可哀想な君に

未知 道

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白井 真 18

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「……あれ? 全然来てなかったのに、綺麗にされてる」

 正面にある墓石には、白井 加苗かなえという名前が掘られている。
 その横には、俺の両親の墓石もある。

 誰かがちゃんと手入れをしてくれているのか。綺麗にされていて、苔や枯れ葉なども見当たらない。

 首を傾げながらも、柔らかい布で墓石を拭き。手桶に水を汲んで、打ち水をする。
 花を供え、お線香をあげ……。一息ついてから、手を合わせた。

 何も考えず、ただ目を瞑る。
 今だけは、何も考えたくはないと思って――。


「――白井……?」
「……え?」

 名前を呼ばれ、パッと振り向き――その立っている人物を見て「あっ」と声が出た。

「やっぱり! 俺のこと、覚えてる?」
「ああ、蒼井だろ?」
「そう! お前、全然変わってないのな? すぐ分かったわ」
「お前は……太ったな」
「そこは、変わってないね~でいいんだよ!」
「いや、変わっただろ。かなり……」

 蒼井のおばあちゃんと俺のおばあちゃんは、非常に仲良しだった。
 蒼井のおばあちゃんは、料理を振る舞うのが好きだから、よく家にお呼んでくれたりもした。

 蒼井も、両親を事故でなくしていて。おばあちゃんに育てられている。だからか、親近感も湧き、仲良くしていたが。どちらかというと、蒼井のおばあちゃんとよく話すことが多かった。
 いつも話していたのは「あなたのおばあちゃんとは、白井と蒼井で、お互いの名前に色や『井』も入っているから、きっと気が合うのね~」と穏やかに笑っていた。

 正直、自分の本当のおばあちゃんよりも、おばあちゃんらしくて大好きだったのだ。

 ――蒼井と、少し言い合ってから。何故か、蒼井はホッとしたような顔で笑った。

「ま、見た目はともかく。お前、性格はだいぶ変わった……ああ、違うか。ちゃんと自分を出せるようになったんだな? 俺のばあちゃん、死ぬまでずっと心配してたんだぞ……? お前、全く顔見せに来なかったからさ」
「……あ」

 その言葉で。優しく笑いかけてくれた蒼井のおばあちゃんは、もういないのだと理解する。

「なあ、白井……。今、時間ある?」
「え、ああ……うん」

 蒼井は「じゃあ、家来てくれよ」と俺を自宅に誘った。



 ♢◆♢


 家に着くなり。蒼井は、引き出しからシンプルな白い封筒を取り出して、俺に手渡してきた。

「ん~と……?」

 細長い封筒だから、お金が入っているのかと思い。蒼井にお金を貸したかと、記憶を辿るが……全く思い出せない。

「手紙だよ。お前の、ばあちゃんのな」
「……えっ!?」

(蒼井のおばあちゃんじゃなくて、俺の……?)

「これ、俺のばあちゃんがな~。『本心は絶対に伝えた方がいい。恥ずかしかったら、手紙にでも残しておけ。私が、ちゃんと渡しておくから』って、白井のばあちゃんに言って、書いてもらったものだって言ってたんだ。お前に渡したかったみたいだけど……。白井のばあちゃんが亡くなってから直ぐ、家から出て行ったっきり音沙汰がなくなったから。渡すに渡せないって……。ばあちゃん、スゲー心配してて。お前が顔見せに来るの、ずっと待ってたんだ」
「……ご、ごめん……」

 俺を心配し、待っていてくれる人なんていないと思っていた。
 蒼井のおばあちゃんは、俺に優しくしてくれるけど、それは俺のおばあちゃんと仲が良いから……。だから、おばあちゃんがいなくなったなら、もう関わることもないだろうと……そう思っていたんだ。

「謝るなよ。謝らせたかったわけじゃない。ただ、お前のことを大事に想っていたって伝えたかったんだよ。……その手紙の中身、見てないから内容は知らないけどさ。きっと、お前のばあちゃんも……そうだと思うよ」
「……ありがとう」

 ぐっと、目頭が熱くなる。

 蒼井は、気を利かせてくれたのか「飲み物持ってくるな~」と部屋から出て行った。

 そのシンプルな封筒を、少し眺めてから……固く閉じてある封を開けた――。


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