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愛されたいと願う
愛してる
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少し濡れた体で抵抗があったけれど、後部座席に乗せて貰って……隣に座ってくれるのかと思ったけれど須和さんは助手席に座っている。
運転席には……須和さんのお父さん?にしては若すぎるのでお兄さんだろうか?
「ゴホッ……ゴホッ……」
「秀哉君……俺の鞄の中に小型の吸入器が入ってる。それを……」
「すみません……雪先生」
先生……咳……須和さんの会えない事情って……もしかして須和さん、風邪じゃなくてもっと長引く様な……何かの病気なのかな?
でもそれなら緒方さんが知っていてもおかしくはない。
「……えっと海里君だっけ?俺は秀哉君の専属の医師なんだけど、ちょっと今は秀哉君の調子が良くないから、一人で退屈させてごめんね」
専属のお医者さんがつくほど大きな病気?
「いえ、そんな時にすみません。あの、緒方さんの姿ももう見えないので降ろして頂いても……歩いて帰れる距離ですから」
「海里君……君の家庭の状況は俺も調べた……君に数時間前、実家はどうかとメッセージを送った時、君は部屋でのんびりしていると返事をくれたよね……ケホッ……君は俺に嘘をついたの?」
「……すみません」
また閉め出しをくらっていたなんて言えるわけない。
そんな、家族に見放されているオメガだと知られたら契約を破棄されてしまうかもと思うと怖かった。
「君があんな家族を庇おうとする意味がわからない……然るべき措置を取るべきだ……仮とはいえ君は俺の番だ。その番を理不尽な目に合わされて黙ってはいられ……「待って下さい!!僕が、僕が帰る日にちを間違えただけなんです!!だから……だからっ!!」
助手席のシートを掴んで身を乗り出すと須和さんの咳が激しくなった。
「はっ……はぁっ……わかった……わかったからちゃんと座って……危ない……はっ、はっ、はっ……」
「すみません……」
席に深く座り直し……吸入器を口にあてる須和さんを見守る。
幾分呼吸が整ってくると須和さんは後ろを振り返った。
「君の気持ちも考えずにごめん……でも仮の番でも、俺だってもう君の家族だ……来年からは実家ではなく俺の家に帰って来てくれ……嫌だと言うなら俺が君の実家へお邪魔する」
家族……須和さんと僕はもう家族なんだ。
キュッと胸が締め付けられ、胸元を掴んだ。
嬉しくて涙が溢れそうなのを瞬きを細かく繰り返して誤魔化す。
「是非……須和さんのおうちにお邪魔したいです」
やっと絞り出せた答えに須和さんは目だけで笑った。
ーーーーーー
ひ……広い。デカい。
「お帰りなさい、秀哉君」
出迎えられた女性に今度こそお母さんかお姉さんかと緊張して背筋を伸ばしたけれど、通いの家政婦さんだと紹介を受けた。
家政婦がいるお家。
お金持ちだ。
聞いてはいたけれど、目の当たりにした家庭の格差につい尻尾が伸びた。
「両親共に不規則な仕事だからね……そんな緊張するほど立派な家じゃないよ」
豪華な手摺の階段を登りながら部屋の説明を受けた。
「両親も夜には帰ってくる。二人ともベータだけど怖がらなくて良い……祖父母はアルファとオメガで理解はある……コホッ」
咳を繰り返しながら部屋を案内してくれて、ゆっくり休んでいてくれと言い残して須和さんは消えた……。
ゆっくりと言われても落ち着かずに部屋の中をうろうろ歩き回っているとスマホが鳴った。
須和さんからメッセージが届いている。
『感染するものでは無いけれど見苦しいだろうから……一人にしてごめんね』
僕の事を気遣って席を外してくれたんだ。
『見苦しくなんて無いです。僕の方こそ辛い時に上がり込んでごめんなさい』
二人でしばらく謝罪メッセージを送りあい……最後に一言。
『送ったチョーカーをしてくれてるの見れて嬉しかった。愛してる』
側にいてくれなくて寂しいと思ったけれど……送られた『愛してる』の文字一つで尻尾が千切れんばかりに暴れだす。
愛してる……愛してる……。
何度も何度も心の中で繰り返しながらスマホを抱き締めた。
ーーーーーー
夜、食事の時間も須和さんの姿は無くて雪先生が一緒に食事をしてくれた。
「ごめんね。君の卒業迄には秀哉君を治してみせるから……」
「いえ、須和さんは……そんなに悪いんですか?あの……命に関わるとか……」
カチャカチャとフォークとナイフの音が響く。
雪先生は音を立てずに食べているのに……陸人にお願いしてテーブルマナーも習わないと……。
「ん~……俺からは何とも言えないかな。アルファの沽券にも関わる事だし……」
「すみません。立ち入った事をお聞きしました……」
お医者さんがおいそれと治療の事について人に話したりはしないか。馬鹿な事を聞いてしまった。
「いやいや、番である海里君には知る権利があるよ?だけどそれを告げるのは俺じゃない……秀哉君の気持ちの整理がついたらきっと君にも打ち明けると思うから、辛いのは秀哉君も一緒なんだ……彼が強くなれるまで待ってあげてくれないかな?」
「須和さんも……僕に会いたいと思ってくれているんでしょうか……」
「当然。アルファの俺が君と二人で食事をしてるの想像して……今頃部屋で相当ピリピリしてると思うよ」
雪先生もアルファなのか……番持ちの様で牙が無いから気が付かなかった。雪先生にはアルファ独特の威圧感が無くて、言われないと分からなかった。
「部屋で……そうだ!!須和さんの食事は?」
須和さんより先に食事を取るなんて……思わず立ち上がってしまい、雪先生に手で座るように示される。
「部屋で食べてるよ。大丈夫、心配しなくても寂しさは感じてないと思うよ。大好きな君が同じ家にいるというだけで幸せいっぱいだよ。ずっとニヤニヤ嬉しそうにスマホを眺めてたから……すごいね。君のたった一言で……」
雪先生は僕の顔を見てニヤリと口の端を持ち上げた。
「僕の一言……?」
「嬉しそうに見せつけてきたよ……『僕も好きです』って」
「な、な……何で雪先生に見せてるんですか!!」
須和さんからの『愛してる』への愛してる返し……何で見せるの!?
恥ずかしさのあまり開いた口がガクガクと震える。
「そんなに毛を逆立て可愛いなぁ……良いねぇ若いって」
クスクス笑う雪先生の目の前で居心地悪く小さくなって食事を再開する。これ以上変な事を言われる前に食事を終えてしまおう。
「本当に……こんなに可愛いのにね……」
笑っていた雪先生の顔から表情が抜けてスッと目が細められた。
「……雪先生?」
「さ!!早く食べてお風呂に入っちゃおう。初めてのご挨拶でしょ?ご両親が帰ってくるの綺麗にして待ってようね」
笑顔に戻った雪先生から早く食べる様に促させれ慌てて残りの食事を口へ運んだ。
そうだ。当然ご両親に挨拶しないわけにはいかない。
いきなりそんな……心の準備が……どうしよう。こうなるってわかってたら陸人と相談して、挨拶も考えたのに……。
運転席には……須和さんのお父さん?にしては若すぎるのでお兄さんだろうか?
「ゴホッ……ゴホッ……」
「秀哉君……俺の鞄の中に小型の吸入器が入ってる。それを……」
「すみません……雪先生」
先生……咳……須和さんの会えない事情って……もしかして須和さん、風邪じゃなくてもっと長引く様な……何かの病気なのかな?
でもそれなら緒方さんが知っていてもおかしくはない。
「……えっと海里君だっけ?俺は秀哉君の専属の医師なんだけど、ちょっと今は秀哉君の調子が良くないから、一人で退屈させてごめんね」
専属のお医者さんがつくほど大きな病気?
