ただ愛されたいと願う

藤雪たすく

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愛されたいと願う

いつか出会う運命

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「海里!!今日誕生日なんだろ?いよいよだな!!」

背後から駆け寄ってきた陸人に背中を叩かれ一歩二歩よろけた。

「何だよ?いつにも増して覇気がないなぁ」

「はぁ……当然でしょ。次回の『縁の顔合わせ会』から参加しないといけなくなるんだし……」

『縁の顔合わせ会』

ようはアルファとオメガのお見合いなんだけど……僕たちオメガは16歳の誕生日を迎えると一ヶ月に一度開かれる、その会に課外授業という名目で参加する事が義務づけられている。

「ビビるなって!!大丈夫だよ。アルファはみんな優しいってば」

アルファの父とオメガの母の間に産まれた陸人はいつもそう言うけれど、ベータの両親とベータの妹に囲まれて育った僕は……街角でなら見かけた事はあるけれど、接点がなかった為から余計にアルファが怖い。

妹は『縁の顔合わせ会』を『譲渡会』だと言って『良いご主人様に飼ってもらえると良いわね~』と笑った。

妹は……僕がオメガであるが故に、妹も学校で揶揄われたりしていたらしく、きっと僕が憎いほど嫌いなんだと思う。

母さんも父さん方の祖父母に『オメガを生むなんて不出来な嫁だ』と冷たい目を向けられていたのも知ってる。

父さんがことあるごとに『男のくせに嫁になるなんて』と蔑んだ目で僕を見ている事も知ってる。

……早く番のアルファを見つけて家を出て行けと思っている事も……。

「耳の尻尾も垂れてるぞ?好みのアルファに見初めてもらうには笑顔だってば!!」

陸人に尻尾を掴まれ持ち上げられた。

耳と尻尾……これこそがオメガが劣等だという証。

進化する以前……遠い昔は皆、獣だった。

オメガは体格も小さく、力も弱い……だから危険から素早く逃げる為にも獣の様な耳が必要だった。

尻尾は……今はオメガの人権も守られ、教育を受けさせて貰えるけれど昔はまともに教育を受けさせて貰えず、文字も言葉も不自由だったため尻尾でコミュニケーションを取っていた名残だとか……。

父さんも母さんも……妹すら僕の耳と尻尾を見る目は冷たい。

それでも……オメガが産まれた家には『オメガ支援会』から補助金が出るから、それが無ければ捨てていたと言われても、それでも僕を育ててくれているのは紛れもなく両親で……早くアルファを見つけて家を出る事こそが最大の僕に出来る親孝行だ。


「だから暗くなるなってば!!」

陸人は僕の両頬を引っ張って持ち上げた。

「大丈夫……番べきアルファとオメガは血で心で惹かれあう。海里にぴったりな相手がきっと見つかるよ」

そう言って笑う陸人……。

陸人は父親がアルファな事もあり、小さい頃からアルファの人達と交流があって『貴司さん』というアルファの人と、すでに約束を交わしているので『縁の顔合わせ会』にも参加しない。

せめて陸人が一緒にいてくれたら心強いのに……。

「次回の『縁の顔合わせ会』に貴司の知り合いがいるか聞いてみるよ、それとなくサポートして貰える様にお願いしとくからさ」

「うん……ありがとう」

曖昧に笑って濁したけれど、その知り合いというアルファすら怖いんだけど……。

どうしてオメガは必ずアルファと番にならないといけないんだろう?

耳と尻尾が自然と垂れるのを隠す程の演技力は持ち合わせていなかった。

ーーーーーー

『縁の顔合わせ会』当日……。

何度目かで慣れている生徒達は気の合う相手を探す為に食事をつまみつつ和やかに会話を楽しんでいる。

僕はというと……ガチガチに緊張して、居心地悪く端っこのテーブルを陣取りテーブルの上のカットフルーツを睨み続けている。

初めて至近距離でこんなに沢山のアルファを見たけれど……みんな大きい。
本当に同年代かと思うほど遥か上に顔がある。

あんな上から見下ろされて、顔など上げられるわけも無く、何度か声を掛けられたが持ち上げきれない尻尾と耳に今は遠巻きにされている。ひたすらに心の中で早く終われと祈り続けた。

「海里君?」

「ひっ!!はっ……はいっ!!」

恐る恐る振り返ると……やはり背の高いアルファがこちらを見下ろしていた。

笑って……笑って……陸人の言葉を思い出しながら無理やり笑顔を作る。

「ほほ……本日は……お日柄も良く……」

「あはは、外はどしゃ降りだけどね。初めまして、緒方おがた 利也としやです。貴司……陸人君から聞いていた通りだね。『耳と尻尾垂れ下げて震えてると思う』って……すぐにわかったよ」

この人が陸人の言っていた貴司さんの友人……優しそうに笑う姿に体の強張りは少し抜けた。

「あ……清末きよすえ 海里かいりです……」

「よろしくね……アルファって……そんなに怖いかな?」

肩の力は抜けても耳と尻尾が言う事を聞かず、股の間に尻尾は入ってしまっている。

「すみませんっ!!」

手で太ももに絡まる尻尾を元に戻そうとしてもまたすぐに戻ってしまう。

「そんなに可愛い反応されると……うん、陸人君が心配するのもよくわかる。今日は俺の惹かれ会う相手には出会えなかったからもう暇なんだよね……会が終わるまでご一緒させていただいても?」

「お……お願いします!!」

にこやかに笑う緒方さんの口元に光る牙に思わずビクッと肩が跳ね上がった。

アルファの特徴はスマートな見た目からは想像出来ない程の筋力と……牙。オメガと違って戦いに特化した特徴を残している。

「流石に先生達もいるこの場で滅多な事はしないよ?」

「すみません……」

更に垂れた耳を見て緒方さんは困った様に笑った。

「貴司とは中学からの付き合いなんだけど、その時にはもう既に陸人君という相手が決まっていて、まだまだ番として契約はしていなくても、二人の仲は本当に見ていて羨ましかったよ」

「そうなんですね」

陸人という共通の知人がいたことと、緒方さんの穏やかな話し方のおかげで緊張していた心も解れて、尻尾も力が抜けてきた。

良かった。
何とか会を乗りきれそう。

ふと……なんとなく視線を感じて周囲を見回すと、人だかりから外れた壁際に一人の……おそらくアルファの男性が立っていた。
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