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34話
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子供が増えれば増えるほど、毎日が賑やかに慌ただしく過ぎていった。
富子達の事も遠い昔の記憶となり、幾つもの季節が巡るたび、幼かった旬介達も大人びた顔付きへと変わっていった。
すると、流石に屋敷も狭くなった。
そろそろ、この生活も潮時だと思った。
そして、葛葉と晴明と蜃は話し合い、里をまとめるべく皆を集めた。
「そろそろ、この生活を終えようと思うのだ」
皆がざわついた。
「案ずるな。これから、今後の事を話すぞ。これは、お前らが小さかった頃から決めていた話だ。強いていえば、まだ旬介が寝小便垂れとったころかな」
「いらんこと、言わんといてください」
「これから、この里に屋敷を5つ建てるつもりだ。屋敷が出来次第、それぞれその屋敷に移住せよ」
蜃が、大きな紙に描いた図面を広げた。そこには、5つに分類された里に、点が6つ付けられていた。
「このように、里を5つに分ける。それぞれ、麒麟領に旬介、青龍領に紗々丸、朱雀領に藤治、白虎領に獅郎が住まう。玄武領には甲蔵(こうぞう)が住むことになるが、まだこの子は幼いからしばらくは私が晴明と共にそこに住まう。そして、中心の屋敷には蜃が住まい、最終的には私と晴明もそちらに移ることになる」
ここまで聞いて、手を挙げたのは新月だった。何故なら、名前を呼ばれなかった女子は、新月の他にもこの場に夢路含めまだ4人いた。
「女子である私達は?」
誰もが、新月の顔を見た。
「それぞれ、好きな男の屋敷に行くが良い。そこで、男を支える役目をするのだ。私は誰の元に行けと強要せぬ。自分等で考えるがいい」
更に、その場はざわついた。
「まだ時は十分にある。ゆっくり互いに話し合い決めろ」
そして、葛葉からの一方的かつ無茶にも思える話は終わった。
散歩がてら屋敷を抜け、男と女に別れ、男は山の方へとふらふら歩きながら、全員でぶつぶつ話し合いを始めた。
確かに、いい歳した男子と女子が集まるには今の屋敷は狭すぎる。それに、それなりに性的な部分もとっくに目覚めてはいるのだ。
「あれは、夫婦になれということなのだろうか。まだ、14だぞ」
「夫婦になれということなんだろうな」
「あれは、女子に選ばせると言う意味なのだろうか」
「話し合えと言われたのだから、そういう意味でもないんではないか」
葛葉の意味深な言葉に、男共は困惑していた。
「じゃあ、俺は子供の頃から新月って決めているから」
旬介が、さらっと言った。
「寝小便垂れてた時に決めた事など、覚えているのか?」
紗々丸が笑いながら、からかった。
「お前だって、人のこと言えんだろが! 俺が知ってる限り3回はあるぞ」
「お前はもっとあるだろー」
ゲラゲラ笑う紗々丸とぷりぷり怒る旬介を宥めるのは、いつの間にか藤治の役目。
「もう、こんな時にやめなよ。寝小便くらい子供の頃、誰だってするでしょ。それより、新月に話して断られたらどーすんのさ。明らかに新月が好きなのは、蜃様だと思うけど」
旬介が、愕然とした。
「どーしよ?」
目にうっすら涙すら浮かんでいる。
「知らないよー。俺だってどうしようか考えてるんだもん」
すると、獅郎が言った。
「俺は薫風(くんぷう)にするよ。付き合ってるんだ」
「は?」
全員が声を合わせた。薫風は甲蔵が来た後直ぐに里に来た娘であった。獅郎とのんびりした性格が合うのか、1番仲が良く、よく甲蔵の面倒を2人で見ていた。
「将来は夫婦になるつもりだったし。丁度いいや」
3人は、獅郎にしっしっと追いやるように無言で手の甲を振った。
「それで言ったら、紗々丸は竜子と仲がいいじゃん。いつも騒いでる」
竜子もまた、薫風と同じ時期に里に来た娘だった。何の因果か、この娘は紗々丸と同様に異人の子であったが、両親ともに異人であったという。それ故に、両親は殺されてしまった哀れな娘であった。
