おはよう

あやさわえりこ

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 車で美咲の家まで迎えに行った僕は、カーゴパンツのポケットに、手のひらに収まるほど小さな立方体の箱をしまいこんだ。勘が鋭い美咲のことだ。下手なことをすると箱が見つけられるかもしれない。今日はゆったりとしたカーゴパンツを履いて正解だ。
 美咲が助手席の窓をトントンと叩き、手をあげて挨拶をする。そして助手席の扉を開けて車へ乗りこんだ。「おはよう」職場でいう時のように、朝でも夜でも第一声はいつもそれだ。
「おはよう」
 僕も返す。
「涼ちゃん、そういえば今日って……」
 美咲の言葉がとまった。何を言いたかったのかはわかったので、補うように僕は言葉を継いだ。視線を落とした美咲に、ポケットの膨らみが気づかれないか心配だ。
「付き合って今日で二年だね」
「あ、覚えててくれてたんだ」
 クスッと笑った。でもなんだか乾いていた。
「もう二年なんて、早いね」
「ほんとだよ。早いね……」
 車に乗りこめば、明るく元気に取り留めのないことを話し出す美咲は、少し元気がない気がした。
「今日どうかした?」
 丸く開いた瞳が、僕のことを見つめてきた。
「どうって?」
「なんか、いつもの元気がないっていうか。水族館行かずに、お家デートにする?」
「元気ない? まあ、いや、でも今日は水族館に行きたいな。ほら水族館は二年前と同じデートスポットでしょ?」
「じゃあ水族館にいこっか」
 二年前の今日、水族館に行ったあとで、告白した。そして付き合うことになった。今回行く水族館も二年前と同じところ。僕たちにとっては原点のような場所。
 元気がないんじゃないかと思ったが、変更はなし。行き先は水族館に決まった。
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