VIVACE

鞍馬 榊音(くらま しおん)

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星に願いを-願い星編-

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 誰もが、叶えたく思う願いを持っている。
 流れ星に願いを託したり、神に祈りを捧げたり……。
 でも、どれもが叶わずに終わってしまう。
 虚しいだけ。なのかもしれない。迷信を信じて願いを託すことなんて。
 けれども、美しくはある。
 少女のように、もしくは少年のように叶わぬ夢を見続ける。
 いつしか誰もが大人になり、そして幼い頃のような無垢で純情な心を失ってしまうのだ。
 それは、全てを見つめてしまったからなのか?
 現実を見つめすぎ、夢を見なくなった大人達。
 僕はそうなりたくなくて、今もそう願い続けながら夢を見ている……。


~伝説~


 ただの噂だと思っていた。マニア、それから歴史研究者などの間で密かに話され続けていたことだ。
「あんた、願いを叶える二つの宝石の話知ってるか?」
「へぇ、どんな?」
 まさか、あの『星』のことだと思っていなかったので、僕は適当に聞き返した。
 彼、たまたま知り合った悪党仲間と飲んでいたときの話だ。
「オレじゃぁ、到底手に入れられないがね。こそ泥程度しか出来ないのはよく知ってる」
 彼は、笑いながら言っていた。少しばかり、寂しそうな表情で。
「依頼でもなんでもないからギャラは出やしないけど、もしできるならあんたに盗んでもらいたいものがある」
「タダじゃ動かないよ」
 当たり前だ。
 即答した僕に、彼は笑いながら続けた。
「わかってる。盗んだブツはあんたにやる。オレはただ、それを盗んで欲しいだけなんだ」
 暫く考えて、
「物にもよるけどね」
 と答えた僕に、彼は厚いノートぐらいの大きさの封筒を渡した。
「そんなもん手に入れるだけで必死だったんだ。詳細は中を見てくれ」
 そういって新しく注文したお代わりのビールを飲み干し、彼は口から真っ赤な血を噴出して倒れこんだ。問いかけたが、もうとうに死んでしまったようで返事はおろか呼吸さえしていなかった。グラスの淵を嗅ぐと、アーモンドのような香ばしく苦々しい匂いが僅かに鼻を付いた。
「古い手使いやがって」
 青酸カリだ。
 そして、こめかみ辺りに鋭く刺さる殺気。わからないように目配せさせると、レーザーポインターの赤い眼が僕を狙っていた。
「どうやら、厄介なモノもらったみたいで」
 静かに笑う。
 軽口叩きつつも案外根は真剣だったりする。
 微妙なタイミング(野生の勘だかなんだか知らないが)を狙って、ライフルから飛んできた銃弾を避けた。
 弾は、僕の横を通って後ろにあった別の客のグラスに命中した。客は悲鳴を上げ、辺りには飲みかけのブランディが飛び散った。
「あー、もう、五月蠅い!」
 ちょいとごめんよ! っと、悪いと思いつつ死んだ悪党仲間の彼を跨いでこそこそと裏口に向かった。
 けども、裏口の扉を開けるといかにも悪い人ですよ、な感じの黒い怪しげな男たちが沢山居て出られるような状況ではなかった。仕方なくキッチンに戻り、運良く外に繋がるダッシュボードから転がるように外へ出るしかなかった。
「畜生!」
 そのまま帰るわけにも行かず、その足で宇野真の家に向かった。おかげで車内は生ゴミの悪臭でいっぱいだ。
 そこからさほど遠くはない。
 悪友であり仕事仲間でもある宇野真の家に着くと、彼の妻、蓮華が怒った様に僕をシャワー室に押し込めた。
 汚い封筒は厳重な衛生対策の中、慎重に中身が取り出される。中から取り出された大量の資料は幸い無事だった。
「まだくせぇ」
 シャワーから上がっても迷惑そうに横目で睨む彼に、とりあえず笑いかけてやった。
「仕方ないだろ。生ゴミの中にダイビングしてきたんだからさ!」
 当たり前だが、更に視線は痛いわけです。
「話を進めようじゃないか。で、それ何?」
 宇野真のディスクに置かれた僕の資料。呆れたように目配せする彼。
「聞きたいのはこっちだ」
「確かに」
 とりあえずそれを手に取り、ざっと眼を走らせる。
「驚いた」
「何が?」
 ――それは伝説の石に関する資料だった。
 伝説の石、それは密かにマニアや研究者から囁かれていたことだった。しかし、どれも噂程度に思っていた。
「伝説の石の話だよ」
 呟いた僕の言葉に、彼はピクリと反応を示した。そして、何事もなかったかのように新しい煙草を取り出し火を点けた。紫煙を吐き出す姿は、何にも感心を示さないソレだ。けれども、実際彼の中でも血が騒いでいるはずだ。証拠に彼はこういった。
「充分だ」


