60 / 61
エピローグ
しおりを挟むチャペルの鐘が鳴る音が聞こえる。
「よし! 完っ壁ですわ!!!」
サラが最後の仕上げのルージュをひいて、私の全身を確認した後、そう言った。
「本当にお美しいですわ! マリアンヌ様!」
今度は、サラの横に立つソフィが満足そうな表情でそう言った。
その後ろでは、着替えを手伝ってくれた数人のメイドたちもウンウンともの凄い勢いで頷いている。
「ありがとう、みんな。……ふふふ。やっぱりコルセットをきっちり締めてドレスを着ると、気持ちが上がるわね」
ああ、いつものやり取りだなと思いつつ、私も鏡に映る姿を確認する。
ここは、日の光が明るく差し込むチャペルの控え室。
鏡には純白のウェディングドレスを着た自分が映っていた。
「ふふっ。自分で言うのもなんだけど、キレイね」
私が今着ているのは、真っ白なAラインのドレスである。アレク様と初めて会った王宮舞踏会へ着て行った、デビュタント用のあのドレスと同じタイプだ。もちろん、あれよりレースもビジューもふんだんに使われ格段に華やかなものとはなっている。
アップにした髪は白い花とビジューで飾られており、胸元には繊細な造りのネックレス。その中央には、グレーダイヤがキラキラと光を弾いていた。
(後はこれにベールを付けて、グローブをつければ完成ね)
そう思いながら自分の左手を見れば、あの日にもらったグレーダイヤのプラチナリングが薬指に輝いているのが見えて、幸せな気分になる。
「待ちに待ったこのお姿!!! キレイというか、美しすぎて神々しいですぅぅ!」
「ちょっとサラ、大げさすぎよ」
「!!! これだから無自覚はぁぁ!!」
「まぁ……。ふふっ」
あんまりなサラの褒め言葉に少し照れてそう言えば、怒ったように泣かれて、苦笑してしまった。
……コンコン。
そこへ、扉をノックする音が聞こえた。
「……はい」
「マリ、私だけど……」
誰かと思えば、アレク様だった。
別室で着替えていた筈だが、終わったのだろうか。
「どうぞ」
私が声をかければゆっくりと扉が開き、アレク様がおずおずと顔を覗かせた後、これまたゆっくりと入ってきた。
「……まぁ! アレク様! とっても素敵!!!」
いつもの騎士服と然程変わらないと聞いていたのに、とんでもない。
たしかにベースはいつも着ているシルバーの飾緒がついた濃紺の騎士服だが、裾や袖、襟の端に金糸と銀糸で繊細かつ煌びやかな刺繍が施され、肩にはシルバーのエポレット、そして肩から腰にかけて純白のサッシュが回されている。左胸にも、いつもより多くの勲章が煌めいていた。
「……惚れ直した?」
右手を腰に回され軽く抱き寄せられ、照れているのか目元をほんのり染めて、すこしニヤリとしながらそう聞かれたので。
「ええ。惚れ惚れしてしまうわ。……私の夫になる人は本当にカッコイイわね」
左手でアレク様の頬に触れながらしみじみとそう言えば、少し驚いたように目を見開いた後、本当に嬉しそうに微笑んだ。
「マリも、……本当に綺麗だ。他のヤツに見せたくないな」
アレク様はそう言うと、頬に触れていた私の手を取り薬指の指輪にキスをする。
そんな彼の左手の薬指にも、私のものと同じデザインの指輪が輝いていて、その指輪には、私の瞳の色と同じブラウンカラーの石が塡っていた。アンダルサイトという石らしく、ベースはブラウンだが、見る角度によって色が変わり見ていて楽しいものだ。指輪が届いてからというものアレク様にねだってよく見せてもらっていた。
「……さて! 準備も終わりましたし、私たちはお邪魔ですから、下がらせていただきますね。今日は一日忙しいですから、今のうちにゆっくりなさって下さい」
二人で互いの姿を見合っていると、不意に、サラが声をあげた。
他のメイドたちも「ほほほ、お時間までごゆっくり」と言いながらそそくさと部屋から出て行く。
「……旦那様。一応言っておきますが、今日が終わるまでお触り厳禁ですよ」
サラが笑顔でそう言った。
「そうですよ。お髪やドレスが乱れるようなコトは、くれぐれも我慢して下さいませね」
ソフィも笑顔でそう言う。
「「では、お時間までごゆっくり!」」
最後にサラとソフィはそう締めくくると、揃って一礼し、部屋から出て行った。
若干ポカンとしながら扉を見ていれば、「生殺しだ」と呟くアレク様の声が聞こえたので、アレク様へと視線を戻す。すると、口元に弧を描き、「……それも今日の夜までだがね」と囁くように言われた。
そのグレーの瞳が、一瞬妖しい光を燈した気がして。
心臓がドクリとして、耳と頬にじわりと熱が集まった。
――アレク様の手が優しく私の耳を撫ぜ、私もその手に頬をすり寄せる。
「……夜まで……"一緒にいてくれるんですか?"」
「"いてくれるって言うか、いたいんだけど。……一緒にいさせてくれる?"」
「"……はい。……一緒にいて下さい"」
交わる視線をそのままに、私たちは少し笑い合う。
「ああ。マリ。……一緒にいよう。夜までとは言わず、いつまでも」
「ええ。アレク様。……夫婦になって、貴方の子どもを産んで……。一緒に歳をとって、その生涯を終えるまで。一緒に」
「マリ、キスをしよう。そのキスと、……私のこの瞳に、永遠に続く愛を誓おう。この生涯を終えたとしても、次があるならまた、必ず君を探し出すよ」
「ふふ。……そうですね。……また、この生涯を終えても巡り逢いましょう」
「「そして、必ず」」
来世でも一緒に、生きましょう――――。
―END―
0
お気に入りに追加
1,370
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる