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嘘で塗り固められた家族

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それからアイクは事あるごとに絡んできた。
どうやら入学式で新入生の言葉を読んだのは彼だったらしく、そんな男と見た目が幼い私が頻繁に会話するようになれば噂にならないわけがなかった。

生憎、今日は用事があるらしいイリスは私と別れて早々に学園を出て行ってしまった。
夜には帰ってくるらしいが、それまでアイクを1人で躱し続けないといけないことが必然的に決まっていた。

「なぁなぁ」
「……何」

アイクは私がどれだけ冷たい態度を取っても絡んでくることをやめない。
それどころか、返事をするまで執拗に声をかけてくる始末だ。

「俺のことそんなに嫌いなのか?」
「あなたのことが嫌いなんじゃなくて、その言動が気に入らないだけ。付き纏ったり、執拗に声をかけたりしてほしくないの」

苛立ちながら雑に答えると、アイクが私の腕を掴んできた。

「…こういうところよ」

腕を引きながらそういうと、彼は眉をひそめた。

「じゃあ立ち止まって話を聞いてくれ」
「はぁ…どうせ主席の話とかでしょ。悪いけどその辺の話については話す気はないの。諦めてちょうだい」

はっきりと言えば彼は少し考えるような顔で私を見つめた後、口を開いた。

「じゃあお前のことを教えてほしい。家族とか、兄弟とかさ」
「……両親は貿易商よ。今まで他国に住んでいたのだけれど、進学の為に私だけこの国に来たの。卒業したら戻るつもりよ」
「だからこの前他国の言葉が分かったのか」
「いずれは家業を継ぐつもりだから独学で学んでいるの。入学試験は手続きの関係上、向こうの国で受けたわ」
「そうか」
「あと兄弟についてだっけ?兄弟はいないし、従妹とも疎遠になっているの」

ランハートと一緒に練った設定を違和感が無いように話す。
この理由なら他国の言語を話せても違和感が無いし、卒業と同時に連絡が取れなくなっても仕方ないと思えるはずだ。
ほとんど私が考えてランハートに確認してもらったのだが、彼が複雑そうな表情をしていたことは鮮明に覚えている。

「聞きたかったことは全部答えたわよ」
「あぁ」
「……」
「……」
「………もういい?」
「え、俺のことは聞かないのか?」

授業も終わったし、荷物を詰めた鞄を持ちながらアイクを見据える。

「興味ないもの」
「……そう、か」

何故か複雑そうな表情を浮かべている彼に首を傾げる。
ただただ変な奴。

これ以上話しても気分が悪くなるだけだし、今日はこのまま寮に戻ろうと教室の出口まで歩いていると、後ろから声がかかった。

「なぁ!」
「……なに」

律儀に返事をしてやれば、アイクは少し言い淀んでから口を開いた。

「今日の夜、談話室で話さないか?」

寮には男子専用の談話室、女子専用の談話室の他に男女兼用の広い談話室が設置されている。
多分その場所のことを言っているのだろう。

「……」
「少しでいいから」
「はぁ…分かった。じゃあ20時頃でいい?」
「あぁ!談話室で待ってる」

それだけ言うとアイクは教室から出ていった。

どうせ話すのは全て嘘でできた過去の話。
設定は細かく決めておいたし、家族写真などは持ってきていないと言えばいい。

嘘を吐くことに対して罪悪感はないが、何となく胸がざわつく。
その理由を何となく察するも知らないふりをして教室を後にした。
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