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始まりの世界

第八話

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18時……逢魔時の報せと共に、ピシピシという音が響きパァァンと限界を告げるように結界が破られた。

気付くと吸血鬼の気配に囲まれている。
急いで服を整え藤川を庇う様に身構えた。

1人、2人、3人………6人か。

もう少し好きな人と体を重ねた余韻に浸らせてくれても良いのに……。
藤川に精気を吸いとられた事で体が重いが、藤川の前で格好をつけたい一心で立ち上がった。

大剣は無理か……。

剣を創り出そうとしたが、力が足りず精一杯の短刀を出現させて構えると、真っ白いロングローブに目深にフードをかぶった奴が1人飛び込んで来た。打ち込まれた剣を短剣で受け止めたが、流石に短剣では厳しいかつばぜりあいも押され気味に苦戦する。

「あっ……待って!!」

藤川の声に余裕はなく視線だけを向けると同じ様な格好の奴らが藤川にローブをかぶせ抱き上げている。

「千鳥君!!大丈夫だから……心配しないで」

藤川の声だけ残して……助けに入る間も無く飛び去ってしまった。

「待てっ!!藤川!!」

心配しないでって、言われて心配にならない状況じゃないだろう。
渾身の力を込めて相手の剣を弾き、横なぎに振った短剣はギリギリ躱されたがフードが外れ相手の顔が露わになった。

「……チャラ男」

ヤベッ!!と慌ててフードをかぶり直したが確かに片瀬だった……。

「チャラ男……どう言う……ぐっ!!」

後ろから雷撃を受け片膝を突いた隙に逃げられる。
すれ違い様にボソリと「樹ちゃんの事は心配するな……悪い様にはならない」と囁かれた。

急いで屋上へ飛び上がり気配を追うが、もう周辺にはいないようだ。

「……藤川」

何故、藤川が連れ去られたのか。
何故、片瀬が生きているのか。
誰が、何のために核を奪ったのか。

わからない事だらけだと……沈む夕陽を睨みながら気配探知を続けていると、大きな気配が近づいてくる……。

ヤバい……逃げ場所を探している間に捕まった。

「おニぃサん、お元気ィ~?」

後ろからガバリと抱きつかれ、身動きが取れない。
ヤツの顔が俺の首に埋められ……噛まれる……!

ナハトの脇腹に手をあて短剣を出現させようとして、すんでのところでナハトの体が俺から離れた。

「油断モ隙モない、おにぃさンだナぁ。心配しなくテモ、おにぃサン噛まないよォ?甘い匂いガしたかラ嗅いでタダけぇ~」

ケラケラと笑って俺にすり寄ってくる。
藤川もそんなことを言っていたな。

……何だ?モテ期到来か?吸血鬼限定で……。

服装のせいで幼く見えるが、こうやって触れられると背格好は藤川と同じくらいだった。

「オニィさんの匂い…甘くテ痺れソウ……」

俺の首に猫の様に思い切り顔を擦り付けてくる。

発するオーラは凶悪なのに甘えてくる仕草が先程の藤川とダブってドキリとした。
とりあえず敵意はなさそうだ……取られるもんも、もう無いしな……。

「離れろ、俺はもう核を持ってないんだ。用はないだろう」

頭を押しどけると「いジわるゥ~」と言いながら離れていった。

「核どうしタのぉ?オニィさんが食べちャッたのォ~?」

小首をかしげて聞いてくる。

「誰が食うか!!……とられたんだよ……お前がとったんじゃねぇのか?」

疑いの目を向けると頬を膨らませて睨んできた。

「オにぃさンが駄目って言ウカらアレカら食べテないしィ~お腹空キ空きなのよゥ~」

お腹を押さえてしょぼんと肩を落とす。

「おニィさん見ツけたカラぁ、また昨日ノ甘いの貰オウと思って来テミたのよォ~甘いノちょ~ダイ」

あ~んと口を開けて顔を近づけて来る。
いちいち藤川とダブる。

「悪いな、今日は持ってないんだ。少しやるからあっち行ってろ、俺は忙しいんだ」

そう言って腕を差し出した。

「ほエ?デモ人の血ヲ吸うと狩らレルんでしョ?」

「ちげぇよ……人の血を吸って、吸い尽くして殺めた奴が狩られるんだ。ちゃんと自制出来る奴までは狩の対象にならねぇよ。お前は平気だろ?」

人の血を吸うことは、吸血鬼に取って本能に焼き付いている。
空腹を満たすだけなら、人間と同じ食事で大丈夫。
さらに力を欲するなら、性行為で精気を吸えば良い。

血を吸うのは、心を満たすため。


「そォ~ナのぉ?我慢してテ損したヨォ~そんナ事、教えてくレナかったノにィ」

「誰に何を吹き込まれたんだよ」

中途半端な知識でこんな凶悪な奴をけしかけないで欲しい。


「ンん~?優しイオにぃさンダよぉ~いツモ会ッたら精液くれンノぉ~」

舌で唇をペロリと舐める姿がイヤらしい。

「……何やってんだよ……そんな話を恥ずかしげもなく誇るな」

吸血鬼に人間の倫理観を押し付けるつもりはないが……乱れてんなぁ……。

「おニィさんノ精液でも良いヨォ?気持ち良クさせテあげルよぉ?おにぃサン、昨日ヨリ良い匂いがスル。美味しそウ」

スルリと俺の体に脚を回して、首に腕を回し、駅弁スタイルで俺の股間にお尻を擦り付けてくる。

昨日までの俺なら、たまらずおっ立ててたところだろうが、好きな子と愛し合い、童貞を卒業したという余裕がある。卒業した直後にその子を目の前で連れ去られてしまったが………。

「好きな子がいるんでお断りします。ほら……」

無理矢理、ナハトの口に腕を押し付けた。
腕を刺される痛みが走り、ドクドクとその箇所に血が集まる感覚がする。

……血を吸われた事は初めてだが……なんというか……ヤバい。凄い快感が襲ってくる。直接脳に刺激を与えられるような、身体中が熱くて………興奮する。

「アはッ、おニぃさんノ血、ヤっぱリ美味しィ……クセになりソォ………」

腕から離れたナハトの口からは俺の血が垂れていて、それを手で掬って舐めている。蠱惑的な紅い瞳に誘われそうになる……ナハトが腕の傷口を舐めると傷が消えていく……。

「……んっ…………」

ぞくりとしたものに体が震えた。

「その気ニナったァ?吸血にハ催淫の効果があルカらねぇ~もっトぉ楽シもうよォ、おにぃサン」

―――――紅い瞳に絡め捕られた。
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