可哀想な君に

未知 道

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番外編

小南 奈央子『どんな手を使ってでも』 2

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 後から聞いたら、男の子が篠崎家の直系だと知り。非常に驚いた。あんな、吹いたら飛んでしまいそうな子が、あの厳格そうな当主から生まれたなんて……と。

 でも、思い返してみると。だいっ嫌いな【篠崎 奏多】に容姿が似ていたような気もする。
 あんな奴より、百倍。好感の持てる容姿だが……。

 それから、もともと篠崎家と関わりのある両親に頼み込み。その子がよく居るらしい――私と出会ったあの庭園に、通うようになった。

 すぐに名前を教え合い。男の子を『三葉』と呼び。私のことを『奈央子』と呼んでもらうことにした。

 今まで、人を馬鹿にし。毎日がつまらないって理由で、人間を壊そうとまでしたのが嘘であるかのように。毎日が楽しくなった。
 それで、人で遊ぶのも止めることにした。
 三葉が知ったら、悲しむと思うからだ。

 両親のことも、三葉がああいったから、ちゃんと大事にするよう改めた。そうすれば、優しい三葉は喜んでくれるはず――。

 三葉は、とても優しい。心配になるくらいに、優しいのだ。
 だから、何かあったら私を頼るようにと、よくよく言い聞かせた。
 いくら、人で遊ぶのを止めたからって、三葉を傷付けるなら別。徹底的に、制裁するつもりだからだ。

 三葉と出会い、数年が経った頃。急に、三葉と会うことが出来なくなった。
 いくら頼んでも、門前払い。

 何があったのかと、情報を集めようとしても。今の私には、篠崎家の強固なセキュリティをすり抜けることは出来ないだろう。

 悔しくて歯噛みしていた時に、また三葉と会えるようになった。
 三葉は、酷く疲れたような、萎びたような……何かに非常に怯えていた。

 私は言った。何があったのかと、私が何とかしてあげるからと――。

 けど、三葉は首を振り。「大丈夫だよ」と、終始、困ったようにふにゃりと笑っているだけだった。

 その時から、三葉と会うことが難しくなってしまい。一月に1、2回が良いところだ。
 しかし、一年が経った頃。三葉が、真っ白な兎を連れて来た。

 三葉は、目尻を下げ、その兎を愛おしそうに見ている。だから、ムカムカした。そんな生きた毛玉より、私を見て欲しいと兎に嫉妬してしまった。
 でも、三葉が「ほら、奈央子も抱いてごらん。可愛いでしょ?」と、私に兎を渡してきた。
 ふわふわとした感触が腕に触れて――『まぁ、いいか。確かに、可愛いし……』といった気持ちになり。私は、すぐに兎の存在を受け入れたのだ。

 それからは、三葉は以前と同じ頻度で、私と会ってくれるようになった。
 腕には、白い兎を抱いていて。いつしか、それが当たり前の光景になっていた。

 兎も私に懐いてくれて、可愛らしい鼻をふんふんと忙しなく動かし、近付いてくる。
 その鼻を人差し指で、いつもチョンと軽く押すのだ。私にとっての挨拶なつもりで。

 三葉は「リコちゃんが鼻ぺちゃになったら、どうするの~?」とリコを抱き上げ。私の隣に腰掛ける。
 すぐ隣にいる三葉に、胸がドキドキとする。

(将来、兎とか小動物を飼って。それで、私と三葉が結――)

 そこまで考えて、ブンブンと首を振った。
 まだまだ先の話だと、リコを撫でる三葉をチラリと覗き見る。
 綺麗な笑顔。本当に、三葉のその顔が……私は大好きだった――。



 ♢◆♢


 リコと出会ってから2年が過ぎ――再び、三葉と会うことが出来なくなった。

 ……とても、胸騒ぎがする。
 以前のことがあるからと、本格的に情報収集や、ハッキングの腕を鍛えていた。
 けど、まだ篠崎家に手をつけることは出来ない。篠崎家に関しては、バレずにハッキング出来るまでには至っていないのだ。

 けど、数日後に。三葉に会うことが出来た。

 私の前に現れた三葉は……別人のようになっていた。

 人を食ったような、軽い言動。私の大好きな笑顔じゃない――軽薄そうな、ヘラヘラとした笑顔。

 混乱する。三葉に、一体なにがあったのだと……。
 それで、リコに助けを求めたいという思いから、三葉の腕元を見るが。いつも一緒にいたリコがいない。

 だから「リコは……?」と恐る恐る三葉に聞いた。

 三葉は「殺した」と、ただそれだけを言い。また、ヘラヘラと笑う。
 それを、なんとも思っていないという顔。

 ぐわんと、視界が回っているようで、気持ち悪い。私の大好きな三葉が変わってしまった。理解できない。あんなに、優しい人間だったのに……どうして?

 でも、直ぐに気付いた――。

 三葉は、手をギリギリと握り締めて、地面に血がたくさん滴り落ちている。それは、まるで……涙をそこから出しているようだった。

『ああ、そうか』と思う。

 篠崎家が、三葉を苦しめているのだ。

 前も、今も――篠崎家が、私と三葉を引き離す。

 許せない。三葉を苦しめる、篠崎家の全てが……煩わしい。

 だから、三葉。私が消してあげる。

 どんな手を使ってでも、茨の道に進まなければならないとしても――可哀想な三葉に、私が救いの手を差し伸べてあげる。

 きっと、いつか。貴方が本心から笑えるように、その絡み付くしがらみから解放してあげる。

 だから、待っていて――三葉。


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