「あれは、喧嘩してるの! 仲良くないの!! わかる?」
「じゃあ、嫌いなの? おっぱい大きいのに」
旬介が、胸のところで半円を描いて見せた。
「それじゃ、俺がおっぱい目当てみたいじゃんかよ! うるさいんだよ、あの女。毎日毎日、朝起きろとか。早く飯を食えだの」
「いや、普通だと思うが。寧ろ、親切だろ。そのまま寝てたら、蜃様にどつかれるんだから」
藤治が、呆れて言った。
「じゃあ、藤治はどうすんだよ?」
「残った人でいいよ……」
「その言い方も酷くねーか?」
「……華炎(かえん)になると思ってるから」
華炎は薫風と竜子の後、暫くして戦で終われ、逃げてきた娘である。周りより少し幼かったせいもあり、既に獅郎と薫風が共にいたため、面倒を見ていたのが藤治であった。華炎曰く、藤治は病で亡くなった大好きだった兄によく似ているそうだ。それゆえか、よく懐いていた。
「結局は、俺と旬介だけじゃねーか。残り物は!」
再び、藤治が呆れた。
「明らかに竜子はお前を好いとるだろうが。諦めて嫁にしてやれ」
となれば、本当の残りは旬介だけになってしまう。
「やっぱり、新月は兄上を選ぶのだろうか……」
旬介から、深い溜め息が出た。
*****
山に歩いていった男達とは反対に、新月達は里の人気甘味屋に向かっていった。いつの時代も、女子会と言えばコレである。
「このお店、この前オープンしたばかりで、1度来てみたかったのよね。南蛮盛り(※パフェ)ってのが、人気らしいの!」
流行りの情報に敏感な竜子が、皆を先導して来た。
「座れるかな?」
うきうきしながら新月が暖簾を潜ると、店内に丁度5人分の席が空いていた。
「いらっしゃい」
甘い良い匂いがした。全員で南蛮盛りを注文した。
「でさ、葛葉様のお話なんだけど。どうする? 薫風は獅郎なのかな、だとしたら愛路はどうするの?」
得意のゴシップネタをまとめるのも竜子である。
「私は、兄上の代わりに甲ちゃんと暮らします。そう、葛葉様にお願いするつもりです。夫とかわからないけど、私は甲ちゃんとずっと一緒にいたいから」
愛路は、知らぬ間にいなくなっていった幼い頃の兄弟を思い出していた。
「あたしも、藤治って決めてる!」
「華炎、大好きだもんね」
今度は、新月が竜子に聞いた。
「竜子は、やっぱり紗々丸かな」
それまでわくわくしながら話していた竜子の顔が真っ赤になった。竜子の恋愛相談を、新月は何度も聞いていた。
「……でもあいつ、多分やだって言うよ。私より、新月の方が好きだもん。新月こそ、どうするの? 旬介? 蜃様?」
今度は新月の顔が、真っ赤になった。
「蜃様は、私なんか相手にしてくれないよ! 蜃様の奥さんになるはずだった人、すっごく、すっごく素敵な人だったんだから!!」
「でも、新月だって。もう子供じゃないじゃない」
新月が、息とともに、ぐっと言葉を飲み込んだ。どうにもならない気持ちがある。
「まだ、子供だって言われるよ……」
言われた時が辛いのだ。
「そうかなあ」
「それに……」
そこまで言って、新月は何でもないとやめた。旬介との約束を、ずっと覚えていたから。
*****
「ただいま」
と、帰ってきたのは新月達だった。
「ん? 男共と一緒ではなかったのか?」
葛葉の疑問に新月が答えた。
「山の方に行きましたよ。お腹が空いたら帰ってきますよ」
「まもなくか」
葛葉が笑いながら、足を洗う用意を置いて去っていった。
しかし、夕餉を食べ終えた頃にも戻っては来ない。
流石におかしいと思い、蜃が探しに行こうと家を出ようとしたところで、獅郎1人が飛び込んできた。
「なんだ、獅郎1人か。他の奴らはどうした?」
よく見れば、獅郎の顔面は真っ青である。
「旬介と紗々丸が……藤治は止めようとしてたし……俺は興味なかったから待ってただけだったんだけど……。あれは、ダメなことだったと思う」
