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エピローグ

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 チャペルの鐘が鳴る音が聞こえる。


「よし! 完っ壁ですわ!!!」

 サラが最後の仕上げのルージュをひいて、私の全身を確認した後、そう言った。

「本当にお美しいですわ! マリアンヌ様!」

 今度は、サラの横に立つソフィが満足そうな表情でそう言った。
 その後ろでは、着替えを手伝ってくれた数人のメイドたちもウンウンともの凄い勢いで頷いている。

「ありがとう、みんな。……ふふふ。やっぱりコルセットをきっちり締めてドレスを着ると、気持ちが上がるわね」

 ああ、いつものやり取りだなと思いつつ、私も鏡に映る姿を確認する。

 ここは、日の光が明るく差し込むチャペルの控え室。
 鏡には純白のウェディングドレスを着た自分が映っていた。

「ふふっ。自分で言うのもなんだけど、キレイね」

 私が今着ているのは、真っ白なAラインのドレスである。アレク様と初めて会った王宮舞踏会へ着て行った、デビュタント用のあのドレスと同じタイプだ。もちろん、あれよりレースもビジューもふんだんに使われ格段に華やかなものとはなっている。
 アップにした髪は白い花とビジューで飾られており、胸元には繊細な造りのネックレス。その中央には、グレーダイヤがキラキラと光を弾いていた。

(後はこれにベールを付けて、グローブをつければ完成ね)

 そう思いながら自分の左手を見れば、あの日にもらったグレーダイヤのプラチナリングが薬指に輝いているのが見えて、幸せな気分になる。

「待ちに待ったこのお姿!!! キレイというか、美しすぎて神々しいですぅぅ!」

「ちょっとサラ、大げさすぎよ」

「!!! これだから無自覚はぁぁ!!」

「まぁ……。ふふっ」

 あんまりなサラの褒め言葉に少し照れてそう言えば、怒ったように泣かれて、苦笑してしまった。

 ……コンコン。

 そこへ、扉をノックする音が聞こえた。

「……はい」

「マリ、私だけど……」

 誰かと思えば、アレク様だった。
 別室で着替えていた筈だが、終わったのだろうか。

「どうぞ」

 私が声をかければゆっくりと扉が開き、アレク様がおずおずと顔を覗かせた後、これまたゆっくりと入ってきた。

「……まぁ! アレク様! とっても素敵!!!」

 いつもの騎士服と然程さほど変わらないと聞いていたのに、とんでもない。
 たしかにベースはいつも着ているシルバーの飾緒しょくしょがついた濃紺の騎士服だが、裾や袖、襟の端に金糸と銀糸で繊細かつ煌びやかな刺繍ししゅうほどこされ、肩にはシルバーのエポレット、そして肩から腰にかけて純白のサッシュが回されている。左胸にも、いつもより多くの勲章が煌めいていた。

「……惚れ直した?」

 右手を腰に回され軽く抱き寄せられ、照れているのか目元をほんのり染めて、すこしニヤリとしながらそう聞かれたので。

「ええ。惚れ惚れしてしまうわ。……私の夫になる人は本当にカッコイイわね」

 左手でアレク様の頬に触れながらしみじみとそう言えば、少し驚いたように目を見開いた後、本当に嬉しそうに微笑んだ。

「マリも、……本当に綺麗だ。他のヤツに見せたくないな」

 アレク様はそう言うと、頬に触れていた私の手を取り薬指の指輪にキスをする。
 そんな彼の左手の薬指にも、私のものと同じデザインの指輪が輝いていて、その指輪には、私の瞳の色と同じブラウンカラーの石がはまっていた。アンダルサイトという石らしく、ベースはブラウンだが、見る角度によって色が変わり見ていて楽しいものだ。指輪が届いてからというものアレク様にねだってよく見せてもらっていた。

「……さて! 準備も終わりましたし、私たちはお邪魔ですから、下がらせていただきますね。今日は一日忙しいですから、今のうちにゆっくりなさって下さい」

 二人で互いの姿を見合っていると、不意に、サラが声をあげた。
 他のメイドたちも「ほほほ、お時間までごゆっくり」と言いながらそそくさと部屋から出て行く。

「……旦那様。一応言っておきますが、今日が終わるまでお触り厳禁ですよ」

 サラが笑顔でそう言った。

「そうですよ。お髪やドレスが乱れるようなコトは、くれぐれも我慢して下さいませね」

 ソフィも笑顔でそう言う。

「「では、お時間までごゆっくり!」」

 最後にサラとソフィはそう締めくくると、揃って一礼し、部屋から出て行った。

 若干ポカンとしながら扉を見ていれば、「生殺しだ」と呟くアレク様の声が聞こえたので、アレク様へと視線を戻す。すると、口元に弧を描き、「……それも今日の夜までだがね」と囁くように言われた。

 そのグレーの瞳が、一瞬妖しい光をともした気がして。

 心臓がドクリとして、耳と頬にじわりと熱が集まった。

 ――アレク様の手が優しく私の耳を撫ぜ、私もその手に頬をすり寄せる。

「……夜まで……"一緒にいてくれるんですか?"」

「"いてくれるって言うか、いたいんだけど。……一緒にいさせてくれる?"」

「"……はい。……一緒にいて下さい"」

 交わる視線をそのままに、私たちは少し笑い合う。

「ああ。マリ。……一緒にいよう。夜までとは言わず、いつまでも」

「ええ。アレク様。……夫婦になって、貴方の子どもを産んで……。一緒に歳をとって、その生涯を終えるまで。一緒に」

「マリ、キスをしよう。そのキスと、……私のこの瞳に、永遠に続く愛を誓おう。この生涯を終えたとしても、次があるならまた、必ず君を探し出すよ」

「ふふ。……そうですね。……また、この生涯を終えても巡り逢いましょう」

「「そして、必ず」」






 来世でも一緒に、生きましょう――――。










―END―


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