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第15話

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「あぁ、ここに居る以上サイラスと呼んだ方がいいと思ってね。イゴールにも言われたんだ」
「変に聞かれた時、言及されて困るのはサイラスだからな」
「私もその方がいいと思います。女性と分かった途端に態度を変える人もいるでしょうから」

陛下とカリン先生も賛同を示すように頷いた。

「それに『バレッサ』は君が俺の想いを受け入れてくれた時に呼びたい」

陛下の直球過ぎる言葉に僕は思わず赤面してしまう。
同時に胸が高鳴って仕方がない。
そんな僕をダレス様は微笑ましそうに見つめていた。

カリン先生はともかく、陛下の前で口説くのは非常に恥ずかしいからやめてほしい…
 
「はー、お熱いことで」
「昨日の件が嘘のようですね」

イゴール陛下とカリン先生はニヤニヤしながら僕たちを揶揄ってくる。
上司だろうが関係なく思い切り睨むと温かい眼差しで笑われた。

「それで、サイラスは何の用だったんだ?」
「ああ、そうでした。昨日の警備に関する報告書をまとめたので提出するために陛下のことを探していました」

陛下が空気を変える様に声を掛けてくるので素直に用件を伝える。
すると彼はいつもの笑顔を浮かべて僕に向き直った。

「流石仕事が早いな。どうだった?」
「特に大きな問題は起きませんでした。強いて言えば数件口論が起こったぐらいですがどれも暴力沙汰には発展しなかったようです」
「それなら良かった」

安心したように息を吐くイゴール陛下に報告書を渡す。
すると彼は嬉しそうに笑って受け取ってくれた。

「ダレス様、今更ですが何かお飲み物を準備致しましょうか?」
「お気遣いありがとうございます。サイラスはこの後どうする?」
「パーティーの片付けを手伝いに行こうかと思っています」

元々の予定を伝えるとダレス様は捨てられた子犬のようにしょんぼりとしてしまった。

「…俺も手伝ったら駄目か?」

妥協案というように出された案に固まってしまう。
この人は何を言っているのだろうか。

「駄目というか、お客様にそのようなことさせられませんよ」
「そのお客様からの申し出だとしてもか?」
「…使用人が動揺してしまいますからお控えいただけると嬉しく思います」

丁寧に言うも不服そうにダレス様は眉に皺を寄せる。
すごい、人間ってこんなにも不満を表情に出せるんだ。
完全に場違いなことを考えつつ助けを求めて陛下やカリン先生に視線をやるも2人とも面白そうに笑うだけだ。

「大体、夜は一緒に過ごす約束なんですから昼間ぐらい個々で過ごしてもいいでしょう?」
「「夜は一緒に過ごす!?」」

溜め息交じりにそう言えば先ほどまで笑っていた2人は驚きの声を上げた。
あぁ、そういえば2人は知らなかったな。

「大丈夫ですよ、手は出さないと約束していただきましたので」
「「そういうことじゃない!!」」
「わ、わー…仲良いですね…」

悪魔の形相で迫ってくる2人から目を逸らしつつ、カリン先生にガシッと肩を掴まれた。

「サイラス、ちょっと話があるのだけれど」
「…僕は特にないのでそろそろ失礼していいですか?」
「良いわけないでしょう。そこに座りなさい」
「はい…」

陛下はカリン先生の怒りを察したのか、わざわざ僕の為に立ち上がって椅子を空けてくれた。

こんなところで変に気を使わないでくださいよ。

しかしそんなことが言えるわけもなくカリン先生の圧に負けて大人しく座る。

「どういうことかしら」
「僕から説明することは何もないですよ。ダレス様に聞いてください」
「俺ぇ?」

いきなり話を振られたダレス様が驚いたように声を上げる。
いや貴方からこの約束を持ちかけてきたのだから当然でしょう。
何でそんなに「意外だ」みたいな反応できるんですか。

「だって想い人とは一緒に寝たいだろ」
「…お前ヤバいな」
「え、イゴールに引かれるのは心外なんだけど」
「何でだよ」

目の前の掛け合いを他人事のように眺めていると突然医務室の扉が遠慮がちにノックされた。
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