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File.5 不良の親玉君
久しぶり♡
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とある学校から依頼を受けて訪れていた、名井。
その依頼が何なのかは、今後別の機会に話すとしよう。
彼が一仕事終えて、学校の廊下を歩いていると、階段近くの片隅でたむろする、五、六人の人の学生たちの姿が見えた。
ヤンキー座りをしていて、皆派手な色の髪をしてピアスをしている。その真ん中に立ってままでいるメンバーが二人いて、そのうちの一人が親玉だろう。
(うひょおおおおお♡)
ここで、名井センサーの発動である。
親玉のヤンキーは、少し地毛の黒が見えたボブカットの金髪の方だろう。
生意気そうな顔つきながらも美形で、シルバーのピアスがキラリと光っている。
名井が親玉くんを見ていると、「何だテメー」と、そのうちの一人から声がかかる。
遅れて他のメンバー名井に気がつき、一斉に下から見上げる。確かに、見かけない人物がジロジロと見ていたら、不審に思うのは当たり前だ。
まして、名井のヨレヨレで何かのシミがついたシャツ、ズボン姿には、眉を細めたくなる。
「何かよーかよ」
隣にいる顔を上げた親玉くんと目が合う。
名井が何も答えずにいると、立ち上がってこちらに近づいてくるではないか。
しかし、これが名井の作戦であったのだ。
「何か言ったらどうなんだよ、オッサン」
下から名井を睨みつける、親玉くん。名井には、その昔ヤンキーからカツアゲされた、それはそれは辛い思い出があった。
だが……。
(いいっ、反抗的なその目)
もはや、名井に恐れる感情はなかった。むしろ、興奮で背筋がぞくぞくしてくる。
名井は、自ら近づいてきてくれた親玉くんの耳元に、何やら呟いた。
「あ? んだよ。聞こえねーよっ」
名井の口元に、親玉くんは自身の耳を寄せる。
「僕たち、待ち合わせしてたよね?」
「はぁあっ?!」
何言ってるんだ、と身を引こうとした親玉くんの腕を、すかさず名井は引き寄せて、さらに言葉を流しこむ。
「案内、君がしてくれるんだろう?」
んなわけねーだろっ。親玉君は、そう言って腕を振り解くはずだった。
「ああ、そうだったな」
(あれ、俺……、なんで?)
「もういいの?」
親玉くんの気持ちを置いてきぼりに、見知らぬキモ親父に気を使う発言までする始末。
「もう仕事終わったから、今すぐ案内してほしいなぁ」
「みっちゃん、その人誰なんだよ」
「え?」
仲間の一人が、不審げに名井の方に顎をしゃくる。
(あ……れ? 誰だ、このオッサン)
理解できない気持ち悪さに、親玉くんは身を固くする。
「親戚だよ」
間髪を入れずに、名井が続ける。
「親戚だもんね?」
途端、親玉君の頭の中でざらついた映像が流れた。
親戚一同が集まった時に、名井が自分にお年玉をくれた場面が再生されると、親玉君の体から力が抜けた。
「あ……」
(そっか、そうだったな)
「久しぶり」
「おお」
(おじさん、こっちに来てたんだな)
名井が肩を叩くが、もう親玉くんが抵抗することはない。名井を見つめていた、親玉君の不審げな目線は、今は柔らかく変化していた。
「今から、学校を案内してくれることになってるんだ。ね?」
「そう。てなわけだから、お前らまたな」
「あ、おお……」
仲間があっけにとられる中、親玉君は名井の毛深い手首をとって歩き出す。
「どこからにする?」
「誰もいない所ってあるかな?」
「え?」
「どこか二人きりになれる場所」
学校案内なのに、誰もいないところを見る意味っってあるんだろうか。そう思って振り返るも、名井の目を見ると、ちっぽけな疑問も雲散してしまう。
「あ、うん。こっち」
人気のない方向に、二人は歩き始める。校舎からタラップを使って別校舎に移動すると、部活動をする声も小さくなった。
「ここは?」
「旧校舎。もう取り壊す予定だし、今は誰もいないよ」
旧と名がつくだけあって、まだ日は沈んでいないものの人気はなく、どこか薄暗い雰囲気だ。
「ふ~ん、そっか」
一階の三組と書かれたプレートがついた教室までまで進むと、親玉くんはドアを開けた。
「入って」
「なんでこの教室にしたの?」
「俺、一年の時にここだったから」
「そうなんだ」
名井がドアを閉めて、二人は一言も話すことなく教室の真ん中に向かう。机は全て片側に寄せられていて、黒板から中央までが伽藍洞になっている。
親玉君が振り返った時、名井は親玉くんと自然に唇を合わせた。
んぢゅぅううううううううッッッ♡♡♡
(え……、俺、キス、されてるっ?!)
「ンんぅんううっ」
啄むようなキスではなく、親玉君の口を吸い取ってしまうかのような、真っ向からのバキュームキス。
身を捩って逃れようとするが、名井は許してくれない。
時折でっぷりとした唇が、親玉君の唇をふにふにと弄ぶように蠢く。
生温かい感触が、親玉君の口を吸盤のように取りついて離さない。
じゅるるぅっ♡♡♡♡♡♡
(キ、キモチ悪いっ)
親玉君は、手で名井の胸を押すがびくともしない。
がっしりと肩が掴まれてしまっていて、逃げられない。
そのくせ体の力が上手く入らず、蹴りを入れることさえできないのだ。
(い、息がもうできねぇっ)
「っぷはぁあっ」
涙目になりながら、親玉君は口を開く。
「なっ、何すんだてめえっ」
「何って、キスだよ」
あまりに悪びれない態度に、親玉君は絶句する。コイツは、マジにやばい。
(そもそも、コイツは誰なんだ……?)
身内に見えていた男の輪郭がぼんやりし、親玉君の目が見開かれる。
(こんな奴、俺の知り合いじゃねぇっ!!!)
「離せっ! この変態野郎……っ」
親玉君の本能が、彼にありったけの警報を鳴らす。
「何言ってるんだい、いつもしてるじゃないか」
名井が頭の後ろに手を回してきたので、親玉君がすかさず体を揺すって逃げようとする。
「や、やめっ」
ザザ……ッ
ザザザ…………ッ
そのとき、彼の頭の中にノイズと共に映像が流れた。
「おじさん!」
相手を見つけて、笑顔を浮かべて駆け寄る自分の姿。
「おう、元気にしてたか?」
おじさんの顔は、ぼやけてよく見えない。
「うん」
「よしよしいい子だぞ~」
頭を撫でられて、照れたように微笑む自分。
そこから流れる映像は、自分が秘かにおじさんを慕っているものばかりだ。
大抵自分を可愛がってくれているがおじさん。
時々、俺の隠し切れない行為に困り顔を浮かべながらも、なんだかんだで相手をしてくれる。
「そんなんじゃ、いつまでも彼女できないぞ」
「おいおいまた今日も来たのか」
「ちょっ、ちょっと近いって」
おじさんの体にべったりとひっつき、腕を回す。
「おいっ」
おじさんの鼓動、どくんどくんってが聞こえてくる。
ドキドキしてくれてるの。
体が熱くなってきた。
顔をおじさんの胸につけながら体を揺するように動かすと、動揺したようにおじさんは声を上げる。
「なあって」
おじさんの声に、少し熱がこもってる。
俺の事、引き離そうとしてないよね?
ていうことは、俺たち同じ気持ちじゃない?
