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過去の遺物たち(新と比較のため置いておきます)
1(ボツ)
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真っ赤なカーペットが埋め尽くされた王の間。いつもならば明るい雰囲気の華美な装飾な一室も、今日は何やら重苦しい雰囲気だ。
その中央の玉座で、タタラン王国の王アダンが腰掛けている。王と言いつつも、アダンはまだ三〇代ほどで、歴代のどの王よりも若く生気に満ち溢れている。
「アダン王、ルファー騎士がおいでになりました」
従者が重々しくアダンに頭を下げる。
「通せ」
「はっ」
王の指示で、従者が扉を開け放った。レッドカーペットを、堂々とした佇まいで歩いてくる一人の青年。鎧に身を包んでいてもわかる筋肉質な体系だが、いかにも筋トレに励んでいるという雰囲気はない。いわゆる細マッチョというやつだ。少し色焼けた健康な肌色に、キリリとしまった顔つきは、まだ若そうにも関わらず、聡明そうな印象を与える。
ルファーは、アダンの前までやってくると跪いて頭を垂れた。アダンは、完璧なルファーの所作に満足げに頷くと声をかけた。
「ルファーよ」
「はい」
「かの話は聞いておるか」
「はい」
顔が見えずにもわかる、悲痛に滲むルファーの顔。ここ最近、通称魔の森と呼ばれる広大な森に、何らかの問題が発生していることがわかった。その為、何人かの騎士が派遣されたのだが、いずれも行方不明になっている。
「クーデリアスも、とうとう二週間戻ってこなかった」
クーデリアスはルファーの上司であり、王が最も信頼をする五騎士の中の一人であった。そのクーデリアスの行方もわからなくなり、とうとう王国も異常事態を認識する他なくなってしまった。第一から第三隊のトップがいなくなり、国の警備のために第四と第五隊は動かしたくない。その為、今回ルファーに声がかかったのであった。
「面を上げよ」
「はっ」
アダンは跪く騎士をその青い瞳で見つめた。真っすぐに自分を見つめる青年に、意を決したようにアダムは命令を下す。
「そなたに、魔の森の偵察を頼みたい」
「はい」
何人もの騎士が戻らなかったにも関わらず、恐れを知らないあまりに曇りのない返事に、アダンは逆に問い返す。
「しかし、この任務は危険が伴うぞ」
「心得ております」
「もしもそなたの気が乗らないのなら……」
「いいえ我が王、私は今日この為に参ったのです。我が国の危機に、我が王の頼みであれば、私はこの命を懸けてどこにでも参る所存です」
「そうか……」
ルファーの瞳に嘘はなかった。若き騎士の覚悟に、王は瞳を潤ませた。
「この国の命運は、其方にかかっておる」
「はい」
アダンは、暗い表情を僅かに緩めると言った。
「任せたぞ」
「はい、我が王」
ルファーは敬愛する王に微笑むと、もう一度頭を深く垂れた。
ルファーは、次の日に魔の森に出発した。一番の装備を身に着け、森の奥へ奥へと進んでいく。
(変だな……)
ルファーは辺りを見回した。まだ昼過ぎなのに、生命の活動がほとんど感じられない。鳥の鳴き声も弱弱しく感じるほどだ。それでも勇敢な騎士は、さらに奥深くに足を進めていく。とうとう、さえずる小鳥の鳴き声も少なくなり、ついにはパッタリと聞こえなくなった。
(こんなに陰気臭いところだったのか?)
その昔は、魔の森はまだその名を持つこともなく、国民に解放された明るい声が響く場所だったという。
鬱々とした雰囲気で、昼過ぎにも関わらず、ほとんど光が入ってこなくなってきた。ルファーの視界が悪くなり、つられて歩く速度も遅くなった。そのとき……
ズルゥウウウウ──
「────ッ?!」
湿度も伴った地を這うような音に、ルファーは後ろを振り返った。目を凝らすが、暗すぎてよく見えない。
「何者だっ!」
精一杯声を張り上げるが、相手の居場所は依然としてわからない。背後にいるような、かと言えば後ろにいるような気配もする。
ルファーは剣を引き抜き構えた。ルファーの剣は、彼の背近くもある大剣で大きく振り回すことで相手を真っ二つにすることができた。
しかし、場所が悪い。ルファーの周りは木が鬱蒼と茂り、剣を食らわすには不向きだった。
ヌルゥゥウウウウッッッ
「うっ、このっ!」
ジャキンッ
突然頬を撫でたぬるつく感覚に、ルファーは力強く剣を振るった。 大きく重い剣を咄嗟に振った反動で、ルファーはタタラを踏んだ。
「くっ!」
そのまま両手で大剣を振り上げた状態で後ろに倒れかけ、剣が気に突き刺さってしまう。その僅かな一瞬だった。
ニュロニュロニュロニュロッ
「わぁああああああっ、なんだこれはっ!」
未知の生き物がルファーに襲いかかった。足を拘束する様に粘度のある生き物が絡みつき、もがけばもがくほど上へ上へ上ってくる。
「こんのっ、離せこの野郎っ」
ルファーの力をもってしても敵わない。
「ぐっ……くっ……うぅっ」
(くそっ、なんて力だっ!)
とうとう首辺りにまで来ると、ルファーの首をぎゅうぎゅう締めつけ出した。
「あがががぁあっ、や、やめろっ、うぐぐぅううう」
どんなに叫んでも、力は緩まることはない。
(こ、こんなところで終わってたまるか……っ)
ルファーの頭の中に、厳しくも心優しい上司の顔や、王の顔が浮かんでは消える。
「ぐっ、ぐぅうううう、王よ、がぁあああ————っ!」
ルファーの固い意志も虚しく、一層ルファーの首を絞めた生き物はルファーの意識を完全に奪ってしまった。静かになったルファーを、触手のような手で全身を包み込んだ。液体の中へ、ルファーは沈み込む。
ズルルㇽるぅううううう————ズルルるぅるるるるう————
ねっとりと糸を引きながら、生き物はルファーを連れて進みだす。陰鬱な洞窟へと。
◆
◇
◆
断続的な水音が響く陰湿な雰囲気を放つ洞窟の中で、ルファーは目を覚ました。
「ん……っ、どこだここ…は……っ」
ルファーは、彼を森で襲った生物によって、両手を上げた状態で拘束されていた。おどろおどろしい透けた紫色をしていて、生暖かい体液がルファーの手首に向かって垂れてくる。
(くそっ、動けない……)
ルファーの鎧にも、不気味な紫がかった色をした生物が、数匹絡みついていた。
「ぐっ、うんんっ」
(どうにかして、ここから脱出しなければっ)
ルファーは、力の限り身体を動かして逃げようとする。
「無駄ですよ」
「だ、誰だっ」
突然ルファーの背後から、声が聞こえた。
コツ……コツ……
(刺客か?!)
得体の知れない相手の声に、ルファーは身体を緊張させる。洞窟に音が反響していて、方向が全く掴めない。
「初めまして」
「……っ!」
ローブを羽織った男が、ルファーの後ろからぬっと姿を現した。フードに隠れて、顔はよく見えない。
(こいつ、気配を少しも感じさせなかったっ)
「誰だ貴様は! この拘束をとけっ」
「嫌ですよ、せっかく捕まえたんですから。それに……」
男が耳元に顔を近づける。
「こんなに触手がお似合いの方、なかなかお目にかかれませんから」
男の吐息が耳を擽った。
ゾクゾク……ッ
味わったことのない身体中を這い回るような感覚が、一瞬ルファーを襲う。ありったけの力で、ルファーは頭を振り払って、少しでも男と距離を置こうとした。
「近寄るなっ気色が悪いっ」
「あららすいません、お気に障りましたか?」
「当たり前だっ」
ルファーは思い切り男を睨みつける。誇り高き騎士は、簡単に他人に身体を触れさせることをさせるわけにはいかないのだ。それに、ルファーにはこの男が恐ろしく感じたのだ。
(なんだ今の感覚は……っ)
「ふふふ、やっぱり貴方は獰猛な獣のようですね」
男を訝しげにルファーは見やった。
「何……?」
「あー怖い、そんなに睨みつけないでください。魔斬りのルファー」
「俺を、知っているのか……?」
【魔切りのルファー】
自身の身体に負けないくらい巨大な剣で、魔物たちを容赦なく切り裂いていく、ルファーの通り名だ。
「もちろんです」
「お前は、誰一体誰なんだ?」
「ああそうそう、興奮して自己紹介が遅れました」
どこから吹いたのか、生暖かい風が吹き起こり男のフードを外す。
丸メガネをかけた清純そうな青年の顔が露わになる。
「私は、魔国の淫術師でございます」
「淫術師、だとっ」
「左様でございます」
【淫術師】
彼らは、口にするのも憚れるような恐ろしい術を使い、良い噂など聞いたことがなかった。具体的なことは知らないが、他国では彼らを使って戦争をしているところもあるようだった。ルファーにしてみれば淫術師など下品な輩たちで、関わりたくもない。
「ふんっ、その淫術師が俺に何のようだ」
「ふふ、良くぞ聞いてくださいましたッ!」
演技がかったような声と動きで、淫術師は両手を広げる。
「魔王様が直々に私めに与えて下さった、特別任務。あぁっ、なんて光栄なことでしょう!」
恍惚とした表情で、淫術師は続けた。
「貴方様は選ばれたのです」
「選ばれた、だと?」
ルファーは冷めた眼差しで淫術師を見る。
「はい。貴方には魔国への服従を誓っていただき、ゆくゆくは柱となっていただくのです」
「……?!」
さらりと口にされた衝撃の言葉に、ルファーは一瞬言葉を失う。
柱、それは国の神を意味する言葉。タタラン王国の誇り高き騎士が神など、ましてや敵国のものになどなってなっていいはずがない。ルファーは真っ赤にし烈火の如く怒り出す。
「何を言っている貴様っ」
「まあまあ、そんなに声を荒らげないでください。怖いじゃないですか」
「これが冷静でいられるわけがないだろっ」
「あなたが何と言おうと、これは決定事項なのです」
