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第45話
しおりを挟む「万里、お誕生日おめでとー!!」
「ありがとー!!!」
「「かんぱーい!」」
今日は私の21才の誕生日。今年も知佳の家でケーキを食べようと、二人で予定を合わせていた。
「えーと、私の5才の誕生日からだから、十六……、十七回目か!」
「短いような、長いような……」
「毎年ありがとうございます」
「って、このやり取りも何回目よ」
「あはは」
そんな風に笑い合いながら、二人でケーキにフォークを入れる。
「んー。美味しいっ! さすが知佳オススメ!」
「久しぶりにチョコもいいかなって思ってね。甘さ控えめで、ビターな感じが大人な味でしょ」
「うんうん! このほろ苦い感じ、堪らなーい! いくらでも食べられそうっ!」
知佳が選んで買ってきてくれたバースデーケーキは、長方形の濃厚なチョコレートケーキだった。ふわふわのチョコスポンジと、ちゃんと甘さのあるチョコクリーム、そして苦味の効いた生チョコが層になっていて、その絶妙なハーモニーがとても美味しいやつである。
「それにしても良かったの? 今日、私と過ごしちゃって。……その、智也先輩? が、祝ってくれるんじゃなかったの?」
私が夢中で頬張っていれば、知佳が少し首を傾げて聞いてきた。
「あー、うん。それがね……」
「え、何、ケンカ?」
「ちがうちがう。最初は祝ってくれるって言ってくれてたんだよ。でも、毎年知佳とケーキ食べてるって話をしたら、じゃあ、今年まで遠慮するって言われちゃって……」
「へぇー。今年『まで』?」
その言葉に私が黙って頷くと、知佳がニヤリとした。
「じゃあ来年は先輩とだね。社会人になったカレとって事かー。へぇー、いいねー」
「なによぉ。知佳だって来年の誕生日は涼先輩と過ごすんでしょう? 涼先輩だって来年は社会人じゃん」
「そうだけどさ。……はぁー。じゃ、万里の誕生日を一緒に過ごすのは今年で最後か。寂しいわね」
「ニヤニヤしながら寂しいって言われても……」
「まあまあ。寂しいのは本当だよ? でも、それ以上に、万里に良い人が見つかって良かったなって思ってる訳よ」
知佳から頭をヨシヨシしながらそう言われて。
「えっと、じゃあ、……イヴは? 今年は私がいなくても大丈夫そう?」
その後に続いた心配そうな声には、胸がすこしキュッとする。
「……うん。先輩がその日は一緒にいたいって言ってくれてて。それ以外でも、しんどい時は一緒にいるから絶対言えって、言ってもらってる」
「……そっか……。うんうん、大事にされてるね。良かった」
知佳のホッとしたような声と、どこか寂しさの混じる笑顔。
「あ、たぶんそうなるかと思って、ウチはお母さんと予定を合わせて行くことにしてあるから、当日は行けないかも」
「うん、分かった。ありがと……」
私がそう答えれば、知佳の手は私の頭をポンポンとしてから離れていった。
同じタイミング。どちらからともなくフォークを持つ手をケーキに伸ばす。目が合えば、私たちは自然と笑い合った。
(ああ、本当に……)
私たちはずっとこんな風に一緒にいたのだと、改めて思う。
ケンカだっていっぱいしたし、もう絶交だって叫んだことだってあったけど。一日も経たずに泣いて謝って。側にいて、想い合って、笑い合って。
確かに、一緒にいる時間が減ってきてはいるけれど。それだって互いの成長が故なのだと素直に思える程、私たちは共に時を重ね、芯で繋がっている。
(私の幼なじみが、知佳で良かった……)
知佳だから、離れてもきっと大丈夫だと思えるのだろう。
そうきっと、知佳だから。知佳だから、会えばいつも変わらず笑い合えるのだ。
そしてそれは、この先もずっと――。
「ね。もしかしてさ、プロポーズとかされちゃうんじゃない?」
それでも、寂しいものは寂しいものだけど。などと、少ししんみりした気持ちで再びケーキを突いていれば、不意に、知佳がそんなことを言い出した。
「へ?」
急ハンドルな話題の転換に、一瞬、目が点になる。
「な、なんで?」
「んー、……なんとなく?」