「おじさぁん♡」
自分の知らない、男に媚びる甘ったるい自分の声。
見上げると、息を上げながら自分を見つめるおじさんの顔がドアップ。
「おい、まっ……んぶぅうっっっ?!」
ちゅっ♡ちゅっ♡ちゅっ♡
好き。
好き。
大好きっ。
おじさんは、俺の事叩かないし、叱らない。
俺の事を、愛してくれる。
胸の中から気持ちが溢れてくる。
また映像が流れていく。
車の中。
「んもぉおお、 早くぅ♡もう我慢できないよぉお♡♡♡」
「あ、ちょっと、あっ、あぁあああっ!」
おじさんの家。
「ねえ、しよ?♡♡♡」
「うわっ、そんな体の使い方どこで覚えたの?」
「しらなぃいい♡♡♡おじさんの前だとっ♡勝手にえっちになっちゃうのぉ♡♡♡」
蛇みたいにくねくねとおじさんの体に絡みついて、はしたなくキスをせがむ自分の姿。
ぴちゃぴちゃ♡♡♡にぬちゅぬちゅ♡♡♡
どの場面を切り取っても、卑劣な音でいっぱいだ。
日を重ねる毎に、おじさんが積極的になってくる。
「もっと、もっといやらしい顔見せて?」
「いやぁあん♡♡♡恥ずかしくなっちゃうよぉおお♡♡♡♡♡♡」
ぢゅっ♡ぢゅるるっ♡♡♡ぢゅるるるるっ♡♡♡♡♡♡
「おら、もっと尻突き出せっ」
「はぃいいいいんっ♡♡♡♡♡♡いいっ♡♡♡ああんっ♡♡♡♡ああんっ♡♡♡♡いいっ♡♡♡♡いぃいっ♡♡♡♡♡♡」
♡♡♡」
おじさんになら、おしり叩かれるのも、きもちいい。
「この変態がっ、もっと舌だせよおらっ」
「んぁあ~~♡ れろれろれろぉおお♡♡♡♡んふぃい♡♡♡♡♡♡きもひぃいいいいっ♡♡♡ ♡♡♡♡♡♡」
どんなに乱暴な言葉で責められたって、気にしない。
全部が全部、きもちいいっ。
頭の頂点から足の爪の先までしあわせっ。
もっともっと、気持ちよくなりたいっ。
「れろぉおおん♡♡♡♡あはぁっ♡♡♡♡んちゅぅうううっ♡♡♡♡♡んへぇええ♡♡♡もっとしてぇえええええっ♡♡♡」
本能のままにおじさんを押し倒して、お互いべとべとになりながら唇を貪る。
「あぁ……っ、べろべろべろぉっ♡♡♡、んぢゅっ♡♡♡いいっ、いいよっ」
おじさんはもう、俺を止めない。
逆に、快楽を表情に滲ませながら褒めるように自分の頭を撫でてくれる。
それが嬉しくてたまらない。
「んぁああんっ♡ きもひぃいいいいいっ♡ もっとぉおっ♡♡♡もっとしておじさぁああんっ♡♡♡♡♡♡」
「……っ!」
現実に戻ってきた親玉君は、あまりの情報量に、親玉君は目をぐるりとさせかけるが、目の前の男に頭を掴まれて覗き込むようにされたことで、なんとか白目にならずにすんだ。
「どうした?」
(この…男は……)
「ほら口開けて?」
頭をホールドされたまま、名井の唇が急接近してくる。
「あ……あっ」
親玉君は、頭の映像が処理できないままぼおっと名井の舌を迎えた。
「んぶぅううううううっ」
ぢゅるるるるるるるるぅううう♡♡♡♡♡♡
恥ずかしげも知らない下品な音を立てる唇に、みっちりと呼吸口を塞がれる。
自分の唇の周りを、べろんべろんと分厚い舌が這う。
吸引力だけのパワープレイだけで屈服させようとしてるのが伝わってきて、頭の中に次から次へと快楽が生まれてくる。
気持ち悪いとは、思わなくなっていた。どこまでも、この唇にすがりたくなってしまう。
僅かな力を出して目線を上げると、自分を見つめる欲望の男ホルモン剥き出しの男と目が合った。
(俺はこの人を、知っている)
けれど、ねっとりと続く気持ちよさに思考が働いてくれない。
「んはぁあ……っ」
唇が離れていく。
なぜだか寂しい、目の前の男が愛おしくてたまらない。
頭の中の映像にいたおじさんの顔にかかっていた靄が、徐々に晴れてくる。
はっきりとそれが分かるころに、自然と口から零れてきた言葉。
「おじ……、さん?」
「なんだい?」
「あぁ……っ」
(やっぱり、やっぱりあのおじさんだっ)
湧き出るような歓喜で、体が震えあがる。
頭の中にいたおじさんの映像と目の前の男の顔が、がっちりと一致した。
「おじさんっ!」
名井の胸に、自ら飛び込んで首筋に顔をうずめる親玉君。
すぅっと息を吸い込むと入ってくる、おじさんの香りがたまらない。
「学校では初めてだったから、キスびっくりしちゃったかな?」
「……びっくりするにきまってんだろ、こんな……教室なんかで」
(いつもは、ホテルとか家でやってんのに……♡♡♡)
「誰も来ないから大丈夫だよ」
「そう……、かな」
「もう一回、する?」
「うん……♡ ンんぅんうう……っ♡♡♡♡♡♡!!」
(はぁああああん♡♡♡きもちいきもちいきもちいぃいい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡唇くっつけただけなのに頭びりびりきちゃうぅううう♡♡♡♡♡♡)
「おじ♡♡♡♡さぁあん♡♡♡♡♡」
「ん?」
「もっとぉ♡♡♡もっと強く吸って♡♡♡♡」
へこへこと無意識に腰を揺らし、親玉君はエロアピールをする。
「いいよ♡」
(んぁあああああっ♡♡♡♡これっ♡♡これを待ってたのぉおおおっっっ♡♡♡♡)
おじさん、おじさん。
俺だけを見て?
じゅろぉおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡♡
(そうだこの感覚♡♡♡この感覚、すっかり忘れちゃってたぁああああああ♡♡♡♡♡こりぇしゃいこぉおおおおお♡♡♡♡♡♡)
(おじさんだけが、俺のことをわかってくれる)
(おじさんだけが、俺の全て)
肉食獣のようなギラギラした目で、俺から目を離さない。
おじさんを、こんな風にさせてしまったのは自分。
おじさん……。
おじさんっ……♡♡♡
俺だけのおじさんを、こんなに男臭く俺は変えてしまった……っ♡♡♡♡
「んぱぁあ……っ!!♡♡♡♡♡♡」
音をたてるような粘着質な糸を引きながら、名井の唇が離れていく。
「はぁっ……はぁっ♡」
「で、君の苗字って何だっけ?」
「え、満井……だけど?♡」
なんで?という疑問は、もう一度口を吸われたことですっかり消えてしまう。
(んぁあああああああん♡♡♡♡♡♡まただめえええええええええええっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡)
まるで、正常な思考を奪うかのようだ。
「じゃあ、下の名前は?」
「はぁっ、はぁあ……っ♡♡♡智也ぁっ♡♡智哉だよ~♡♡♡おじさん忘れちゃったの?」
付き合いのある親戚にも関わらず、異常な質問にも気が付けない。
「ちゅっ♡ちゅっ♡ そっかそっか、智也か。忘れちゃってたよ。ごめんね~れろれろぉお♡」
「あぁん♡♡♡もっとぉおおおおっ♡♡♡いいけどぉおお♡♡♡」
自分の名前よりも、快楽だけを追いかける満井。
名井の腕の中で嬉しそうに身をくねらせる満井に、こいつは逸材かもしれないと内心興奮する名井。
「これからおじさんが、智也にごめんねキスをするから許してくれるかい?」
「ごめんねキス?」
「そう、とってもスケベなキスのことだよ」
瞬間、痺れるような喜びが体を駆け巡った。
「はぁああ……っ♡♡♡してぇ♡♡♡♡♡♡ごめんねキスしてぇえ♡♡♡♡♡♡」
蕩けた目で、犬のように息を荒らげた満井。
名井はにんまりと笑って再び口を近づけた。
その依頼が何なのかは、今後別の機会に話すとしよう。
彼が一仕事終えて、学校の廊下を歩いていると、階段近くの片隅でたむろする、五、六人の人の学生たちの姿が見えた。
ヤンキー座りをしていて、皆派手な色の髪をしてピアスをしている。その真ん中に立ってままでいるメンバーが二人いて、そのうちの一人が親玉だろう。
(うひょおおおおお♡)
ここで、名井センサーの発動である。
親玉のヤンキーは、少し地毛の黒が見えたボブカットの金髪の方だろう。
生意気そうな顔つきながらも美形で、シルバーのピアスがキラリと光っている。
名井が親玉くんを見ていると、「何だテメー」と、そのうちの一人から声がかかる。
遅れて他のメンバー名井に気がつき、一斉に下から見上げる。確かに、見かけない人物がジロジロと見ていたら、不審に思うのは当たり前だ。
まして、名井のヨレヨレで何かのシミがついたシャツ、ズボン姿には、眉を細めたくなる。
「何かよーかよ」
隣にいる顔を上げた親玉くんと目が合う。
名井が何も答えずにいると、立ち上がってこちらに近づいてくるではないか。
しかし、これが名井の作戦であったのだ。
「何か言ったらどうなんだよ、オッサン」
下から名井を睨みつける、親玉くん。名井には、その昔ヤンキーからカツアゲされた、それはそれは辛い思い出があった。
だが……。
(いいっ、反抗的なその目)
もはや、名井に恐れる感情はなかった。むしろ、興奮で背筋がぞくぞくしてくる。
名井は、自ら近づいてきてくれた親玉くんの耳元に、何やら呟いた。
「あ? んだよ。聞こえねーよっ」
名井の口元に、親玉くんは自身の耳を寄せる。
「僕たち、待ち合わせしてたよね?」
「はぁあっ?!」
何言ってるんだ、と身を引こうとした親玉くんの腕を、すかさず名井は引き寄せて、さらに言葉を流しこむ。
「案内、君がしてくれるんだろう?」
んなわけねーだろっ。親玉君は、そう言って腕を振り解くはずだった。
「ああ、そうだったな」
(あれ、俺……、なんで?)
「もういいの?」
親玉くんの気持ちを置いてきぼりに、見知らぬキモ親父に気を使う発言までする始末。
「もう仕事終わったから、今すぐ案内してほしいなぁ」
「みっちゃん、その人誰なんだよ」
「え?」
仲間の一人が、不審げに名井の方に顎をしゃくる。
(あ……れ? 誰だ、このオッサン)
理解できない気持ち悪さに、親玉くんは身を固くする。
「親戚だよ」
間髪を入れずに、名井が続ける。
「親戚だもんね?」
途端、親玉君の頭の中でざらついた映像が流れた。
親戚一同が集まった時に、名井が自分にお年玉をくれた場面が再生されると、親玉君の体から力が抜けた。
「あ……」
(そっか、そうだったな)
「久しぶり」
「おお」
(おじさん、こっちに来てたんだな)
名井が肩を叩くが、もう親玉くんが抵抗することはない。名井を見つめていた、親玉君の不審げな目線は、今は柔らかく変化していた。
「今から、学校を案内してくれることになってるんだ。ね?」
「そう。てなわけだから、お前らまたな」
「あ、おお……」
仲間があっけにとられる中、親玉君は名井の毛深い手首をとって歩き出す。
「どこからにする?」
「誰もいない所ってあるかな?」
「え?」
「どこか二人きりになれる場所」
学校案内なのに、誰もいないところを見る意味っってあるんだろうか。そう思って振り返るも、名井の目を見ると、ちっぽけな疑問も雲散してしまう。
「あ、うん。こっち」
人気のない方向に、二人は歩き始める。校舎からタラップを使って別校舎に移動すると、部活動をする声も小さくなった。
「ここは?」
「旧校舎。もう取り壊す予定だし、今は誰もいないよ」
旧と名がつくだけあって、まだ日は沈んでいないものの人気はなく、どこか薄暗い雰囲気だ。
「ふ~ん、そっか」
一階の三組と書かれたプレートがついた教室までまで進むと、親玉くんはドアを開けた。
「入って」
「なんでこの教室にしたの?」
「俺、一年の時にここだったから」
「そうなんだ」
名井がドアを閉めて、二人は一言も話すことなく教室の真ん中に向かう。机は全て片側に寄せられていて、黒板から中央までが伽藍洞になっている。
親玉君が振り返った時、名井は親玉くんと自然に唇を合わせた。
んぢゅぅううううううううッッッ♡♡♡
(え……、俺、キス、されてるっ?!)
「ンんぅんううっ」
啄むようなキスではなく、親玉君の口を吸い取ってしまうかのような、真っ向からのバキュームキス。
身を捩って逃れようとするが、名井は許してくれない。
時折でっぷりとした唇が、親玉君の唇をふにふにと弄ぶように蠢く。
生温かい感触が、親玉君の口を吸盤のように取りついて離さない。
じゅるるぅっ♡♡♡♡♡♡
(キ、キモチ悪いっ)
親玉君は、手で名井の胸を押すがびくともしない。
がっしりと肩が掴まれてしまっていて、逃げられない。
そのくせ体の力が上手く入らず、蹴りを入れることさえできないのだ。
(い、息がもうできねぇっ)
「っぷはぁあっ」
涙目になりながら、親玉君は口を開く。
「なっ、何すんだてめえっ」
「何って、キスだよ」
あまりに悪びれない態度に、親玉君は絶句する。コイツは、マジにやばい。
(そもそも、コイツは誰なんだ……?)
身内に見えていた男の輪郭がぼんやりし、親玉君の目が見開かれる。
(こんな奴、俺の知り合いじゃねぇっ!!!)
「離せっ! この変態野郎……っ」
親玉君の本能が、彼にありったけの警報を鳴らす。
「何言ってるんだい、いつもしてるじゃないか」
名井が頭の後ろに手を回してきたので、親玉君がすかさず体を揺すって逃げようとする。
「や、やめっ」
ザザ……ッ
ザザザ…………ッ
そのとき、彼の頭の中にノイズと共に映像が流れた。
「おじさん!」
相手を見つけて、笑顔を浮かべて駆け寄る自分の姿。
「おう、元気にしてたか?」
おじさんの顔は、ぼやけてよく見えない。
「うん」
「よしよしいい子だぞ~」
頭を撫でられて、照れたように微笑む自分。
そこから流れる映像は、自分が秘かにおじさんを慕っているものばかりだ。
大抵自分を可愛がってくれているがおじさん。
時々、俺の隠し切れない行為に困り顔を浮かべながらも、なんだかんだで相手をしてくれる。
「そんなんじゃ、いつまでも彼女できないぞ」
「おいおいまた今日も来たのか」
「ちょっ、ちょっと近いって」
おじさんの体にべったりとひっつき、腕を回す。
「おいっ」
おじさんの鼓動、どくんどくんってが聞こえてくる。
ドキドキしてくれてるの。
体が熱くなってきた。
顔をおじさんの胸につけながら体を揺するように動かすと、動揺したようにおじさんは声を上げる。
「なあって」
おじさんの声に、少し熱がこもってる。
俺の事、引き離そうとしてないよね?
ていうことは、俺たち同じ気持ちじゃない?
