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追想2:修羅の道
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「所詮俺も、結局は檻の中で生きている者の一人に過ぎなかった。そういうことだ」
狭い場所に閉じ込められたまま、何も知らずに過ごすか。それともその枷と檻を壊して外を知るか。
ジンという男はその選択の後者を選んだという。
だが結局は、動けているとみせかけて枷はついたまま、長い鎖はいつかその足を引き止める為存在しているということ。
そして檻の中から抜け出せたと見せかけて、実は更に広く大きい檻の中で走っているだけに過ぎないという
ジンの真実をアカツキはまだ知らない。
その力を振るうこと。ずっと走り続けるかのように君臨する姿は彼の者に仕組まれたものに過ぎないことも。
「お前は…俺のことを憎んでいるのか」
当然だ。関係だってとっくの間に破綻しているんだ。
だからこうして静かな空間の中で、話を聞くのが苦手だった。予想もつかない感情に苛まれるからだ。
気付きたくないことに気付かされるからだ。この男によってなんらかのものを得たくはない。
ジンは、アカツキの返答がないことを悟るとゆっくりと瞼を閉じて、再び開き窓の外を眺める。
「憎んでいるのなら憎んでいるままで構わん」
何気ない返事をするように軽くそれを許容する。
床を睨みつけていたアカツキの視線が、ジンの背中へと向かう。
「狭く暗い場所だが、ここでやれるだけのことを遂げて見せろ…アカツキ」
鼓膜を揺らすその低音の声は、絶対的な現実と、背中を押すような言葉との双方をアカツキへと突きつけた。
ここでやれることを遂げる?表からは存在が消され、もはや普通の人の身ではない自分がやれること。
さすがに自嘲するしかなかった。けれどそれと同時にやはり予想は当たっていたのだなと眉間に皺が寄った。
どん底に落ちたと思っていたこの場所からでも這い上がれるということか。
そんな可能性すら、目の前の魔王によってからでないと気付かされない。
「……失礼ですが、それには従えません。今更何かを切り開かなくとも、俺には今のレールに沿うような道のままでも十分できることがありますので」
せめてもの反抗を静かな、けれど確かな張り詰めた声音で言い捨てるとそのまま部屋から出て行く為に踵を返す。
ばれているとは思うが、感情の乱れを抑える為に姿勢を正してゆっくりと歩いていく。
提示された逆転のチャンスにまんまと引っかかってしっぽを振ってはいけない。だが反抗をしてもジンの足元にいることで満足しているといっていることにはなるであろう。だがまずは安易に言い渡された可能性に従う危険性を重視しなければいけない。
そのまま扉が開かれて、アカツキが部屋を抜け出ていく物音は背中越しにジンの耳に届いていた。
どうしてここまで破綻した関係になるとわかっていて、ずっと共にいるままなのかは正直わからない。
初めはアカツキがどう羽化していくか、という点においてまずは非常に興味が沸いた。
それに伴い更なる欲望として、乱れ激しい濁流となっていく情欲を覚えたのは確か。
行き過ぎた衝動はやがて、箍の外れそうな破壊欲へと増していく。
だが完全に壊してはならない。
己の欲望の一つを見せ付けられるかのように、時々死体を食い漁る従者がある時こんなことを漏らした。
『貴方は、結局その裏の従者の親を気取りたいのか、恋人を気取りたいのか、はたまた性奴隷でしかないのか。
殺してしまいたいのか、食料の糧なのか、何かを見込んで磨いた後に世に自慢したいのか、色々と思い浮かびますがすべて混ざりすぎてわかりませんね』
『欲張ってすべてを無理やり一つに固めて、相手にぶつけたってわかるわけがないんですよ』
『けれど、そもそも貴方が動く道理は結局本能でしかありませんからね。知性を持っているのにも関わらず、やることは獣と変わらない』
貴様が言うのか、という言葉を飲み込んで唇を撓らせて嫣然と笑む。
斬り捨てるのはともかく、歪んだ欲望の末にどうでもいいそこらの者の中からわざわざと餌を選び食うという興味までは湧かない。
その代わりにその分の飢えの衝動は時々アカツキへとすべて向く。
ここまで満たされないと思ったのは初めてだと思う程に。
『エリア83の軍姫から縁談の話がきていますが、もちろん断りますよね』
ジンの返事を待つこともせずに、白色に金色の装飾と文字が入った封筒を目の前で瞬夜が破り捨てる。
中からはばらばらになった言葉の欠片と、便箋の端がちらつきレースデザインを象ったものだと想像がついた。
『たまには女を愛でるのも悪くはない、が…』
喉奥でくくっと笑みながら、破り捨てられた手紙の紙片がすべて床へと落ちるのを見届けて、瞬夜の赤い瞳を見つめた。
『やはり、その眼差し…好けませんね。見ているだけでぞっとする』
怪物でさえも一人の人間のようにままならない人生の中で生き、湧いてくる欲望、感情に乱される。
