可哀想な君に

未知 道

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白井 真 5

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「……あのさぁ。お前、なんなの?」
「んん"ぅ"?」

 俺に用意されていた食事を、パクパクと頬張る男――。

「ゴクン……! えぇ~、マコちゃん。ちゃんとミツくんって呼んで♡」
「ふざけんな! ……って、なんで俺は『マコ』なんだよ!! 馬鹿にしてんのか!?」
「そんなわけないじゃ~ん。あ、このさつま揚げウマ~!!」

 そう、この男。篠崎 三葉。

 こいつ……。篠崎がいない時を見計らって、ちょくちょく部屋に侵入して来るのだ。一体、どんな手を使ってるのかは知らないが、とにかくウザったい。

 今も、(郵便受けのようなドアから)届いた食事を我が物顔で食らいついている。本当、どんな神経してんだか理解不能だ。形は違えど、意味不明な篠崎と同じにおいがする。
 まさか、篠崎の血筋は皆こんななのか? と思ったら、急に寒気がし、ブルリと身体が震えた。

 ため息をつき、三葉の手元を見る――俺の飯が、殆どない。

「おい、おい、おいっ!? お前に全部食われたら、俺、夜まで飯抜きじゃねぇか!!」
「ん? あ、そうか……。じゃあ、はい。あ~ん」
「馬鹿か!! 返せっ!」

(くそ~! 食べ散らかしやがって!)

 美味しいところを、ほぼ持ってかれている。

 こいつは、今日。以前のように俺がトイレに行っている時、フラリと来て。勝手にこれを食べていたのだ。

「お前っ! 本当に、いい加減にしろよ! 助ける気がないなら、もう来んな!! というか、別にお前なんかに頼まないから、二度と来んなよっ!!」
「ぇえ……? ちゃんと助けるってば~! 『頼まない』って……じゃあ誰に助けてもらえるんだ? ここに来てから――奏多と、俺以外の人間に会ったか?」
「……」
「ん? 会ってねぇだろ?」
「……」

 ――会っていない。

 ここに来てから、まるで別空間に紛れ込んでしまったのかと感じるくらいに。こいつが来るまでは、篠崎と俺だけの世界だった。
 しかも、日々。頭がおかしくなるくらいの快楽を与えられ、飼い殺されているのに。気が狂わなかったのが、我ながら凄いと思う。

「ははっ! 図星だよな? ほら、俺が必要だろ?」
「……お前、ド屑だな」
「ん~? そのド屑に、頭下げてお願いしなきゃならねぇの……分かってる?」

 へらへらと笑う目の前の男を、無言で強く睨み付ける――。

「ああ~! 悪かった、悪かったって! 本当、マジで助けたいんだけどさ。今はまだ無理なんだよ。いま助けても、ただ潰されて終わり。なら、まず――奏多の勢力を落とさねぇといけなくてな……」
「はぁ……? 勢力?」

(こいつが、そこまで言うほどの勢力って……。篠崎は、権力者とかなんかか? 確かに金持ちっぽいけど、俺が前にいた会社に勤めてたのに……?)

「なぁ……。それって、どういう――」
「――あっ! ごめん、ごめん! マコちゃん、この話はまた今度な! じゃっ、また~!」
「ちょっ! おい! 気になるとこで消えんなよ~!!」

 俺の声が聞こえているはずなのに、振り返りもせず。颯爽と去って行った。

「はぁ……。またかよ、あいつ……」

 三葉は、空気が読めないのか、気にしてないだけか。
 意味ありげな言葉の後に、帰ることが多い。
 そして、次に来た時には、そのことをケロッと忘れ。へらへらと笑って現れるのだ。とっても、とっても、軽い男だと思う。……勿論、頭の中も。

 けど、すぐに扉の開く音が聞こえた。

 俺は当然、三葉だと思い。忘れ物でもしたのかと、扉の方を見ずに言ってしまった――。

、おかえりなさーい!」

 三葉を『忘れ者をした子供』と見立てて、母親のように優しい声で言った。
 普段の俺を知っていれば、自身が凄く馬鹿にされているのに気付くと思ったのだ。


「――……誰、それ?」


 ゾワリと、鳥肌が立った。

 非常に冷たい『篠崎 奏多』の声が、俺の背後で聞こえたから――。


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