白のマシュー

あやさわえりこ

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異変

ページ14

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 おばあちゃんが、びっくりして目を大きく開いたのがわかった。
「マシューがいてくれた」
 キョトンとするおばあちゃん。口をわずかにかすかに動かし、耳に届いた最初の言葉を繰り返そうとした。マシュー、マシューと。
 あたしはリビング中に響く声で言いながら、辺りを見回した。
「マシュー、マシュー、あたしのおばあちゃんだよ。どこにいるの?」
 するとすぐ近くで聞こえたのだった。「ここにいるよ」
 おだやかな、うれしそうな笑みを見せる。本当の笑顔。肩にマシューの体がほんのわずかにあたって、ふわりとした感触と温かさが感じ取れた。
「よかった。いなくなっちゃったのかと思った」
「ふふふ、そばにいるって言ったでしょ」
 おばあちゃんに、この白くてかわいいふしぎな生き物を紹介してあげよう。もう一度おばあちゃんに向き直った。……おばあちゃんは目を点にして、まばたきさえ忘れてしまったような表情で、あたしのことを一点に見つめていた。
「ゆい、肩のところに何かいるのかい?」
「え?」
 あたしは左肩のマシューが浮かんでいるのを確認した。
「そう。マシューっていうの。白くて丸くてかわいいでしょ!」
 おばあちゃんの目は点のままだ。ついに、何を思ったのだろうか、みるみるうちに青白くなり血の気が引きはじめた。
「おばあちゃんには何も見えないけど……」
 やっと絞り出したかのような、か細い声が震えている。
「なんで? ここにいるのに」
 マシューを手でさわってみる。やわらかい感触がした。たしかにここにいる。おばあちゃんから見たら、空をなでているようにしか見えないのかもしれない。マシューの方も、なにも訴えかけなかった。マシューのことが見えないのは、あたしにはなぜだかさっぱりわからないけれど、おばあちゃんが今にも気を失いそうなほど血の気が引いているように見えたので、別の話題に変えることにした。
「おばあちゃん、ここまで一人できたの? おじいちゃんは?」
 はっと我に返った表情でおばあちゃんは答えた。
「おじいちゃんと一緒に来たよ。車を駐車場に入れてるのでしょう」
 マンションについて、おばあちゃんは車を飛び出すようにこの家まで来たらしい。おじいちゃんは車を入れる場所に苦労していたみたい。そこまでして急いで来たのだった。
 玄関のドアがゆっくり開く音が聞こえた。
「ばあさん、おるか?」
 おじいちゃんの声だ。おばあちゃんほど別人には聞こえなかったものの、どこかあせったような、気持ちの落ち着いていない声だった。
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