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第6話
しおりを挟む流れる景色をぼんやりと景色を眺めていると彼から声がかけられる。
「今更だが何て呼べばいい?」
「私のことですか?」
「他に誰がいるんだ」
それもそうか。
正直呼び方にこだわりはないため任せよう。
「お好きなように」
「なら紫苑だな」
「…会って二度目の女性を呼び捨てですか?」
「会うのはこれで三度目だろ」
あー、やだやだ。
しつこい男は嫌われますよ。
そんな悪態を心の中で吐く。
「なんだ、まだ白を切るのか?」
「……はぁ、はいはい、分かりましたよ。降参です」
軽く両手を上げて降参の意を表す。
運転している彼はちらりとこちらを見てから再び前を向いた。
「それで?俺のことは覚えていてくれているんだろうな?」
「その節はお世話になりました。お酒代とホテル代足りました?」
「十分すぎる程な。今日はその清算も兼ねている」
彼はハンドルを切りホテルの駐車場に入っていく。
大人しく車から降りるとさり気なく手を取られ、フロントにエスコートされる。
慣れた様子で手続きを進める彼をぼんやりと眺めていたがふと我に帰る。
いや待てよ。
ドレスコードとか以前に私スーツじゃん!
しかもホテルのディナーとか戸惑うんだけど。
一応マナーは身に着けているけれど不安だな。
「紫苑、どうした」
受付を済ませた彼が不思議そうに私を見ていた。
まぁ、素直に聞けばいいか。
「ここのドレスコードってどんな感じです?」
「スーツならいいと思うぞ。割と緩いし」
いや雑かよ。
でも仕事終わりに待ち伏せしていたぐらいだし、その辺りは配慮してくれたのだろう。
彼の言葉を信じて案内されるままにエレベーターに乗る。
そして当然のように押される最上階を示すボタン。
はー、やっぱり高級レストランですか。
この前の代金の清算とか言いながら明らかに高級を匂わされてはどうしようもない。
最上階に着きエレベーターのドアが開くとそこには洒落たレストランがあった。
彼は慣れた様子で受付で名前を告げる。
すると夜景が見える窓際の席に案内された。
「本当にディナーなんですね」
「なんだ疑っていたのか?」
意地悪く言われるがあんな誘い方では疑うに決まっている。
不服そうな顔をすると彼はくすくすと笑った。
「そう怒らないでくれ。メニューもあるが予約通りのコースでいいか?あとアレルギーはあるか?」
「…こういう場に慣れていないので変でも笑わないでくださいよ。アレルギーはありません」
「良かった。アルコールはどうする?」
「お任せします」
彼は頷くとウエイターを呼んで注文をしてくれる。
すぐにワインと前菜が運ばれてきて、彼はグラスを手に取った。
私もそれに倣ってグラスを手にして乾杯する。
「では、お互いのことでもゆっくり話そう。この前のことも含めてな」
「尋問の間違いではなくて?」
乾杯の軽快な音には似合わない言葉を遠慮なくぶつける。
彼はそれを可笑しそうに聞きながら飲み物を一口飲んだ。
ワインっぽい見た目をしているが、車の運転もあるしきっとノンアルコールの何かなのだろう。
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