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第56話 街デート 3/3
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【Side アレクサンドル】
マリーと指を絡めて手を握り、マルシェに向かって並んで歩く途中、なんとなく鼻歌すら歌ってしまいそうで、我ながら浮かれているなと思った。
マリーが二人で出かける事を楽しみにしてくれていたことが嬉しかった。
指輪を喜んでくれたことが嬉しかった。
街へ来る途中の馬車の中で、私から言い出した事ではあったのだが、私の事をアレクと呼び、いつもより親しげに話しかけてくれるのが嬉しかった。
あと数日で、私の妻になるということが嬉しかった。
はしゃいでいるなと思いつつもその気持ちは止められなくて、とりあえずこの手を離さないようにしようとだけ、少し気持ちを引き締めた。
「さあ、マリー。ここが王都で一番大きなマルシェだよ」
そう言って隣を見れば、瞳をキラキラさせたマリーと目が合った。
マルシェには沢山の店が出ていた。
新鮮な野菜や果物だけでなく、魚、肉、チーズ、ジャム、香辛料。歩きながら食べれるようなパンにサンドイッチ、お菓子、スイーツに、ワインなどのお酒を売る店。あとは花屋なんかもあり、店の数に比例するように人の数も多かった。
「迷子にならないようにね」
そう言ってマリーに笑いかければ、仕返しとばかりに繋いでいた手を持ち上げられて、「じゃあ、離さないでね」と手の甲にキスをされた。
*
「ほしいものがあれば言ってごらん。買って帰ってもいいし、持ちきれなさそうなら屋敷まで届けてもらうよう頼むから」
「はい! ふふふっ! でも、こんなに沢山のお店、見てるだけでも十分楽しいわ!」
「そう? それならいいけど」
マリーはメイドたちだけでなくコックのポールとも仲が良いらしい。たまに屋敷へ届く食材を見せてもらったりしているのだそうだ。
キラキラした目で野菜や果物を見ながら、ポールの家族の話をするマリーが可愛いかった。
「あ! ジャムだわ! 見ていい?」
「もちろん」
「すごい! いろんな種類のジャムがある! ハチミツもあるのね!」
「ああ、本当だ。見た目も可愛いね」
パンが置いてある店の一角に、小ぶりな瓶に詰められた色とりどりのジャムやハチミツが並べてあって、マリーが、一つ二つと手に取って見ている。
「……ジャム、好きなの?」
「ん? ええ、好きよ。私、特にマーマレードが好きでね、よくポールにリクエストするの。だけど、マーマレードって作るのが大変で。だから、サラにも手伝ってもらってみんなで一緒に作ったりするのよ」
「へぇ! 楽しそうだね」
「ふふふっ。出来たてがまた美味しくてね。味見って言って熱々をパンに付けて食べるのがまた楽し、……あら? アレク見て! すごい! バラのジャムですって! どんな味なのかしら?」
「……買って帰る?」
「いいの?」
「もちろん。その代わり、……味見する時は私も呼んで?」
私もマリーと味見会をしたいなと思ってそう提案する。
ジャムを見ながら楽しそうに話すマリーを見て、ちょっとポールとサラが羨ましくなってしまったのだ。
もちろん! と、笑顔で答えるマリーが、また可愛かった。
「そうだな……。せっかくだし、マーマレードと、珍しいジャムがあればそれも買って帰ろうか」
「本当? まぁ! どれにしようかしら!」
マリーの手にもすっぽり収まる大きさである。
いくつか買っても大した荷物にはならないだろうと話をしながら、マリーと共に選んでいって。最終的に、バラのジャム、マーマレード、トマトのジャムとハチミツを一つ買うことにした。
そしてそれを代金と共に店員に渡し、袋に入れてもらうのを待っていた時のこと。
――少し離れた場所から、何かが派手に壊れる音がした。
(……こんな昼間から酔っ払いの喧嘩か?)
