【本編・改稿版】来世でも一緒に

霜月

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第22話 閑話*メイドとコックの立ち話

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【 Side サラ 】


 マリアンヌ様とコックのポールさんと一緒に、旦那様への差し入れを作った後のこと。私は旦那様への書斎へはついて行かず、ポールさんと共にマリアンヌ様を笑顔で送り出した。


「……キスぐらいはしますかね?」

 マリアンヌ様が見えなくなったところで、私は横にいるポールさんへとそう尋ねる。

「……するんじゃないか? 書斎にこもって仕事中、疲れた頃に可愛い可愛い婚約者からの差し入れだぞ? しかも部屋で二人きりだ。しないほうがオカシイ。……というか、え、キスもまだなのか?」

 今度はポールさんが驚いた表情で聞いてきた。

「どうやらそうっぽいんですよねー。旦那様は日中お仕事で屋敷に居られないじゃないですか。だから、朝食の時か、お休みの日ぐらいにしかマリアンヌ様と一緒になる時間がなくて……」

「でも、それにしたってキスもまだなんて。旦那様は奥手でいらっしゃる?」

 更に今度は眉間みけんしわを寄せて聞いてくる。

「うーん、いいえ。私が見てきた限りはそんな事はないと思います」

 旦那様は結構、触れたがりな印象だ。
 事あるごとにマリアンヌ様の髪や頬、耳に触っている気がする。

 まぁ、私としては、旦那様のその気持ちも分からなくはない。

 マリアンヌ様の柔らかくつややかな髪は、見ているだけで触ったら気持ち良さそうだと思わせるし。実際、サラサラしていて気持ち良い。
 ちなみに、毎朝私がくしを通させていただいているのだが。その時の、気持ち良さそうに目を閉じてわずかに微笑むマリアンヌ様のあの顔といったら、正直もう堪らない可愛さだ。

 それに、いつもは完璧な令嬢スマイルを浮かべているマリアンヌ様の照れて慌てる姿は、庇護欲をかき立てられるし、真っ赤に染まった頬や耳は可愛い過ぎる。

 思わず手を伸ばしてしまうのも仕方がない事だろう。

「以前は女嫌いなんて噂が流れてましたけど。あれはただ単に、気になる女性に出会わなかっただけなんだと分かりました」

「へぇ?」

「旦那様って、本命には結構グイグイいくタイプなんだと思いますよ。今はたぶん、意識しているのか無意識かは分かりませんが、マリアンヌ様にペースを合わせてるんじゃないですかね」

「あー、たしかに。お嬢様ソッチ関係は初心うぶそうだもんな」

「そうなんですよ! 分かります?! いつもは貴族のお嬢様らしいりんとした雰囲気をまとってらっしゃるのに、旦那様がちょっと攻めるとすぐ赤くなっちゃって! でもそこが! 普段とのギャップもあって! すっごく可愛いんですぅぅ!!!」

 思わず鼻息荒く力説してしまう。

「まぁ、あとは、これは私が悪いんですけどね! ちょっと困った顔をしたマリアンヌ様から、頬を染めつつ、アレク様と二人きりは緊張してしまうわ、なんて言われたら! そんなの側にいなきゃと思うじゃないですか! なかなか二人きりにすることが出来なかったんですよぉぉ!!」

 もはや興奮しすぎて涙目だ。

「わかったわかった! わかったから、急にスイッチ入れるなよ!」

 ポールさんから肩を叩かれる。

 ちょっと冷静になった。

「あーでも、そんなに可愛いお嬢様に、セーブしている旦那様か。……タガが外れたら大変そうだな」

「タガですか。……キスしたら外れちゃいますかね?」

「……分からん。でも、まぁ、旦那様は置いておいて。お嬢様は本当に決まった相手とじゃなきゃ絶対キスとかしないタイプだろ。……そのお嬢様とキスなんてしちまったら、あー、……外れるかもな」

「デスヨネー!」

「……襲われてないといいが」

「え゛っ?! まさかそこまで?!」

「冗談だよ! 大丈夫だって! 旦那様を信じろ!」

「……むしろ余計に心配になってきたじゃないですか」

「だから大丈夫だって! 旦那様はお嬢様をとても大事にされてるんだろ? だったら絶対、お嬢様の気持ちを優先するさ。それに長くても結婚式までじゃないか。一年もない。ちゃんとお嬢様の心の準備ができるまで待たれると思うぜ?」

「……わかりました。旦那様の自制心とポールさんの言葉を信じます」

「そうそう、信じなさい。あーでも、旦那様、可愛い婚約者が近くにいるのに襲えないなんて、お預け状態もいいところだな。同じ男として同情するよ。これからは二人の時間を増やして、少しでもいいからガス抜きさせてあげてくれ。その方が後々のお嬢様の為にもなる。……って、お? もうこんな時間か。じゃあ、俺は夕食の準備があるから。サラも持ち場に戻れよ」

 ポールさんはそういうと、ヒラヒラと手を振ってキッチンへと入っていった。

(二人の時間を増やしてガス抜きか。……確かに、そろそろマリアンヌ様もそういう触れ合いに慣れていったほうが良いものね)

 私はタメ息をきながらそう思い直すと、マリアンヌ様がおられない間に掃除を終わらせるべく、そのお部屋へと急いだのだった。
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