*****


 伝説の石。
 それは『願い星』と呼ばれるスターサファイアと『叶え星』と呼ばれるスタールビーとの二つで成り立つらしい。
 いつ出現したのかはわからないし、いつからそんな伝説が生まれたかもわからない。ただはっきりしているのは確かに存在したらしいということと、願い星に願い事を掛けると叶え星が赤く煌いて願いを叶えてくれるらしいと。
 黒太子、ジャンヌ・ダルク、ナポレオン、マリー・アントワネット、アナスタシア……その他沢山の歴史上の人物達が、運命のように手に入れ願いを叶えたという。星は、叶え終えるとまた次の者の手へと姿を消す。そして、石を失ったものは人生を失うのだ。
 失う。というより、絶望が全てを消すんだと思う。石は願いを叶えるだけ。決して持つものを不幸に見舞うわけではない。
『あんたに盗んでもらいたいものがある』
 死んだ奴の言葉が蘇った。
 奴から渡されたものには、石についての詳細が事細かに示されていた。何処から盗んだのか……あぁ、あのマフィア……。
「誰もが欲しがる」
 彼が、笑うようにして言った。
「場合によっては、世界を征する事だってできるわ」
 怯えるように彼女が呟いた。
「いや、僕が頂くさ。願い事は一つ。世界平和」

 馬鹿らしい。
 
 もし願いが叶うなら、何を望もうか?
 願わないからこそ、願いを持つのだ。叶う願いなら、願う必要なんてない。
 流れ星も流れない、リストバンドも切れたりしない。
いつも運命と共に回っている。運命の上に願いが踊るなら、それを捕まえる人生が『叶える』に繋がる。
 今の僕の願い。

 ――伝説の石が欲しいと思う。



~願い星~

 なんの変化もない、言ってしまえば人間が気力を失ったようなつまらない世の中。だからこそ僕はこんな汚れ稼業かもしれない。
 とあるエジプトの美術館宛に、赤い薔薇の花束を贈った。もちろん、素敵なカード付き。
『青い星をお迎えに上がります。VIVACE』
 願い星は、資料によると小さく潰れかけた美術館のガラスケースの中に納まっているのだという。誰が磨くわけでもない。それなのに、悲しく青くその胸に白い十字の光を乗せながら輝き続けているのだという。
 予告状は例のごとくテレビにて放映された。しかし、伝説の話しはこれっぽっちも出てこなかった。専門家は、何故価値もたいしてないような宝石を狙うのかと、ギモンの声を上げた。  
 けれども、ネット上で少なからずも噂はされたようだ。あれは伝説の石だ、そうに違いないなど。
 直ぐに噂は消えたが。
 予告状を出してから、一週間。そろそろ動き出そうと思っている。