「何?」
「タタラン王国の生きとし生けるもの、全てが我が魔国の性的奴隷となります。貴方様には、彼らの導き手となっていただくのです」
「ははっ」
「ん? 何がおかしいのです?」
ルファーは鋭く淫術師を睨みつけた。
「穢れなきタタラン王国は、貴様らのような下賤な者どもに堕ちるなど、あり得るわけがないっ」
言い切った後、鼻でルファーは笑って続ける。
「ましてや王国に忠誠を誓うこの私が、お前たちのような低俗な輩の手先に、進んでなるわけがないだろう」
淫術師の瞳が、仄暗く光る。
「……ほぉお、随分と強気なんですねぇ」
「当たり前だろう」
「それにしては、触手にガッチリ捕まってますが」
「こんなものっ、俺がすぐに殺してっ、やるっ」
三日月型に目を細め、淫術師は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「では、貴方にその矜持を見せていただきましょうか」
パチン──ッ
淫術師のフィンガースナップの音が、洞窟中に鳴り渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです、どうにかして戻ってまいりました。
筆が乗ったので、一から仕切り直そうと思います。
またお付き合いいただけると嬉しいです。
溜めるのでなく、僅かでもできるときに更新していこうと思います。
6/4 前作でもいただけなかった♡を初めて、初めてしかも急に10個もつけていただけました。ちょい落ち込んでたので感激です! 心優しいそこのあなた様、ありがとうございます。これを糧にまた頑張ります!
その中央の玉座で、タタラン王国の王アダンが腰掛けている。王と言いつつも、アダンはまだ三〇代ほどで、歴代のどの王よりも若く生気に満ち溢れている。
「アダン王、ルファー騎士がおいでになりました」
従者が重々しくアダンに頭を下げる。
「通せ」
「はっ」
王の指示で、従者が扉を開け放った。レッドカーペットを、堂々とした佇まいで歩いてくる一人の青年。鎧に身を包んでいてもわかる筋肉質な体系だが、いかにも筋トレに励んでいるという雰囲気はない。いわゆる細マッチョというやつだ。少し色焼けた健康な肌色に、キリリとしまった顔つきは、まだ若そうにも関わらず、聡明そうな印象を与える。
ルファーは、アダンの前までやってくると跪いて頭を垂れた。アダンは、完璧なルファーの所作に満足げに頷くと声をかけた。
「ルファーよ」
「はい」
「かの話は聞いておるか」
「はい」
顔が見えずにもわかる、悲痛に滲むルファーの顔。ここ最近、通称魔の森と呼ばれる広大な森に、何らかの問題が発生していることがわかった。その為、何人かの騎士が派遣されたのだが、いずれも行方不明になっている。
「クーデリアスも、とうとう二週間戻ってこなかった」
クーデリアスはルファーの上司であり、王が最も信頼をする五騎士の中の一人であった。そのクーデリアスの行方もわからなくなり、とうとう王国も異常事態を認識する他なくなってしまった。第一から第三隊のトップがいなくなり、国の警備のために第四と第五隊は動かしたくない。その為、今回ルファーに声がかかったのであった。
「面を上げよ」
「はっ」
アダンは跪く騎士をその青い瞳で見つめた。真っすぐに自分を見つめる青年に、意を決したようにアダムは命令を下す。
「そなたに、魔の森の偵察を頼みたい」
「はい」
何人もの騎士が戻らなかったにも関わらず、恐れを知らないあまりに曇りのない返事に、アダンは逆に問い返す。
「しかし、この任務は危険が伴うぞ」
「心得ております」
「もしもそなたの気が乗らないのなら……」
「いいえ我が王、私は今日この為に参ったのです。我が国の危機に、我が王の頼みであれば、私はこの命を懸けてどこにでも参る所存です」
「そうか……」
ルファーの瞳に嘘はなかった。若き騎士の覚悟に、王は瞳を潤ませた。
「この国の命運は、其方にかかっておる」
「はい」
アダンは、暗い表情を僅かに緩めると言った。
「任せたぞ」
「はい、我が王」
ルファーは敬愛する王に微笑むと、もう一度頭を深く垂れた。
ルファーは、次の日に魔の森に出発した。一番の装備を身に着け、森の奥へ奥へと進んでいく。
(変だな……)
ルファーは辺りを見回した。まだ昼過ぎなのに、生命の活動がほとんど感じられない。鳥の鳴き声も弱弱しく感じるほどだ。それでも勇敢な騎士は、さらに奥深くに足を進めていく。とうとう、さえずる小鳥の鳴き声も少なくなり、ついにはパッタリと聞こえなくなった。
(こんなに陰気臭いところだったのか?)
