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愛されたいと願う
小さな望み
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「清末ちゃん、今日は小包が届いてるわよ」
寮につくと管理室から寮母さんから呼び止められた。
あれから須和さんと文通を続けている。
学校でどんな事があったとかどんな物が好きかとか……お互いの事を手紙で交換しあっている。
手紙から香る須和さんの匂い。
あれ以来、一度も会えていないけれど僕の中にはしっかりと須和さんが存在している。
そろそろ前回出した手紙の返事が貰える頃かもと待ちわびていたので、その言葉に尻尾がバサバサと慌ただしく動き出した。
「そんなに喜んじゃって……はい、どうぞ」
「ありがとうございます!!」
「表情が豊かになったわね……本当に良かったわ」
寮母さんに別れを告げて部屋に戻るとさっそく小包を開封した。
中にはスマホ?
同封されていた手紙には同じ時に、同じ事を、同じ感動を分かち合いたいからと書かれていた。
使い方が全くわからず陸人の部屋を尋ねて、使い方を教えて貰う。
「『か』を押したまま……指を下に……それで『こ』。『ん』は……」
スマホを握りしめて悪戦苦闘する僕に陸人は丁寧に教えてくれた。
須和さんが既に設定を済ませてくれていたトークアプリで須和さんへのメッセージを送っている。
『こんにちは スマホありがとうございます』
それだけ何とか打ち込むとふ~と息を吐いた。
すぐにピコンとスマホが音を立てて震え、驚いて落としそうになった。
「ほら、返事が来たよ」
「もう!?早くない!?」
やっと文字を打ち終わったばかりなのに。
「こんなもんだって……何て返ってきた?」
陸人と一緒に画面を覗くと『ちゃんと届いたみたいで良かった』という文章の後に『やったー!!』とバンザイするイラストが送られてきた。
須和さんのイメージとは違う可愛いタッチの犬のイラスト。
「へぇ~このイラスト海里に似てるね……須和さん、絶対ニヤニヤしながらこのスタンプ買ったね。愛されてんね~」
そういう陸人がニヤニヤしながら僕を見上げてくる。
「……似てないし……」
「耳の先の白い部分の感じとか、ぼんやりした目とかそっくりじゃん」
似てるとは思わないけど……一度しか会ってないのに僕の毛の色とか覚えてくれてるんだと思うと嬉しくて顔が緩む。
返事を返そうとさっき習った事を思い出しながら必死に文字を打ち込んでいく。
「電話掛けないの?」
「声、聞いたら緊張して話せないと思う……から……待って、今話しかけないで……あ!!間違えて送信しちゃった……」
送信したメッセージの取り消しも出来ると言うので、取り消そうとしているうちに返事が返ってきてしまった。
「……早い」
「ほらほら、ダーリンが待ちこがれてるよ?早く打たないと……」
「ええっ!?待って……」
慌てて打って入力ミスを連発する。
「俺のアカウントも登録しといてやるからさ。練習用に送ってきていいよ」
陸人は慣れた手付きで操作すると『友達』の項目に須和さんと陸人の2人の名前が並んだ。
「ありがと、陸人」
「ここのアイコンで通話も出来るから、困った事があったら電話してきなよ?」
「うん……うん……」
こうして僕にまた一つ宝物ができた。
「……必死なとこ悪いんだけど……年末年始、今年はどうする?」
「どうするって……家に帰るけど……」
一瞬止まった手を必死に動かして動揺を隠す。
「連絡した?ちゃんと待っててくれるって?」
「……一応、何日から帰るかはこの前、番の仮契約交わした報告の電話した時に伝えた……」
それで待っていてくれるかはわからないけど……番の仮契約の話も『ふ~ん』の一言で済まされ、相手がどんな人なのかも、何も聞かれなかった。
「もう良い加減、庇うのよしなよ……海里が一言訴えれば罪に問えるんだよ?補助金を貰っていながら養育を放棄して「それでもっ!!……それでも、僕の親なんだ。家族なんだよ……」
大声を出し目を伏せた僕の頭に陸人の手が置かれる。
「海里……ごめん。もう言わないよ……でもよかったら今年もウチに来ない?友達の家に泊まるって連絡しちゃいなよ」
「ありがとう……でもやっぱり実家に帰る」
ちゃんと帰る日にちは伝えたし、仮契約とか話しておきたい事はいっぱいある。
「そっか……でも約束。何かあったらちゃんと連絡する事!!」
「うん……わかった」
家族を信じたい気持ちはもちろんだけど……本当に本当の気持ちは……いま陸人の家にお邪魔すると嫉妬してしまいそうだったからだ。
貴司さんと陸人の仲睦まじい姿を見たら……『事情があって会えない』と言う須和さんの言葉を素直に受け入れられなくなる。
会えなくても、大切な宝物を2つも作ってもらえて、メッセージのやり取りだって毎日してくれている。
それでも……貪欲に求めてしまう。
あの匂いを、温もりを……一度で良いから、陸人みたいに番に優しく尻尾を撫でて貰いたいと……。
愛する人に側に居てもらって、幸せそうな陸人へ対して醜い嫉妬の感情を抱いてしまいそうで怖かった。
今年ぐらいは……いてくれると良いな。
相手にしてもらえなくても、話を聞いてくれなくても、せめて家に入れてくれれば適当に過ごすから……神様……どうかお願いします。
寮につくと管理室から寮母さんから呼び止められた。
あれから須和さんと文通を続けている。
学校でどんな事があったとかどんな物が好きかとか……お互いの事を手紙で交換しあっている。
手紙から香る須和さんの匂い。
あれ以来、一度も会えていないけれど僕の中にはしっかりと須和さんが存在している。
そろそろ前回出した手紙の返事が貰える頃かもと待ちわびていたので、その言葉に尻尾がバサバサと慌ただしく動き出した。
「そんなに喜んじゃって……はい、どうぞ」
「ありがとうございます!!」
「表情が豊かになったわね……本当に良かったわ」
寮母さんに別れを告げて部屋に戻るとさっそく小包を開封した。
中にはスマホ?
