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星に願いを-完結編-
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~成長~
翌朝、空はまだ暗い。そんな中、宇野真に叩き起こされた。
「謎でもなんでもなかった」
「?」
星の事を言ってるらしい。寝ぼけ眼で研究室に入っていく。
「かなり高度な技術が使用されてた。分子のレベルだぜ」
なんかようわからんが、とっても彼は楽しそうだ。宇野真の科学の授業は続けられる。
見てみろ、っと顕微鏡を覗くよう促すから、大人しくそれに従った。
そこにあったものは小学校ぐらいの時に記憶したような細胞らしきもので、蠢きながら分裂を続けていた。
「一晩でこれだけ増殖したんだ。それからこっち」
彼が別のプレパラートと入れ替えると、今度は鉄屑のようなものが映っていた。けれども、明らかに億ミリの世界だ。
「ナノマシーンだ」
「ナノ……」
彼は続ける。
「まず、青い石に入ってたのがさっきのやつだ。特殊な方法により、一つの細胞を分子レベルにまで生きたまま圧縮させた。それをまた特殊な技術で別の分子としてカモフラージュさせたんだ。つまり、石の分子を取り除いて、そこにさっき説明した偽の分子を組み込ませた。どの技術も今の科学では不可能に近いし、この短時間じゃ流石の俺でも暴ききれないがな。でも、この方法を編み出した奴はよほどの天才か……」
「もしくは気違いか?」
彼が鼻で笑った。
「それから今お前が見てるやつだが、それが赤い石の方に組み込まれてたやつだ。原理は青い石と同じでこっちは高性能のデータ保存機、つまりMOみたいなものだったんだ」
こいつも充分な天才、もしくは気違いだと思う。一晩でこれだけの事が解っただけでも凄い。充分だ。だが、宇野真は更に続ける。
「売ったら凄いぜ」
「売るのか?」
彼だけが知っている。
「売るもんか。俺なら買い取るね」
事実、それは値段に変えられないものだった。
それは、科学者としてだけではない。
人の何倍もの早さで老化する病気があるらしい。実際に映画にもなった話で、対応策はなく心や頭は子供のまま体だけ大人になってしまうのだ。そんな人間にも充分応用できるもの。ましてや普通の人間なら誰でも欲しがるものだろう。事実、僕だっていくら大金を積むことになっても手に入れたいと思う。
完璧でなければならない。
完璧を恐れ、石に閉じ込めた。
そう、それは永遠に完璧であってはならないから。
―封印だ。
「老化を伸ばすワクチンだ。ワクチンは細胞体であり、自分で増殖を繰り返す。人間だけにとどまらないが、クローン自体の寿命が短いことは知ってるな?なら若いうちに死なれては用途もひったくれもないと考えた奴がいた。そいつは、人の何倍もの早さで成長する生命体の研究をしていた。だが、それだけでは普通の状態と変わらない。だからこそこのワクチンを考案したんだ。早く若い時期を迎えさせ、そこでワクチンを注入して盛りの時期を延期させる。そこまでして始めて商品価値が見えてくる」
今更驚くことではないが、人を売るのだ。だがそれは商品にしか他ならない。人であって、人ではない。
「そしてどっかで間違いに気が付いたんだろう。決してやってはいけないこと、そして完全であってはならない事実」
決して人は、神にはなれない。
それらを石と共に小さなケースにしまうと、ポケットの中に突っ込んだ。
*****
よく寝ていた、と表現するのがピッタリかもしれない。目が覚めたときは、既に警察病院のベッドの上だった。ベッドの脇には忌々しい赤い薔薇の花束。
『FROM VIVACE』
隣のベッドではまだ姉さんが安らかな眠りについていて、起きてこの薔薇を見たら多分ヒステリーを起こすんじゃないかと思って部下に早々片付けさせた。
頭が痛いのは、公開処刑の時突如吹き付けられたスプレーのせいだろう。一瞬にして強烈な睡魔の中意識を失ったような記憶があって、あれは奴等お得意の睡眠スプレーだったんだろうと改めて頭を抱えた。
「……なんで辞めれないんだろう……」
いつだって思っていること。
数年前、エリートと呼ばれていい気になっていた。そこで引き受けたのがVIVACE捜査の責任者。すぐ捕まるものだと思っていたのに悉くやられて今ではこのザマだ。あそこまで完璧にやられては、犯罪というより寧ろ芸術だろう。
「プライド、捨てきれてないんでしょ?」
姉さんが言った。
「聞いてたの?」
「バリバリね」
プライドか……。そんなもん当に失った気がする。
「……完敗ね。皮肉にもお見舞いの薔薇まで貰っちゃってさ」
「知ってたの?」
「当たり前でしょ!」
無駄……だったのかも。
「ありがとうね」
姉さんにしては珍しい。礼なんぞ言われてしまった。
「私ね、警察官クビにされてもいいって思って、今回の計画実行したのよ」
「は?」
「明日帰国するの。来週結婚式だから」
普通に何も言えなかった。
*****
月が頭上を照らす頃、闇が地上を支配する時間。無機質な造りの研究所に忍び込んだ。
冷え切ったコンクリートの床に音もなく飛び降りた。
案の定、周りには赤外線警報装置が網の目のように張り巡らされていた。それにミラー版を使って、上手いこと反射させながら通路を作成していく。角度がほんの僅かでもズレれば全てはおじゃんだ。あらかじめ計算されたタイミングと角度、それから根気と職業柄鍛えられた勘が必要となる。
全員別ルートで手分けして爆弾を仕掛けて廻る。ルートは別だが、集まる場所は一緒だ。中央のモニタールーム。ここから全世界に向けての放送ジャックができるらしい。海賊放送みたいなもんだ。
仕掛けながら、ある一室に入った。
部屋の中に警報装置はなく、代わりに年老いたサルが眠っていた。サルは十匹いて、一匹一匹全て別の檻の中にいる。一つづつプレートが付けられていて、一日ごとずれた日付けが書き込まれていた。
「……何が砂漠で育つ野菜の研究だよ……」
臍が茶を沸かずぜ。
その部屋を出ると、すぐ目の前に中央のモニタールームは存在していた。ここも装置はなく、すんなりと侵入できた。
「ご苦労様」
モニタールームの椅子に男が後ろ向きに腰掛けていた。暗いので顔は見えないが、察しは付く。
「まぁ、こうなることは充分解っていたけどね」
「そう?」
男はくすくすと笑った。
「日本で僕をマフィアに追わせ、オアシスで車を爆破し、仲間を警察に捕まえさせるよう仕向け、更にこの研究所のオーナー。そうだろう?」
「流石だね」
「頭は子供、体は大人。皮肉なもんだな」
男は椅子から立ち上がり、振り向きくと一歩だけ近寄った。今度は顔がはっきりと見て取れる。不自然なぐらい、幼い表情を浮かべながら彼は笑っていた。
「おいたがすぎるぞ。ラシード!」
奴が静かに銃口を向けた。
「ワクチン、貰おうか?」
「厭だね」
否定してやった。
銃声が部屋中に響き渡る。僕の足元から硝煙が昇っていた。
「死んだ泥棒仲間に僕が出会ったときから…その前からお前の計画は既に始まっていたんだろ。僕等をハメて自分が助かる為の」
彼の顔がムッとした。
「だからなんだ?」
「赤い星のMO、お前のデータは見せてもらった。5歳の誕生日おめでとう!」
「嬉しくなんかないや!お前に言われたって!!」
子供は直ぐ感情的になる。
そして、影から人を引っ張り上げた。縄で手首を縛り付けられ、猿轡をはめられたパーランだった。ラシードは彼女のこめかみに拳銃を押し当てながら言った。
「オトナの取り引きの仕方ぐらい知ってるよ!」
「ちっ!?」
こうなったら、ガキは本気だ。ハッタリを知らないから厭になる。
「お前なんか大っ嫌いだ!なんで僕は生まれたんだ?なんでオトナになるんだ?オトナになんかまだなりたくないのにどんどんオトナ になってく。お前さえいなければ、きっとこんな風にならなかった。研究員の奴等が言ってた。それさえあれば、僕も普通の人と同じようになれるって」
更に力を込めて拳銃を押し当てた。
「そこに置け!!三つ数えるうちに!いーち…」
「わかったよ!!」
グチグチ五月蠅いやつだ。
言われた通り、二人の中間辺りにケース入りのワクチンを置いた。だが、指で触ったままだ。そして静かに言った。
「まず落ち着け。この指を離して僕は下がろう。ただし、同時にパーランをこっちに渡せ。約束しないとこれはやらない」
「…………」
「神に誓うよ。僕は何があっても君とワクチンに手は出さないから」
暫く間を置いてから、ラシードは頷いた。
「契約成立だ」
力が抜けたように見える。ワクチンを捨てるつもりもないし、パーランを殺させるつもりもない。だから、ほんの僅かでもいいから隙が欲しかった。
