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白井 真 16
しおりを挟む目を開ける――まず最初に感じたことは、『白いな』だった。
次に、『非常に怠い』と思った。飽きるくらいに寝た後のようで……――。
後頭部の固い感触、真っ赤な光景、向けられる拳銃、瞬時にそれらを思い出す。
「うわぁああーーっ!!」
その恐怖も蘇り、恐ろしさによって喉から叫び声が出てしまった。
「ひゃぁああっ!?」
近くで驚愕したような悲鳴が聞こえ、バッとそこに視線を向けると。小南が尻もちをついていた。
横に椅子がひっくり返っているから、椅子から転がり落ちたように見える。
「ちょっと! 心臓止まるかと思ったじゃないっ! いきなり叫ばないでよね!」
「は……? お、お前……。え、なに、なに? 此処は……病院?」
清潔なベッドに、白いカーテンの引かれた空間――どう見ても、病室だ。
「……これ、どういうことだよ?」
「あはは! ついさっきの三葉と同じ顔ね」
「……うっせぇ! マジ、趣味わりぃんだよ。テメェら……」
向かい側から、三葉の声がして。苦い顔をする三葉と、目が合い。挨拶のつもりか、手を上げてきた。
「えっ、なにが……起きてんの? い、生きてるよな、俺たち……?」
奏多は、三葉や奈央子を殺す……というようなことを言っていたような気がする。
それに、俺に銃口を向けていて。現に、撃たれたはずだ。何故、怪我もせずに無事なんだろうか……?
「あ~、マコちゃんに撃ったあれ、麻酔銃な。ちなみに、俺と奈央子も……いたら邪魔だからって言われてさぁ~。あの後、すぐに撃たれた」
「麻酔銃……」
銃で急所を撃たれたなら、強い痛みが伝達される前に死ねるものかと、意識が落ちる一瞬の時に驚いたが。それが、麻酔銃であったならば納得だ。
「え、じゃあ……全部、嘘?」
三葉が「ああ」と言って、クイッと肩を竦め――。
「マコちゃんと、俺は……一杯食わされたんだよ――奏多と奈央子にな」
三葉は『見ろよ』というように、指を上の方に向けた。
『不動産会社として知れ渡っている、あの有名な篠崎家の全貌は、権利者からの依頼によって暗殺まで行うような――』
ニュースは、篠崎家の悪事についての話題で持ちきりだった。
「……一体、どうやったんだ?」
「あ~、マコちゃんも見ただろ? 奏多に付いてたあの【影】さ、俺のクソ親父が送った奴だったらしい。んで、まぁ……。多分、そいつから奏多がヤバイってのも聞いたんだろ~な。任務中の手練れな奴ら全員を、絶対命令で無理矢理あの倉庫に送り込んだら……どうなると思う?」
三葉は呆れた顔で、俺に聞いてくる。
(任務中ってことは――)
「そこから、バレた的な?」
「そうそう、ほんっと、バッカだよな~! 痕跡とか一切残しちゃいけねぇってのにさぁ……。それでも、今までの当主の中で一番優秀だって言われてたんだぜ? だから、次期当主になる奏多のためだとしても……。なんで、そんな暴挙に出たんだか――」
三葉は一瞬だけ、顔を悲しげに歪め――「最期まで、読めねぇジジィだったわ」と、言葉を乱暴に吐き出した。
三葉の『最期』という言葉や表情から、篠崎家のトップであった三葉の父親は、既にこの世にはいないということだろう。
それが、『自らでの死』か、『法によっての死』であるのか。そこを聞くほど、無神経にはなれずに黙っていると――。
テレビから『死刑執行』という声が流れてきた。
こんな早くに執行されるということは……。汚いものには蓋をする、という“権利者の圧力”によるものかもしれないと思い。背筋に冷たいものが走る。
「根本を叩かないと。これじゃあ、第二の篠崎家が生まれる可能性もあるわね……」
小南も、同じように思ったようで。冷たい目線をテレビに向けていた。
「それは、マコちゃんが奏多に『お願い、怖いから全部ぶっ潰して~』って言えば、簡単に消せるんじゃねぇ~の?」
「……ああ、まぁ。それもそうね~。あの後、私達の搬送先の病院、記者へのスクープも抜かりなくしていて、あり得ないわ。もう、化け物よ……あれは」
2人は普通に会話を始めた。けど……俺は、まだモヤモヤとした気持ちが残っている。
「なぁ、なんで……あそこまでやる必要があったんだ? 事前に話してくれたりさ……奏多だって――あれ……? あの怪我も、嘘だよな?」
(あのダラダラと滴る血……。あれも、血糊か何か……だよな?)
「奏多に付けられた優秀な【影】を騙すのは、並大抵なことじゃ出来ないのよ。ちゃんと騙すには、緊迫感のある演技を行わなければならない。それには、本当の驚愕や、怯えが必要性なの。事実を知っていて、出来るかしら?」
「それは……」
恐らく、大丈夫だという安心感によって。あの時のようには出来なかっただろう。
「だから、奏多も――本物の血を流した。でないと、匂いや色、質感でバレてしまうからね。……いま重体の状態で、面会謝絶だって聞いたわ」
「…………は?」
頭が真っ白になる――。
「ま、化け物みたいな奴だから、死にゃしねぇだろ」
三葉の声が耳に入り……。そんな訳ない、と思った。
だって、あんな大量な血が流れていた。
地面が血で水溜まりを作っていて。意識を失う直前に見た時は、血の海のようになっていたのだ。
「そんなの、分からないだろ! な、なんで、どうしてだよ……? あいつにとって、篠崎家があった方がいいはずだ。ここまでする理由って、なんなんだよ……!」
シンと、部屋が静まり返り。そして直ぐに、三葉と小南が、同時にため息をついた。
「私に、奏多が『篠崎家を潰すことに協力する』と言ったのは最近になってのことよ。あとは直接、奏多に聞いて」
「……最近?」
(最近になって。奏多に、何かしらの心境の変化を与えるものがあった……――?)
頭が混乱し過ぎているのか、考えがまとまらない。
そうしている間に「元気なら退院しないとな~」と言った三葉が、医者を呼び。
全員が、異常がないと診断され。帰宅することになった。
けど、俺には帰る家が無いし……。何より、まだ帰りたくないと思っていて、病院の前から動けずにいた。
――その時に、小南から「奏多の容体については、直ぐに連絡するから……。一先ず、あの部屋に帰って、ちゃんと休んで」とスマホと鍵を渡されたのだ。
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