その昔は、魔の森はまだその名を持つこともなく、国民に解放された明るい声が響く場所だったという。
鬱々とした雰囲気で、昼過ぎにも関わらず、ほとんど光が入ってこなくなってきた。ルファーの視界が悪くなり、つられて歩く速度も遅くなった。そのとき……
ズルゥウウウウ──
「────ッ?!」
湿度も伴った地を這うような音に、ルファーは後ろを振り返った。目を凝らすが、暗すぎてよく見えない。
「何者だっ!」
精一杯声を張り上げるが、相手の居場所は依然としてわからない。背後にいるような、かと言えば後ろにいるような気配もする。
ルファーは剣を引き抜き構えた。ルファーの剣は、彼の背近くもある大剣で大きく振り回すことで相手を真っ二つにすることができた。
しかし、場所が悪い。ルファーの周りは木が鬱蒼と茂り、剣を食らわすには不向きだった。
ヌルゥゥウウウウッッッ
「うっ、このっ!」
ジャキンッ
突然頬を撫でたぬるつく感覚に、ルファーは力強く剣を振るった。 大きく重い剣を咄嗟に振った反動で、ルファーはタタラを踏んだ。
「くっ!」
そのまま両手で大剣を振り上げた状態で後ろに倒れかけ、剣が気に突き刺さってしまう。その僅かな一瞬だった。
ニュロニュロニュロニュロッ
「わぁああああああっ、なんだこれはっ!」
未知の生き物がルファーに襲いかかった。足を拘束する様に粘度のある生き物が絡みつき、もがけばもがくほど上へ上へ上ってくる。
「こんのっ、離せこの野郎っ」
ルファーの力をもってしても敵わない。
「ぐっ……くっ……うぅっ」
(くそっ、なんて力だっ!)
とうとう首辺りにまで来ると、ルファーの首をぎゅうぎゅう締めつけ出した。
「あがががぁあっ、や、やめろっ、うぐぐぅううう」
どんなに叫んでも、力は緩まることはない。
(こ、こんなところで終わってたまるか……っ)
ルファーの頭の中に、厳しくも心優しい上司の顔や、王の顔が浮かんでは消える。
「ぐっ、ぐぅうううう、王よ、がぁあああ————っ!」
ルファーの固い意志も虚しく、一層ルファーの首を絞めた生き物はルファーの意識を完全に奪ってしまった。静かになったルファーを、触手のような手で全身を包み込んだ。液体の中へ、ルファーは沈み込む。
ズルルㇽるぅううううう————ズルルるぅるるるるう————
ねっとりと糸を引きながら、生き物はルファーを連れて進みだす。陰鬱な洞窟へと。
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◇
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断続的な水音が響く陰湿な雰囲気を放つ洞窟の中で、ルファーは目を覚ました。
「ん……っ、どこだここ…は……っ」
ルファーは、彼を森で襲った生物によって、両手を上げた状態で拘束されていた。おどろおどろしい透けた紫色をしていて、生暖かい体液がルファーの手首に向かって垂れてくる。
(くそっ、動けない……)
ルファーの鎧にも、不気味な紫がかった色をした生物が、数匹絡みついていた。
「ぐっ、うんんっ」
(どうにかして、ここから脱出しなければっ)
ルファーは、力の限り身体を動かして逃げようとする。
「無駄ですよ」
「だ、誰だっ」
突然ルファーの背後から、声が聞こえた。
コツ……コツ……
(刺客か?!)