*****


「ふざけてるのかしら!」
 姉が叫んだ。
 僕はただ苦笑いを返すしかなかった。とりあえず、今自分で飲もうとグラスに注いだアイスコーヒーを差し出していった。
「様子でも見てるんじゃないかな?」
 何か、軽蔑でもするかのような痛い視線が向けられたような気がした。
「ふぅん」
 それにしても暑い。外に出れば出たでヒリヒリと日差しが痛いし、それでも気候が乾燥している分幸いだ。
 僕等はVIVACEからの予告状を受けて直ぐエジプトに飛んだ。小さく潰れかけたような美術館で、掃除もロクにされていないようなところだ。ただ年老いたおじいさんが一人入り口の前で深々と頭を下げながら、入場料を乞いている。
 その美術館の周りに一週間ほど前から警備員を張らせ、僕達は少し離れた場所にテントを張って様子を伺っているのだ。美術館に出入りするのは、ここ一週間で観光客数人程度。ニュースのせいもあるのかもしれないが、普段から出入りはすくなさそう。
 盗まれる宝石を見た。
 青い石だ。真ん中にくっきりと白く美しい光が通っている。彼らが欲しがる理由がよくわかる。
 巷で流れた噂を調べてみた。ただの興味だけれど、この宝石のことを知りたいという誘惑に駆られた。僕も手に入れたい。実際、叶う事のない望みだけれど、それほどこの石は美しかったのだ。
 名前なしの宝石。
 通称『願い星』というらしい。正規の名前ではない。名前がないから皆そう呼んでいるだけだとか。
 手に入れた者は願いを叶えることができるという。ただし、もう一つ『叶え星』と呼ばれる石が必要で、二つそろって初めて価値が出るのだという。なら次は『叶え星』を狙うだろう。存在する場所は見当も付かない。が、一応部下に今調べさせているところだ。
「諦めたのかしら?」
 僕のパートナー、波奈がそうぼやいた。
「まさか!」
 ありえない、と僕は思う。周りもそう思ったようで、彼女に多少なりとも軽蔑の色を添えた目で見つめた。しかし、とうの波奈はお構いなし。
「気が変わったのかも」
 そういいながら、茶目っ気たっぷりに笑った。さすが、お気楽極楽刑事だ。僕も姉さんも呆れた。
 「……甘いわ……」
 コーヒーに少し砂糖を入れすぎたのか、果たして僕等に対する戒めなのか。多分、それは後者だろう。


*****
*****


 予告はするが、時間指定はしない。自分の腕に自信がないわけでなく、こちらにも都合というものがあるというだけ。形はともあれ、欲しいものは頂くのが僕の主義。僕等は最も自由な人間達なのかもしれない。 
 双眼鏡を覗きながら、警備の様子を眺めていた。
「たいしたことないな」
 宇野真が言った。
「こんな何もないところだから、派手な警備も張れないんだろ。それはこちらも同じ条件。でもおつむは違うからね」
 隣で監視する悪友を尻目に、例の資料を読みふけっていた。
 資料は星のモノだけではなかった。読み進めていくうちにそれに気付いた。どうやら星の話は只のカモフラージュに過ぎなかったようで、実際この資料はクローンについて書かれていたものだった。何を思ったのか、やつらは星について調べ、この資料と共に極秘文章として保管していた。
 単なる迷信と思っていたのだろう。迷信は迷信。仮に探し出してもないものだと思っていた。実際探し出したのかもしれない。日付は四十年以上前を指していた。
「何が面白い?」
「読んでみる?」
「面倒だ」
 いつだってこうだ。僕が夢中になるものに感心は示すものの示すだけ。いつも面倒くさがる。物臭でないのは研究と発明と、妻との愛の育みだけだろう。仕事ですら面倒くさがるときが多々あるのだから。
 仕事しろよ!
 優しい僕は説明してやる。
「クローン研究についての資料だよ。星の下の方に閉じてあった」
 すると彼は興味深いことを口にした。
「星について調べ、探すためのプロジェクトがあった。思いついた奴がよほどの傲慢野郎だったのか。はては只の気まぐれか。真相はわからん。しかし星は一向に見つからない。結果、只の迷信だと思われプロジェクトは失敗に終わった。そしてクローン研究。資料は極秘として保存したい。クローン研究モノだと思われないよう、極秘にだ。そこで、遠い昔失敗に終わった星プロジェクトのマニュアルを一緒に閉じてやった。と、こんなところでどうだ?」
「憶測か?」
 奴にしては珍しい。
「否」
「珍しい饒舌っぷりで説明お願いします」
 宇野真が静かに笑いながら煙草を咥えた。しょうがないから、火を点けてやる。
「星について調べたんだ。別の方向でな。そしたら引っかかったってだけ」
「あ、そう。知ってたんだ」
「胡散臭い話だ。お前の持ってくる仕事は全部胡散臭いものばかりだけどな」
 嫌味たっぷりに紫煙を吐き出した。
「お前自体も胡散臭い」
「失敬な!」

