ただ愛されたいと願う

藤雪たすく

文字の大きさ
上 下
8 / 19
愛されたいと願う

本音

しおりを挟む
高2の年末年始……高3の年末年始も秀哉さんの家で過ごした。

両親に秀哉さんの家で過ごす事を電話で伝えると『あらそう。良かった』の一言で終えられて、連絡先は伝えたけれど、秀哉さんの家にお礼の連絡を入れてくれたのかは分からない。

秀哉さんのご両親は特にその事に触れてきたりもせずに、僕を温かく迎えてくれたけれど、無礼が恥ずかしくて申し訳ない。

……秀哉さんからはまだ病気の話はされてない……むしろ悪化しているのか年々一緒に過ごす時間は短くなり、一緒にいても距離が遠い。
直接話せば良い事も、雪先生づてだったり、電話だったり……。

愛してくれているのは、伝わってくるけれど……もっと一緒にいたい。抱き締めて貰いたい。

欲求は年々高まって、消化できないまま喉につっかえている。

ーーーーーー

高校生活最後の年明け……寮に戻って陸人と部屋でお土産話をして過ごしてしていた……と言っても、僕に秀哉さんとのお土産話は無くて、主に陸人の話を聞いているだけだったけど……。

秀哉さんと同じ時間を過ごす事はほとんど無く、ご両親も仕事……家政婦の華絵さんが誘ってくれて近くの神社に初詣に行った。

陸人は貴司さんと旅行に行ってきたらしく楽しそうに旅先の思い出を話してくれる陸人の笑顔に胸がズキズキと痛む。

心が傷む……傷口から良くない物が噴き出すように黒い感情が心を染めていく……大好きな陸人なのに……こんな感情は良くない。

「もう少しで卒業だね……」

……卒業後はお互い別の道を歩く。

番契約をして、僕も陸人も番持ちになる。

番契約……僕は出来るのかな?

番契約は書面だけの仮契約とは違い、触れ合わなければならないのだけれど……顔も合わせて貰えないこの状況でどうやって番になれというんだろ?

僕は……秀哉さんの素顔を……牙をいまだに見た事が無い。

「このチョーカーもよくもってくれたよ。早く番になりたいって貴司がずっと噛んでくるからさ。もうボロボロ……海里は大事にされてて良いね」

僕の首輪に手を伸ばした陸人の手を払った。

求められボロボロになった陸人の首輪。
全く触れられずにおろしたての様な真新しさの僕の首輪。

どちらが大事にされてるかなんて、どちらが愛されているかなんて……一目瞭然じゃないか。

「大事になんて……されてないっ!!」

「……海里?どうした?急に……」

「3年間、秀哉さんの方から触ってもらった事なんて無い!!同じ家にいても顔を見せてくれない!!直接話してもらえない!!これのどこが大事にされてるの!?」

ずっと押さえ込んでいた気持ちが……遂に溢れた。

こんな事を陸人にぶつけるのはただの八つ当たりだと頭の中でわかっているのに一度決壊してしまったものをせき止めるのは難しく……駄目だという心の声を振り切って隠していたものが吐き出されていく。

「僕が欲しかった優しい家族も愛してくれるアルファもいて、ベータにだって苛められた事無いんでしょ!?どうして!?どうして同じオメガなのに僕ばっかりこんなに我慢しなきゃいけないんだよ!!」

恵まれた家に産まれた陸人は、小さな頃から番の約束を交わしていた貴司さんに常に守られていて、1人で周りの視線に怯えながら街を歩いた事も無いだろう。

家族に疎まれて、尻尾を踏まれる事も、ドアに挟まれる事も無かったはずだ。

「僕だって愛されたい……陸人ばっかズルいよ……僕だって家族に『おかえり』って迎えてもらいたい。秀哉さんと旅行に行きたい.手を繋いで、一緒に隣りを歩いて、抱きしめてもらいたい……」

「海里……」

伸ばされた陸人の手から逃げる様に距離を取った。

驚いた表情の陸人。

僕がずっとこんな卑屈な気持ちで陸人の側にいた事を知られてしまった……もう当然、元の関係には戻れない。

一時の感情で自分の居場所を自分で壊してしまった。こんなんだから……僕は誰にも愛されない。愛される資格なんて無いんだ。

「陸人は俺の欲しいもの全部持ってて、綺麗だし、明るい。こんな僕にも優しくて……羨ましくて妬ましくて……側にいると惨めになって嫌なのに……なのに……」

ずっと秘めていたものを吐き出してしまった後悔と大切なものを失う喪失感に襲われ、壁に凭れたままズルズルと体が崩れ落ちる。

泣いても泣いても涙が溢れ……初めて声を上げて泣いた。

お父さんに知らない場所に置いていかれた時も、お母さんに産まなければ良かったと何度言われても、妹に車のドアで尻尾を挟まれた時も……ずっと我慢出来ていたのに。

「海里……」

「陸人といると楽しい……でも辛くて……なのに陸人の話を聞いてたくて……嫌いなのに……陸人が好きだって離れられなくて……ごめん、ごめんなさい」

嗚咽まじりに支離滅裂な事を吐き出す僕に、部屋を出て行くかと思った陸人は抱きしめて背中を摩ってくれた。

陸人にしがみつくと人の温もりを感じて気持ちが休まった。

家族にも、秀哉さんにも貰えない温もりをくれる陸人との関係を、壊す様な事を言った僕を陸人は優しく撫で続けてくれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

処理中です...