40 / 45
ずっとそばにいる
ページ40
しおりを挟む
叔母さんは一人で早起きして、あたしだけを連れて散歩に行くらしい。いや、あたしだけじゃないかもしれない。たしかにあたしの左肩には、まだ眠たそうなマシューがふわふわと飛んでいた。
家の外へと足を踏み出す。
あたしは家の鍵をかけてから、たっぷりと息を吸いこんでみた。
朝のみずみずしい空気が口や鼻から入って全身に行き渡る。朝の暖かい太陽があたしのことを照らしてくる。
「ずっと家にいたら、わかんないでしょ」
叔母さんにつづいてエレベーターに乗り、一階まで降りてゆく。マンションの正面から出ると目の前はまず駐車場だった。その先から道路があり、両側にはたくさんの家が並ぶ。一歩わき道へ行くと、整備された堤防で守られた川が流れている。叔母さんはこの川のそばを歩くことを散歩ルートにしているらしい。
「ここの星川市は都会だけど、川があるのがいいね。それに木も植えられているから、建物ばかりじゃないし」
何度も来たことがあるように、叔母さんは道に迷うことがなかった。しかも小さな道をくねくねと曲がった。あたしだってあまり通らない道。叔母さんの横をあたしはただ歩きながら、この道にこんなものがあったんだ……と新しい発見をしていた。例えばポスト。例えば犬小屋のある家。ひとつひとつ指をさして教えてくれた。あれ、ここに住んでいるのって、あたしと叔母さんのどっちだっけ?
川のそばまでやってきた。整備された堤防の間を、川がゆったりと流れている。穏やかだった。スーッと息を吸いこんでみると、涼しい風と、水のさわやかな匂いがする。
茶色の柵とレンガ調の道がどこまでも続いている。西へ東へ。東からは、黄色い太陽がかすんだ青白い空に浮かんでいた。
「気持ちいいでしょ、ゆい。ほら、こうやって伸びをするの」
そう言って叔母さんは腕と細い体を上に引き上げた。背筋もお腹もピンと張る。ん~という声と一緒に。
同じようにあたしもやってみた。体の力が抜けるよう。最近運動不足だったあたしの足も、久しぶりに筋肉が両側に引っ張られた。
「気持ちいい」
「朝にやると最高よね」
伸びをした体を戻して、叔母さんはまた歩き出す。川を左手に、のんびりと。あたしの歩調に合わせて歩いてくれる。
川のせせらぎ音が静かだった。鳥が鳴く声が聞こえ、風になびいて植木のそよぐ音が耳に入る。ああ、そういえば、最近建物の中ばかりにいて、外に出て自然の音を聴くこともなかった。聴きながらのんびり散歩するなんてこともなかったな。散歩なんてつかれる、さっきまでそう思っていたけれど、逆に疲れが抜けるような感じがする。
「ねえ叔母さん」
ん? と首をななめにそらしながらあたしの目を見てふり向く叔母さん。そのふり向き方は、お父さんと一緒だった。なのに、声はお母さんのように高かった。
「おばあちゃんたちや叔母さんたちは、いつ帰るの?」
この中には目の前にいる叔母さんも入っている。もう三泊くらいはいるだろう。
叔母さんは意外にも回答にぼんやりしていた。
「うーん、あと二日くらいはいられるかなー」
あまりちゃんと決めてはいない感じだった。
家の外へと足を踏み出す。
あたしは家の鍵をかけてから、たっぷりと息を吸いこんでみた。
朝のみずみずしい空気が口や鼻から入って全身に行き渡る。朝の暖かい太陽があたしのことを照らしてくる。
「ずっと家にいたら、わかんないでしょ」
叔母さんにつづいてエレベーターに乗り、一階まで降りてゆく。マンションの正面から出ると目の前はまず駐車場だった。その先から道路があり、両側にはたくさんの家が並ぶ。一歩わき道へ行くと、整備された堤防で守られた川が流れている。叔母さんはこの川のそばを歩くことを散歩ルートにしているらしい。
「ここの星川市は都会だけど、川があるのがいいね。それに木も植えられているから、建物ばかりじゃないし」
何度も来たことがあるように、叔母さんは道に迷うことがなかった。しかも小さな道をくねくねと曲がった。あたしだってあまり通らない道。叔母さんの横をあたしはただ歩きながら、この道にこんなものがあったんだ……と新しい発見をしていた。例えばポスト。例えば犬小屋のある家。ひとつひとつ指をさして教えてくれた。あれ、ここに住んでいるのって、あたしと叔母さんのどっちだっけ?
川のそばまでやってきた。整備された堤防の間を、川がゆったりと流れている。穏やかだった。スーッと息を吸いこんでみると、涼しい風と、水のさわやかな匂いがする。
茶色の柵とレンガ調の道がどこまでも続いている。西へ東へ。東からは、黄色い太陽がかすんだ青白い空に浮かんでいた。
「気持ちいいでしょ、ゆい。ほら、こうやって伸びをするの」
そう言って叔母さんは腕と細い体を上に引き上げた。背筋もお腹もピンと張る。ん~という声と一緒に。
同じようにあたしもやってみた。体の力が抜けるよう。最近運動不足だったあたしの足も、久しぶりに筋肉が両側に引っ張られた。
「気持ちいい」
「朝にやると最高よね」
伸びをした体を戻して、叔母さんはまた歩き出す。川を左手に、のんびりと。あたしの歩調に合わせて歩いてくれる。
川のせせらぎ音が静かだった。鳥が鳴く声が聞こえ、風になびいて植木のそよぐ音が耳に入る。ああ、そういえば、最近建物の中ばかりにいて、外に出て自然の音を聴くこともなかった。聴きながらのんびり散歩するなんてこともなかったな。散歩なんてつかれる、さっきまでそう思っていたけれど、逆に疲れが抜けるような感じがする。
「ねえ叔母さん」
ん? と首をななめにそらしながらあたしの目を見てふり向く叔母さん。そのふり向き方は、お父さんと一緒だった。なのに、声はお母さんのように高かった。
「おばあちゃんたちや叔母さんたちは、いつ帰るの?」
この中には目の前にいる叔母さんも入っている。もう三泊くらいはいるだろう。
叔母さんは意外にも回答にぼんやりしていた。
「うーん、あと二日くらいはいられるかなー」
あまりちゃんと決めてはいない感じだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる