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第35話
しおりを挟む歩いて1時間半、街の中心街から少し離れた森の中にそれは在った。
近づくにつれて子どもたちの元気な声が聞こえてくる。
「あっ!お兄ちゃん!!」
「こんにちは、皆元気だった?」
「うん!」
「それは良かった。お願いがあるんだけど、ママさん呼んできてもらってもいいかな?」
「分かった!待ってて!!」
柵越しに声をかけるとすぐに子どもたちは散り散りになってママさんを探し始めた。
それを微笑ましく眺めて待っていると建物の中から手を引かれて誰かが走ってくるのが見えた。
「お出迎えが遅れてしまってごめんなさいね」
「いえいえ、こちらこそ少し早めに着いてしまったのでお気になさらないでください」
ママさんを連れてきてくれた子どもたちにお礼を伝えながら門を開けてもらう。
どうやら自由遊びの時間だったようで中では子どもたちが楽しそうに遊んでいる姿があちこちに見えた。
「みんな元気ですね」
「本当に。元気すぎてたまに困っちゃうときもあるぐらいですよ」
そんなことを言いながらも幸せ用に頬を緩めるママさんの案内でリビングに通される。
そこには室内遊びをしていた子どもたちが居り、僕を見るなり駆け寄ってきてくれた。
「お兄ちゃんだ!!」
「こんにちは」
「「「こんにちはーーー!!!」」」
屈んで挨拶をすると元気よく挨拶を返してくれる子どもたち。
あまりの元気の良さに思わず笑みが零れてしまう。
「ねぇ!あそぼあそぼ!!」
「僕はママさんと少しお話してから行くから先に皆で遊んでてくれるかな」
「分かった!約束だよ!!」
子どもたちを見送ってからママさんに手土産を渡す。
好みが分からなかったので有名店のお菓子を人数分買ってきたのだが良かっただろうか。
「まあ!いいの?もしかして子どもたちの分まであるのかしら?」
「勿論ありますよ」
「気を遣わせちゃってごめんなさいね。お昼にいただくわ」
椅子を勧められたので素直に座ってママさんと向き合う。
彼女は朗らかな表情で僕を見つめてから口を開いた。
「いつも様子を見に来てくれてありがとうね」
「お礼を言わなければならないのはこちらの方ですよ。子どもたちを守ってくださりありがとうございます」
ママさんはこの孤児院を若い頃から1人で経営してくれている方だ。
森の中にあるこの孤児院にはエルラント国の孤児が一手に集められる。
昔はストリートチルドレンを狙った人攫いや人身売買が横行していたのだが、ママさんがこの孤児院を立ち上げてくれたことにより被害件数は一気に減った。
そして、僕もこの孤児院で暮らしていた内の1人だ。
僕の場合は里親が見つからなかったため、成人してから孤児院を出た。
それを期に名前を変えて寮がある騎士団に入団したのだった。
だからママさんは僕がバレッサであることは知らない。
僕はあくまでも『騎士団団長のサイラスが定期的に孤児院に視察に来ている』という体でここに足を運んでいる。
孤児院への寄付も匿名で行なっているから僕からということは気づかれていないはずだ。
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