可哀想な君に

未知 道

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白井 真 10

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(……あんなこと言われて。今まで通り、普通に出来ねぇ)

「真くん、チーズケーキ好きだったよね? 美味しいって話題の買ってきたから、一緒に食べよう」
「う、うん……」

 篠崎の手元を見る――ふわっふわのムースが乗ったチーズケーキが、お皿の真ん中に綺麗に乗せられていて、それを差し出されていた。

「これ、美味しいね」
「……うん、美味しいな」

 多分、美味しいんだろうけど。味がよく分からないくらいに、胃がキリキリする。

(三葉は、大丈夫なのか……? 篠崎、普通の顔してるし……)

 そう、普通の顔をしている。
 人を監禁しているとは思えない顔だ。

 俺は、いつかはここから出られると思っていた。だって、篠崎が俺なんかに本気で執着しているなんて、あり得ないと思っていたから。
 仮に、あったとしても。すぐに無くなる気持ちだろうな~と、のほほんと考えてもいた。

 でも、もし……その『いつか』が永遠に来ないなら。ずっと、俺にそういった気持ちを向けてしまうとしたら。この状況からを抜け出すには――俺が、“篠崎を愛さなければならない”ということだろう。

 ここに連れて来られた当初。俺が『早く解放しろ』と言ったら、『これじゃあ、解放するのはまだまだ先』だと言っていた。

 だとしたら、俺の気持ちが篠崎に向いたなら……解放してくれる可能性が高いということではないか?

(俺が、篠崎を愛せたら……。そう出来れば、三葉も助かるし、篠崎家のことだって……。でも、酷いことばかりされたのに、本当に愛することが出来……――)


「何を考えてるの?」
「ぇっ、……ぅわっ!」

 篠崎に、腕を引かれて。カシャン! と音を立てて、皿が床に落ちる。
 お皿は、運良く割れていないようだが。まだ殆ど残っていたケーキが、無惨にも床に散らばってしまった。

「ちょっ、篠崎! ケーキが……」
「別に、いいよ。真くんに考え事させるケーキに、価値なんか無いから」

(……なんだそれ?)

 変なことを言う篠崎を、怪訝な顔で見てしまう。

「それに、美味しそうに食べてなかったし」
「いや、そんなこと……」

 なんで、そんな人のこと見てんだよ……と呆れて、小さくため息をつく。

(あ~あ、勿体ないな。職人さんが、あんな巧みに作ってくれたものなのに……)

 精神的に参っているせいか、味は良く分からなかったが。それでも、心を込めて作り出したものだと分かる。

 口触りがとても良くて、見た目も綺麗だった。

(無理に食べようとしないで、後で食べるって言えば良かったかな……)

 食べ物を作る職人さんは『人の喜ぶ顔が好き』だと聞いたことがある。
 その為に作り出したものなのに、無理して食べるなんて失礼だったと、ぐちゃぐちゃに潰れたケーキを見て、落ち込む。

 急に、クイと顔を上向きにされて。声を出す暇もなく、俺の唇が篠崎の口に覆われる。
 チュッチュッとついばまれるようにされて、くすぐったくて正面のガッチリした肩を押す。
 すると、ちゅぅッと下唇を強めに吸われてから、篠崎が離れてくれた。

「最近、してなかったから……いいよね?」
「……っえ、いや……。今日は、そんな気分じゃ――」

 俺が拒否したとしても、初めから叶えるつもりがなかったのだろう。
 篠崎は、俺の首筋を舐め、吸いながら。服を脱がせてくる。

(だったら、初めから聞くなよ……)

 本当、最悪な気分だ。
 もう、早くすれば? というように、身体の力を抜いて目を瞑る。

 俺のトランクスを脱がされてから、篠崎の「ふふ」と笑うような声が聞こえた。

 一体なんだと、目を開く――。

「真くんの、ココ。そういえば、舐めたことなかったね」

 俺の萎えているモノを、篠崎は見ていた。

「……は? ちょ、ちょ、ちょっと! マジ、止めろ!」

 篠崎に、そこをスリスリと擦られ。それが嫌で、腰を後ろに引く。

「ただ気持ち良くなるだけだから、大丈夫だよ?」
「嫌だって! いつもみたいに、好き勝手すりゃいいだろっ! 無駄なことを――ふっ、ぁあ!」

 拒絶を無視され、篠崎の顔が下腹部に埋まる。
 熱くて、ぬるぬるした口内に俺のモノが包まれ。腰がブルブルと震えてしまう。

「はっ、ぁあ……! ま、待っ……んん!」

 篠崎が頭を上下に揺らし。ジュボ、ジュボ、ジュルルッ! と、恥ずかしい音を立たせている。

 いつも綺麗に弧を描いている篠崎の唇が、自身の唾液や俺の先走りなどで濡れぼそり。口の端から透明な液体を滴らせながら、快楽を引き出す行為をしてくる。

 篠崎は、とても上手だった。
 舌で、下の筋の部分を刺激しながら、口に出し入れしたり。先端部分をクリクリとほじるようにしてから、強く啜ったり。とにかく、とても上手いのだ。

 グププと、俺のモノを口の奥まで入れられ、強く吸われたが……達するのを何とか耐えた。非常に苛立っていたし、簡単にイかされるなんて嫌だったからだ。

(ほんっと、勝手な奴だな! 人の話を聞けよっ!)

「ざっ、けんな……! もう、止めろ!」

 怒りのまま、篠崎の髪をグッと引っ張った。
 口が離されたのを確認し、怒鳴り付けようと睨んだ時。ギクッと身体が固まる。

「ん……っ、真くん、痛い……」

 頬を染めた篠崎に見上げられ――その唇の端からは泡立った液体をタラリタラリと滴らせ、痛みからか涙目になっている。
 見てはいけないものを見てしまった気になって、バッと髪から手を離し、目も逸らした。

「あっ……まっ、ぅうっ……ぁああっ!?」

 直ぐに、行為を再開され。腰が痺れるくらいの快楽に襲われる。

 舌の動き、口への出し入れ、啜り方。何がどう変わったとは説明が出来ない。
 けど、さっきまでのは遊びだったと思う程、射精感が込み上がってくる。

 じわりじわりと熱がお腹に溜まり。その熱は、今すぐ外に出たい、出してくれと、俺に訴えてくる。
 こんなの、長く我慢なんて出来ない。

「待っ、てぇ……! ぁっ、ああ……イっちゃ……イっちゃう、から……ぅう、はっ、離し……っ、し、篠崎……出ちゃっ……! んっ、ふぁああっ!」

 何かに掴まろうと、目の前にあるものを抱えるようにして――熱を全て吐き出した。


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