白のマシュー

あやさわえりこ

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帰らない両親

ページ5

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 あたしは白いこの子をずっと両手で抱えていた。一時もこの子自身からあたしのもとを離れようとはしなかった。そっと手を離そうとすると、白い子は自分からふわりと浮きあがった。涙でぬれたあたしの目を白い子はじっと見つめてくる。クリクリの丸い目。そして、にこっとほほえみかける。安心して、いいんだよ。そう言われているよう。
「ねえ」
 ずっとそばにいてくれる存在。人間でもおばけでもなさそうなこの子は、一体何なのだろう……と、やっぱり気になって、訊こうとしたが、言葉につまってしまった。まずそれを訊く前に、なんて呼べばいいんだろうと、新たななぞが出てきた。
「君はなんていう名前?」
「名前? うーん」白い子は体ごと動いて首をひねる。
「ぼく、名前はまだないんだよ」
 びっくりだ。あたしは生まれた時から『ゆい』って名前がつけられたのに。
「えっ? ないの?」
「だから、ゆいちゃんがつけていいよ」
「ほんとに? そうだなぁ」
 だれかに名前をつけるなんて、初めてだ、わくわくする!
 白い子のことを、あたしはじーっと見つめてみた。真っ白でふわふわで丸い形。こんな形のものを、どこかで見たことがある。
「おまんじゅう?」年に何回か行くおばあちゃんの家によくある白いお菓子に似ている。
「それとも、おもちかな?」お正月に飾る鏡もちのおもち一つ分にも似ているような。
 いや、何か他にあった。あたしの好きなもので、お母さんがよく買ってきてくれて、ふわふわやわらかいもの。中にはジャムみたいな甘いものが入っている白いもの。
「そうだ、マシュマロだ!」
 白い子はあたしの声にちょっとびっくりしたみたい。そのあと、窓の外を見て、シーとあたしに言った。そうか、今はご近所さんが寝ているよね。
「君って、マシュマロみたい」
 だから名前は……。
「マシュマロをもじって『マシュー』ってどう?」
 白い子は細い目でうれしそうにほほえんで、体ごとうなずいてみせた。
「マシューっておもしろい名前だね。もちろんいいよ」
 白い子、改めマシュー。名前は決定だ。男の子っぽい名前だし。
 と、ふとわからなくなった。この子は男の子? 女の子?
「マシューって男の子? 女の子? ぼくって呼んでるから男の子かなって思うけど、正直、女の子みたいに声も顔もかわいいよ」
 『かわいい』と言ったとたんマシューは照れくさそうに笑い始めた。白のほっぺが少し赤くなるところなんか、思わず抱きしめたくなっちゃう。
「そうかな? でも、ぼくには性別とかないんだ。女の子と男の子の間みたいな。ふしぎでしょ?」
 男の子でも女の子でもない? あたしは正直に答えた。
「うん、ふしぎ!」
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