同封されていた手紙には同じ時に、同じ事を、同じ感動を分かち合いたいからと書かれていた。
使い方が全くわからず陸人の部屋を尋ねて、使い方を教えて貰う。
「『か』を押したまま……指を下に……それで『こ』。『ん』は……」
スマホを握りしめて悪戦苦闘する僕に陸人は丁寧に教えてくれた。
須和さんが既に設定を済ませてくれていたトークアプリで須和さんへのメッセージを送っている。
『こんにちは スマホありがとうございます』
それだけ何とか打ち込むとふ~と息を吐いた。
すぐにピコンとスマホが音を立てて震え、驚いて落としそうになった。
「ほら、返事が来たよ」
「もう!?早くない!?」
やっと文字を打ち終わったばかりなのに。
「こんなもんだって……何て返ってきた?」
陸人と一緒に画面を覗くと『ちゃんと届いたみたいで良かった』という文章の後に『やったー!!』とバンザイするイラストが送られてきた。
須和さんのイメージとは違う可愛いタッチの犬のイラスト。
「へぇ~このイラスト海里に似てるね……須和さん、絶対ニヤニヤしながらこのスタンプ買ったね。愛されてんね~」
そういう陸人がニヤニヤしながら僕を見上げてくる。
「……似てないし……」
「耳の先の白い部分の感じとか、ぼんやりした目とかそっくりじゃん」
似てるとは思わないけど……一度しか会ってないのに僕の毛の色とか覚えてくれてるんだと思うと嬉しくて顔が緩む。
返事を返そうとさっき習った事を思い出しながら必死に文字を打ち込んでいく。
「電話掛けないの?」
「声、聞いたら緊張して話せないと思う……から……待って、今話しかけないで……あ!!間違えて送信しちゃった……」
送信したメッセージの取り消しも出来ると言うので、取り消そうとしているうちに返事が返ってきてしまった。
「……早い」
「ほらほら、ダーリンが待ちこがれてるよ?早く打たないと……」
「ええっ!?待って……」
慌てて打って入力ミスを連発する。
「俺のアカウントも登録しといてやるからさ。練習用に送ってきていいよ」
陸人は慣れた手付きで操作すると『友達』の項目に須和さんと陸人の2人の名前が並んだ。
「ありがと、陸人」
「ここのアイコンで通話も出来るから、困った事があったら電話してきなよ?」
「うん……うん……」
こうして僕にまた一つ宝物ができた。
「……必死なとこ悪いんだけど……年末年始、今年はどうする?」
「どうするって……家に帰るけど……」
一瞬止まった手を必死に動かして動揺を隠す。
「連絡した?ちゃんと待っててくれるって?」
「……一応、何日から帰るかはこの前、番の仮契約交わした報告の電話した時に伝えた……」
それで待っていてくれるかはわからないけど……番の仮契約の話も『ふ~ん』の一言で済まされ、相手がどんな人なのかも、何も聞かれなかった。
「もう良い加減、庇うのよしなよ……海里が一言訴えれば罪に問えるんだよ?補助金を貰っていながら養育を放棄して「それでもっ!!……それでも、僕の親なんだ。家族なんだよ……」
大声を出し目を伏せた僕の頭に陸人の手が置かれる。
「海里……ごめん。もう言わないよ……でもよかったら今年もウチに来ない?友達の家に泊まるって連絡しちゃいなよ」
「ありがとう……でもやっぱり実家に帰る」
ちゃんと帰る日にちは伝えたし、仮契約とか話しておきたい事はいっぱいある。
「そっか……でも約束。何かあったらちゃんと連絡する事!!」
「うん……わかった」
家族を信じたい気持ちはもちろんだけど……本当に本当の気持ちは……いま陸人の家にお邪魔すると嫉妬してしまいそうだったからだ。
貴司さんと陸人の仲睦まじい姿を見たら……『事情があって会えない』と言う須和さんの言葉を素直に受け入れられなくなる。
会えなくても、大切な宝物を2つも作ってもらえて、メッセージのやり取りだって毎日してくれている。
それでも……貪欲に求めてしまう。
あの匂いを、温もりを……一度で良いから、陸人みたいに番に優しく尻尾を撫でて貰いたいと……。
愛する人に側に居てもらって、幸せそうな陸人へ対して醜い嫉妬の感情を抱いてしまいそうで怖かった。
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