 夜を待つ。
 いよいよ今晩、プリンセスを連れ去りに王子様はやってくる。

 砂漠の月は美しい。月だけでなく、星も。夜空自体が美しい。盗めるものなら盗んでしまいたい。僕の愛しきショウリィのように。この仕事が終わったら、ここに来ようか。二人っきりで、今度は旅行として。
 彼女の、甘い口付けを思い出した。
 灼熱の真昼とは打って変わって極寒とも言える夜を迎える。砂漠の気候の変化は激しい。吐く息は白く凍る。
「地獄のようだな」
「今更言うことではないけどね」
「可能性はなくはない。上手く行くことを願うぜ」
 ただ静かに微笑んだ。
 時間は刻一刻と朝に向かって秒を刻む。警察たちがいるであろうテントの明かりは、夜になっても消えることがない。睡眠は交代制なのだろう。僕等が夜にならなければ現れない従来の悪党ではないから。昼夜構わず現れる。素敵なプリンセスを頂くために。
 新しい発明品らしい。試験管を取り出した。中には無色透明の液体が入っていて、しっかりと栓でふさがれていた。
 砂と空気に反応する薬品で、垂らすとそれは液体から氷へと変化するらしい。この氷のバクダンみたいなやつは、彼の用意した鞄にぎっしり詰め込まれている。
 計画はこうだ。警察達に逃げられないよう何本も投げ入れ、彼らの足元を氷付けにするのだ。実験結果このフリーズは結構強力らしく、夜の寒さも手伝って、少なくとも多少の時間足元を固定する程度の作用はあるようだ。仕事のため、そんなに長い時間の足止めは必要ない。だからこそ、この発明品を今回の計画に採用した。
 さて、どうやってこのバクダンを足元にばら撒くか。難点はここだった。
 そして結果、派手に行こうという話になってヘリコプターからばら撒くことになった。仲間は三人。僕、宇野真、そして彼の妻蓮華。
 さぁ、お手並み拝見くださいな!


*****



 今日もそんなに期待はしていなかった。昼間と変わって夜はホットコーヒーを 啜っていた。口から離したマグカップを覗き込んで、揺れる水面を見つめながら何となく胸騒ぎを覚えた。
 続いてある台詞を言おうとしたら、その同じ台詞を姉さんが先に言ってしまった。先を越されたってやつだ。
「日にちと時間くらい指定してもらいたいわ!」
 予告状から遅くても一週間程度で奴等は盗みにやってくる。
「今夜辺りかも」
 姉さんの目が僕を睨んだ。
「いつもそう言うのね」
 お手上げだ。彼らの気持ちなんてわからない。
「僕も同じ意見だよ」
「ふぅん」
 何もない砂漠の真ん中。たいした警備など張れやしない。警官を見張りに立てるぐらい。こんなことぐらいでVIVACEが捕まるなんて思っちゃいないし、まして捕まるようならとっくに捕まえている。無駄とも思えるような作戦(といえるものでもない)を見渡して、大きくため息を吐いた。少なくとも姉さんはそう思っていないようで、ぴりぴりした空気をいつもと同じように張らせていた。
「ハンリーさんもお休みになってはどうですか?」
 聞きなれたソプラノ。相棒の波奈が寝ぼけ眼で毛布を渡した。
「否、なんか胸騒ぎがしてね。今日は起きてようかと思ってるんだ」
 彼女はあっけらかんと微笑んだ。
 そんな時だ。外で不自然なヘリコプターの音が響き渡った。
はじめはどっかの調査団か軍が見回りでもしてるのかと思った。ここに来て直ぐ、エジプト政府に協力を依頼したときテロリストの話を聞いたから。なにやら数ヶ月前から突如現れ、訳のわからないことを言いながら戦争を仕掛ける気だとかどうたらこうたら。僕等に関係ないのもあってか、それ以上は教えてくれなかった。協力もそのおかげで受けられず、姉さんは怒ってその場から飛び出した。
 そのヘリコプターはどんどんこちらに近づき、通り過ぎるものだと思っていたのに僕等の頭上で動きを止めた。光線が威嚇するかのようにテントに差し込んできた。
「何事!?」
 姉さんが大声で叫んでテントから飛び出た。続いて僕等も後を追うようにしてテントの外に這い出した。
 頭上を見上げると、真っ黒いヘリコプターがスポットライトを振り回しながらホバリングを続けていた。


