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第8話

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はい?
今なんて?

「運命だから」
「2回も言わないでください」
「聞こえてないのかと思って」
「聞こえていましたが理解できなかったんですよ。運命?本当にそんなもので結婚したいと思ったんですか?」

追加オーダーしたワインと共にデザートが運ばれてきた。
甘いものが好きな私としてはゆっくり楽しみたいのだが、如何せん話がややこしくなっている。

「そんなものとは失礼な」
「あなたの淡い運命論に私を付き合わせないでください」

バニラアイスと口に運ぶ。
段々と寒くなってきたとはいえ、アイスは年中食べられる。

私の言葉をどう捉えたのか、彼は何か思いついたかのように口を開く。

「何か証拠を見せれば信用するんだな?」
「は?」
「紫苑は俺と結婚する運命だということを証明すればいいんだろう?」

彼は悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべた。
彼の言わんとすることを何となく察したが、それもいいのではないかとアルコールの回った頭で考える。

きっと目の前の男は運命を何かしらの方法で証明して私と結婚する気だ。
なら私がとことんその証明を破綻させてやればいい。

「いいですねそれ。証明できるものならしてみてください」
「言質取ったぞ」
「ええ。でも条件があります」

私は彼に向けて指で3を作って見せる。

「期限は来年の3月いっぱいまでです」
「ということは約半年か」
「そういうことです。それまでに証明できなければ結婚は諦めてください」

私の提示した条件に彼は少し考える素振りを見せたが納得したのか頷いた。

「じゃあ交渉成立だな」
「ギブアップはいつでも受け付けてますので」
「紫苑こそ早めに結婚を受け入れてくれてもいいんだからな」

お互い言いたいことを言いきってからデザートを食べ進める。
お酒も飲み終えればそこそこいい時間だったため、レストランを後にした。


「結構飲んだが大丈夫か?」
「ええ、これでも一応セーブしましたから」
「気分悪くなったら遠慮なく言えよ」
「ありがとうございます」

彼の紳士的な一面に感動しているとさっさと車に乗せられてしまう。
今が何時かも分からないため、彼が運転席に回っている間に確認しておこう。

「ん?どうした」
「今の時間を確認していました。電車の都合もありますし」
「帰るのか?」
「そりゃ…」

そこまで言って気づく。

この男、今日は素面だ。

そして先程までの話を思い出す。
これは非常にまずいのではないか…?

「降ります降ります!今日はありがとうございました!!コースはいくらでしょうか!!」
「逃がすと思ったか?あとお金はいらないから時間をくれ」

シートベルトを外そうとボタンを押すも抜けないように上から押さえられる。

「半年しか時間がないんだ。目一杯証明させてくれ」
「運命という目に見えないものを物理で証明するのはどうかと思います!」
「目に見えないからこそ伝えて証明するんだろう?」
「素面ずるい!!」
「アルコールの注文はお任せしますって言ったのは紫苑の方だろ」

ぐっ…確かに言った。
それに半年という期限を設けたのも私だ。

「なぁ、紫苑」

低く囁くように名前を呼ばれてびくっと身体が跳ねる。
必死に逸らしていた視線を彼に向けると優しく頬を撫でられる。

「本当に嫌なら家まで送っていく。…どうする?」

こんな時だけこっちの意思を尊重する姿勢を見せてくるなよ!!

すっかり雰囲気に呑まれている私が今更拒否の言葉を口にできるはずがない。

「…行き先は、お任せします」
「了解」

満足そうに笑う彼を睨みつけてからシートに体重を預ける。

行き先はどこのホテルだろうか。
どうせ彼のことだから目星はつけているのだろう。
現に目的地を調べる様子は見られないまま車は動き始めた。

「眠たいなら寝てていいぞ」
「いえ、大丈夫です」
「…この前みたいに途中で寝られ」
「お言葉に甘えて少し寝させてもらいます」

地味に気にしていることを言われかけて慌てて目を閉じる。

ほんと、いい性格していらっしゃる。
しかし眠たかったのも事実であるため、そのまま睡魔に身を任せることにした。

「おやすみ」

意識を手放す前に聞こえた声はひどく優しかった。

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