音のしたほうに視線を移せば、酒を扱っている店があって。
男の怒鳴り合う声や野次を飛ばす声、女の叫び声に、何かが割れる音などが聞こえた。「騎士団呼べ!」と叫ぶ声も聞こえたし、人が走って行ったのも見えたので、待てば第二か、タイミングが合えば巡回中の第一も来るだろうが……。
(……行くしかないか)
喧嘩をしている当人たちはどうでもいいが、周りにケガ人が出てはいけないだろう。
「マリー、酔っ払いの喧嘩のようだ。……ちょっと行って止めてくる」
そう声をかけてから、その場を離れようとした瞬間。
「……大丈夫よね?」
私の服をキュッと掴むマリーの顔色があまりにも悪く、戸惑った。
(ずっと屋敷にいたし、男の怒号や女の叫び声が飛び交う場面に出会すのは、初めてなのかもしれないな)
正直一人にしたくはないが、連れて行くのも危ないだろう。
「大丈夫だ。すぐに戻る」
私は軽くその額へとキスを落とすと、彼女をその場に残し、件の店へと足早に歩き出した。
*
店の近くまで来ると、野次馬の間から、やはり顔を赤くて掴み合いの喧嘩をしている男が二人と、周りでグラスを片手に野次を飛ばしている男たちが見えた。
「……ハァ」
マリーとの楽しい時間に水を刺された苛立ちを、タメ息をついて抑える。側まで行き、私は野次馬の中の一人の男に声をかけた。
「おい。これは何の騒ぎだ?」
「ん?? いやー、オレもよく知らねーんだけど、なんか飲みながら腕相撲かなんかしてたらヒートアップしちまったらしくてな。喧嘩になっちまったらしいぜ」
「……なるほど、迷惑な。誰も止めないのか?」
「ははは、無理だろ。当人さんたちのガタイが良すぎる。ま、今さっき誰かが騎士団呼びに行ったみたいだし、大丈夫じゃねーかな」
男とそう話している間にも、喧嘩している二人が殴り合いを始めてしまった。
「……ハァ……、やはり私が止めるしかないか……」
「え? 無理じゃねーか? 絶対怪我するって。やめとけよ」
男からそう声をかけられたが、その言葉を無視して私は野次馬の中心へと足を踏み込んだ。
「……おい、お前たち。今すぐ喧嘩をやめろ」
「「あ゛あ゛ん??」」
「……なんだぁ? 兄ちゃん、邪魔すんのかぁ?!」
「そんな細っせぇ体じゃオレたちの相手にゃなんねーぞ!! すっこんでろ!!」
「……うるさい。いいから、喧嘩をやめろと言っているんだ」
「「ンだとぉ?? やんのかコラァ?!!」」
(……チッ。面倒な)
たしかにガタイは良い男たちだったが、相当酔いが回っているらしく、足はフラついていて動きも鈍い。建前上やめるよう声はかけたが、まぁ、最初から聞かないだろうなとも思っていた。
(マリーを待たせているし、さっさと済ませよう。……右からいくか)
私はそう思うと、ファイティングポーズをとる男たちに普通に歩いて近付いて。
「……あ? ……っ!! ぐッ!! ……ガハッ!」
男たちが意表を突かれた表情をした瞬間、先ずは右の男の懐に入り、その人中に掌底を打ち込んだ。
「な?! ……クソッ!!」
(次は左)
「ゲェッッ!!!」
そして左にいた男が呆気にとられている内に、その鳩尾に肘を入れて沈める。
(……相手にもならん)
地面に転がる、顔を押さえて蹲ったり、腹を押さえて咳き込んだりしている男たち。それを見ながらタメ息を吐いていると、何やら野次馬の外が騒がしいことに気が付いた。
人集りが割れる。
騎士団が来たなと思っていれば、第一と第二を引き連れたオスカーが現れた。
「ハイハイハイハイ! どいたどいたー! さて! 喧嘩しているのはどい……んおっ?! アレク?! なんでここに? つか、なんだその髪!??」
「オスカーか。ちょうどいいところに来た。喧嘩していたのはコイツらで、……私が今止めた」
「は? え? ん???」
「詳しい話は周りにいた人たちに聞いてくれ。私の分は明日で頼む。……マリーを待たせてるんだ。私はもう行くぞ」