*****



 黒がいい、と宇野真の趣味らしい。確かに彼のイメージカラーはとっても暗い。僕的には白がよかった。
 蓮華に操縦させ、僕等は鼠のあぶり出しから始めることにした。大きめのスポットライトをヘリのサイドに取り付けてやり、地上に向けて光を放ちまくった。一種の光線状態になって、下ではパニックが起きているような。
 テントの中から這い出してきたいつもの髪の長い男の警察官と、ウサギ耳のわけのわからない婦警と、いつの間にやら加わっていた金髪女の警察官を見つけた。金髪女が引っつかむようにスピーカーを口にして、大声で怒鳴った。
「やっと現れたのね! VIVACE!!」
 僕も同じように(もっと穏やかに)スピーカーを口にした。
「あぁ、待たせて悪かったね」
「ふざけんじゃないわよ!?」
 何を言っても怒るらしい。
「そう怒ることはないだろう? 僕はね、恋人を迎えに来ただけなんだ。薔薇の花束を持ってね」
 そういい終わると、空から地上に向かって大量の薔薇の花びらをばら撒いた。
 ひらひらとワルツを踊るようだ。実に美しい。その中に例の試験管も含ませた。
 砂の上で割れ、5分も経たないうちにその場は氷付けになった。地面から僅かだが、冷気の立ち上るのが見てとれる。
「そろそろだ」
 宇野真の一言で縄梯子が下ろされ、僕等は地面に舞い降りた。


*****
*****
*****

 警官たちが上半身だけバタバタさせながら、悪態をついては悔しそうに顔を歪ませている。いい気味だ。
 そして、目の前で願い星を盗んでやった。金髪女に手の中の星を見せると、彼女は怒りで顔を真っ赤にした。
「このクズ野郎!! 絶対ぶち込んでやるわっ! お前も仲間も全員ね!!」
 当たり前のことだが、負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「楽しみにしてるよ」
 宇野真が先に縄梯子にぶら下がりながら、僕を咎める。
「ぐずぐずするな。置いてくぞ」
「つれないねぇ」
 彼女は、必死でフリーズから逃れようともがいている。僕もそれを無視して縄梯子に捕まろうと手を伸ばした。
 瞬間、銃弾が僕のマントにはね返った。
「無駄か」
 近くにいた髪の長い男だ。
「残念だったね」
 下手に防弾チョッキなんかを身に着けるより、ずっと動きやすい。闇ルートでいくらかつめば買える品だ。防弾マントは、僕の正装の必需品。
 再び手を伸ばして縄梯子にぶら下がった。
「あまり効果的ではなかったかも」
 彼は本番もリハーサルも実験も区別がないようだ。
「実験台にするなよ」
 奴は鼻で笑いやがった。
 光にかざしてじっくりと見つめる。
 本日の戦利品、大粒のスターサファイア。通称『願い星』。綺麗なブルーの真ん中に、白い光の筋が星を形作って浮かび上がる。ファンタジックな宝石だ。
 あれから、少し離れたオアシスの町で優雅にアルコールでも入れながら休暇中。というより、次に向けての作戦会議中。例の資料を更に広げた。
 叶え星伝説。伝説?
 叶え星は願い星を呼ぶらしい。だから、いつも近くに存在する。また、運命のように引き寄せあうから、願い星を所持する者は否が応でも叶え星と巡り合う。それは、歯車のように繰り返される決して壊すことの出来ない力。それが伝説。
「存在する場所は?」
 彼が言った。
「示されていない」
 僕が言った。
 いきなりだ。冒険は行き詰った。
「いいさ、本当ならめぐり合うんだろ?ただの伝説だった星の一つでも見つかっただけ儲けもんじゃないか!?」
 呆れたように目配せさせ、ため息を吐いて席を立つ宇野真を止めはしなかった。僕だって同じ気分だ。最後まで読まなかった自分も悪いが、伝説の発掘にリスクは付き物だ。
 アルコールを再び注文した。
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