可哀想な君に

未知 道

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番外編

篠崎 三葉『兎の皮を被ったゴリラ』 2

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 強く肩を掴まれ、「うっ!」と呻く声が出てしまう。

(こんな、細いなりをしてるのに。不思議なくらい力強いんだよな、こいつ……)

 俺の父親もそうだったようだが……。奈央子は、掴んだり、押さえ付けたりという力が強いのだ。だから、簡単にマコちゃんを制圧出来たのだろう。
 恐らく、天性的なものかもしれない。


「……笑ってよ」
「……はっ、なに……?」

 ガシリと、顔を固定される。

「……っ、おい! なにを……!」
「なんで、なんで……笑ってくれないの? 私、全て消したよ? 三葉を苦しめるもの、全て消したじゃない。なんで、まだ笑ってくれないの?」

(笑う? 一体……奈央子は、何を言っている?)

 笑うなんて、いつもしている。だから、奈央子が一体何を言っているのかが、分からない。

「あの時みたいな……。リコちゃんがいた時みたいな、本当の笑顔を見せてよ!」
「…………は? え……?」

(奈央子の、篠崎家を崩壊させるもろもろな行動全て――俺が、本当に笑えるようにだったのか……?)

 混乱がピークになり。もう、何が何だか分からない。一先ず、落ち着きたい。

「ちょっとさ……。と、とりあえず……離して――」

 口が柔らかいものに包まれ、唇の隙間から濡れたものも入り込んでくる。

 目の前に、長い睫毛が見えて。綺麗なアーモンド型の目が、俺を真っ直ぐに見詰めている。

 ――それで、奈央子に口付けられたのだと理解した。

 クチャリクチャリと響く音が、口の中から聞こえ。暫くして、チュパと音を鳴らし、柔らかな唇が離れる。

 驚愕に、身を固めている間に。すぐに、また唇が重ねられ。奈央子の唾液と一緒に、流し込まれた。

「コホッ! な、何を飲ませた……?」

 吐き出そうと、口に手を入れようとした時。腕を掴まれ、押し倒されてしまう。

「結局、どうやったって。私のことなんて、三葉の眼中にも映らないんだもんね? じゃあ、もういい。もう……三葉の気持ちは、聞かない」
「お、おい……奈央……――ぅ……っ、……?」

 身体が、クタリと弛緩する。そして――ジンジンと身体中が熱を持つ。

「――ねぇ、赤ちゃん作ろ? 三葉、赤ちゃん出来たらさ。いくら私のことが大嫌いでも、子供のためにちゃんと結婚してくれるでしょ? 三葉は、優しいから」
「はっ、はぁっ! な……お……っ、や、め……」

 仄暗ほのぐらい笑みを浮かべた奈央子が、俺のズボンの膨らみをスルリと撫でた。


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