「せーの、で同時にだ」
「わかった」
「せーの!」
ラシードがパーランを左手で突き放し、右手で銃を握ったまますぐさまワクチンへと手を伸ばした。案の定僕なんか眼中になく、ワクチンだけを必死に掴もうと前のめりになった。
僕は彼女を受け取ると同時に、拳銃を取り出し容器の僅か外を狙ってワクチンを弾き飛ばした。彼が掴み損ねて床に手をつき、ワクチンはころころ隅に向かって転がっていった。
慌てて銃口を向けようと腕を引き上げるから、ついでに拳銃も弾き飛ばした。右手を押さえながら蹲り、僕を必死に睨み付けた。
「やっぱりお前なんか大っ嫌いだ!!嘘つき!」
「んー……、別に男に嫌われてもショックはないけどね。ただ君は二つ大切なことを忘れていたんだ。一つは敵から目を離してはいけないって事。もう一つは、僕が悪党であるって事だ」
あまり認めたくはない事実。けれども否定できない。
パーランのロープと猿轡を解き、自由にしてやった。彼女は呆然とラシードを見つめていた。
僕は少しづつ近づくと、彼の顔に催眠スプレーを吹きかけた。何のリアクションもなく、眠ってしまった。
「手を上げて!」
「!」
振り返ると、ラシードの銃を手にしたパーランが僕に狙いを定めたまま立っていた。
「彼から離れて。ラシードに何をしたの?」
「何って、何も。只少し、眠ってもらっただけ」
彼女は引き金に力を込めながら言った。仕方なく、僕も大人しく手を上げる。
「ワクチンを渡して」
「手を懐に突っ込んでもいいかい?」
「…………」
冷え切った研究室の中に、パーランの靴音だけが響き渡る。顎に、冷たい鉄の感触を味わった。か細い手が懐をかき回し、ワクチンのケースを抜き出した。
「探し物は見つかった?」
彼女の目が僕を睨み付けた。
「日本の恋人にサヨナラ言うのね」
「美女に殺されるなら、まだ本望だ。男よりはいいさ」
「余裕なのね」
一歩一歩下がりながら、拳銃が鳴った。しかし弾は拳銃と共に別の場所に吹き飛んだようで、同時に少し遅れて、カラン…という金属音が響いた。
「あっらぁ、ごめんなさい。デェトのお邪魔だったかしら」
蓮華だ。
「いえいえ」
パーランはラシードの前に駆け寄り、彼を庇うように立った。
「彼に手を出さないで」
「なら、僕から取ったもの返してもらいたいな」
「それは駄目」
『愛』ってやつだ。彼女は彼のために例え死んでもそれを渡さないだろう。
ぎゅっと、握りしめたままだ。
「彼にはこれが必要なの。貴方達には必要ないものでしょ?」
近くに宇野真もいたようで、彼がポツンといった。
「それはお前が決めることじゃない」
怯えるように立ち尽くすパーラン。
「何もしやしないよ。全部知ってたんだろ?彼がクローンだって事も子供だって事も。それから」
「この計画のこともね」
そして彼女は続ける。
「そうよ、何もかも知ってたわ。知って協力したの。彼にオトナとしてのマナーを教え、喋り方から動きまで全て演じるよう教え込んだ。そして彼を作ったのは私。赤い石の秘密に気が付いて、貴方のDNAをベースに作成したの。VIVACEのデータをラシードの脳に書き込んで良い様に使うつもりでいたわ。でも、皮肉にも愛情が生まれた。はじめは子供として、そして次第に恋人としてね。全てを知ってたからこそ怖かった、そして完璧にしたくなかった。彼は彼であり貴方であって欲しくなかったから。同時にめまぐるしいほど早すぎる時に怯えていたわ」
やはり、完璧であってはならないものだ。人間は人間であって、商品には決してなり得ない。
「……商品にはならない……どんな形であっても」
頬に光る筋がこぼれ落ちる。
宇野真が言った。
「当たり前だ」
そして、赤い星のデータの入ったケースを床に置いて火を点けた。
「封印?アホらしい。カタチある以上いつかは出てくる。なら消すまでだ」
メラメラ燃えるオレンジ色の炎は、白くに濁った煙を吐きながらそれを焼いていった。
「石だけで、充分だ。ただ、そいつは科学者として研究したい。サンプルさえあればいいんだ。ワクチンは増殖するから」
もったいない話だ。金に変えればかなりの金額だというのに。それでも、変えることなど出来ないものもあるけど。
宇野真は彼女に小さなスポイドとケースを渡した。パーランは疑うようにそれを受け取ると、その中にワクチンを二、三滴落として彼に返した。満足そうに受け取る、彼。
