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諦める勇気

心の味

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懐かしい匂いにゆっくりと目を開けるとキッチンに立つ後ろ姿が目に入った。

味噌汁の匂いだ……。
少し……寂しさが胸を掠めて、ベッドを降りて料理をする背中に抱きついた。

「おはよ。もうすぐ魚も焼けるから待っててね」
「……おはよう。一緒に起こしてくれたら良いのに」
背中に額を擦り付けてから体を離した。

「気持ち良さそうに寝てたから。キッチンが一体化してミャオちゃん起こさなくても料理出来るようになったから良かった」
味噌汁、卵焼き……もう手伝う事は無さそうだったので顔を洗いに洗面所へ向かった。

久しぶりに鏡で見る自分の顔。
笑顔を作って見たけどどこか引きつっている。

「はぁ……もっと上手に笑えるようにならないかな……」
もっと綺麗に笑顔を作れないものか。
戦闘知識もない、料理も出来ない……せめて笑顔ぐらいはと思うけど、綺麗に笑おうと思えば思う程顔は引きつる。

「どうしたの?」
慌てて顔を上げると勝利君が顔を覗かせていた。
「なんでもない!!すぐ行く」

どこから見られてたんだろう、一人で鏡に向かって笑顔の練習してるの見られるとか恥ずかしい!!
タオルで顔を拭いて洗面所から飛び出そうとして勝利君に腕を掴まれた。

またからかわれるのかと思ったけど、勝利君の顔は真面目な……ちょっと悲しそうにも見える顔。
「勝利君?」

「……無理して……笑ってるの?」
掴まれた腕がギリッと締め付けられる。
勝利君、怒ってる?

「無理して笑ってる訳じゃないけど……もうちょっと綺麗な笑顔で笑えないもんかと思って……」
「綺麗に?何で?ミャオちゃんの笑顔はいつも綺麗だよ?」
何でと聞かれて言葉に詰まる。

出来ればあまり勝利君には言いたくないけど、言わないと手を離してくれそうにない。

「……じゃないから……」
「え?」
顔を覗き込まれて、 何となく視線を逸らす。
「俺は『ミャオちゃん』みたいに完璧じゃないから……」
勝利君の表情がぽかんとしたものに変わる。
笑いたければ笑え。
昨日馬鹿にしてた……勝利君と同じ事を言ってると自覚はあるんだ。

「宮尾も……『ミャオちゃん』に嫉妬?」
「別に嫉妬じゃないし……本家に比べて、何にも出来なさすぎて、ちょっと申し訳ないなって思っただけだし」

『ミャオちゃん』は俺を元に作ったらしいが、この世界は『ミャオちゃん』の世界。
この世界で『ミャオちゃん』は……沢山の人に愛される才能を持っていて……完璧なんだと思う。
どちらが本家かはわからないけど、この感情は嫉妬というより劣等感に近いかもしれない。

「申し訳ないなんて考えなくていいのに……俺にとってミャオちゃんはミャオちゃんだし、ミャオちゃんもミャオちゃんなんだから!!ミャオちゃんが俺の想像と違ってもミャオちゃんの一番根っこの部分は俺が好きになったミャオちゃんのままだ!!」

ミャオちゃんがミャオちゃんで……?
よくわからなくなってきたところで、すでに機嫌の良くなった勝利君に腕を引かれて食卓へと向かった。

要は何も出来なくても……大丈夫だと言ってくれているのかな?
勝利君がそれで良くても、自分自身の気持ちの問題ではあるんだけど……ね。

「俺は……今の宮尾の方が前よりずっと好きだよ」
椅子に座らされて肩に手を置かれる。
見上げると勝利君は微笑みながら額にキスを落としてくれた。

「前の宮尾はどこか遠慮がちだったけど、今の方が宮尾を近く感じる」

そんな嬉しい言葉を一方的に残して勝利君はご飯をよそいにキッチンへ向かう。

「俺も……今の方が……」
キスされた額に手を当てると、じんわりと温かい気持ちが広がった。

「何?何か言った?」
盆に乗ったご飯を運んで来た勝利君が首をかしげる姿に擽ったくなる。

「勝利君の事、好き過ぎてヤバいなって反省してた」

「え!?好き過ぎって!?嬉しい!!けど反省って何!?」
「わぁ!!美味しそう!!いただきま~す」

運ばれてきた豪華な朝食にお箸を取って手を伸ばした。
母さんの味噌汁とは違う味だけど……これからこの味が俺の馴染みの味になるんだって体に行き渡らせた。

「勝利君食べないの?美味しいよ?」

まだ何か言いたそうだった勝利君だけど、真っ赤な顔をして味噌汁をかきこんだ。

ーーーーーー

「ミャオちゃん、おかわりは?」

「ありがと……でももうお腹いっぱい」
わんこ蕎麦かと思うほど味噌汁が空になる度におかわりを聞かれて3杯目、もうお腹がタプタプしている。
勝利君が嬉しそうなのが嬉しいが、流石にもう無理だ。

「ふう……ご馳走様でした。勝利君は料理好きなの?」
アイテムの中にはそのまま食べられるパンもあるから、俺だったら料理できたとしてもそれで済ませちゃいそう。
朝早くから起きて朝食を作ろうとは思わないかも。

「まぁ……親がいない時……昔からやってたからね……」
「そうなんだぁ。家の手伝いとか……偉いんだね」
親が法事とかで留守にしたこともあったけど、俺なんてカップ麺と菓子パンで過ごした。

「……ミャオちゃんが思ってる様な綺麗な理由じゃないけどね」
曖昧に笑って食器を片付けはじめたので、俺も慌てて食器を重ねる。
それ以上は……踏み込むなオーラが漂っていて、話は続けられなかった。

残った味噌汁とご飯は従魔達にねこまんまにして出してやると美味しそうに食べてくれて、その姿にそうだろう、美味しいだろうと俺が誇らしくなる。


従魔達が食べている間に身支度を済ませ、誰に言うでもない『いってきます』を呟きながら扉を開けて、野営を終わらせた。
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