私はそう言うと、「え?! 団長?!」やら「は? 騎士団の団長って黒髪じゃねーの?」などという声を背に、マリーの元へと急いだ。
*
「すみません! 私、人を待ってるんです! ……ヤダ! 離して!!!」
マリーを待たせていたパン屋の近くまで戻ると、ジャムの袋を抱えながら二人の男に囲まれている彼女が見えて、そう叫ぶ彼女の声が聞こえた。
「……私の連れに何をしている?」
彼女の側を離れた自分が悪いとは分かっていたが、愛しい女性に男が集り、あまつさえ両側から手首や肩に手をかけている光景に、自分でも驚くほど低い声が出る。
「……!! アレク!!」
「あれー? お兄さんがカノジョの連れ? よかったー。ねぇねぇお兄さん、カノジョちょっと貸してよー」
「そーそー。こんなに可愛いコ、独り占めはダメだって。今日一日だけでいいからさー」
軽薄そうな見た目を裏切らない、軽薄そうな喋り方。それが癇に障り、話をするのも無駄と思えたので、二人を無視してマリーに「おいで」と声をかけたが、男たちが彼女を離さなかった。
(コイツら……)
二対一という構図に調子に乗っているのか。ニヤニヤしながら「「ダメー」」と言う男たちに殺意すら覚えて、さっさと沈めてしまおうと距離を縮めようとした、その時。
「離してよ!!!」
マリーがそう叫びながら、掴まれていた右手を一瞬で振り解き、彼女の左側にいた男の急所を思い切り蹴り上げた。
「ギャ!!!」
「なっ??! ……こっの!!」
仲間がやられてしまい、キレたのだろう。彼女の右側にいた男が、彼女の頭を掴もうと手を伸ばしたのが見えた瞬間。
ゾッとするほどの冷たい感覚が一瞬で身体中を駆け巡り、……気付けば、私は男の喉を掴んでいた。
「……喧嘩を売るなら相手を見たほうが良いぞ」
「ひっ! ……ッ、カハッ! ゲホッゲホッ!」
殺気を混ぜながら男にそう言った後、喉に掛けていた手を離す。
「……行こう。マリー」
私はマリーが持っていたジャムの袋を受け取り、彼女の手を掴んで歩き出したのだった。
マリーと指を絡めて手を握り、マルシェに向かって並んで歩く途中、なんとなく鼻歌すら歌ってしまいそうで、我ながら浮かれているなと思った。
マリーが二人で出かける事を楽しみにしてくれていたことが嬉しかった。
指輪を喜んでくれたことが嬉しかった。
街へ来る途中の馬車の中で、私から言い出した事ではあったのだが、私の事をアレクと呼び、いつもより親しげに話しかけてくれるのが嬉しかった。
あと数日で、私の妻になるということが嬉しかった。
はしゃいでいるなと思いつつもその気持ちは止められなくて、とりあえずこの手を離さないようにしようとだけ、少し気持ちを引き締めた。
「さあ、マリー。ここが王都で一番大きなマルシェだよ」
そう言って隣を見れば、瞳をキラキラさせたマリーと目が合った。
マルシェには沢山の店が出ていた。
新鮮な野菜や果物だけでなく、魚、肉、チーズ、ジャム、香辛料。歩きながら食べれるようなパンにサンドイッチ、お菓子、スイーツに、ワインなどのお酒を売る店。あとは花屋なんかもあり、店の数に比例するように人の数も多かった。
「迷子にならないようにね」
そう言ってマリーに笑いかければ、仕返しとばかりに繋いでいた手を持ち上げられて、「じゃあ、離さないでね」と手の甲にキスをされた。
*
「ほしいものがあれば言ってごらん。買って帰ってもいいし、持ちきれなさそうなら屋敷まで届けてもらうよう頼むから」
「はい! ふふふっ! でも、こんなに沢山のお店、見てるだけでも十分楽しいわ!」
「そう? それならいいけど」
マリーはメイドたちだけでなくコックのポールとも仲が良いらしい。たまに屋敷へ届く食材を見せてもらったりしているのだそうだ。
キラキラした目で野菜や果物を見ながら、ポールの家族の話をするマリーが可愛いかった。
「あ! ジャムだわ! 見ていい?」
「もちろん」
