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第1話
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煌びやかなお城の大広間。
沢山の貴族や家臣が見守る中、僕は国王陛下に向けて跪いていた。
「サイラス・アフガルト。汝を王国騎士団の団長に任ずる」
陛下の宣言を聞き、僕はゆっくりと息を吸い込む。
そして大広間にいる全ての人に聞こえるように声を張って応えた。
「有難く拝命いたします!」
僕がそう返答すると、陛下が玉座から立ち上がる気配を感じた。
「皆の者!この時より長らく空席だった騎士団長の座にサイラスが就く!盛大に祝ってやってくれ!」
国王陛下の言葉と共に大広間に集まっていた貴族や家臣が一斉に拍手をしだした。
「おめでとう、サイラス」
陛下は近く歩み寄り優しい声で祝ってくれた。
立ち上がり陛下と目を合わせる。
お互い緊張が解けたようで、先ほどよりも幾分か表情が柔らかい。
「陛下のご期待に添えるよう、この命ある限りこの国と騎士団の誇りを守り抜いてみせます」
僕は敬礼をして陛下と王国への忠誠を誓った。
サイラス・アフガルト
長らく空席だった王国騎士団の団長の座に就いた若き剣士。
しかし彼はお世辞にもガタイが良いとは言えず、鎧を付けていない姿は女性と見間違えられるほど華奢だった。
その容姿を理由に陰口を言われることもあった彼だが、全て実力で黙らせてきた。
__彼は天才と呼ばれるほど剣士の才能に溢れた男だ。
そんな噂が近隣の国々に広がるまでそう時間はかからなかった。
「……『女性と見間違えられる』ってなんだよ。れっきとした女性なんだけど」
団長の座に就いて早半年。
僕は新しく頂いた私室の執務机に向かいながら偶然耳にした噂について文句を垂れていた。
きっと噂していた兵士も、噂を流したどこかの誰かも悪意があったわけではないと思う。
それは分かっているのだが、女性兵の姿もそこそこ見られるようになってきたこの国でそんな噂を耳にするとは思っていなかっただけだ。
「まぁ、性別を濁し続けた僕にも非はあるんだけどさ…」
深いため息をつき、背凭れに体重を預ける。
目の前の書類は粗方終わったし訓練の巡回も終わった。
「書類提出ついでに陛下の様子でも見に行くか」
若くして王座に就かれた陛下は日々終わることのない激務に追われている。
最近徹夜続きだと言っていたし、倒れる前に一旦寝かしつけた方がいいだろう。
部屋を出て入り組んだ城内を歩く。
すれ違う兵士と挨拶を交わしながら、国王陛下の執務室へ向かった。
独特のリズムでノックをするとか細く「入れ」という声が聞こえた。
「失礼します」
部屋に入ると机に突っ伏している陛下が目に入る。
あぁ、やっぱり…。
「陛下、お疲れ様です。今日はここまでにしましょう」
近づいて持ってきていた書類を机に置き、肩を軽く叩くとゆっくりと顔が上がる。
顔色も悪いし目も虚ろだ。
これは完全に限界だな。
「サイラスか……そうだな……そろそろ終わろうか……」
欠伸をしながら伸びをする陛下は机に積まれた書類の山を見て小さく唸る。
「今何時だ」
「13時です」
「……何日だ?」
「ちょっと待ってください。その質問は限界すぎますって」
目を擦りながらもごにょごにょと何かを言っている。
よく過労死しないなこの人。
座ったまま寝させるわけにはいかないので着替えさせながら会話を続ける。
「はい、陛下。ご自分の御名前は?」
「…イゴール・エルラント」
「はい。イゴール様の年齢は?」
「……今年で25」
「僕の名前は分かりますか?」
「………サイラス・アフガルト」
「僕の年齢は?」
「………」
「陛下ー?」
「うん?……うん、…18?」
「この前一緒にお酒飲みましたよね。僕は今年で21です」
「…誕生日、おめでと」
「違う違う違う。何もかも違いますから」
……これは大分マズいな。
歩かせるのも怖いため着替えが終わってから横抱きにして執務室の奥にある陛下の私室のベッドに運ぶ。
「陛下、とりあえず今日は寝てください。明日の朝起こしに来ますから」
「……サイラスは…寝ないのか?」
「僕は寝ません。何なら今から訓練に行こうかと思っていましたし」
何か言われる前に布団をかけ、明かりを消す。
「寝不足だと集中力も落ちますのでここらで一度ちゃんと寝てください」
「……分かった。……おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
