惨劇は虚しく終わる

ENZYU

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惨劇は虚しく終わる

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滅多に人が来ない山奥に別荘を持っている、私よりも10は年上の青年がいる。
彼の名はステラ―ト。ミルクティー色の長髪の美しい男性だ。
対して私はまだ16でしかないキャロラインという名の女である。 
この人と私の関係性はと言うと、幼馴染のような、全てを打ち明けられる存在。
私には元々正義の為なら手段を選ばないような傾向はあった。
そして彼には、私の言う事をなんでも肯定してくれる傾向があった。
その二つの傾向が重なった時、倫理の道を踏み外す結果になったとしても。
双方ともその結果に後悔はせず、すっきりとした気持ちでそのまま道を歩んでいくのだと思う。

美しい、本来ならば穏やかで素晴らしい時を誰にも邪魔されず過ごせるはずの別荘で事件は起きた。
いや、起こした。
ターゲットは複数人かと思えば、開示請求の結果わかった人数はたった二人。
その二人に私は人生を滅茶苦茶にされるような暴言を吐かれた。
私は悩み相談をして、できれば気持ちに寄り添って欲しかった。
ただ酷い物は酷い。これでしかないと私は思う。
それだけなのに、逆に私に労力を求められたり、好きな物から引きはがされそうになったり、暴言を重ねられたり。結果は散々だった。
更に本人達は自分達の言葉を大した物ではないと言ったり、負荷を負った私の身に何が起きたか等そしらぬ顔で過ごして自業自得だとまで言い切った。
ここまで生死を彷徨うような経験をしたのは初めてだった。それも事故や大怪我等ではなく、たった言葉一つだけで。
大事な人生を揺るがすような大事件だったのに、他の人にとってはなんでもない事。むしろ笑えると言う人もみかけた事がある。
そんな無慈悲で残酷な事があってたまるか。私にはまだまだ人生を楽しむべき権利がある。まだ愛しい男性に抱かれた事もないのに。
世の中には加害者に甘い言葉や認識が多すぎる。
縛り上げて捕まえて、ここまで連れてきた女二人を床に転がすと恐怖で震えあがっている様がよく映る。
激しい怒りはもう通り過ぎて、もはや無感情に近い感情でその二人を上から見下ろした。
ステラ―トは優雅にソファに座り、私の用が済むまで紅茶を飲んで待ってくれている。
二人の口に張り付けられたテープを取り、冷え切った声で私は問うてみた。

「最後に何か言い残す事は?」
「……っ!………お、おかね…なら……はらったのに、どうしてっ」
「ふふ、へえ………?それだけで足りると思っているんだ?」

自然に笑いが込み上げてきた。
もうこの人達が取り返しのつかない事をして取り返しのつかない人生になるという、この人達自身が最初に始めた自業自得のバッドエンドが目に見えているから余裕があるのかもしれない。
すぐに息絶える事ができず、長く苦しむ最後を与えたいのが本望だけれど、こっちのエネルギーが膨大にかかるので、仕留める為に用意しているのは拳銃。
そして、罪を負ってくれるのがステラ―トという算段だった。
どうせこの国の法では罪は軽く扱われやすい。そうでなかったとしても引き受けると本人は微笑んでいたけれど。

「ぃ、いや……しにたくっ、ない………!」

さっきから震えあがって上手く出てこない掠れた声で床に転がされた一人が呟く。
その言葉は虚しく床へと散らばるだけで誰も拾い上げてなんてくれない。
もう飽きたので、銃口を向けてさっさと撃つと銃撃が鳴り響き、撃たれた側ではないもう一人が声にならない悲鳴をあげる。
上手く一撃で急所を狙い打てたらしく、広がっていく己の血の海に沈みながらまずは一人が息絶えた。
続けてもう一人も足で転がしながら撃つと、一瞬で静かになる。
その後に広がるのは静寂。用意していたナイフを取り出し、ほんのわずかに湧いた興味本位でやりたい事があったので、開始し始める。

「一度、心臓ってどんな物なのか見てみたかったのよね」

泣き叫ぶ声を聞きながらじわじわと追い詰めていくのは耳障りだろうし一苦労だろうが、しんと静まった醜い人形のように大人しい物体を分解するのはそんなに苦労しなかった。
血と骨と肉の中から取り出した動かない心臓はどうだったかというと、ただの他人の内臓の一部でしかなかった。
つまらない気持ちでそれを握り潰して一息つくと、血まみれの姿なのが煩わしいがそのまま部屋の中心部へ向かい、彼へと声をかける。

「………終わったわ」
「そう、お疲れ様」

飲み終わったカップを置いて、彼が立ち上がる。
そうして微笑みながら血だらけの私の頬を撫でた。

「血に濡れてもきみは美しいね」
「そうかしら?」
「そうだよ。でも湯は用意しないとね。待っていて」
「ありがとう」

美しくて倫理観のない私の共犯者。
その背を眺めながら準備が終わるのを待った。
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