得体の知れない相手の声に、ルファーは身体を緊張させる。洞窟に音が反響していて、方向が全く掴めない。
「初めまして」
「……っ!」
ローブを羽織った男が、ルファーの後ろからぬっと姿を現した。フードに隠れて、顔はよく見えない。
(こいつ、気配を少しも感じさせなかったっ)
「誰だ貴様は! この拘束をとけっ」
「嫌ですよ、せっかく捕まえたんですから。それに……」
男が耳元に顔を近づける。
「こんなに触手がお似合いの方、なかなかお目にかかれませんから」
男の吐息が耳を擽った。
ゾクゾク……ッ
味わったことのない身体中を這い回るような感覚が、一瞬ルファーを襲う。ありったけの力で、ルファーは頭を振り払って、少しでも男と距離を置こうとした。
「近寄るなっ気色が悪いっ」
「あららすいません、お気に障りましたか?」
「当たり前だっ」
ルファーは思い切り男を睨みつける。誇り高き騎士は、簡単に他人に身体を触れさせることをさせるわけにはいかないのだ。それに、ルファーにはこの男が恐ろしく感じたのだ。
(なんだ今の感覚は……っ)
「ふふふ、やっぱり貴方は獰猛な獣のようですね」
男を訝しげにルファーは見やった。
「何……?」
「あー怖い、そんなに睨みつけないでください。魔斬りのルファー」
「俺を、知っているのか……?」
【魔切りのルファー】
自身の身体に負けないくらい巨大な剣で、魔物たちを容赦なく切り裂いていく、ルファーの通り名だ。
「もちろんです」
「お前は、誰一体誰なんだ?」
「ああそうそう、興奮して自己紹介が遅れました」
どこから吹いたのか、生暖かい風が吹き起こり男のフードを外す。
丸メガネをかけた清純そうな青年の顔が露わになる。
「私は、魔国の淫術師でございます」
「淫術師、だとっ」
「左様でございます」
【淫術師】
彼らは、口にするのも憚れるような恐ろしい術を使い、良い噂など聞いたことがなかった。具体的なことは知らないが、他国では彼らを使って戦争をしているところもあるようだった。ルファーにしてみれば淫術師など下品な輩たちで、関わりたくもない。
「ふんっ、その淫術師が俺に何のようだ」
「ふふ、良くぞ聞いてくださいましたッ!」
演技がかったような声と動きで、淫術師は両手を広げる。
「魔王様が直々に私めに与えて下さった、特別任務。あぁっ、なんて光栄なことでしょう!」
恍惚とした表情で、淫術師は続けた。
「貴方様は選ばれたのです」
「選ばれた、だと?」
ルファーは冷めた眼差しで淫術師を見る。
「はい。貴方には魔国への服従を誓っていただき、ゆくゆくは柱となっていただくのです」
「……?!」
さらりと口にされた衝撃の言葉に、ルファーは一瞬言葉を失う。
柱、それは国の神を意味する言葉。タタラン王国の誇り高き騎士が神など、ましてや敵国のものになどなってなっていいはずがない。ルファーは真っ赤にし烈火の如く怒り出す。
「何を言っている貴様っ」
「まあまあ、そんなに声を荒らげないでください。怖いじゃないですか」
「これが冷静でいられるわけがないだろっ」
「あなたが何と言おうと、これは決定事項なのです」
「何?」
「タタラン王国の生きとし生けるもの、全てが我が魔国の性的奴隷となります。貴方様には、彼らの導き手となっていただくのです」
「ははっ」
「ん? 何がおかしいのです?」
ルファーは鋭く淫術師を睨みつけた。
「穢れなきタタラン王国は、貴様らのような下賤な者どもに堕ちるなど、あり得るわけがないっ」
言い切った後、鼻でルファーは笑って続ける。
「ましてや王国に忠誠を誓うこの私が、お前たちのような低俗な輩の手先に、進んでなるわけがないだろう」
淫術師の瞳が、仄暗く光る。
「……ほぉお、随分と強気なんですねぇ」
「当たり前だろう」
「それにしては、触手にガッチリ捕まってますが」
「こんなものっ、俺がすぐに殺してっ、やるっ」
三日月型に目を細め、淫術師は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「では、貴方にその矜持を見せていただきましょうか」
パチン──ッ
淫術師のフィンガースナップの音が、洞窟中に鳴り渡った。
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お久しぶりです、どうにかして戻ってまいりました。
筆が乗ったので、一から仕切り直そうと思います。
またお付き合いいただけると嬉しいです。
溜めるのでなく、僅かでもできるときに更新していこうと思います。
6/4 前作でもいただけなかった♡を初めて、初めてしかも急に10個もつけていただけました。ちょい落ち込んでたので感激です! 心優しいそこのあなた様、ありがとうございます。これを糧にまた頑張ります!
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