「何があったのだ? 神社に……神社に、鬼が出た」
蜃の頭が真っ白になり、全身から血の気が引くのがわかった。
*****
富子達の事も遠い昔の記憶となり、幾つもの季節が巡るたび、幼かった旬介達も大人びた顔付きへと変わっていった。
すると、流石に屋敷も狭くなった。
そろそろ、この生活も潮時だと思った。
そして、葛葉と晴明と蜃は話し合い、里をまとめるべく皆を集めた。
「そろそろ、この生活を終えようと思うのだ」
皆がざわついた。
「案ずるな。これから、今後の事を話すぞ。これは、お前らが小さかった頃から決めていた話だ。強いていえば、まだ旬介が寝小便垂れとったころかな」
「いらんこと、言わんといてください」
「これから、この里に屋敷を5つ建てるつもりだ。屋敷が出来次第、それぞれその屋敷に移住せよ」
蜃が、大きな紙に描いた図面を広げた。そこには、5つに分類された里に、点が6つ付けられていた。
「このように、里を5つに分ける。それぞれ、麒麟領に旬介、青龍領に紗々丸、朱雀領に藤治、白虎領に獅郎が住まう。玄武領には甲蔵(こうぞう)が住むことになるが、まだこの子は幼いからしばらくは私が晴明と共にそこに住まう。そして、中心の屋敷には蜃が住まい、最終的には私と晴明もそちらに移ることになる」
ここまで聞いて、手を挙げたのは新月だった。何故なら、名前を呼ばれなかった女子は、新月の他にもこの場に夢路含めまだ4人いた。
「女子である私達は?」
誰もが、新月の顔を見た。
「それぞれ、好きな男の屋敷に行くが良い。そこで、男を支える役目をするのだ。私は誰の元に行けと強要せぬ。自分等で考えるがいい」
更に、その場はざわついた。
「まだ時は十分にある。ゆっくり互いに話し合い決めろ」
そして、葛葉からの一方的かつ無茶にも思える話は終わった。
散歩がてら屋敷を抜け、男と女に別れ、男は山の方へとふらふら歩きながら、全員でぶつぶつ話し合いを始めた。
確かに、いい歳した男子と女子が集まるには今の屋敷は狭すぎる。それに、それなりに性的な部分もとっくに目覚めてはいるのだ。
「あれは、夫婦になれということなのだろうか。まだ、14だぞ」
「夫婦になれということなんだろうな」
「あれは、女子に選ばせると言う意味なのだろうか」
「話し合えと言われたのだから、そういう意味でもないんではないか」
葛葉の意味深な言葉に、男共は困惑していた。
「じゃあ、俺は子供の頃から新月って決めているから」
旬介が、さらっと言った。
「寝小便垂れてた時に決めた事など、覚えているのか?」
紗々丸が笑いながら、からかった。
「お前だって、人のこと言えんだろが! 俺が知ってる限り3回はあるぞ」
「お前はもっとあるだろー」
ゲラゲラ笑う紗々丸とぷりぷり怒る旬介を宥めるのは、いつの間にか藤治の役目。
「もう、こんな時にやめなよ。寝小便くらい子供の頃、誰だってするでしょ。それより、新月に話して断られたらどーすんのさ。明らかに新月が好きなのは、蜃様だと思うけど」
旬介が、愕然とした。
「どーしよ?」
目にうっすら涙すら浮かんでいる。
「知らないよー。俺だってどうしようか考えてるんだもん」
すると、獅郎が言った。
「俺は薫風(くんぷう)にするよ。付き合ってるんだ」
「は?」
全員が声を合わせた。薫風は甲蔵が来た後直ぐに里に来た娘であった。獅郎とのんびりした性格が合うのか、1番仲が良く、よく甲蔵の面倒を2人で見ていた。
「将来は夫婦になるつもりだったし。丁度いいや」
3人は、獅郎にしっしっと追いやるように無言で手の甲を振った。
「それで言ったら、紗々丸は竜子と仲がいいじゃん。いつも騒いでる」
竜子もまた、薫風と同じ時期に里に来た娘だった。何の因果か、この娘は紗々丸と同様に異人の子であったが、両親ともに異人であったという。それ故に、両親は殺されてしまった哀れな娘であった。
「あれは、喧嘩してるの! 仲良くないの!! わかる?」