その晩、僕は研究所を破壊した。砂埃と共にそれは崩れ落ち、あっという間に砂の中に埋もれてしまった。
奇跡……と称された二つの星は、僕の手の中で一層輝きを放っている。僕等より先に願いをかけた者がいるんだ。そう、パーランとラシード。願いが叶ったから石は二人の元を離れたんだろうか。石を手放し不幸になったものばかりじゃなく、幸福のまま終わるものもいるだろう。
早すぎて、かけられない流れ星に願いを託すよりずっといい。
最後の月。
砂漠で見る最後の月は、冷たくはなく寧ろ暖かく思えた。
~僕の願い~
柔らかく揺れるカーテン。うかつにも窓が少し開いていた。暖かい木漏れ日が、観葉植物の緑に反射している。白い指にかかるのは読みかけの恋愛小説。静かに寝息を立てる姿を見て、クスリと笑った。
「ただいま」
キッチンで紅茶を入れて、新聞を広げた。大した記事など載っていなかったが、あのエジプトでの事件が小さく取り上げられていた。
『金髪のテロリスト失踪する』
愛の逃避行……か。
キッチンの扉が開き、驚いたようにショウリィが顔を出す。僕もそれに気がついて、にっこり笑いながら
「おはよう」
と声をかけてやった。
『ごめんなさい、私寝てしまったみたいで』
オロオロしながら音楽のない言葉で僕に伝える。
「いいよ、構わないさ。僕の方こそいつも待たせてすまなかったね」
『次のお仕事はいつ?』
「まだ解らないけど、暫くは一緒にいるよ」
ポケットからネックレスを取り出した。オアシスで購入したものだ。
「こっちにおいで」
彼女の首に飾ってやると、細い鎖から垂れ下がったぺリドットは小さく光りを放っていた。
「綺麗だよ」
彼女のキスは、いつだって優しく、甘い。
*****
一応結婚式にも呼ばれた。えらくごっつい男と並ぶ姉さんの姿を見て、なんだかよく解らない心境にいたる。ごっついが優しそうな男だ。白い歯がやたら眩しくもあるが。
「波奈!」
そう、一応VIVACE捜査員は皆呼ばれたようで、のほほんな刑事波奈がウェデングドレス姿の姉さんからブーケを投げられた。白い耳が間抜けだ。
「きゃっ!」
受け取ったのを確認して、また姉さんが叫ぶ。
「次は貴女でしょ?弟は内気ムッツリだから、頑張って押さなきゃ駄目よ!!」
…冗談にしてはきつい。思わず飲んでいたシャンパンを吹き出した。
ふともう姉さんとVIVACEを追う事もないんだと思ったら、不覚にも寂しくなって涙ぐんでしまった。そしたら
「一週間新婚旅行行ってくるわ。帰ったらまた、計画練りましょうね!VIVACE、絶対捕まえてやるわよ!!」
と、叫ぶから思わずズッコケた。
もういっそ家庭に収まってくれ……。
*****
「小ネタですけど、エミリーさんという婦警がご結婚なさったようですよ」
お得意様であり、友人であるポールが言った。上品な眼鏡の向こうの笑顔は、何となく意地悪そう。
「世の中物好きがいるもんだ。あんな男女のどこがいいんだかな」
彼が呆れたように苦笑して見せた。
「ところで、今回の戦利品をお見せしようじゃないか」
綺麗に織り込まれたベルベットのハンカチーフを二枚取り出してテーブルに置いた。一つは赤いの、一つは青いの。織りをめくっていくと、中から星が覗いた。
「また素晴らしいもので」
現れた星を愛撫するように見つめる、彼。
「君の趣味にピッタリなんじゃないかな?明日オークションがあるんだ。そこに出品しようかとも思ってる」
「意地悪ですね、ただの予定でしょ?」
「そう、予定は未定だ」
彼が無記名の小切手を切ってテーブルに置いた。
「二つとも頂きますよ。どちらが欠けても価値がない、そんな宝石なのでしょう」
「そうさ」
そして、ふと思い出す。
「取り扱いは要注意。願い事だけはかけてはいけないよ。星が流れてしまうから」
「ロマンチックですね」
僕も願いをかけた。
だから、今僕の手から石は離れてしまったのだ。でも決して不幸になるわけではない。傲慢な願い事をかけた訳ではないから。
―ショウリィが待っていてくれますようにー
エジプトの空からかけた願い。
最後に一つ、窓枠に仕切られた夜空の向こうに流れ星が現れたのを思い出した。
そして、ポールの家から帰る途中ふと月を見上げる。
「……今晩の夕飯はなんだろうな……」
そんな些細な事が幸せだと感じるのだ。だから、僕にあの星は必要ない。
一つ。また星が流れ、そして消えた。
翌朝、空はまだ暗い。そんな中、宇野真に叩き起こされた。
「謎でもなんでもなかった」
「?」
星の事を言ってるらしい。寝ぼけ眼で研究室に入っていく。
「かなり高度な技術が使用されてた。分子のレベルだぜ」
なんかようわからんが、とっても彼は楽しそうだ。宇野真の科学の授業は続けられる。
見てみろ、っと顕微鏡を覗くよう促すから、大人しくそれに従った。
そこにあったものは小学校ぐらいの時に記憶したような細胞らしきもので、蠢きながら分裂を続けていた。
「一晩でこれだけ増殖したんだ。それからこっち」
彼が別のプレパラートと入れ替えると、今度は鉄屑のようなものが映っていた。けれども、明らかに億ミリの世界だ。
「ナノマシーンだ」
「ナノ……」
彼は続ける。
「まず、青い石に入ってたのがさっきのやつだ。特殊な方法により、一つの細胞を分子レベルにまで生きたまま圧縮させた。それをまた特殊な技術で別の分子としてカモフラージュさせたんだ。つまり、石の分子を取り除いて、そこにさっき説明した偽の分子を組み込ませた。どの技術も今の科学では不可能に近いし、この短時間じゃ流石の俺でも暴ききれないがな。でも、この方法を編み出した奴はよほどの天才か……」
「もしくは気違いか?」
彼が鼻で笑った。
「それから今お前が見てるやつだが、それが赤い石の方に組み込まれてたやつだ。原理は青い石と同じでこっちは高性能のデータ保存機、つまりMOみたいなものだったんだ」
こいつも充分な天才、もしくは気違いだと思う。一晩でこれだけの事が解っただけでも凄い。充分だ。だが、宇野真は更に続ける。
「売ったら凄いぜ」
「売るのか?」
彼だけが知っている。
「売るもんか。俺なら買い取るね」
事実、それは値段に変えられないものだった。
それは、科学者としてだけではない。
人の何倍もの早さで老化する病気があるらしい。実際に映画にもなった話で、対応策はなく心や頭は子供のまま体だけ大人になってしまうのだ。そんな人間にも充分応用できるもの。ましてや普通の人間なら誰でも欲しがるものだろう。事実、僕だっていくら大金を積むことになっても手に入れたいと思う。
完璧でなければならない。
完璧を恐れ、石に閉じ込めた。
そう、それは永遠に完璧であってはならないから。
―封印だ。
「老化を伸ばすワクチンだ。ワクチンは細胞体であり、自分で増殖を繰り返す。人間だけにとどまらないが、クローン自体の寿命が短いことは知ってるな?なら若いうちに死なれては用途もひったくれもないと考えた奴がいた。そいつは、人の何倍もの早さで成長する生命体の研究をしていた。だが、それだけでは普通の状態と変わらない。だからこそこのワクチンを考案したんだ。早く若い時期を迎えさせ、そこでワクチンを注入して盛りの時期を延期させる。そこまでして始めて商品価値が見えてくる」
今更驚くことではないが、人を売るのだ。だがそれは商品にしか他ならない。人であって、人ではない。
「そしてどっかで間違いに気が付いたんだろう。決してやってはいけないこと、そして完全であってはならない事実」
決して人は、神にはなれない。
それらを石と共に小さなケースにしまうと、ポケットの中に突っ込んだ。
*****
よく寝ていた、と表現するのがピッタリかもしれない。目が覚めたときは、既に警察病院のベッドの上だった。ベッドの脇には忌々しい赤い薔薇の花束。
『FROM VIVACE』
隣のベッドではまだ姉さんが安らかな眠りについていて、起きてこの薔薇を見たら多分ヒステリーを起こすんじゃないかと思って部下に早々片付けさせた。
頭が痛いのは、公開処刑の時突如吹き付けられたスプレーのせいだろう。一瞬にして強烈な睡魔の中意識を失ったような記憶があって、あれは奴等お得意の睡眠スプレーだったんだろうと改めて頭を抱えた。
「……なんで辞めれないんだろう……」
いつだって思っていること。
数年前、エリートと呼ばれていい気になっていた。そこで引き受けたのがVIVACE捜査の責任者。すぐ捕まるものだと思っていたのに悉くやられて今ではこのザマだ。あそこまで完璧にやられては、犯罪というより寧ろ芸術だろう。
「プライド、捨てきれてないんでしょ?」
姉さんが言った。
「聞いてたの?」
「バリバリね」
プライドか……。そんなもん当に失った気がする。
「……完敗ね。皮肉にもお見舞いの薔薇まで貰っちゃってさ」
「知ってたの?」
「当たり前でしょ!」
無駄……だったのかも。
「ありがとうね」
姉さんにしては珍しい。礼なんぞ言われてしまった。
「私ね、警察官クビにされてもいいって思って、今回の計画実行したのよ」
「は?」
「明日帰国するの。来週結婚式だから」
普通に何も言えなかった。
*****
月が頭上を照らす頃、闇が地上を支配する時間。無機質な造りの研究所に忍び込んだ。
冷え切ったコンクリートの床に音もなく飛び降りた。
案の定、周りには赤外線警報装置が網の目のように張り巡らされていた。それにミラー版を使って、上手いこと反射させながら通路を作成していく。角度がほんの僅かでもズレれば全てはおじゃんだ。あらかじめ計算されたタイミングと角度、それから根気と職業柄鍛えられた勘が必要となる。
全員別ルートで手分けして爆弾を仕掛けて廻る。ルートは別だが、集まる場所は一緒だ。中央のモニタールーム。ここから全世界に向けての放送ジャックができるらしい。海賊放送みたいなもんだ。
仕掛けながら、ある一室に入った。
部屋の中に警報装置はなく、代わりに年老いたサルが眠っていた。サルは十匹いて、一匹一匹全て別の檻の中にいる。一つづつプレートが付けられていて、一日ごとずれた日付けが書き込まれていた。
「……何が砂漠で育つ野菜の研究だよ……」
臍が茶を沸かずぜ。
その部屋を出ると、すぐ目の前に中央のモニタールームは存在していた。ここも装置はなく、すんなりと侵入できた。
「ご苦労様」
モニタールームの椅子に男が後ろ向きに腰掛けていた。暗いので顔は見えないが、察しは付く。
「まぁ、こうなることは充分解っていたけどね」
「そう?」
男はくすくすと笑った。
「日本で僕をマフィアに追わせ、オアシスで車を爆破し、仲間を警察に捕まえさせるよう仕向け、更にこの研究所のオーナー。そうだろう?」
「流石だね」
「頭は子供、体は大人。皮肉なもんだな」
男は椅子から立ち上がり、振り向きくと一歩だけ近寄った。今度は顔がはっきりと見て取れる。不自然なぐらい、幼い表情を浮かべながら彼は笑っていた。
「おいたがすぎるぞ。ラシード!」
奴が静かに銃口を向けた。
「ワクチン、貰おうか?」
「厭だね」
否定してやった。
銃声が部屋中に響き渡る。僕の足元から硝煙が昇っていた。
「死んだ泥棒仲間に僕が出会ったときから…その前からお前の計画は既に始まっていたんだろ。僕等をハメて自分が助かる為の」
彼の顔がムッとした。
「だからなんだ?」
「赤い星のMO、お前のデータは見せてもらった。5歳の誕生日おめでとう!」
「嬉しくなんかないや!お前に言われたって!!」
子供は直ぐ感情的になる。
そして、影から人を引っ張り上げた。縄で手首を縛り付けられ、猿轡をはめられたパーランだった。ラシードは彼女のこめかみに拳銃を押し当てながら言った。
「オトナの取り引きの仕方ぐらい知ってるよ!」
「ちっ!?」
こうなったら、ガキは本気だ。ハッタリを知らないから厭になる。
「お前なんか大っ嫌いだ!なんで僕は生まれたんだ?なんでオトナになるんだ?オトナになんかまだなりたくないのにどんどんオトナ になってく。お前さえいなければ、きっとこんな風にならなかった。研究員の奴等が言ってた。それさえあれば、僕も普通の人と同じようになれるって」
更に力を込めて拳銃を押し当てた。
「そこに置け!!三つ数えるうちに!いーち…」
「わかったよ!!」
グチグチ五月蠅いやつだ。
言われた通り、二人の中間辺りにケース入りのワクチンを置いた。だが、指で触ったままだ。そして静かに言った。
「まず落ち着け。この指を離して僕は下がろう。ただし、同時にパーランをこっちに渡せ。約束しないとこれはやらない」
「…………」
「神に誓うよ。僕は何があっても君とワクチンに手は出さないから」
暫く間を置いてから、ラシードは頷いた。
「契約成立だ」
力が抜けたように見える。ワクチンを捨てるつもりもないし、パーランを殺させるつもりもない。だから、ほんの僅かでもいいから隙が欲しかった。
「せーの、で同時にだ」
「わかった」
「せーの!」
ラシードがパーランを左手で突き放し、右手で銃を握ったまますぐさまワクチンへと手を伸ばした。案の定僕なんか眼中になく、ワクチンだけを必死に掴もうと前のめりになった。
僕は彼女を受け取ると同時に、拳銃を取り出し容器の僅か外を狙ってワクチンを弾き飛ばした。彼が掴み損ねて床に手をつき、ワクチンはころころ隅に向かって転がっていった。
慌てて銃口を向けようと腕を引き上げるから、ついでに拳銃も弾き飛ばした。右手を押さえながら蹲り、僕を必死に睨み付けた。
「やっぱりお前なんか大っ嫌いだ!!嘘つき!」
「んー……、別に男に嫌われてもショックはないけどね。ただ君は二つ大切なことを忘れていたんだ。一つは敵から目を離してはいけないって事。もう一つは、僕が悪党であるって事だ」
あまり認めたくはない事実。けれども否定できない。
パーランのロープと猿轡を解き、自由にしてやった。彼女は呆然とラシードを見つめていた。
僕は少しづつ近づくと、彼の顔に催眠スプレーを吹きかけた。何のリアクションもなく、眠ってしまった。
「手を上げて!」
「!」
振り返ると、ラシードの銃を手にしたパーランが僕に狙いを定めたまま立っていた。
「彼から離れて。ラシードに何をしたの?」
「何って、何も。只少し、眠ってもらっただけ」
彼女は引き金に力を込めながら言った。仕方なく、僕も大人しく手を上げる。
「ワクチンを渡して」
「手を懐に突っ込んでもいいかい?」
「…………」
冷え切った研究室の中に、パーランの靴音だけが響き渡る。顎に、冷たい鉄の感触を味わった。か細い手が懐をかき回し、ワクチンのケースを抜き出した。
「探し物は見つかった?」
彼女の目が僕を睨み付けた。
「日本の恋人にサヨナラ言うのね」
「美女に殺されるなら、まだ本望だ。男よりはいいさ」
「余裕なのね」
一歩一歩下がりながら、拳銃が鳴った。しかし弾は拳銃と共に別の場所に吹き飛んだようで、同時に少し遅れて、カラン…という金属音が響いた。
「あっらぁ、ごめんなさい。デェトのお邪魔だったかしら」
蓮華だ。
「いえいえ」
パーランはラシードの前に駆け寄り、彼を庇うように立った。
「彼に手を出さないで」
「なら、僕から取ったもの返してもらいたいな」
「それは駄目」
『愛』ってやつだ。彼女は彼のために例え死んでもそれを渡さないだろう。
ぎゅっと、握りしめたままだ。
「彼にはこれが必要なの。貴方達には必要ないものでしょ?」
近くに宇野真もいたようで、彼がポツンといった。
「それはお前が決めることじゃない」
怯えるように立ち尽くすパーラン。
「何もしやしないよ。全部知ってたんだろ?彼がクローンだって事も子供だって事も。それから」
「この計画のこともね」
そして彼女は続ける。
「そうよ、何もかも知ってたわ。知って協力したの。彼にオトナとしてのマナーを教え、喋り方から動きまで全て演じるよう教え込んだ。そして彼を作ったのは私。赤い石の秘密に気が付いて、貴方のDNAをベースに作成したの。VIVACEのデータをラシードの脳に書き込んで良い様に使うつもりでいたわ。でも、皮肉にも愛情が生まれた。はじめは子供として、そして次第に恋人としてね。全てを知ってたからこそ怖かった、そして完璧にしたくなかった。彼は彼であり貴方であって欲しくなかったから。同時にめまぐるしいほど早すぎる時に怯えていたわ」
やはり、完璧であってはならないものだ。人間は人間であって、商品には決してなり得ない。
「……商品にはならない……どんな形であっても」
頬に光る筋がこぼれ落ちる。
宇野真が言った。
「当たり前だ」
そして、赤い星のデータの入ったケースを床に置いて火を点けた。
「封印?アホらしい。カタチある以上いつかは出てくる。なら消すまでだ」
メラメラ燃えるオレンジ色の炎は、白くに濁った煙を吐きながらそれを焼いていった。
「石だけで、充分だ。ただ、そいつは科学者として研究したい。サンプルさえあればいいんだ。ワクチンは増殖するから」
もったいない話だ。金に変えればかなりの金額だというのに。それでも、変えることなど出来ないものもあるけど。
宇野真は彼女に小さなスポイドとケースを渡した。パーランは疑うようにそれを受け取ると、その中にワクチンを二、三滴落として彼に返した。満足そうに受け取る、彼。
その晩、僕は研究所を破壊した。砂埃と共にそれは崩れ落ち、あっという間に砂の中に埋もれてしまった。
奇跡……と称された二つの星は、僕の手の中で一層輝きを放っている。僕等より先に願いをかけた者がいるんだ。そう、パーランとラシード。願いが叶ったから石は二人の元を離れたんだろうか。石を手放し不幸になったものばかりじゃなく、幸福のまま終わるものもいるだろう。
早すぎて、かけられない流れ星に願いを託すよりずっといい。
最後の月。
砂漠で見る最後の月は、冷たくはなく寧ろ暖かく思えた。
~僕の願い~
柔らかく揺れるカーテン。うかつにも窓が少し開いていた。暖かい木漏れ日が、観葉植物の緑に反射している。白い指にかかるのは読みかけの恋愛小説。静かに寝息を立てる姿を見て、クスリと笑った。
「ただいま」
キッチンで紅茶を入れて、新聞を広げた。大した記事など載っていなかったが、あのエジプトでの事件が小さく取り上げられていた。
『金髪のテロリスト失踪する』
愛の逃避行……か。
キッチンの扉が開き、驚いたようにショウリィが顔を出す。僕もそれに気がついて、にっこり笑いながら
「おはよう」
と声をかけてやった。
『ごめんなさい、私寝てしまったみたいで』
オロオロしながら音楽のない言葉で僕に伝える。
「いいよ、構わないさ。僕の方こそいつも待たせてすまなかったね」
『次のお仕事はいつ?』
「まだ解らないけど、暫くは一緒にいるよ」
ポケットからネックレスを取り出した。オアシスで購入したものだ。
「こっちにおいで」
彼女の首に飾ってやると、細い鎖から垂れ下がったぺリドットは小さく光りを放っていた。
「綺麗だよ」
彼女のキスは、いつだって優しく、甘い。
*****
一応結婚式にも呼ばれた。えらくごっつい男と並ぶ姉さんの姿を見て、なんだかよく解らない心境にいたる。ごっついが優しそうな男だ。白い歯がやたら眩しくもあるが。
「波奈!」
そう、一応VIVACE捜査員は皆呼ばれたようで、のほほんな刑事波奈がウェデングドレス姿の姉さんからブーケを投げられた。白い耳が間抜けだ。
「きゃっ!」
受け取ったのを確認して、また姉さんが叫ぶ。
「次は貴女でしょ?弟は内気ムッツリだから、頑張って押さなきゃ駄目よ!!」
…冗談にしてはきつい。思わず飲んでいたシャンパンを吹き出した。
ふともう姉さんとVIVACEを追う事もないんだと思ったら、不覚にも寂しくなって涙ぐんでしまった。そしたら
「一週間新婚旅行行ってくるわ。帰ったらまた、計画練りましょうね!VIVACE、絶対捕まえてやるわよ!!」
と、叫ぶから思わずズッコケた。
もういっそ家庭に収まってくれ……。
*****
「小ネタですけど、エミリーさんという婦警がご結婚なさったようですよ」
お得意様であり、友人であるポールが言った。上品な眼鏡の向こうの笑顔は、何となく意地悪そう。
「世の中物好きがいるもんだ。あんな男女のどこがいいんだかな」
彼が呆れたように苦笑して見せた。
「ところで、今回の戦利品をお見せしようじゃないか」
綺麗に織り込まれたベルベットのハンカチーフを二枚取り出してテーブルに置いた。一つは赤いの、一つは青いの。織りをめくっていくと、中から星が覗いた。
「また素晴らしいもので」
現れた星を愛撫するように見つめる、彼。
「君の趣味にピッタリなんじゃないかな?明日オークションがあるんだ。そこに出品しようかとも思ってる」
「意地悪ですね、ただの予定でしょ?」
「そう、予定は未定だ」
彼が無記名の小切手を切ってテーブルに置いた。
「二つとも頂きますよ。どちらが欠けても価値がない、そんな宝石なのでしょう」
「そうさ」
そして、ふと思い出す。
「取り扱いは要注意。願い事だけはかけてはいけないよ。星が流れてしまうから」
「ロマンチックですね」
僕も願いをかけた。
だから、今僕の手から石は離れてしまったのだ。でも決して不幸になるわけではない。傲慢な願い事をかけた訳ではないから。
―ショウリィが待っていてくれますようにー
エジプトの空からかけた願い。
最後に一つ、窓枠に仕切られた夜空の向こうに流れ星が現れたのを思い出した。
そして、ポールの家から帰る途中ふと月を見上げる。
「……今晩の夕飯はなんだろうな……」
そんな些細な事が幸せだと感じるのだ。だから、僕にあの星は必要ない。
一つ。また星が流れ、そして消えた。
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