可哀想な君に

未知 道

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番外編

篠崎 三葉『伝わらぬ、歪愛』 2

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 奏多に「本の整理が終わったら、居間に伝えに来てね」と言われていたから、居間の扉を開ける。

 奏多が、こちらを振り向き――「どうしても欲しいもの、見つけたみたいだね」と優しく笑った。

「なんで、普通に渡してくれなかったんだ?」
「三葉に『これ、三葉のお父さんの日記だよ』って言って、渡したとして……読まずに破いて捨てるでしょ? それだけのことを、あの男からされてきたんだから」
「……ああ。そう、だな……」

 奏多には、全てお見通しだったようだ。

 もし、『父さんの日記だ』なんて言われ、渡されていたら。俺への、失望や罵倒がたくさん書かれていると思い。それを見たくもないと、恨みを込めながらビリビリに破き。ごみ箱に、叩きつけるように捨てていただろう。

「だとしてもさ……。あの数を整理させんのは、流石に酷いだろ!? 少しの整理にしろよっ!」
「ふふ、宝物探しみたいで、面白くなかった?」
「まったく、面白くねぇからっ! 目を酷使し過ぎて、疲れたわ!」
「そう? 面白いと思ったんだけど」

 悪びれもなく、そう言う奏多に呆れる。
 でも、怒りより感謝の気持ちの方が強い。

 奏多は、この日記を……警察に渡らないよう守ってくれたのだろう。
 父さんのものは、警察が捜査のため。家にある物、全てを持っていった。
 だから、犯罪者の日記という……事件の進展に役立つものが、手元に残るはずがないのだ。


 ――もう色々と疲弊しているから、早く帰宅したいと思い。俺は「疲れたから帰るな。これ、ありがとう」と言って。ひらりと手を振り、すぐに扉へ足を向けた。
 しかし、奏多に静かな声で呼び止められる。

 まだ何かあるのかと、足を止め。妙に静かな奏多を振り返り、唖然とした。

 奏多が、悲しそうな顔を浮かべていたからだ。

「――三葉。僕を、恨んでいいよ」
「……え?」

 恨む? 何故……? と思ってから。父さんが死ぬことになるキッカケを、奏多が作ったからだと分かった。

「恨むわけねぇだろ。父さんは、今までたくさんの命を散らしてきた。これは、なるべくしてなったことだ。報いを受けたんだと……。俺は、そう思ってる。だから……二度と、そんなこと言うな」

 奏多は「……そう」と言って、下を向き。次に顔を上げた時には、いつもの調子に戻っていて。それに、ホッとする。

 奏多は悪くない。本当なら、父さんの息子である俺がしなければならなかったことを、代わりにしてくれた。
 それに……。今まで、奏多が篠崎家を潰さなかったのは、俺のためだと今回のことで分かった。

 それは、マコちゃんのために行った今回のことは……。奏多なら、いつでも出来たはずだからだ。
 後から聞くと、奏多も篠崎家をよく思っていなかったらしい。それを、ずっと我慢していたのは――こうなることが分かっていたからだと思う。
 あんなことをする奴だとしても……。俺の肉親は、あの父親しかいない。奏多なりに、俺が親を亡くすのを、可哀想に思ったのかもしれない。

 だから、奏多は篠崎家を不快に思っていても。今まで、手を出さなかった……ということなのだろう――。



 ♢◆♢


 ――自宅に戻った途端。再び、涙が溢れ出した。

 それは、皆から悪人だと言われる……父親のために流す涙。
 父さんを、庇うことは絶対に出来ない。
 けど――歪な愛を捧げてくれた『妻や息子を想う、人間』に向けての涙ならば、許されるだろう。

 家族に伝わらない歪な愛をずっと捧げていた、可哀想な父親に向けて……。俺は長い間、涙を流し続けた。


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