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第4話
しおりを挟むそれからの1ヵ月はそれはもう多忙を極めていた。
警備隊に関しての打ち合わせは勿論、寝る間も惜しんで来賓の方々の名前を覚えたりその国々に関するちょっとした知識も叩き込んだ。
正装の採寸も大変で、仕立て屋から女性ということを隠すためにカリンに擁護してもらった記憶はまだ新しい。
女性とバレてドレスでも仕立てられたらたまったもんじゃないからね。
「じゃあ髪セットするからここに座って」
「はーい」
そして当日を迎えた今日、粗方の指示も出し終えて昼食も取り終わればいよいよ本格的に身だしなみを整えるよう陛下に言われた。
勿論着替えの手伝いはカリンに頼んだ。
「この長さならハーフアップとかどうかしら」
「髪型にこだわりはないから任せるよ」
「ちょっと、良い貴族様を見つけてきてよ!パーティーマジックなんてよく言うじゃない」
「どこぞの灰被りのお姫様じゃあるまいし…それに僕仕事なんだけど」
「いいじゃない。折角なんだからオシャレしなさい」
母親のように髪を手に取りながら言うカリンに何も言えなくなってしまう。
彼女はと言うと相変わらず白衣を着ている。
どうせなら私の代わりにオシャレして陛下とパーティーを楽しんでこればいいのに。
「はい、出来たわよ。次は化粧ね」
「…僕化粧嫌い」
「我が儘言わないの」
慣れた手つきでパタパタとブラシを顔に当てられ、僕は渋々目を閉じた。
化粧をされている間、ふと思い出す。
陛下はカリンをお茶会に誘うことが出来たのだろうか?
「はい!出来たわよ」
「早いね。って、うわぁ…!めっちゃ綺麗!」
化粧が終わったことを告げられ目を開けて鏡を見るがそこに映る自分の顔はいつもの自分とは別人だった。
「改めて見ると化粧映えする綺麗な顔してるのね。羨ましいわ~」
「ありがと。それより聞きたいことあるんだけどさ」
カリンに向き直ると不思議そうに首を傾げられる。
その反応を見てまだお茶会に誘われていないことを察した。
これは言わない方がいいな。
「……身長を盛るために厚底の靴を履く予定なんだけど見てもらえない?」
急遽質問を変えるもカリンは違和感を感じなかったようで、頷いて靴を見てくれた。
「これまた結構盛るのね」
「身長は舐められやすい大きな要因だからね」
カリンは少し見てから靴を持ってきてくれた。
「多分大丈夫だけど一度履いてみてくれる?」
「はーい」
カリンの手を借りながら靴を履くといつもとは違った景色が目の前に広がった。
「目線が高い!」
「楽しそうね。上着の裾は大丈夫そう?」
そう言われて確認するとちゃんと引きずらない長さで仕立てられていた。
少し歩いてみれば若干不安定だがほとんど支障なく歩ける。
「これなら大丈夫そう」
「良かったわ。パーティーは立食だからしんどくなったら自室で休憩しなさい」
「分かった」
母親のように優しく言うカリンに笑顔で頷く。
すると扉をノックする音が聞こえて、返事をすると陛下が顔を覗かせた。
彼もすでに正装に着替えており、髪型のセットも終えていた。
隣のカリンが小さな声で「かっこいい…」と呟くのが聞こえた。
「サイラス、そろそろ最後の打ち合わせをしよう」
「陛下、わざわざご足労いただきありがとうございます」
「カリンもいたのか」
「サイラスさんの手伝いをしていましたので」
カリンは耐えきれないというようにそそくさと部屋を出ようとしたのだが、さりげなくそれを引き留める。
「陛下の正装とか中々見られないんだしここにいなよ」
「無理…正装の陛下格好いい…」
私たちがコソコソと話しているのが気に障ったのか、陛下は顔を顰めながら口を開いた。
「何をしているんだ」
「いえ、どうせならカリンにも打ち合わせに同席してもらおうかと思いまして」
「そうか…って、サイラス。お前背伸びたか?」
「厚底の靴で盛っているんです。言わせないでください」
「そういうことか」
「……これだけ盛っても陛下を抜かせないんですね」
お互いに多少の緊張はあるようでいつもよりもハイテンポで会話が進んでいく。
しかしこのまま雑談で時間を潰すわけにはいかず、最後の打ち合わせを行う。
カリンもある程度流れを把握する必要があるため、相槌を打ちながら話を聞いていた。
「ということで、サイラスにはひたすら挨拶回りをしてもらい、カリンには医務室で体調不良者を介抱してもらうから頼んだぞ」
「はっ!」
「今年もですか~…」
嫌そうな顔をするカリンを宥めるように陛下は優しく頭を撫でた。
まさかの行動に「おっ!」と漏れそうになる声を必死に抑え込む。
頭を撫でられたカリンは顔を真っ赤にしてハクハクと口を動かしていた。
「毎年すまないな」
「い、いえ……」
恥ずかしそうに目を逸らすカリンと慈愛に満ちた笑みを浮かべている陛下に僕は叫びそうな気持ちを抑えた。
もう早く想いを伝えあってくれ。
見ているこっちがもどかしくて可笑しくなりそうだ。
そんな幸せな空間を壊したのは無情にも使用人のノックだった。
「陛下、来賓の皆様が会場に向かわれます。そろそろご準備ください」
「分かった」
陛下は使用人の呼びかけに淡々と返事を返した。
それから僕たちを真っすぐ見つめられた。
「よろしく頼むぞ、カリン、サイラス団長」
「はっ!」
「お任せを」
応援ありがとうございます!
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