はいつも僕から一歩引いてたでしょ?本当の気持ち……言ってくれるのずっと待ってた」
「……怒んないの?」
こんな身勝手な嫉妬で八つ当たりして喚き散らして……こんな僕を許してくれるの?……やっぱり心の広さが全然違う……またそんなひねくれた自己嫌悪を感じてしまった。
ーーーーーー
ベッドに寝転んで、座った陸人の腰にしがみつく僕の頭を呼吸が落ち着くまで、陸人は優しく落ち着ける様に撫でてくれる。
「秀哉さん……病気なんだって、だから直接話せなくても我慢しなきゃって……わがまま言って嫌われるのが怖くて……」
「病気?……ごめん。貴司からそんな話、聞いてなくて……海里はいっぱい須和さんに愛されてるんだと思ってた。無神経に貴司との話を聞かせてごめんね」
「ううん。僕も秀哉さんに愛しては貰ってる……と思う。ご両親もいっぱい優しくしてくれるし、雪先生……お医者様と一緒に産まれて初めて雪だるま作ったり、家政婦さんもお買い物に連れて行ってくれたりしてくれる。何も貰ってないなんて嘘。初めての事……いっぱい貰ってるのにどんどん贅沢になってくんだ……」
雪先生と雪だるまを作る僕を窓から見守ってくれていたのだって知ってた。
「番の側にいたいと思うのは全然わがままじゃないよ」
陸人の慰めに止まっていた涙がまた溢れた。
「陸人……でも……会いたいってわがまま言って嫌われないかな……」
みんな秀哉さんの事を『待っていて欲しい』という。
僕はいつまで待てば良いんだろう?手を伸ばせば届くところに好きな人がいるのに僕は手を伸ばす事が出来なかった。
『秀哉さんも辛い』だから待っててあげて……。
優しい家族。優しい雪先生。優しい華絵さん。みんなみんな優しいけれど、それは僕が秀哉さんの番だからで……秀哉さんに嫌われて番になれなかった時、全てが泡の様に消えてしまいそうで良い子でいるしかなかった。
みずから手放すにはあまりにも幸せすぎるものだったから……。
「番から会いたいって言われて嫌がる様なアルファはいないよ……それでも、もし秀哉さんの家に居づらくなったら俺の家においでよ」
「陸人の家に?貴司さん怒んないかな?」
「大丈夫だよ。貴司も海里のこと気に入ってるから。俺の親……俺の母さんも……ベータの中で育ったんだ。母さん方の親戚には一度も会った事ないし電話をした事も無い……普段は見えないけど母さんの尻尾、半分しか無くて、耳も片方聞こえないんだ」
陸人のお母さん。
いつも朗らかに笑っていて、とても優しいお母さん。
「父さんと出会うまでずっと暴力を受けていたみたいで……それでも母さんが自分の親を悪く言ったの一度も聞いた事が無くて、海里を見てると母さんを見てる様で何にか手助けしないとって、おせっかい焼いて……海里にはいい迷惑だったよね」
「そんな事ない!!初めて陸人が話しかけてくれたとき……本当に嬉しかったんだ」
顔を持ち上げると陸人の顔が近づいてきて……額と額がぶつかった。
「海里……今日は海里の部屋にお泊まりして良い?もっと話そう?良い事も悪い事も……お互い思ってる事全部……」
「全部……受け止めてくれるの?僕の心の中……汚いよ?」
「海里は綺麗だよ。俺の事も受け止めてよね。海里が思ってる様な良い子じゃないよ、俺」
いたずらっ子っぽく陸人は笑った。
2人で同じ布団に入って夜遅くまでいっぱい話をした。
オメガは黙ってアルファを受け止めるものという思想があって、今まで口に出した事の無いアルファへの不満を言い合ったりして笑い合った……2人だけの秘密の時間。
悪い事をしているというドキドキ感を共有して……陸人との距離がぐっと縮まった気がした。
ーーーーーー
残りの3ヶ月、楽しい時間はあっという間に過ぎて涙の卒業式を迎えた。
「海里、ほらもう泣き止めって……会えなくなるわけじゃないんだからさ」
「うん、わかってるけど……」
毎日ずっと側にいてくれた陸人と離れて暮す事に不安しか無い。
しかもこれから……秀哉さんと番になれる日まで実家で暮さなければならないのだ。
「あ…………海里、笑って!!」
いきなり陸人にスマホのカメラを向けられた。
「なっ!!やめてよ!!こんな顔、撮らないで」
「ほら撮るよ~笑顔、笑顔」
楽しそうにスマホを向ける陸人に慌てながら涙を拭いて髪に手をあてた時……。
「海里君……卒業おめでとう」
「え……」
ふわりと後ろから抱きしめられた。
この声……秀哉さん?
何で?何でここにいるの?何で抱きしめられてるの?
匂いは……ぐずぐずに泣いてたせいで仕方ないとしても足音も何も聞こえなかったのに。
初めて秀哉さんから与えられた温もりに頭がパニックを起こす。
「秀哉さん!!治った……の……」
これからはずっとこうして抱きしめてもらえるのかと喜んで見上げた顔には業務用の様ながっちりしたマスクの秀哉さん。
治ったわけではないんだ……それでも……そうまでして会いに来てくれたのかと思うと嬉しくてまた泣き出しそうだった。
「迎えにきたよ……君の家とはもう話がついている。帰ろう?父さんも母さんも楽しみにしてる」
「え?えっと……ええ??」
実家に電話を入れた時も何も言われなかった……のは、いつもの事か。
「良かったね海里……宝物にしてね」
陸人が笑顔でスマホを操作しながらそう言うと僕のスマホが鳴った。
メッセージを開くと……秀哉さんに抱き締められている僕の画像。
秀哉さんの目は……とても嬉しそうに笑っている。
『お幸せに』と陸人からのメッセージ。
大好きな人に包まれて、大好きな親友からのメッセージに、幸せになれる……そう思った。
……この瞬間は……。
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