「おじさぁん♡」
自分の知らない、男に媚びる甘ったるい自分の声。
見上げると、息を上げながら自分を見つめるおじさんの顔がドアップ。
「おい、まっ……んぶぅうっっっ?!」
ちゅっ♡ちゅっ♡ちゅっ♡
好き。
好き。
大好きっ。
おじさんは、俺の事叩かないし、叱らない。
俺の事を、愛してくれる。
胸の中から気持ちが溢れてくる。
また映像が流れていく。
車の中。
「んもぉおお、 早くぅ♡もう我慢できないよぉお♡♡♡」
「あ、ちょっと、あっ、あぁあああっ!」
おじさんの家。
「ねえ、しよ?♡♡♡」
「うわっ、そんな体の使い方どこで覚えたの?」
「しらなぃいい♡♡♡おじさんの前だとっ♡勝手にえっちになっちゃうのぉ♡♡♡」
蛇みたいにくねくねとおじさんの体に絡みついて、はしたなくキスをせがむ自分の姿。
ぴちゃぴちゃ♡♡♡にぬちゅぬちゅ♡♡♡
どの場面を切り取っても、卑劣な音でいっぱいだ。
日を重ねる毎に、おじさんが積極的になってくる。
「もっと、もっといやらしい顔見せて?」
「いやぁあん♡♡♡恥ずかしくなっちゃうよぉおお♡♡♡♡♡♡」
ぢゅっ♡ぢゅるるっ♡♡♡ぢゅるるるるっ♡♡♡♡♡♡
「おら、もっと尻突き出せっ」
「はぃいいいいんっ♡♡♡♡♡♡いいっ♡♡♡ああんっ♡♡♡♡ああんっ♡♡♡♡いいっ♡♡♡♡いぃいっ♡♡♡♡♡♡」
♡♡♡」
おじさんになら、おしり叩かれるのも、きもちいい。
「この変態がっ、もっと舌だせよおらっ」
「んぁあ~~♡ れろれろれろぉおお♡♡♡♡んふぃい♡♡♡♡♡♡きもひぃいいいいっ♡♡♡ ♡♡♡♡♡♡」
どんなに乱暴な言葉で責められたって、気にしない。
全部が全部、きもちいいっ。
頭の頂点から足の爪の先までしあわせっ。
もっともっと、気持ちよくなりたいっ。
「れろぉおおん♡♡♡♡あはぁっ♡♡♡♡んちゅぅうううっ♡♡♡♡♡んへぇええ♡♡♡もっとしてぇえええええっ♡♡♡」
本能のままにおじさんを押し倒して、お互いべとべとになりながら唇を貪る。
「あぁ……っ、べろべろべろぉっ♡♡♡、んぢゅっ♡♡♡いいっ、いいよっ」
おじさんはもう、俺を止めない。
逆に、快楽を表情に滲ませながら褒めるように自分の頭を撫でてくれる。
それが嬉しくてたまらない。
「んぁああんっ♡ きもひぃいいいいいっ♡ もっとぉおっ♡♡♡もっとしておじさぁああんっ♡♡♡♡♡♡」
「……っ!」
現実に戻ってきた親玉君は、あまりの情報量に、親玉君は目をぐるりとさせかけるが、目の前の男に頭を掴まれて覗き込むようにされたことで、なんとか白目にならずにすんだ。
「どうした?」
(この…男は……)
「ほら口開けて?」
頭をホールドされたまま、名井の唇が急接近してくる。
「あ……あっ」
親玉君は、頭の映像が処理できないままぼおっと名井の舌を迎えた。
「んぶぅううううううっ」
ぢゅるるるるるるるるぅううう♡♡♡♡♡♡
恥ずかしげも知らない下品な音を立てる唇に、みっちりと呼吸口を塞がれる。
自分の唇の周りを、べろんべろんと分厚い舌が這う。
吸引力だけのパワープレイだけで屈服させようとしてるのが伝わってきて、頭の中に次から次へと快楽が生まれてくる。
気持ち悪いとは、思わなくなっていた。どこまでも、この唇にすがりたくなってしまう。
僅かな力を出して目線を上げると、自分を見つめる欲望の男ホルモン剥き出しの男と目が合った。
(俺はこの人を、知っている)
けれど、ねっとりと続く気持ちよさに思考が働いてくれない。
「んはぁあ……っ」
唇が離れていく。
なぜだか寂しい、目の前の男が愛おしくてたまらない。
頭の中の映像にいたおじさんの顔にかかっていた靄が、徐々に晴れてくる。
はっきりとそれが分かるころに、自然と口から零れてきた言葉。
「おじ……、さん?」
「なんだい?」
「あぁ……っ」
(やっぱり、やっぱりあのおじさんだっ)
湧き出るような歓喜で、体が震えあがる。
頭の中にいたおじさんの映像と目の前の男の顔が、がっちりと一致した。
「おじさんっ!」
名井の胸に、自ら飛び込んで首筋に顔をうずめる親玉君。