「すごい! いろんな種類のジャムがある! ハチミツもあるのね!」
「ああ、本当だ。見た目も可愛いね」
パンが置いてある店の一角に、小ぶりな瓶に詰められた色とりどりのジャムやハチミツが並べてあって、マリーが、一つ二つと手に取って見ている。
「……ジャム、好きなの?」
「ん? ええ、好きよ。私、特にマーマレードが好きでね、よくポールにリクエストするの。だけど、マーマレードって作るのが大変で。だから、サラにも手伝ってもらってみんなで一緒に作ったりするのよ」
「へぇ! 楽しそうだね」
「ふふふっ。出来たてがまた美味しくてね。味見って言って熱々をパンに付けて食べるのがまた楽し、……あら? アレク見て! すごい! バラのジャムですって! どんな味なのかしら?」
「……買って帰る?」
「いいの?」
「もちろん。その代わり、……味見する時は私も呼んで?」
私もマリーと味見会をしたいなと思ってそう提案する。
ジャムを見ながら楽しそうに話すマリーを見て、ちょっとポールとサラが羨ましくなってしまったのだ。
もちろん! と、笑顔で答えるマリーが、また可愛かった。
「そうだな……。せっかくだし、マーマレードと、珍しいジャムがあればそれも買って帰ろうか」
「本当? まぁ! どれにしようかしら!」
マリーの手にもすっぽり収まる大きさである。
いくつか買っても大した荷物にはならないだろうと話をしながら、マリーと共に選んでいって。最終的に、バラのジャム、マーマレード、トマトのジャムとハチミツを一つ買うことにした。
そしてそれを代金と共に店員に渡し、袋に入れてもらうのを待っていた時のこと。
――少し離れた場所から、何かが派手に壊れる音がした。
(……こんな昼間から酔っ払いの喧嘩か?)
音のしたほうに視線を移せば、酒を扱っている店があって。
男の怒鳴り合う声や野次を飛ばす声、女の叫び声に、何かが割れる音などが聞こえた。「騎士団呼べ!」と叫ぶ声も聞こえたし、人が走って行ったのも見えたので、待てば第二か、タイミングが合えば巡回中の第一も来るだろうが……。
(……行くしかないか)
喧嘩をしている当人たちはどうでもいいが、周りにケガ人が出てはいけないだろう。
「マリー、酔っ払いの喧嘩のようだ。……ちょっと行って止めてくる」
そう声をかけてから、その場を離れようとした瞬間。
「……大丈夫よね?」
私の服をキュッと掴むマリーの顔色があまりにも悪く、戸惑った。
(ずっと屋敷にいたし、男の怒号や女の叫び声が飛び交う場面に出会すのは、初めてなのかもしれないな)
正直一人にしたくはないが、連れて行くのも危ないだろう。
「大丈夫だ。すぐに戻る」
私は軽くその額へとキスを落とすと、彼女をその場に残し、件の店へと足早に歩き出した。
*
店の近くまで来ると、野次馬の間から、やはり顔を赤くて掴み合いの喧嘩をしている男が二人と、周りでグラスを片手に野次を飛ばしている男たちが見えた。
「……ハァ」
マリーとの楽しい時間に水を刺された苛立ちを、タメ息をついて抑える。側まで行き、私は野次馬の中の一人の男に声をかけた。
「おい。これは何の騒ぎだ?」
「ん?? いやー、オレもよく知らねーんだけど、なんか飲みながら腕相撲かなんかしてたらヒートアップしちまったらしくてな。喧嘩になっちまったらしいぜ」
「……なるほど、迷惑な。誰も止めないのか?」
「ははは、無理だろ。当人さんたちのガタイが良すぎる。ま、今さっき誰かが騎士団呼びに行ったみたいだし、大丈夫じゃねーかな」
男とそう話している間にも、喧嘩している二人が殴り合いを始めてしまった。
「……ハァ……、やはり私が止めるしかないか……」
「え? 無理じゃねーか? 絶対怪我するって。やめとけよ」
男からそう声をかけられたが、その言葉を無視して私は野次馬の中心へと足を踏み込んだ。
「……おい、お前たち。今すぐ喧嘩をやめろ」
「「あ゛あ゛ん??」」