「まさか! ないない!」
「え、嫌なの? プロポーズ」
「そんなことない!! ……けど……、ほら、私たちまだ学生だし……」
「むこうは来年から社会人じゃん」
「や、そうだけど!! ……エ、エッチだってまだなんだよ?」
自分で言って、恥ずかしさに顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
「話を聞いてるイメージじゃ、それこそ万里を大事にしてるからっぽいけどねー? それか、イヴに……」
「ひーーー! 何言ってるの知佳! め、命日! 不謹慎!!」
「そうかなぁ……? 私はいいと思うよ? おじさんは分からないけど、おばさんは応援してると思う」
「…………」
「ま、とりあえずイヴかどうかは置いといてもさ。そろそろはそろそろなんじゃない? あ、前も言ったけど、ゴムはしっかり付けてもらいなね」
「……ハイ」
「うむ。よろしい」
先輩と知り合って一年と少し、付き合い始めて半年が経とうとしているのだ。知佳の言う通り、そろそろ先輩とそういう関係になってもおかしくは無いだろう。
それに、正直なところ、キスをする度に好きだという気持ちが溢れ、先輩が欲しくなってしまうのだ。続きを期待してしまう自分がいる。
私が先輩のモノだと確かめさせてほしいと。
先輩が私のモノだと確かめさせてほしいと。
もしかしたら、初めての恋にただ舞い上がっているだけかもしれないと思っても。
それでも、今の私には先輩以外との未来は考えられないのだと。『運命の人』とか軽々しく言うつもりはないが、そうであってほしいと、この恋に永遠があればいいと心から願い、求めてしまう。
「っていうか、ウチらも将来のこと考えないといけないねー」
知佳がパクリとケーキを食べながら言う。
少しずつ、でも確実に目の前のチョコレートケーキは小さくなっていた。
「知佳は大学に残りたいって前に言ってなかったっけ?」
「うーん、まだ悩み中。万里は就職だよね?」
「うん。今はまだ支えられてばっかりだけど、ちゃんと就職して、自立して、私も先輩を支えられるようになりたいの」
「なるほど。……ちゃんと前向けるようになってきたんだね」
「……うん。知佳のおかげ」
「へ? 先輩のおかげでしょ?」
その言葉に、私はフォークをお皿に置くと知佳のすぐ側まで行き、正座をして知佳を見た。
「もちろん、先輩もなんだけどね……」
と、私が喋り始めれば、知佳も慌てた様子で正座をする。
何というか、知佳のこういうところが私は大好きだなと、改めて思った。
「……あのね、知佳。私、知佳がずっと側にいてくれて、支えてくれたから今の私があると思ってるよ。知佳がいなかったら私たぶんダメになってたし、それこそ恋愛どころじゃなかったと思う。
だからね、知佳。……ありがとう、ずっと私の側にいてくれて。ほんとに、本当に救われた。今まで助けてもらった分ちゃんと返せるように私頑張るから。……これからも、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、ふわりと知佳の腕が背中に回る。
キュッと抱き締め返せば、耳元で、スンッと知佳が鼻を啜る音がした。
「……もう。泣かせないでよぅ。……気にしないでいいんだよ。大事な幼なじみじゃん。辛い時に側にいるのは当然でしょ? 私だって辛い時に万里が側にいてくれて助かったこといっぱいあったんだから。だから、返すとかも考えなくていいんだよ」
「知佳……」
「これからも何かあったらちゃんと側に行くから。先輩さんに泣かされた時は、すぐに私に言ってね? 私が引っ叩いてやるんだから」
「ふふっ。……ありがとう、知佳。私も側に行くよ。……大好き」
「私も万里のこと大好き。……就職とか、結婚とか、これからは別々の道を進むかもしれないけど、お互い幸せになろうね」
「……うん」
絶対ね、と言い合った私たちは、その後チョコレートケーキが無くなってもずっと、泣き笑いながら語り続けたのだった。
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