「じゃあ、嫌いなの? おっぱい大きいのに」
旬介が、胸のところで半円を描いて見せた。
「それじゃ、俺がおっぱい目当てみたいじゃんかよ! うるさいんだよ、あの女。毎日毎日、朝起きろとか。早く飯を食えだの」
「いや、普通だと思うが。寧ろ、親切だろ。そのまま寝てたら、蜃様にどつかれるんだから」
藤治が、呆れて言った。
「じゃあ、藤治はどうすんだよ?」
「残った人でいいよ……」
「その言い方も酷くねーか?」
「……華炎(かえん)になると思ってるから」
華炎は薫風と竜子の後、暫くして戦で終われ、逃げてきた娘である。周りより少し幼かったせいもあり、既に獅郎と薫風が共にいたため、面倒を見ていたのが藤治であった。華炎曰く、藤治は病で亡くなった大好きだった兄によく似ているそうだ。それゆえか、よく懐いていた。
「結局は、俺と旬介だけじゃねーか。残り物は!」
再び、藤治が呆れた。
「明らかに竜子はお前を好いとるだろうが。諦めて嫁にしてやれ」
となれば、本当の残りは旬介だけになってしまう。
「やっぱり、新月は兄上を選ぶのだろうか……」
旬介から、深い溜め息が出た。
*****
山に歩いていった男達とは反対に、新月達は里の人気甘味屋に向かっていった。いつの時代も、女子会と言えばコレである。
「このお店、この前オープンしたばかりで、1度来てみたかったのよね。南蛮盛り(※パフェ)ってのが、人気らしいの!」
流行りの情報に敏感な竜子が、皆を先導して来た。
「座れるかな?」
うきうきしながら新月が暖簾を潜ると、店内に丁度5人分の席が空いていた。
「いらっしゃい」
甘い良い匂いがした。全員で南蛮盛りを注文した。
「でさ、葛葉様のお話なんだけど。どうする? 薫風は獅郎なのかな、だとしたら愛路はどうするの?」
得意のゴシップネタをまとめるのも竜子である。
「私は、兄上の代わりに甲ちゃんと暮らします。そう、葛葉様にお願いするつもりです。夫とかわからないけど、私は甲ちゃんとずっと一緒にいたいから」
愛路は、知らぬ間にいなくなっていった幼い頃の兄弟を思い出していた。
「あたしも、藤治って決めてる!」
「華炎、大好きだもんね」
今度は、新月が竜子に聞いた。
「竜子は、やっぱり紗々丸かな」
それまでわくわくしながら話していた竜子の顔が真っ赤になった。竜子の恋愛相談を、新月は何度も聞いていた。
「……でもあいつ、多分やだって言うよ。私より、新月の方が好きだもん。新月こそ、どうするの? 旬介? 蜃様?」
今度は新月の顔が、真っ赤になった。
「蜃様は、私なんか相手にしてくれないよ! 蜃様の奥さんになるはずだった人、すっごく、すっごく素敵な人だったんだから!!」
「でも、新月だって。もう子供じゃないじゃない」
新月が、息とともに、ぐっと言葉を飲み込んだ。どうにもならない気持ちがある。
「まだ、子供だって言われるよ……」
言われた時が辛いのだ。
「そうかなあ」
「それに……」
そこまで言って、新月は何でもないとやめた。旬介との約束を、ずっと覚えていたから。
*****
「ただいま」
と、帰ってきたのは新月達だった。
「ん? 男共と一緒ではなかったのか?」
葛葉の疑問に新月が答えた。
「山の方に行きましたよ。お腹が空いたら帰ってきますよ」
「まもなくか」
葛葉が笑いながら、足を洗う用意を置いて去っていった。
しかし、夕餉を食べ終えた頃にも戻っては来ない。
流石におかしいと思い、蜃が探しに行こうと家を出ようとしたところで、獅郎1人が飛び込んできた。
「なんだ、獅郎1人か。他の奴らはどうした?」
よく見れば、獅郎の顔面は真っ青である。
「旬介と紗々丸が……藤治は止めようとしてたし……俺は興味なかったから待ってただけだったんだけど……。あれは、ダメなことだったと思う」
「何があったのだ? 神社に……神社に、鬼が出た」
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