死の海の中で人を育て、導く。憎まれるのも当然、憧れられるのも当然。
慈悲深い感情はたった一人にしか向けられない。手をかければかけるほど変わっていく。
狭い場所に閉じ込められたまま、何も知らずに過ごすか。それともその枷と檻を壊して外を知るか。
ジンという男はその選択の後者を選んだという。
だが結局は、動けているとみせかけて枷はついたまま、長い鎖はいつかその足を引き止める為存在しているということ。
そして檻の中から抜け出せたと見せかけて、実は更に広く大きい檻の中で走っているだけに過ぎないという
ジンの真実をアカツキはまだ知らない。
その力を振るうこと。ずっと走り続けるかのように君臨する姿は彼の者に仕組まれたものに過ぎないことも。
「お前は…俺のことを憎んでいるのか」
当然だ。関係だってとっくの間に破綻しているんだ。
だからこうして静かな空間の中で、話を聞くのが苦手だった。予想もつかない感情に苛まれるからだ。
気付きたくないことに気付かされるからだ。この男によってなんらかのものを得たくはない。
ジンは、アカツキの返答がないことを悟るとゆっくりと瞼を閉じて、再び開き窓の外を眺める。
「憎んでいるのなら憎んでいるままで構わん」
何気ない返事をするように軽くそれを許容する。
床を睨みつけていたアカツキの視線が、ジンの背中へと向かう。
「狭く暗い場所だが、ここでやれるだけのことを遂げて見せろ…アカツキ」
鼓膜を揺らすその低音の声は、絶対的な現実と、背中を押すような言葉との双方をアカツキへと突きつけた。
ここでやれることを遂げる?表からは存在が消され、もはや普通の人の身ではない自分がやれること。
さすがに自嘲するしかなかった。けれどそれと同時にやはり予想は当たっていたのだなと眉間に皺が寄った。
どん底に落ちたと思っていたこの場所からでも這い上がれるということか。
そんな可能性すら、目の前の魔王によってからでないと気付かされない。
「……失礼ですが、それには従えません。今更何かを切り開かなくとも、俺には今のレールに沿うような道のままでも十分できることがありますので」
せめてもの反抗を静かな、けれど確かな張り詰めた声音で言い捨てるとそのまま部屋から出て行く為に踵を返す。
ばれているとは思うが、感情の乱れを抑える為に姿勢を正してゆっくりと歩いていく。
提示された逆転のチャンスにまんまと引っかかってしっぽを振ってはいけない。だが反抗をしてもジンの足元にいることで満足しているといっていることにはなるであろう。だがまずは安易に言い渡された可能性に従う危険性を重視しなければいけない。
そのまま扉が開かれて、アカツキが部屋を抜け出ていく物音は背中越しにジンの耳に届いていた。
どうしてここまで破綻した関係になるとわかっていて、ずっと共にいるままなのかは正直わからない。
初めはアカツキがどう羽化していくか、という点においてまずは非常に興味が沸いた。
それに伴い更なる欲望として、乱れ激しい濁流となっていく情欲を覚えたのは確か。
行き過ぎた衝動はやがて、箍の外れそうな破壊欲へと増していく。
だが完全に壊してはならない。
己の欲望の一つを見せ付けられるかのように、時々死体を食い漁る従者がある時こんなことを漏らした。
『貴方は、結局その裏の従者の親を気取りたいのか、恋人を気取りたいのか、はたまた性奴隷でしかないのか。
殺してしまいたいのか、食料の糧なのか、何かを見込んで磨いた後に世に自慢したいのか、色々と思い浮かびますがすべて混ざりすぎてわかりませんね』
『欲張ってすべてを無理やり一つに固めて、相手にぶつけたってわかるわけがないんですよ』
『けれど、そもそも貴方が動く道理は結局本能でしかありませんからね。知性を持っているのにも関わらず、やることは獣と変わらない』
貴様が言うのか、という言葉を飲み込んで唇を撓らせて嫣然と笑む。
斬り捨てるのはともかく、歪んだ欲望の末にどうでもいいそこらの者の中からわざわざと餌を選び食うという興味までは湧かない。
その代わりにその分の飢えの衝動は時々アカツキへとすべて向く。
ここまで満たされないと思ったのは初めてだと思う程に。
『エリア83の軍姫から縁談の話がきていますが、もちろん断りますよね』
ジンの返事を待つこともせずに、白色に金色の装飾と文字が入った封筒を目の前で瞬夜が破り捨てる。
中からはばらばらになった言葉の欠片と、便箋の端がちらつきレースデザインを象ったものだと想像がついた。
『たまには女を愛でるのも悪くはない、が…』
喉奥でくくっと笑みながら、破り捨てられた手紙の紙片がすべて床へと落ちるのを見届けて、瞬夜の赤い瞳を見つめた。
『やはり、その眼差し…好けませんね。見ているだけでぞっとする』
怪物でさえも一人の人間のようにままならない人生の中で生き、湧いてくる欲望、感情に乱される。
死の海の中で人を育て、導く。憎まれるのも当然、憧れられるのも当然。
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