男装騎士の元カレは隣国の王太子でした

宮野 智羽

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第14話 サイラスside

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「第8部隊、異常ありませんでした」
「お疲れ。ゆっくり休んでくれ」

私室で第8部隊の隊長から報告を受け、労りの言葉を述べてから下がらせる。
彼が退室したのを確認してから書類を確認する。
これで全部の部隊から報告は受けた。
どうやら城内も市街地も異常がなかったようだ。

「報告書も書けたし陛下に提出しに行くか」

眠いがどうせなら書類を提出して安心してから休みたい。
僕は書類を持って陛下の執務室へ向かった。



陛下の執務室に着き、ノックをする。
いつもならすぐに返事が来るのだが、今日は物音1つしない。

「…陛下?」

不安になり、もう一度ノックをする。
パーティーの翌日である今日も国外からの出入りが激しい。

まさか、誘拐?

嫌な予感に居ても立っても居られず、扉も開けようとするも鍵がかかっており開かない。

「マスターキー…いや、先にカリン先生に陛下の居場所を知らないか聞きに行った方が、」
「おはよう」

扉の前でぐるぐると考えていると突然背後から声がかかる。
慌てて振り返ると、そこにはテレンス様が不思議そうな顔で立っていた。

「おはようございます、テレンス様」
「そんな所でどうした。入らないのか?」
「その予定でしたがご不在のようですので医務室に寄ってからマスターキーを取りに行こうかと」
「医務室?」
「カリン先生は陛下の場所を知っているかもしれませんので」
「なるほど」
「そういうことです」
「じゃあ俺も一緒に行っていいか?カリンさんに謝らないといけないことがあるんだ」

彼の言葉に頷いて一緒に医務室に向かう。
パーティーの次の日だからか使用人は忙しそうに城内を駆けまわっていた。

「おはようございます!」
「おはよう。片付けは急がなくていいから怪我しないようにな」
「お気遣いありがとうございます!」

すれ違ったメイドは忙しいにも関わらず元気よく挨拶をしてくれる。
テレンス様にも会釈をするとパタパタと走っていってしまった。

「この城の人はみんな元気だな」
「おかげで諜報員が紛れ込んだ時はすぐ摘発できますよ」

そんなことを話していればあっという間に医務室に着く。
ノックをすると中からバタバタと忙しない音が聞こえる。

「はーい!ちょっと待ってね!!」

扉越しに聞こえる焦ったようなカリン先生の声に思わずテレンス様と顔を見合わせてしまう。
いつもなら鍵なんてかけないのに今日に限ってご丁寧に施錠されている扉を見つめていれば、1分も経たない内に開かれた。

「お待たせしま…って、テレンス様とサイラス様ではありませんか」
「お取込み中だったみたいで申し訳ないです。先ほど陛下のお部屋に向かったのですが、ご不在だったので居場所をご存じではないかと思って来ました」
「あー…えっと、」

用件を伝えるとなぜか気まずそうに目を逸らされる。
おっと、これはもしかしなくても何かあったな。

「テレンスとサイラスなら入れていいぞ」

医務室の奥から聞き馴染みのある声が聞こえる。
カリン先生はその言葉を聞いて僕たちを医務室に入れてくれた。

「よくここが分かったな」

医務室の奥にあるカウンセリングルームに通されるとそこには足を組んで優雅に手を振るイゴール陛下がいた。
仕事の時に見る硬い表情ではなく、穏やかな笑顔を浮かべている。

「カリン先生に陛下の居場所を尋ねてみようと思い医務室まで来たのですが、まさかその医務室にいたとは」
「なんだ、俺に用事があったのか。それは悪かったな」
「陛下がご無事で何よりです。誘拐を疑っていましたから」

そう言うと申し訳なさそうに眉が下げられた。
珍しくしょげている陛下になんて声をかけようか迷っていると、話を変えるようにテレンス様はカリン先生に呼び掛けた。

「カリンさん、昨日は色々助かりました。あと、迷惑かけてすみませんでした」
「気にしないでください。こちらこそ無礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした」
「あれはテレンスが悪いだろ」
「だからサイラスにも謝ったって!反省もしたから蒸し返してくれるなよ」

軽快なやり取りに少しだけ違和感を持つ。
それが何かに気づけず、1人で小さく首を傾げてしまう。
その変化に気づいたのか、テレンス様は僕の顔を覗き込んだ。

「どうした、サイラス。何かあったか?」
「あ…名前」

テレンス様が僕を呼ぶ時、『バレッサ』ではなく『サイラス』と呼ぶようになっている。
その変化を思わず口に出せば彼は困ったように笑った。
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