白のマシュー

あやさわえりこ

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隠しごと

ページ32

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「どういうこと?」
 言葉の意味はわかるけど、なんでなのか理由がわからない。
「おわかれするんだよ」
「なんでおわかれしなきゃいけないの?」
 声に力が入ると、自然と大きくなっていく。
「それは……」
 ここにいるのになんで『おわかれ』だなんてことを言うのだろう。
 おばあちゃんは、お父さんとお母さんが眠っている箱を見つめている。ちょうど真っ黒の服を着たこの建物のスタッフが二人やってきた。たくさんの花を持った女の人と男の人だった。
「もうこの世にはいられないからだよ」
「ん? よくわかんない。お父さんもお母さんも、ここにいるじゃん」
 この世ってなんだろう。
 おばあちゃんはあたしの質問に答えることなく、口を閉ざしてしまった。
 そのとき、スタッフの女性が静かに言った。
「ただいまから、お二人の最後のおわかれをいたします」
 ここでも『おわかれ』。学校の友達と、帰り際に「じゃあねー」と言って次の日また会えるのとはちがうみたい。もう二度と会えません、と言葉の裏で言われているよう。
 男性スタッフが、一人一人にまた白い花を渡していった。あたしも一本もらった。なにをするのかというと、二人が眠っている箱がまた開けられて、その中に花を入れにいった。眠っているのに、多くの大人たちが「やすらかにお眠りください」というのもなんか変。
 あたしもみんなと同じように白い花を置きに行く。一本しかなかったので、お母さんの方に入れてあげた……お花畑がもっときれいになった、起きたらびっくりするだろう。
 お母さんの顔を見て、お父さんの顔を見る。二人ともぐっすり眠っていて穏やかな顔をしていた。口元が少し上がっているように見えるのは、泣いているみんなを元気づけるため? おわかれしなきゃいけないみんなを元気づけるため? そのあとみんなで一緒にお祈りをした。手を合わせてしばらくの間目をつむるのだ。
 静かな儀式だった。それが終わると箱は壁の向こうへと運ばれていく。あたしたちはその箱としばらく離れるらしく、部屋とは反対側の出口から部屋を出た。
「ゆい、ちゃんとおわかれできた?」
 そう言ってきたのはおじいちゃん。目を真っ赤にさせ、目下は大きくふくらんでいた。
「なんでおわかれしなきゃいけないの?」
「それは……なくなったからだよ」
「なにかなくしたの?」
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