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空いた従者枠

君の好きな人

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遠巻きに見ていた人達も意識してこちらを見ないようにしているのがわかる。

「俺の見ている前でミャオちゃんに近付く勇気を買って静観してけどさ……触るのは駄目だよね?大丈夫?気持ち悪くない?」

「大丈夫……」

振り返った勝利君はいつもの笑顔だったけど、伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。

「ミャオちゃんに触れって事はミャオちゃんに全くその気が無いって事だからね……嫌な奴に触られたら嫌だよね。あ~失敗したぁ。こういう時こそ防衛機能が発動すべきだったよね。進行に関係ないモブがミャオちゃんに触れるなんてとこまで考えて無かったからなぁ……」

不機嫌そうに呟いた勝利君は俺の手を握るとまた歩きだした。

「まあいまさらどうにも出来ないし、離れないでいようね」

俺の手を持ち上げ、キスをした俺の指と勝利君の唇との間に火花が散った。

「愛されてる証と思えばこの電流も愛しいね」
「……ドMだね」
「ミャオちゃんったら素直じゃないなぁ『勝利君に触られて嬉しい!』て抱きついてきてくれていいんだよ?」
ははっと笑った勝利君。

「どうせ素直じゃ無いもん……」
「そんなミャオちゃんも可愛いけどね。こんな可愛い子がコントローラーとか……モブの分際で手を出したくなるのも当然か!俺もしっかり目を光らせておかないと!!」

「可愛いなんて目がおかしいのは勝利君ぐらいだよ」

勝利君は口に出さなかったけど……『無理やりレイプまがいに触れば嫌悪感でギリギリまで感じないかも』前に勝利君が言った言葉だ。
『泣き落としで迫ってくるかもね』どんな手を使ってでも従者契約を結びたいという奴がいたら……?
勝利君がいないところで接続しなければ殺すと脅されたら?

想像が怖くなって勝利君の手を握りしめた。

勝利君がグラキエスの洞窟やフードファイターの森に寄り道してなかなか街へ行こうとしなかったのは……街の方が危険だとわかっていたから?


「……あ!ミャオちゃん見て見て!!」
突然、俺の手を引いて駆け出した勝利君に案内された場所は……特に変わったところは何も無い石の橋。

「ここが何?」

「街での楽しみ方の一つだよ何があるか探してみて?」

何があるのかと橋の欄干から身を乗り出したり屈んだりして辺りを探して見たけど特に変わったところは無い。

「ふふ~ん。わかんない?ここだよ、ここ。この橋の手摺のとこ見て?石の模様が何かに見えない?」

指差された部分をよく見てみると小さく並ぶ丸がなんとなく、これは……。

「う~ん……肉球?」

「ピンポーン!!その肉球マークをコントローラーで触れてみてよ」

言われた様にコントローラーを取り出し肉球の様な石の模様に触れてみると……。

『にゃ~ん』

猫の様な鳴き声と共に肉球のマークが飛び出して消えた。

「……で?何なのこれ……」

鳴き声の主は恐らくチュートリアル。
人に似せた声で何をやらせてるんだ。

「これはご褒美肉球で、10個集めるごとにお宝が貰えるんだ!!宝探しだよ!!」

「お宝って何?」

「ふふふ……それは集めてからのお楽しみだなぁ」

……きっとろくでもないな。

それよりも今はなるべく人のいない場所に行きたい。
街を歩いているだけでも常に視線に晒されてる気がする。
早く街から離れてベッドで横になりたかった。

しかし勝利君は俄然やる気で、あっちだこっちだと街中を走り回される。

家と道路の間の隅の方、生乾きのコンクリートの上を猫が歩いちゃいましたみたいな凹みだったり、街灯の裏側の錆だったり……これ、勝利君がいないと絶対見つけられないやつじゃん!!

お宝にも期待はできないけど……勝利君に手を引かれて街をグルグルしているこの感じは……何だか……。

「ミャオちゃん、楽しいね……何だかあの時みたいじゃない?」

俺の手を引きながら、こちらを見ていた勝利君が微笑んで、心臓を撃ち抜かれた様な衝撃を受けた。

一緒の事を考えてた。
1年の時に一緒に回ったスタンプラリー。
一緒にクイズを解きながらヒントに書かれた場所を探して走り回ったあの日の記憶。

それを楽しいと言われて……心がぽっと温まる。

「1年生の時……みたいだね」
「ミャオちゃんも覚えててくれた!?嬉しいなぁ!!あの時、宮尾に一目惚れしてさ……あの時の宮尾の可愛さときたら……くぅ!思い出しても萌え死にそう!!」

死なれるのは困るけど、さっきまで沈んでた気持ちがふわふわと軽くなった。

「勝利君、ありがと……すごく……楽しい」

「楽しんでくれたなら光栄です。ほら!!10個目だよ!!早く早く」

示された石畳の模様に触れると『にゃふ~ん』と今までとは違う声がした……これさえ無ければ良い人のままで終わるのに……。

飛び出した肉球が空へ飛び上がり……空から変わりに紙が1枚降ってきた。
ひらりひらりと舞うそれは、俺のところへ来る前に勝利君の手に収まった。

「おおっ!これは………可愛い~」

「何?何が書いてあるの?」

気になる!!背伸びをして覗きこもうとしても勝利君はかわして見せてくれない。

「ミャオちゃんのお宝写真!!マジか!!こんな……可愛すぎる!!」

「お宝写真!?ちょっと!!何が写ってるのか見せてよ!!」
お宝写真なんて撮られた記憶は無いけど、この世界なら何が起きても不思議じゃない。
必死に写真を奪おうとしても背丈が違うんだ、簡単には奪えずからかう様に弄ばれる。

「くっ!!えいっ!!」
ジャンプしてなんとか奪った写真を恐る恐る確認した。


「え……これ……」
どんな格好をさせられているのかと気が気でなかったけど、そこに写っていたのは見覚えのあるものだった。

「俺の七五三の時の写真?なんでここに……」
羽織袴で不安そうに立つ姿は何度か親に見せて貰った記憶がある。

「やっぱ本物!?俺の作ったゲームじゃ文章だけだったけど、そこはちゃんと本物にしてくれたんだ~!!本当にお宝だね!!」

俺から写真を奪うと勝利君は顔を綻ばせて眺めている。

「そんなのがお宝?」

「そんなのじゃないよ?俺の知らない宮尾を知ることが出来るなんて最高のお宝写真じゃない?」

この人は……どれだけ俺を好きでいてくれるんだろう。

「これからもっともっと俺の知らない宮尾を教えてね」

泣き出しそうな俺の手を引いて勝利君は笑う。

「今日はもう暗くなるし街の外へ行って野営しよっか?」
「うん……」
早く二人きりになりたい。
先ほどまで居心地の悪かった人の目も気にならないぐらい、勝利君で心が溢れてる。

「勝利君、俺も君のお宝写真がみたいんだけど」

「え?俺?俺のは……見ない方が良いかもなぁ……」
珍しく目を泳がせる勝利君。

「どうして?見たいなぁ~勝利君ばっか俺の子供の頃の写真を見るとか……ズルくない?」

勝利君が動揺する程、勝利君の子供時代とはどんなのだったんだろう。
どんな写真なのか想像は出来ないけど、どんな君でも好きだと思える気がする。

いろいろ嫌な現況も思い知らされたけど……最後にはこうして勝利君が笑顔にしてくれる。

「勝利君……」
「な……何?いったぁっ!!」

背伸びをして勝利君の頬に唇を当てると、勝利君の体が弾かれて傾いた。

愛してるの証だな。

頬を擦る勝利君と手を繋ぎ、従魔達と並んで街の外へ向かう足取りは軽かった。
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