陛下の私室を出た僕はその足で医務室へと向かった。
沢山の貴族や家臣が見守る中、僕は国王陛下に向けて跪いていた。
「サイラス・アフガルト。汝を王国騎士団の団長に任ずる」
陛下の宣言を聞き、僕はゆっくりと息を吸い込む。
そして大広間にいる全ての人に聞こえるように声を張って応えた。
「有難く拝命いたします!」
僕がそう返答すると、陛下が玉座から立ち上がる気配を感じた。
「皆の者!この時より長らく空席だった騎士団長の座にサイラスが就く!盛大に祝ってやってくれ!」
国王陛下の言葉と共に大広間に集まっていた貴族や家臣が一斉に拍手をしだした。
「おめでとう、サイラス」
陛下は近く歩み寄り優しい声で祝ってくれた。
立ち上がり陛下と目を合わせる。
お互い緊張が解けたようで、先ほどよりも幾分か表情が柔らかい。
「陛下のご期待に添えるよう、この命ある限りこの国と騎士団の誇りを守り抜いてみせます」
僕は敬礼をして陛下と王国への忠誠を誓った。
サイラス・アフガルト
長らく空席だった王国騎士団の団長の座に就いた若き剣士。
しかし彼はお世辞にもガタイが良いとは言えず、鎧を付けていない姿は女性と見間違えられるほど華奢だった。
その容姿を理由に陰口を言われることもあった彼だが、全て実力で黙らせてきた。
__彼は天才と呼ばれるほど剣士の才能に溢れた男だ。
そんな噂が近隣の国々に広がるまでそう時間はかからなかった。
「……『女性と見間違えられる』ってなんだよ。れっきとした女性なんだけど」
団長の座に就いて早半年。
僕は新しく頂いた私室の執務机に向かいながら偶然耳にした噂について文句を垂れていた。
きっと噂していた兵士も、噂を流したどこかの誰かも悪意があったわけではないと思う。
それは分かっているのだが、女性兵の姿もそこそこ見られるようになってきたこの国でそんな噂を耳にするとは思っていなかっただけだ。
「まぁ、性別を濁し続けた僕にも非はあるんだけどさ…」
深いため息をつき、背凭れに体重を預ける。
目の前の書類は粗方終わったし訓練の巡回も終わった。
「書類提出ついでに陛下の様子でも見に行くか」
若くして王座に就かれた陛下は日々終わることのない激務に追われている。
最近徹夜続きだと言っていたし、倒れる前に一旦寝かしつけた方がいいだろう。
部屋を出て入り組んだ城内を歩く。
すれ違う兵士と挨拶を交わしながら、国王陛下の執務室へ向かった。
独特のリズムでノックをするとか細く「入れ」という声が聞こえた。
「失礼します」
部屋に入ると机に突っ伏している陛下が目に入る。
あぁ、やっぱり…。
「陛下、お疲れ様です。今日はここまでにしましょう」
近づいて持ってきていた書類を机に置き、肩を軽く叩くとゆっくりと顔が上がる。
顔色も悪いし目も虚ろだ。
これは完全に限界だな。
「サイラスか……そうだな……そろそろ終わろうか……」
欠伸をしながら伸びをする陛下は机に積まれた書類の山を見て小さく唸る。
「今何時だ」
「13時です」
「……何日だ?」
「ちょっと待ってください。その質問は限界すぎますって」
目を擦りながらもごにょごにょと何かを言っている。
よく過労死しないなこの人。
座ったまま寝させるわけにはいかないので着替えさせながら会話を続ける。
「はい、陛下。ご自分の御名前は?」
「…イゴール・エルラント」
「はい。イゴール様の年齢は?」
「……今年で25」
「僕の名前は分かりますか?」
「………サイラス・アフガルト」
「僕の年齢は?」
「………」
「陛下ー?」
「うん?……うん、…18?」
「この前一緒にお酒飲みましたよね。僕は今年で21です」
「…誕生日、おめでと」
「違う違う違う。何もかも違いますから」
……これは大分マズいな。
歩かせるのも怖いため着替えが終わってから横抱きにして執務室の奥にある陛下の私室のベッドに運ぶ。
「陛下、とりあえず今日は寝てください。明日の朝起こしに来ますから」
「……サイラスは…寝ないのか?」
「僕は寝ません。何なら今から訓練に行こうかと思っていましたし」
何か言われる前に布団をかけ、明かりを消す。
「寝不足だと集中力も落ちますのでここらで一度ちゃんと寝てください」
「……分かった。……おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
陛下の私室を出た僕はその足で医務室へと向かった。
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