「いえ、そんな時にすみません。あの、緒方さんの姿ももう見えないので降ろして頂いても……歩いて帰れる距離ですから」
「海里君……君の家庭の状況は俺も調べた……君に数時間前、実家はどうかとメッセージを送った時、君は部屋でのんびりしていると返事をくれたよね……ケホッ……君は俺に嘘をついたの?」
「……すみません」
また閉め出しをくらっていたなんて言えるわけない。
そんな、家族に見放されているオメガだと知られたら契約を破棄されてしまうかもと思うと怖かった。
「君があんな家族を庇おうとする意味がわからない……然るべき措置を取るべきだ……仮とはいえ君は俺の番だ。その番を理不尽な目に合わされて黙ってはいられ……「待って下さい!!僕が、僕が帰る日にちを間違えただけなんです!!だから……だからっ!!」
助手席のシートを掴んで身を乗り出すと須和さんの咳が激しくなった。
「はっ……はぁっ……わかった……わかったからちゃんと座って……危ない……はっ、はっ、はっ……」
「すみません……」
席に深く座り直し……吸入器を口にあてる須和さんを見守る。
幾分呼吸が整ってくると須和さんは後ろを振り返った。
「君の気持ちも考えずにごめん……でも仮の番でも、俺だってもう君の家族だ……来年からは実家ではなく俺の家に帰って来てくれ……嫌だと言うなら俺が君の実家へお邪魔する」
家族……須和さんと僕はもう家族なんだ。
キュッと胸が締め付けられ、胸元を掴んだ。
嬉しくて涙が溢れそうなのを瞬きを細かく繰り返して誤魔化す。
「是非……須和さんのおうちにお邪魔したいです」
やっと絞り出せた答えに須和さんは目だけで笑った。
ーーーーーー
ひ……広い。デカい。
「お帰りなさい、秀哉君」
出迎えられた女性に今度こそお母さんかお姉さんかと緊張して背筋を伸ばしたけれど、通いの家政婦さんだと紹介を受けた。
家政婦がいるお家。
お金持ちだ。
聞いてはいたけれど、目の当たりにした家庭の格差につい尻尾が伸びた。
「両親共に不規則な仕事だからね……そんな緊張するほど立派な家じゃないよ」
豪華な手摺の階段を登りながら部屋の説明を受けた。
「両親も夜には帰ってくる。二人ともベータだけど怖がらなくて良い……祖父母はアルファとオメガで理解はある……コホッ」
咳を繰り返しながら部屋を案内してくれて、ゆっくり休んでいてくれと言い残して須和さんは消えた……。
ゆっくりと言われても落ち着かずに部屋の中をうろうろ歩き回っているとスマホが鳴った。
須和さんからメッセージが届いている。
『感染するものでは無いけれど見苦しいだろうから……一人にしてごめんね』
僕の事を気遣って席を外してくれたんだ。
『見苦しくなんて無いです。僕の方こそ辛い時に上がり込んでごめんなさい』
二人でしばらく謝罪メッセージを送りあい……最後に一言。
『送ったチョーカーをしてくれてるの見れて嬉しかった。愛してる』
側にいてくれなくて寂しいと思ったけれど……送られた『愛してる』の文字一つで尻尾が千切れんばかりに暴れだす。
愛してる……愛してる……。
何度も何度も心の中で繰り返しながらスマホを抱き締めた。
ーーーーーー
夜、食事の時間も須和さんの姿は無くて雪先生が一緒に食事をしてくれた。
「ごめんね。君の卒業迄には秀哉君を治してみせるから……」
「いえ、須和さんは……そんなに悪いんですか?あの……命に関わるとか……」
カチャカチャとフォークとナイフの音が響く。
雪先生は音を立てずに食べているのに……陸人にお願いしてテーブルマナーも習わないと……。
「ん~……俺からは何とも言えないかな。アルファの沽券にも関わる事だし……」
「すみません。立ち入った事をお聞きしました……」
お医者さんがおいそれと治療の事について人に話したりはしないか。馬鹿な事を聞いてしまった。
「いやいや、番である海里君には知る権利があるよ?だけどそれを告げるのは俺じゃない……秀哉君の気持ちの整理がついたらきっと君にも打ち明けると思うから、辛いのは秀哉君も一緒なんだ……彼が強くなれるまで待ってあげてくれないかな?」
「須和さんも……僕に会いたいと思ってくれているんでしょうか……」
「当然。アルファの俺が君と二人で食事をしてるの想像して……今頃部屋で相当ピリピリしてると思うよ」
雪先生もアルファなのか……番持ちの様で牙が無いから気が付かなかった。雪先生にはアルファ独特の威圧感が無くて、言われないと分からなかった。
「部屋で……そうだ!!須和さんの食事は?」
須和さんより先に食事を取るなんて……思わず立ち上がってしまい、雪先生に手で座るように示される。
「部屋で食べてるよ。大丈夫、心配しなくても寂しさは感じてないと思うよ。大好きな君が同じ家にいるというだけで幸せいっぱいだよ。ずっとニヤニヤ嬉しそうにスマホを眺めてたから……すごいね。君のたった一言で……」
雪先生は僕の顔を見てニヤリと口の端を持ち上げた。
「僕の一言……?」
「嬉しそうに見せつけてきたよ……『僕も好きです』って」
「な、な……何で雪先生に見せてるんですか!!」
須和さんからの『愛してる』への愛してる返し……何で見せるの!?
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クスクス笑う雪先生の目の前で居心地悪く小さくなって食事を再開する。これ以上変な事を言われる前に食事を終えてしまおう。
「本当に……こんなに可愛いのにね……」
笑っていた雪先生の顔から表情が抜けてスッと目が細められた。
「……雪先生?」
「さ!!早く食べてお風呂に入っちゃおう。初めてのご挨拶でしょ?ご両親が帰ってくるの綺麗にして待ってようね」
笑顔に戻った雪先生から早く食べる様に促させれ慌てて残りの食事を口へ運んだ。
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