「……なんだぁ? 兄ちゃん、邪魔すんのかぁ?!」
「そんな細っせぇ体じゃオレたちの相手にゃなんねーぞ!! すっこんでろ!!」
「……うるさい。いいから、喧嘩をやめろと言っているんだ」
「「ンだとぉ?? やんのかコラァ?!!」」
(……チッ。面倒な)
たしかにガタイは良い男たちだったが、相当酔いが回っているらしく、足はフラついていて動きも鈍い。建前上やめるよう声はかけたが、まぁ、最初から聞かないだろうなとも思っていた。
(マリーを待たせているし、さっさと済ませよう。……右からいくか)
私はそう思うと、ファイティングポーズをとる男たちに普通に歩いて近付いて。
「……あ? ……っ!! ぐッ!! ……ガハッ!」
男たちが意表を突かれた表情をした瞬間、先ずは右の男の懐に入り、その人中に掌底を打ち込んだ。
「な?! ……クソッ!!」
(次は左)
「ゲェッッ!!!」
そして左にいた男が呆気にとられている内に、その鳩尾に肘を入れて沈める。
(……相手にもならん)
地面に転がる、顔を押さえて蹲ったり、腹を押さえて咳き込んだりしている男たち。それを見ながらタメ息を吐いていると、何やら野次馬の外が騒がしいことに気が付いた。
人集りが割れる。
騎士団が来たなと思っていれば、第一と第二を引き連れたオスカーが現れた。
「ハイハイハイハイ! どいたどいたー! さて! 喧嘩しているのはどい……んおっ?! アレク?! なんでここに? つか、なんだその髪!??」
「オスカーか。ちょうどいいところに来た。喧嘩していたのはコイツらで、……私が今止めた」
「は? え? ん???」
「詳しい話は周りにいた人たちに聞いてくれ。私の分は明日で頼む。……マリーを待たせてるんだ。私はもう行くぞ」
私はそう言うと、「え?! 団長?!」やら「は? 騎士団の団長って黒髪じゃねーの?」などという声を背に、マリーの元へと急いだ。
*
「すみません! 私、人を待ってるんです! ……ヤダ! 離して!!!」
マリーを待たせていたパン屋の近くまで戻ると、ジャムの袋を抱えながら二人の男に囲まれている彼女が見えて、そう叫ぶ彼女の声が聞こえた。
「……私の連れに何をしている?」
彼女の側を離れた自分が悪いとは分かっていたが、愛しい女性に男が集り、あまつさえ両側から手首や肩に手をかけている光景に、自分でも驚くほど低い声が出る。
「……!! アレク!!」
「あれー? お兄さんがカノジョの連れ? よかったー。ねぇねぇお兄さん、カノジョちょっと貸してよー」
「そーそー。こんなに可愛いコ、独り占めはダメだって。今日一日だけでいいからさー」
軽薄そうな見た目を裏切らない、軽薄そうな喋り方。それが癇に障り、話をするのも無駄と思えたので、二人を無視してマリーに「おいで」と声をかけたが、男たちが彼女を離さなかった。
(コイツら……)
二対一という構図に調子に乗っているのか。ニヤニヤしながら「「ダメー」」と言う男たちに殺意すら覚えて、さっさと沈めてしまおうと距離を縮めようとした、その時。
「離してよ!!!」
マリーがそう叫びながら、掴まれていた右手を一瞬で振り解き、彼女の左側にいた男の急所を思い切り蹴り上げた。
「ギャ!!!」
「なっ??! ……こっの!!」
仲間がやられてしまい、キレたのだろう。彼女の右側にいた男が、彼女の頭を掴もうと手を伸ばしたのが見えた瞬間。
ゾッとするほどの冷たい感覚が一瞬で身体中を駆け巡り、……気付けば、私は男の喉を掴んでいた。
「……喧嘩を売るなら相手を見たほうが良いぞ」
「ひっ! ……ッ、カハッ! ゲホッゲホッ!」
殺気を混ぜながら男にそう言った後、喉に掛けていた手を離す。
「……行こう。マリー」
私はマリーが持っていたジャムの袋を受け取り、彼女の手を掴んで歩き出したのだった。
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