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聖女の役割

そして異世界

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目が覚めると、そこはあの真っ白な部屋ではなく、シンプルな飾りっ気のない部屋のベッドの中だった。

窓からは明るい光が差し込んでいる。

……やっぱり夢じゃないみたいだ。

見た事の無い部屋。
起きたけれどどうしていいのかわからずキョロキョロ部屋の中を見回すけれど、俺のこれからを指し示す様な物は何も無かった。

そっとドアを開けて外の様子を伺う……廊下にも誰の気配も無い。

右か左か……右には幾つかのドア。左は階段。

取り敢えず階段へ向かって歩いた。
ギシギシと音の鳴る階段をなるべく音を立てないようにゆっくり降りて行くとホールに出た。

正面のドアは……雰囲気から玄関。
後は……また同じ様なドアが並んでいる。

軽くドアにトラウマを抱いているのでどうしたものかと悩んでいるとそのうちの……1番近くのドアが開かれた。

「御園君!!目が覚めたのか。ちょうど朝食の用意が出来たところだ。呼びに行こうと思っていたんだよ」

俺の手を引いて室内に招くその手は、もう黒くは無かった。

治ったのか……良かった。

室内は温かい空気と美味しそうな匂いに包まれていて、テーブルにはスープとパンっぽい物とよくわからない白い固まりが並んでいた。

椅子に座ったモルテさんと思わしき人物が手を振っている。

「よく眠れた?ご飯作って貰おうと起こそうとしたのにライが寝かせてやれって煩くてさ~ずっと待ってたんだよ?」

「すみません……明日から早く起きます」

とりあえず、ご飯を作るのが俺の仕事の一つだとわかった。

「謝らなくて良いんだよ……モルテ、勝手な事言ってないでお前は飯を食ってろ」

ライさんはモルテさんの頭を小突いた。

「うっわ、あからさまな差別!!僕はカステラや団子を作って貰うために、交渉を手伝ったんだからね、頑張ったご褒美も無しかよ~」

「ごめんなさい……作れません」

カステラも団子も買ってきた物で……ただの男子高校生だった俺が作り方なんて知っている訳がない。

知っていたとしてもこの世界で同じ材料があるとも限らない。

「え……マジで?作れないの?カステラ……ああっ!!無駄じゃん!!僕の努力無駄じゃん!!料理も出来ない、聖女としても目覚めていない!!さっさと扉に食わせた方が良かったんじゃ~ん!!」

……状況はわからないけど……とにかく俺が役立たずだと言っているのだろうという事はわかる。

「モルテ……お前は黙れ……御園君、あいつの事は気にしなくていいからね。ほら、ご飯を食べよう?食べればきっと元気が出てくるから……」

「はい」

ライさんに椅子を引かれ着席した。

「……いただきます」

買ってきた物を温めただけで申し訳無いけどと前置きをして、食べ始めた二人を見て同じ様に食事に手をつける。

噛みごたえのあるパンはスープで流し込み……謎の白い物体に手をつける。
外はガチガチ、中はねっちりとしていて……味は無味、食べても正体不明だった。

ーーーーーー

ライさんとキッチンに並んでお皿を洗う。
台所の使い方ぐらいは覚えないと……カステラなんかは無理でもスープぐらいは作れる様にならなきゃ。

「御園君……ごめんね」

何がだろうとお皿を拭く手を止めて見上げると赤い瞳がこちらを見下ろしていた。

「御園君が作ってくれたお握りを再現しようと思って、似た物で試して見たんだけど……全然違った」

あれお握りだったのか……全然わからなかった。て、パンとお握りって炭水化物祭りだな。

「いえ……ご馳走さまでした」

「ご馳走さま?」

「美味しい物をありがとうって事です」

「そ……そっか……どういたしまして」

照れた様に顔を綻ばしながら、カチャカチャと乱暴にお皿を洗うライさん。
戦闘とモルテさんが言ってたから、戦う事が本職であまり家事はやり慣れてなさそう。

聖女の役割が何なのか、まだ教えて貰ってないけど……ちゃんと役に立てる様に早く慣れないと……ライさんに食器の場所を聞きながら片付けを終えて食事を取った部屋へ戻ると長椅子の上にモルテさんが寝転んでいた。

「ああ……やっと終わった?」

「終わった?じゃねぇよ、お前も手伝え

起き上がったモルテさんはライさんの言葉には答えず、指を動かし俺を呼んだ。

「一晩休んで落ち着いたろ?この世界の事を説明してやるから、そこに座んなよ」

示された椅子へ腰を下ろすと隣にライさんも腰を下ろす。

「さ、もう解禁だし。ざっくり説明するから一度で覚えてね~詳しく知りたい事は……自分で調べな」

そう言ってモルテさんが机に広げたのは地図みたいな紙。

「まずこの世界には4つの国があって、ここはユーク国ね。それぞれの国には一人づつフュラ・ユイヴィールと呼ばれる戦士がいる。フュラ・ユイヴィールってのは、あの扉によって選ばれ、呼ばれた異世界人だよ」

フュラ・ユイヴィールってライさんの事だよね……じゃあライさんもこの世界の人じゃ無い?もしかして同じ地球人だったり?
隣に座るライさんを見上げたけど……金髪に赤い瞳……地球人だとしてあまりいない、とりあえず日本人ではなさそう。

見ているのがバレ、微笑みを返されて慌てて目を逸した。
ライさんの笑顔はちょっと苦手かも……笑顔を向けられる度に心が締め付けられる感じがする。

「フュラ・ユイヴィールの役割は、4つの国の中央……メソンの森の奥、アスファルと呼ばれる魔王の攻撃から国を守ることだ」

魔王がいる世界。
そんな世界で俺に出来る事とは……?

「御園君はこれから『ティール』と名乗ってね~ユーク国の代々の聖女の名前だよ」

「代々って……魔王との戦いはそんなに長く?」

「魔王との戦いに終わりは無いからね~君達の目的はあくまで魔王の攻撃から国を守ることであって、魔王を倒す事じゃ無いよ?むしろ倒しちゃ駄目」

……倒しちゃ駄目?何で?
普通、物語は魔王を倒して終わりじゃないの?

「何でって顔だね。魔王はこの世界と繋がっている。魔王を倒すという事はこの世界を壊すってことさ。魔王と言っても意思を持った生き物じゃ無い。大木だよ。この世界の悪しき空気をその身に蓄え、たまに魔物という形で吐き出す……それが国に取って脅威なんだ~それを退治してくれれば良いだけだよ」

良いだけって言われても俺に戦う力は無いし……ライさんに頑張って貰うしか……。

「御園君の事は俺が守るから安心してね」

申し訳ないと思いながら横目でライさんを確認すると、ズボンを握りしめていた手を握られ、体が強張った。

「違うだろ!!逆だよ逆!!聖女がフュラ・ユイヴィールを守るんだろうが!!」

「俺が……?」

どうやってこの人を守るんだろう?
俺に出来る事……身代わりとか?

「そうだよ。聖女はこの攻撃だけに特化したフュラ・ユイヴィールを支えるため、防御、治癒、強化魔法の専門家だ……だがティールは窓から来ただろ?そのせいか、まだ力に目覚めてない……だからな、お前らさっさと寝てこい」

「「はい?」」

イライラと2階を指差したモルテさんの言葉にライさんと俺の声がダブった。
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