すぅっと息を吸い込むと入ってくる、おじさんの香りがたまらない。
「学校では初めてだったから、キスびっくりしちゃったかな?」
「……びっくりするにきまってんだろ、こんな……教室なんかで」
(いつもは、ホテルとか家でやってんのに……♡♡♡)
「誰も来ないから大丈夫だよ」
「そう……、かな」
「もう一回、する?」
「うん……♡ ンんぅんうう……っ♡♡♡♡♡♡!!」
(はぁああああん♡♡♡きもちいきもちいきもちいぃいい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡唇くっつけただけなのに頭びりびりきちゃうぅううう♡♡♡♡♡♡)
「おじ♡♡♡♡さぁあん♡♡♡♡♡」
「ん?」
「もっとぉ♡♡♡もっと強く吸って♡♡♡♡」
へこへこと無意識に腰を揺らし、親玉君はエロアピールをする。
「いいよ♡」
(んぁあああああっ♡♡♡♡これっ♡♡これを待ってたのぉおおおっっっ♡♡♡♡)
おじさん、おじさん。
俺だけを見て?
じゅろぉおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡♡
(そうだこの感覚♡♡♡この感覚、すっかり忘れちゃってたぁああああああ♡♡♡♡♡こりぇしゃいこぉおおおおお♡♡♡♡♡♡)
(おじさんだけが、俺のことをわかってくれる)
(おじさんだけが、俺の全て)
肉食獣のようなギラギラした目で、俺から目を離さない。
おじさんを、こんな風にさせてしまったのは自分。
おじさん……。
おじさんっ……♡♡♡
俺だけのおじさんを、こんなに男臭く俺は変えてしまった……っ♡♡♡♡
「んぱぁあ……っ!!♡♡♡♡♡♡」
音をたてるような粘着質な糸を引きながら、名井の唇が離れていく。
「はぁっ……はぁっ♡」
「で、君の苗字って何だっけ?」
「え、満井……だけど?♡」
なんで?という疑問は、もう一度口を吸われたことですっかり消えてしまう。
(んぁあああああああん♡♡♡♡♡♡まただめえええええええええええっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡)
まるで、正常な思考を奪うかのようだ。
「じゃあ、下の名前は?」
「はぁっ、はぁあ……っ♡♡♡智也ぁっ♡♡智哉だよ~♡♡♡おじさん忘れちゃったの?」
付き合いのある親戚にも関わらず、異常な質問にも気が付けない。
「ちゅっ♡ちゅっ♡ そっかそっか、智也か。忘れちゃってたよ。ごめんね~れろれろぉお♡」
「あぁん♡♡♡もっとぉおおおおっ♡♡♡いいけどぉおお♡♡♡」
自分の名前よりも、快楽だけを追いかける満井。
名井の腕の中で嬉しそうに身をくねらせる満井に、こいつは逸材かもしれないと内心興奮する名井。
「これからおじさんが、智也にごめんねキスをするから許してくれるかい?」
「ごめんねキス?」
「そう、とってもスケベなキスのことだよ」
瞬間、痺れるような喜びが体を駆け巡った。
「はぁああ……っ♡♡♡してぇ♡♡♡♡♡♡ごめんねキスしてぇえ♡♡♡♡♡♡」
蕩けた目で、犬のように息を荒らげた満井。
名井はにんまりと笑って再び口を近づけた。
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【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
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BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
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書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
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